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悪役を演じて見せよ!

歌は物語

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 ある日のお昼。ソラは急いでお弁当を食べて、音楽祭に向けての練習に向かった。ここのところは、自由参加枠の練習で忙しい、また、放課後はクラスの練習も開始されて大忙しだ。なんせ、国を挙げてのビッグイベントのため、皆必死だ。外国の要人も招待されているらしい。

「思ったんだけど、しょっぼい。なんか印象に残らない。ソラっちのおっちょこちょいとかどうでもいいっていうか」
 今日はリリアーナが見学に来てくれていたが、早々に辛らつな評価を受けた。
「ひぐっ、うすうすそんな気はしていたんだけどさ、リリーなんかよさげな案ない? 第三者の意見を聞きたいー、ていうか手詰まりー」
 ソラがキノコを背負いだした。しょんぼりしてかわいそうになってくる。
 
「おうおうおう、いってくれるじゃねえーか」
「何なんすか、来て早々、感じ悪いっす」
「…偉そうだけどかわいいなギャル…。そして的確なアドバイス」
 3人組でいると、にのまえは大体いつも最初に発言する。[っす]が口調なのは、みつである。そしていつもごちゃごちゃうるさいしたながと続くのが常だ。

「うーん、単純におっちょこちょいじゃなくて、物語みたいにして手に汗握る感じ出すとか?」
「なるほどね! さすが、リリー! なら、ソラさんがおっちょこちょいでドジして、それから、3人に励まされて、立ち直っていく物語がいいかな。『黒く渋くなっていく』の部分で闇落ちするのもいいかも。参加メンバー全員参加させたら一体感も出るし、ステキな筋書きになりそう」
 リリアーナの提案にすぐにアビゲールが反応した。まぱあっと嬉しそうにしている。

「えっ、闇落ち…? かっこいい感じにしてくれたらそれでいいけど。アビーはどんな役柄?」
「ライバルで闇落ちのきっかけになる感じかな」
「あっじゃあ、ソラっちとアビーはライバルなんだけど、ソラっちはドジばっかり。アビーはそんなソラっちをライバルとは認めたくない。落ち込むソラっちを3人組が励まして、前向きにさせる。最後はアビーにも認められて、握手で終わるっていうのは? ちょうど今のあんたたちみたいでいいじゃない?」
「闇落ちにパンチが足りない…」
「ううーん、励ましてくれていた3人組の内の1人が実は裏切り者だったことにすれば?」
 できるギャルのおかげで、ぽんぽん良い案が浮かんでくるようだ。

「…裏切り…重い」
「いいっすね、なんか面白そうになってきたっす!」
「しかも頭いいだと…! どうしよう、これは優勝フラグがたってっぞ。表彰の時の燕尾服必要か?」

 ただおっちょこちょいソラを想像しながら歌うだけじゃなく、物語を思い浮かべながら歌うことは少し難しい。5人はいつも以上に練習に力を入れた日だった。
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