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悪役を演じて見せよ!

タマキのいらんモテキ

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 レオナルドはここのところ、寝ても覚めてもとある女性のことばかり考えている。そう、恋した女性タマキだ。彼は恋にうつつを抜かしてしまい、仕事でも集中できないことが多くなってきた。社畜なのにこの状況なので、最近は帰りが遅くなって夜中の12時に帰ってくることもざらだ。そんな彼のふたつ名は『ふぬけた社畜獅子』

 ソラはタマキがレオナルドを嫌いだということを知っているので、タマキとレオナルドが接触しないようにしている。ただ、状況を危惧したレオナルドの上司は、魔法学園に行く用事を無理やり作り出し、タマキとレオナルドが接触できるようにした。レオナルドは上司に魔法学園の用務員に恋したことを吐かされ、今の状況にある。 

 アイランは年上の女性を好ましいと思っている。彼の祖父の影響で、かなり年上の女性達と会話をする機会があり、その包容力にときめくことが多かったのだ。

 そんな彼は最近、気になる女性がいる。そう、用務員の女性タマキだ。彼女は植物を植えるときなど、アイランをリードしてくれ、言葉少ないながらも落ち着いた聡明な女性だ。最近は園芸部に行くのが楽しみなのだ。まだ、憧れの段階ではあるけど。

 そんなわけで、タマキは空前絶後のモテキに入った。

「用務員さん、こんにちは」
 レオナルドはドキドキしながら、タマキに話しかけた。
「あら、ソラ君のお兄さん、こんにちは。ソラ君に会いにいらしたんですか?」
「いえ、騎士団の仕事で、今ちょうど用事が終わったところなんです。あの学校でのソラのこととか聞きたくて…もしよかったら、この後食事でもいきませんか?」
「えっ、ごめんなさい、今日は用事がありまして…」
 申し訳なさそうにしているが、嫌いな相手との食事は御免とばかりにタマキは即断った。ちなみに、用事はない。
 タマキは仕事上で異性と接するのは平気であるが、こうして関係ないところで異性と接するのが非常に苦手だ。距離感が掴めない。もてなかったことも相まって、こじらせてしまっている。

「あっ、タマキさん! 白岩先生が音楽祭の準備について聞きたいことがあるって探してましたよ」
「はーい、アイラン君ありがとう。それじゃあ、お兄さん、残念ですが、また今度」
 これ幸いとタマキはそそくさと行ってしまった。今回、レオナルドは急に食事に誘うなどと対人見知りのタマキには悪手に出てしまった。

「ライオン兄さん、こんにちは。ライオン兄さんも音楽祭くるんですか? ソラ達自由参加枠のすごいんで、楽しみにしていてくださいね!」
「あっ、そうなのかい、ありがとう。それじゃあ、アイラン君も音楽祭の練習頑張ってね、楽しみにしているよ」

 『ふぬけた社畜獅子』あらため、『へたれ社畜チキン』はその日はとぼとぼと帰宅の途についた。上司のアシストも失敗に終わったのだった。
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