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悪役を演じて見せよ!

悪役令息の家族

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 その日、ソラはこれまでの人生のランキング5に入る位の衝撃に見舞われた。今日はあいにくのお天気模様だ。ソラの心も晴れない。

 悪役令息の家族はとても優しい。

 いつもにこにこしている両親は子煩悩だ。休日には色んなところに連れ出してくれる。父親はよく仕事帰りにお土産を買ってきてくれるし、母親の作るパイはとてもおいしい。自分の年齢で彼らのことをパパママと呼ぶのは、ちょっぴり恥ずかしいけど彼らのことは親愛をこめてパパママと呼んでいる。実の親とあまり過ごすことのできなかったソラは今が幸せなのだ。

 もう1人、騎士団に勤めている兄レオナルドは年の離れた弟をとてもかわいがってくれている。年が離れているせいか、ソラがポカをやらかして怒られることはあっても、喧嘩することもない。ソラは兄をレオナルドのレオからとって、ライオン兄さんと呼んでいる。
 実姉じっしレミとはお菓子の取り合いやちょっとしたことでしょっちゅう喧嘩していたから、こんなに仲良くしてくれる兄弟というものは夢の存在だと思っていた。

 タマキが悪役令嬢をしていた時の家族は、ソラのお世話になっている家族とは全然違う人たちで、ぎすぎすしていたそうな。悪役令嬢と悪役令息ではホームステイ先が違うみたいな感じだ。

 そんな家族に関して、現在、ソラはとても頭を悩ませている問題がある。何と兄レオナルドがソラのところに遊びに来た変身ポンタに一目ぼれしてしまったのだ。兄がポンタと初めて会ってから数日たったある日、彼から告げられたその事実はソラにかなりの衝撃を与えた。

 問題は複雑だ。なぜって、まず1つ、ポンタはタマキに変身して遊びに来た。そして、ポンタはオスのたぬきで、ゲームの参加者だ。この世界を去る日はやってくる。これ如何にして解決せねばならんのか。

 どうしたらいいか分からなくなってしまったソラはゲーム云々うんぬんはぼかして心やさしい両親に相談してみた。単刀直入に兄がたぬきに惚れたどうしようと。きっと、兄は自分の恋愛事情なんて親に知られたくないだろうけど、四の五の言っていられる状況じゃなかった。後から思い返すと、かなり混乱していたんだなとソラは思う。

「きゃー! わー、甘酸っぱい。ママ、今日はベリーパイを作ってあげようっと。お赤飯も炊かなきゃ」
 ママ、いつまでもかわいらしいおかんだな。きゃっきゃっと飛び跳ねている。
「たぬきでもいいんじゃないか、恋愛は自由だ、パパ応援する」
 パパ、マイペース。顎をさすりながら感慨深げだ。

「パパママ、それだとライオン兄さんがかわいそうじゃない? 一目ぼれした相手が実はたぬきで、姿は別人でオスなんて。あっ…ちなみになんだけど、変身した姿の人は30代後半の女性で歳が一回り違いなんだよね。どちらにしても前途多難な恋だと愚考します」
 確かにパパの言う通り、恋愛は自由だから応援したい気持ちもある。肝心のこの世界を去らねばならない条件がネックなのだが、それは両親には相談できない内容だった。
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