DRAGGY!ードラギィ!ー【フレデリック編連載中!】

Sirocos(シロコス)

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②〈フリーナ編〉

11『空は心を、森は人を呑みこむ怪物です』

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ところで、レンがこれから打ち上げようとしている、例のミニロケット。
軽く、やわらかく、浮力があり、それでいて丈夫そのもの。
ネズミ印の新発明素材で作られた、この直径百五センチのロケットが、
いったいどれだけ高く飛んでいけるものか――
製作者であるしろさんが、ワクワクしながら、こっそりと点検をしていました。

彼もまた、荷物にまぎれてついてきたのです。

ロケットの表面加工の具合や、エンジンの調子、ロケットランチャーの様子。
それから、細い電源ケーブルとつながったバッテリータンク内の残量――。

「なにぃーーーっ!!」

タンクについたメーターを調べたとたん、
しろさんはつい大声を上げてしまいました。

「なんてこった!  バッテリーがゼロではないか!  どうなっておる」

メーターの小さな赤い針が、どん底の『0』に落ちこんでいます。
壊れているのではありません。しろさんにはそれぐらい分かっています。
完成して以来、一度も使われてはいないはずです。
タンクに欠陥があって、バッテリーが漏れてしまったのでしょう。

さらに調べてみると、ロケットや発射台すらも電力ゼロ。使い物になりません。

ピンチ……などと大袈裟おおげさなことはありませんが、
自分の発明品にこのような落ち度があったことに、しろさんは腹を立てたのです。

しろさんは、バッテリーが切れていることを、ユカに伝えました。

「じゃあ、ロケット飛ばせないの?  リモコンまで使えないんじゃ――」

「いや、電源ケーブルから直接、
ロケットランチャーに電力を送りこめれば、飛ばせぬことはないんじゃが。
くそ~、自分が恥ずかしい!  タンクの製造費をケチったのがいかんかった」

しろさんは、ユカの手のひらの上で、
思いつめたように顔をしかめながら、自分の愚かさにさいなまれています。


「そーれじゃ、あたしの出番ってやつだね~!」

フリーナが、両手を握りしめながら立ち上がりました。


「待ーて、待て待て!」突然、しろさんが飛び上がりながら叫びました。
「リモコンが機能しない状態で電力を注いだら、
注いだそばからロケットが発射してしまうわい!」

「あ、そっかー。そりゃ、やばいよネ。
何も知らない子が見たら、ロケットが勝手に動いたみたいに見えちゃうネ」

「じゃあ」フラップが挙手します。
「ジュンくんとタクくんが見ているそばで、電気を注ぐしかないですよ。
彼らから姿が見えないように、フリーナにおおいか何かをかぶせて」

「たとえば……わたしのハンカチとか?  エコバッグとか?」

「んなもん、すぐにバレてしまうわい!」

さすがに浅はかすぎて、しろさんがきついツッコミを入れました。

「かくなるうえは、もう一度レンが、茶番を演じる他ないじゃろう。
……まったく、こんなことになるなら、
ジュンとタクをここに招くのを、許さなけりゃよかったわい!」


その後、ユカの呼び出しでレンがやってきて、すっかり事情を理解しました。

「もう、困るよしろさん。バッテリータンクに欠陥があっただなんて」

「心配するでない。わしの言った通りに事を運べば、ノープロブレムじゃ」

「またぼくが魔法使いを演じるんだね……まいっちゃうなあ」

などと言いながら、レンはまんざらでもない笑みを浮かべるのでした。

    *

とうとう、ロケット打ち上げの時間が来ました。
丘の上から森のほうへ、おだやかな風が吹き下ろしています。

レンは原っぱの真ん中にロケットをセッティングしてから、
発射の瞬間を今か今かと待っているジュンとタクに、こう言いました。

「……ちょーっと、バッテリータンクに不具合があってね。
遠隔スイッチを押しても、ロケットが飛ばなくなっちゃったんだ。
でも大丈夫!  これからぼくが、魔法の力で、
ロケットランチャーに直接電気を送って、発射させてみせるから!」

「さっすがレンだなあ!  早いとこ見せてくれよー!」

「電気を出す魔法かあ。なかなか興味深いなあ。むぐむぐ――」

タクときたら、悠々とチョコレートバーを食べています。

ユカとフラップ、しろさんが離れた位置から見守る中、
レンはロケットそばにしゃがみこみ、ランチャー部分から伸びている、
針金が先端からむき出しになった二本のケーブルを持って……
にわかに緊張と恐怖をつのらせながら、こう言います。

「あ、危ないからさ……絶対に、ぜーったいに!
ぼくのそばに来ちゃダメだからね。手元を見るの、NGだから」

それから、レンは首にかけたポーチにむかって、
ひそひそと話しかけます。

(出てきていいよ、フリーナ。ほら、ケーブルをにぎって)


にょきっ。

(ふぁぁ~、フラップの言ってた通り、この中せまいねえ。息つまっちゃうよ)

フリーナがチャックの口から顔を出して言いました。


(じゃあ、あたしが二人に見えないように、しっかり陰になっててね~)

(分かったから、早くして。……ぼくを感電させないでよね)

(だーいじょうぶ、あたしの電気じゃ死なないったら。
じゃあいくよ……ハッピー☆スパーーク!)


バチバチバチバチ~~~!!


フリーナの体から、白い放電の閃きがほとばしります!

かわいそうに、案の定、レンはもろに感電してしまいました……。
フリーナがネズミサイズだったおかげか、
周囲の三人まで漏電しなかったのが救いです。

フリーナの小さな両手から、ケーブルを伝ってランチャーへ、
電気が流れこんでゆくのが目にも見えます。
先端にしろさんによく似た顔がついた、ロケットの機体が、
淡い不思議な金色に光り出すのが分かります。
その次の瞬間――。


ブシャァァァァァ~~~~~!!


お尻のエンジンからすさまじい蒸気が噴出し、
ロケットは大砲のごとく飛びだしました。
その拍子に、レンは感電したままあお向けざまに転倒し、
フリーナがポーチの中からレンの胸の上に投げ出されてしまいます。


ミニロケットは、みんなが思ったよりも高く、高く――
ゴマ粒よりも小さくなるまで、青空へ吸いこまれていきました。


「すごすぎ……」「飛びすぎ……?」

ジュンとタクは、遠のいてゆくロケットに釘づけになっていて、
フリーナの姿には気づきませんでした。


フリーナも、レンの胸の上でロケットを見上げていましたが、
ハッとした瞬間、すぐさまポーチの中に潜りこむのでした。


「レン君!  大丈夫!?」

ユカが駆けよってきて、レンの意識を確認しました。
レンは気絶こそしていましたが、幸い、怪我はなさそう。
ユカは、レンの首からフリーナが入ったポーチを取り上げ、
自分の首に下げてから、ジュンとタクに言いました。

「レン君が気を失っちゃってるの。シートまで運ぶの手伝って」

「……えっ、あ、そうなのか?」

「でもユカちゃん、見て、ロケットが――」


打ち上がったロケットは、わずかに空を漂っていましたが、
風に流されて、たった今、森のほうへ落ちていくところでした。

「おー、森の中に……墜落したな、うん。
想像してたよりすごかったな、レンのロケット!」

「おもちゃなのに、あんなに飛ぶとは思わなかったな!
よし。失くしちゃう前に、回収しに行かなくちゃね!」

ジュンとタクが興奮しているのを見て、ユカは無性に腹が立ってきました。

「もう、ジュン君、タク君!  レン君が気絶してるのにー!」

ジュンとタクは、反省してユカに謝ると、
二人でレンの背中と両脚をつかんで、シートまで運んであげました。

「あーあ、レンのやつ、自分の魔法でのびちまいやがんの。
まだまだ未熟なんだな~、おれらの魔法使いは」

それから、寝こんでいるレンの代わりに、
二人で機体を回収しに行くことを買って出たのです。

「待って。二人だけで行くの!?」

「おう!  ユカちゃんはここで、レンの状態をみててくれよ」

「だーいじょうぶ。ぼくたちには、ほら、現代科学の恩恵がついてるんだから」

タクはそう言って、ズボンのポケットから自分のスマホを出して、
余裕そうにふりふりと振ってみせるのでした。

「こっからそんなに遠くねーしさ。ロケット拾ってすぐに戻ってくるって」

「じゃあ、行ってくるね。レンが起きたら、よろしく言っといてよ」

「あっ、ちょっと、二人とも――」

行っちゃだめだよ、と言うべきか、否か、ユカが迷っているうちに、
ジュンとタクは、丘の斜面をずんずんと降りていき、
やがて、深い森の中へと足をふみ入れてしまうのでした。


ユカは、奇妙なほど静まり返っている森をながめながら、
ひとり不安を胸に抱いていました。
――ここにきてから、漠然と感じていたのです。
あの見渡すかぎりの針葉樹の森からただよう、異様な力の気配を。
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