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③〈フレドリクサス編〉
3『男をみがく少年には、必ずライバルがいるのです』
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――数日後。うさみ第二小学校では、
二時間目の終わりを告げるチャイムが鳴ったところでした。
「それでは、算数の時間はここまで。
三時間目は外国語活動だから、『レッツ・イングリッシュ!』を忘れないでね」
女性の担任教師が、四年二組の生徒たちに教材の準備を呼びかけます。
生徒たちは、水を得た魚のように活気づきました。
さっと廊下へ飛び出す男子たちに、仲良し同士で集まる女子たち――。
「ユカちゃん、ちょっといいかな」
ランドセルから教科書を出していたユカに、タクがひっそりと声をかけました。
「なあに、タク君?」
ユカは、すぐにドラギィ関係の話だと感づき、小声でこたえます。
「ユカちゃんにも、話しておきたいことがあって。
ジュンの席に来てよ。レンにも来てもらってるからさ」
ユカは、言われるままにジュンの席へと続きました。
ジュンの席では、レンがそばに立っていて、
ジュン本人は、自分の机の上に大きな画用紙を広げて座っています。
その画用紙に書かれたもの――赤いマーカーで太くいびつに表現されていますが、
読んでみると、『なんでも調査隊』とありました。
「おれとタクで考えたんだけどさ」
ジュンが周囲の目をはばかりながら、意気揚々と小声で言います。
「ほら、フラップとフリーナの修行。
今んところ、おれらが手伝えることって、ほとんどないじゃん?」
「そ・こ・で」タクが、もったいぶるように言いました。
「世の中の奇妙な事件の情報を集めて、ドラギィたちの力で調査、
可能ならついでに解決しちゃう、調査隊を立ち上げようって考えたんだ」
「奇妙な?」「事件?」
ユカとレンは、頭をかしげました。
「だって、もし町中でわけ分かんない妙な事件が起きたら」ジュンが言います。
「裏世界の生き物とか何かが、もしかしたら関わってくるんじゃねーかなって」
「そうか!」レンが両手をポンと打ちました。
「もしも、その事件に関わっているのが、まだ会ったことのないドラギィなら、
だれかに捕まえられる前に、かくまってあげられるかも!」
「でも」ユカは聞きました。
「どうしてわざわざ、調査隊を立ち上げて情報集めするの?」
「立ち上げる理由としては」タクが答えます。
「事前に、エネルギーの発生源がどんなものか、おおまかに把握しておくためだよ。
それが、異界穴から出てきた裏世界の生き物なのか、何かの物体なのかってね」
「まあ、集めるのは、ウワサの域を出ない情報だろーし、
どれもこれも不確かになるのは目に見えてるけどよ」
「で、情報を集める手段なんだけど、
調査隊のホームページを作って、情報を書きこんでもらうための掲示板を――」
「タク、ホームページなんて作れるの!?」
「すごーい!」
レンとユカは感心して、思わず拍手してしまいそうでした。
「いやあ、今じゃ、だれでも簡単に作れちゃうビルダーがいっぱいあるしね。
手始めに、この学校のみんなにURLを公表しようって計画で」
「もし! いい加減な情報を書きこまれてもよ――」
ジュンが、両手で机をたたき鳴らしながら、言いました。
「おれたちには、しろさんから受け取ったフシギレーダーアプリがあるし。
裏世界の何かが関わっている事件なら、アプリですぐ分かるって寸法よ~」
裏世界がらみの怪奇事件なら、
同じ裏世界の生き物であるドラギィたちの力で解決する。
ジュンとタクは、そんな調査隊を考えているというのです。
(なんだか、ミステリー探偵団みたい)
ユカは、胸いっぱいのワクワクを感じて、ときめきが止まりませんでした。
「ところでさ、優先して取りかかる案件はどうする?
なんでもかんでも片っ端から取りかかるわけにいかないって」
と、レンは意見を持ちかけました。
「オレとしてはさ、
他のドラギィと出会えそうなら、真っ先に調査しに行きたいんだけど」
「なるほど、ソレもっともな意見!」タクが言いました。
「なんでも調査隊の活動は、あくまでもドラギィが中心。
ドラギィを保護するのも、修行をバックアップするのも、
調査隊の第一目標として、欠かせないだろうからね――」
「何が欠かせないのかなあ?」
タクの背後から、ふいにだれかが声をかけてきました。
見ると、レンたち全員をなめるようにながめていた、一人の男子がいました。
「「「げっ! 小野寺!」」」
それは、小野寺夜史という名の少年でした。
全身を、趣味の黒一色の洋服姿でかため、髪も真っ黒。
それに、シニカルっぽい表情と、まわりを見下すような態度から、
小学生とは思えない大人びた雰囲気と、かえって学校中の評判なのでした。
「何しに来たわけ?」ジュンが機嫌悪く聞きました。
「まあ、ちょっとねえ」ヨシは前髪をたくし上げながら、意地悪っぽく言いました。
「キミたちの行動っぷりだけど、最近さあ……妙なところが増えたよね。
少し前までは、あんなに学校中で目立つほど騒がしいトリオだったのに。
ここ二週間? 三人でコソコソ話す機会が、急に多くなったり」
ヨシは、レンとジュンとタクの三人にたいして、言っているのでした。
「あとは、そうだなあ……本田さんだっけ? その子とも関わるようになったり」
ヨシは、ユカのいるところへ、キザっぽい顔をしながらやってきました。
「キミさあ、こんなトリオとつるんでたら、男臭くなるだけだよ?
せっかくいい子なんだから、つき合う相手はちゃんと選ばないとさあ」
「わたし、ちゃんと選んでるつもりだよ」
ユカは、毅然としてそう答えました。
「小野寺」レンが、ユカの前に進み出ます。
「今、オレたち四人で話してるんだから、あっち行ってろよ」
「キミはとくに変になったよねえ?」ヨシは小馬鹿にするようなまなざし。
「いっとき、一人でだれにも会わないですぐ帰る時期があったかと思えば、
しばらくして、今度は本田さんと二人で帰る機会がやたら増えた。それに――」
ヨシは、レンの目と鼻の先に顔を近づけながら、さらに言います。
「つい最近、一人称を『ぼく』から、『オレ』に変えたみたいだけど、
その程度じゃあ、男が磨かれたとは言いがたいなあ」
「……べつに、自分をどう呼んだって、ヒトの勝手だし」
レンは、ぎっとヨシをにらみつけていました。
彼とは、少なからず因縁があります。
体育の時間、野球でマウンドに立った時、ヨシに鮮やかなホームランを打たれたり、
一番苦手な算数のテストで、クラス最低の点数を笑われたり。
極めつけは、図画工作の宿題で木のスケッチに取り組んだ時、
一番最後の提出を笑われたばかりか、下手なスケッチにたいして、
「それはイカ焼きの絵かい?」と言われたこともありました。
ジュンとタクにも、似たような因縁があります。
「ねえ、小野寺君。なんでも調査隊の宣伝、手伝ってくれる?」
突然、タクが不自然にのんきな調子でたずねました。
ヨシは、ふっ、と底意地の悪い笑い方をして、
「悪いけど、お断りだね。キミたちが何考えてるかは謎だけど、
関わり合いになるのはごめんだし。じゃあね」
ヨシは背中をむけると、そのまま教室の外へと出て行ってしまいました。
廊下から彼を見ていた野次馬女子たちが、その後に続いていくのが見えます。
「……そんなら、おれらに話しかけるなっつーの」
「ホント、同感」
ジュンとタクは、すっかり気分を損ねて、そうつぶやくのでした。
直後、ヨシと入れ替わるように、三人の女子がユカのもとへ集まってきました。
ユカの友達で、それぞれアヤ、サキ、クミという名前でした。
レンたちも、ここ最近関わりのある女子たちです。
「ユカ、大丈夫? ヨシ君に何か言われたんでしょ?」
心配そうに聞いてきたのは、サキでした。
「ううん、べつに。それより、今度の日曜日、本当にみんな集まれるの?」
「もっちろん! みんなユカのこと、お祝いしにいってあげるからね!」
元気よく答えたのは、アヤでした。
ユカは嬉しくなって、にっこりと笑顔を返すのでした。
「ユカちゃん? 祝うって、なんの話?」
レンが、ユカの笑顔の理由が分からずにたずねてきました。
「もしかして坂本君、ユカから聞いてないの?」
と、クミが不思議そうに聞きました。
「あれ、言ってなかったっけ?」
ユカは、恥ずかしそうに両手を腰の後ろで組むと、
「あのね……わたしの誕生日、なの。今度の日曜日――」
「たん、じょう、びっ!?」
レンは、ヨシのせいで腹の底まで落ちこんだように思えた心臓が、
口から飛び出すほど激しく高鳴るのを感じました。
「へえ、初耳!」タクが驚いたように言います。
「ぼくからもプレゼント贈らせてよ、ユカちゃん」
「あ、ずりぃぞタク! おれもプレゼント考えとくから!」
「あ、あの、あのさ!」レンはもじもじしながら、言います。
「オレからも、何か贈らせてほしいな……できるだけいいの、用意するから」
これは、ユカにとって新鮮な光景でした。なぜって、今まで同世代の男の子から、
誕生日プレゼントを贈られたことがないから。
「嬉しい! ありがとね!」
*
――時刻は、夕方の四時五十分。
ヨシは、うさみ町四丁目十四番地にある自宅に戻りました。
その家は、ガレージに黒い外国車が駐まっている、白い大きな高級住宅でした。
浜田タクの家と、いい勝負かもしれない――
ヨシは、見たことのあるタクの家を思い出すたび、我が家と比較していましたが、
やはりこの家には敵わないという自信がありました。
家の広さと高級感は、こちらが断然、上でしたから。
まだだれも帰っていない我が家の鍵を開けると、
ヨシは一人、冷えきった廊下をぬけ、恐ろしいほど静かな広いリビングを横切り、
螺旋階段を上がって、二階にある自室に入りました。
こぎれいな自室には、難しい本がびっしりと詰まった本棚と、高そうな勉強机。
壁際のカウンターに乗った小型の液晶テレビ。高級ホテルのようなふかふかベッド。
ヨシは、ランドセルを机横のフックにかけると、
部屋の電気もつけずにカーテンを閉め切った薄闇のまま、
部屋の隅のクローゼットの前にむかい、つまみに手をかけ、ゆっくりと開きました。
「……やっぱり泣いてたか」
ヨシは、クローゼットの中にむかって、冷たく笑いながら話しかけました。
「無駄さ。いくら泣いても、お友達は助けに来ないよ。
キミはどこにも行かせないし、だれにも渡さない。ずっとここで暮らすんだから」
クローゼットの中は、服が空っぽでした。
そのかわり、フックつきの鳥かごがかかっていたのです。
そのかごの中に閉じこめられていた、一匹の生物。
背中に羽が生え、体じゅうが渇いたアザラシの毛のようにふかふかした、
竜のような、犬のような生物――
一匹の青いドラギィが、鳥かごの中、
うったえかけるように格子をつかんでいました。
ずっと暗闇で泣いていたのか、かごの底を涙でいっぱいにして。
「……ぼくを、ここから出してよう」
二時間目の終わりを告げるチャイムが鳴ったところでした。
「それでは、算数の時間はここまで。
三時間目は外国語活動だから、『レッツ・イングリッシュ!』を忘れないでね」
女性の担任教師が、四年二組の生徒たちに教材の準備を呼びかけます。
生徒たちは、水を得た魚のように活気づきました。
さっと廊下へ飛び出す男子たちに、仲良し同士で集まる女子たち――。
「ユカちゃん、ちょっといいかな」
ランドセルから教科書を出していたユカに、タクがひっそりと声をかけました。
「なあに、タク君?」
ユカは、すぐにドラギィ関係の話だと感づき、小声でこたえます。
「ユカちゃんにも、話しておきたいことがあって。
ジュンの席に来てよ。レンにも来てもらってるからさ」
ユカは、言われるままにジュンの席へと続きました。
ジュンの席では、レンがそばに立っていて、
ジュン本人は、自分の机の上に大きな画用紙を広げて座っています。
その画用紙に書かれたもの――赤いマーカーで太くいびつに表現されていますが、
読んでみると、『なんでも調査隊』とありました。
「おれとタクで考えたんだけどさ」
ジュンが周囲の目をはばかりながら、意気揚々と小声で言います。
「ほら、フラップとフリーナの修行。
今んところ、おれらが手伝えることって、ほとんどないじゃん?」
「そ・こ・で」タクが、もったいぶるように言いました。
「世の中の奇妙な事件の情報を集めて、ドラギィたちの力で調査、
可能ならついでに解決しちゃう、調査隊を立ち上げようって考えたんだ」
「奇妙な?」「事件?」
ユカとレンは、頭をかしげました。
「だって、もし町中でわけ分かんない妙な事件が起きたら」ジュンが言います。
「裏世界の生き物とか何かが、もしかしたら関わってくるんじゃねーかなって」
「そうか!」レンが両手をポンと打ちました。
「もしも、その事件に関わっているのが、まだ会ったことのないドラギィなら、
だれかに捕まえられる前に、かくまってあげられるかも!」
「でも」ユカは聞きました。
「どうしてわざわざ、調査隊を立ち上げて情報集めするの?」
「立ち上げる理由としては」タクが答えます。
「事前に、エネルギーの発生源がどんなものか、おおまかに把握しておくためだよ。
それが、異界穴から出てきた裏世界の生き物なのか、何かの物体なのかってね」
「まあ、集めるのは、ウワサの域を出ない情報だろーし、
どれもこれも不確かになるのは目に見えてるけどよ」
「で、情報を集める手段なんだけど、
調査隊のホームページを作って、情報を書きこんでもらうための掲示板を――」
「タク、ホームページなんて作れるの!?」
「すごーい!」
レンとユカは感心して、思わず拍手してしまいそうでした。
「いやあ、今じゃ、だれでも簡単に作れちゃうビルダーがいっぱいあるしね。
手始めに、この学校のみんなにURLを公表しようって計画で」
「もし! いい加減な情報を書きこまれてもよ――」
ジュンが、両手で机をたたき鳴らしながら、言いました。
「おれたちには、しろさんから受け取ったフシギレーダーアプリがあるし。
裏世界の何かが関わっている事件なら、アプリですぐ分かるって寸法よ~」
裏世界がらみの怪奇事件なら、
同じ裏世界の生き物であるドラギィたちの力で解決する。
ジュンとタクは、そんな調査隊を考えているというのです。
(なんだか、ミステリー探偵団みたい)
ユカは、胸いっぱいのワクワクを感じて、ときめきが止まりませんでした。
「ところでさ、優先して取りかかる案件はどうする?
なんでもかんでも片っ端から取りかかるわけにいかないって」
と、レンは意見を持ちかけました。
「オレとしてはさ、
他のドラギィと出会えそうなら、真っ先に調査しに行きたいんだけど」
「なるほど、ソレもっともな意見!」タクが言いました。
「なんでも調査隊の活動は、あくまでもドラギィが中心。
ドラギィを保護するのも、修行をバックアップするのも、
調査隊の第一目標として、欠かせないだろうからね――」
「何が欠かせないのかなあ?」
タクの背後から、ふいにだれかが声をかけてきました。
見ると、レンたち全員をなめるようにながめていた、一人の男子がいました。
「「「げっ! 小野寺!」」」
それは、小野寺夜史という名の少年でした。
全身を、趣味の黒一色の洋服姿でかため、髪も真っ黒。
それに、シニカルっぽい表情と、まわりを見下すような態度から、
小学生とは思えない大人びた雰囲気と、かえって学校中の評判なのでした。
「何しに来たわけ?」ジュンが機嫌悪く聞きました。
「まあ、ちょっとねえ」ヨシは前髪をたくし上げながら、意地悪っぽく言いました。
「キミたちの行動っぷりだけど、最近さあ……妙なところが増えたよね。
少し前までは、あんなに学校中で目立つほど騒がしいトリオだったのに。
ここ二週間? 三人でコソコソ話す機会が、急に多くなったり」
ヨシは、レンとジュンとタクの三人にたいして、言っているのでした。
「あとは、そうだなあ……本田さんだっけ? その子とも関わるようになったり」
ヨシは、ユカのいるところへ、キザっぽい顔をしながらやってきました。
「キミさあ、こんなトリオとつるんでたら、男臭くなるだけだよ?
せっかくいい子なんだから、つき合う相手はちゃんと選ばないとさあ」
「わたし、ちゃんと選んでるつもりだよ」
ユカは、毅然としてそう答えました。
「小野寺」レンが、ユカの前に進み出ます。
「今、オレたち四人で話してるんだから、あっち行ってろよ」
「キミはとくに変になったよねえ?」ヨシは小馬鹿にするようなまなざし。
「いっとき、一人でだれにも会わないですぐ帰る時期があったかと思えば、
しばらくして、今度は本田さんと二人で帰る機会がやたら増えた。それに――」
ヨシは、レンの目と鼻の先に顔を近づけながら、さらに言います。
「つい最近、一人称を『ぼく』から、『オレ』に変えたみたいだけど、
その程度じゃあ、男が磨かれたとは言いがたいなあ」
「……べつに、自分をどう呼んだって、ヒトの勝手だし」
レンは、ぎっとヨシをにらみつけていました。
彼とは、少なからず因縁があります。
体育の時間、野球でマウンドに立った時、ヨシに鮮やかなホームランを打たれたり、
一番苦手な算数のテストで、クラス最低の点数を笑われたり。
極めつけは、図画工作の宿題で木のスケッチに取り組んだ時、
一番最後の提出を笑われたばかりか、下手なスケッチにたいして、
「それはイカ焼きの絵かい?」と言われたこともありました。
ジュンとタクにも、似たような因縁があります。
「ねえ、小野寺君。なんでも調査隊の宣伝、手伝ってくれる?」
突然、タクが不自然にのんきな調子でたずねました。
ヨシは、ふっ、と底意地の悪い笑い方をして、
「悪いけど、お断りだね。キミたちが何考えてるかは謎だけど、
関わり合いになるのはごめんだし。じゃあね」
ヨシは背中をむけると、そのまま教室の外へと出て行ってしまいました。
廊下から彼を見ていた野次馬女子たちが、その後に続いていくのが見えます。
「……そんなら、おれらに話しかけるなっつーの」
「ホント、同感」
ジュンとタクは、すっかり気分を損ねて、そうつぶやくのでした。
直後、ヨシと入れ替わるように、三人の女子がユカのもとへ集まってきました。
ユカの友達で、それぞれアヤ、サキ、クミという名前でした。
レンたちも、ここ最近関わりのある女子たちです。
「ユカ、大丈夫? ヨシ君に何か言われたんでしょ?」
心配そうに聞いてきたのは、サキでした。
「ううん、べつに。それより、今度の日曜日、本当にみんな集まれるの?」
「もっちろん! みんなユカのこと、お祝いしにいってあげるからね!」
元気よく答えたのは、アヤでした。
ユカは嬉しくなって、にっこりと笑顔を返すのでした。
「ユカちゃん? 祝うって、なんの話?」
レンが、ユカの笑顔の理由が分からずにたずねてきました。
「もしかして坂本君、ユカから聞いてないの?」
と、クミが不思議そうに聞きました。
「あれ、言ってなかったっけ?」
ユカは、恥ずかしそうに両手を腰の後ろで組むと、
「あのね……わたしの誕生日、なの。今度の日曜日――」
「たん、じょう、びっ!?」
レンは、ヨシのせいで腹の底まで落ちこんだように思えた心臓が、
口から飛び出すほど激しく高鳴るのを感じました。
「へえ、初耳!」タクが驚いたように言います。
「ぼくからもプレゼント贈らせてよ、ユカちゃん」
「あ、ずりぃぞタク! おれもプレゼント考えとくから!」
「あ、あの、あのさ!」レンはもじもじしながら、言います。
「オレからも、何か贈らせてほしいな……できるだけいいの、用意するから」
これは、ユカにとって新鮮な光景でした。なぜって、今まで同世代の男の子から、
誕生日プレゼントを贈られたことがないから。
「嬉しい! ありがとね!」
*
――時刻は、夕方の四時五十分。
ヨシは、うさみ町四丁目十四番地にある自宅に戻りました。
その家は、ガレージに黒い外国車が駐まっている、白い大きな高級住宅でした。
浜田タクの家と、いい勝負かもしれない――
ヨシは、見たことのあるタクの家を思い出すたび、我が家と比較していましたが、
やはりこの家には敵わないという自信がありました。
家の広さと高級感は、こちらが断然、上でしたから。
まだだれも帰っていない我が家の鍵を開けると、
ヨシは一人、冷えきった廊下をぬけ、恐ろしいほど静かな広いリビングを横切り、
螺旋階段を上がって、二階にある自室に入りました。
こぎれいな自室には、難しい本がびっしりと詰まった本棚と、高そうな勉強机。
壁際のカウンターに乗った小型の液晶テレビ。高級ホテルのようなふかふかベッド。
ヨシは、ランドセルを机横のフックにかけると、
部屋の電気もつけずにカーテンを閉め切った薄闇のまま、
部屋の隅のクローゼットの前にむかい、つまみに手をかけ、ゆっくりと開きました。
「……やっぱり泣いてたか」
ヨシは、クローゼットの中にむかって、冷たく笑いながら話しかけました。
「無駄さ。いくら泣いても、お友達は助けに来ないよ。
キミはどこにも行かせないし、だれにも渡さない。ずっとここで暮らすんだから」
クローゼットの中は、服が空っぽでした。
そのかわり、フックつきの鳥かごがかかっていたのです。
そのかごの中に閉じこめられていた、一匹の生物。
背中に羽が生え、体じゅうが渇いたアザラシの毛のようにふかふかした、
竜のような、犬のような生物――
一匹の青いドラギィが、鳥かごの中、
うったえかけるように格子をつかんでいました。
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