67 / 145
③〈フレドリクサス編〉
11『キミは、涙の貯水湖を見たことはあるか』②
しおりを挟む
うさみ町を発ってから三十分くらいでしょうか。
高度七百メートル上空を飛び続けるうちに、びっしりと広がっていた住宅地も、
今や鮮やかな緑地と田園風景が多くを占めるようになりました。
それから、なだらかな山地へと突入し、しばらく深い森の上を飛び続けると、
やがて、小さな山々の中に抜きんでて背の高い山が見えてきました。
「あれが、はなもり山!」と、レンが指さしました。
「で、あの山のふもとに見えてるのが、ウワサの湖だよ」
山々の中の広大な窪地に、
やや大きめのひょうたん型の湖が、美しい青空を映して横たわっていました。
「へぇ~、キレイな湖! まあ、スカイランドほどじゃないケド」
と、フリーナがすましたように言いました。
「水辺に登山客がいるかもしれない。少し離れた森の中に降りよう!」
レンの合図で、ドラギィたちは、
湖から百メートルくらい離れた森の中へと、高度を下げていきました。
*
すんとした清涼な風が、水辺を渡って、頬を優しくをなでていきます。
物静かな湖が、雲一つない青空の美しさに見とれてしまったように、
自分も真似をして水面を真っ青に染め上げています。
幸い、レンたちの近くに人気はなく、静寂に満ちたものです。ただ、
小さな波が次々と岸辺に打ちつけて、ピチャン、ピチャン、と音を立てるのみ。
こうして見ると、怪しい生物の気配なんて、ちっとも感じられません。
しかし、レンたちのレーダーアプリは、この湖の中から、
この世界のモノではないエネルギーを探知していました。
「絶対、ヘン!」タクはアプリを見下ろして言いました。
アプリの航空画面に映る湖全体に、
ぽつぽつと大量に浮かぶ青い点、点、点……。
それは、裏世界に属する物象のありかを示す色なのですが、
まるで湖を埋めつくすばかりの点の量でした。
『この湖が、怪しい生き物をおおい隠しておるのは、確かなようじゃな』
レンのAIしろさんが、静かにつぶやいていました。
『が、珍生物の反応はないと。うーむ、これではよく分からんのう』
「なんかさ……」ジュンがポツリと言いました。
「潮っぽい香りしねぇか? この湖」
「「潮?」」レンとタクは、クンクンと辺りのニオイを嗅いでみます。
確かに、海を思わせるようなニオイです。ここは山の中なのに。
子どもたちは、とんちんかんな感じになりました。
「てことは、これって海水!?」レンが目を丸くしました。
「ねえ、フラップたちはどう感じる? これ、ホントに海水かな?」
「「「カイスイ?」」」
モルモットサイズで宙を飛んでいたドラギィたちは、
自分たちも周囲のニオイを注意深く嗅いでみましたが、
「う~ん、ぼくたちには、どうとも答えられないですよう」
「カイスイってサ、海っていう、人間界で一番デッカイ湖の水のことだよネ?」
「まあ、普通の水ではなさそうなのは、ニオイで分かるが、これがそうなのか」
フレディは波打ち際に降りると、
湖の水に手をつけて、それをペロッとなめてみました。
「うわっ、しょっぱい! 涙みたいな味だ」
子どもたちも湖の水に触れて、各々その水をなめてみました。
すると、フレディの言う通り、これはまさしく海水そのものでした。
『おぬしらは、海を見たことがないのかの?』
と、ジュンのAIしろさんが聞きました。
「うん! ぜーんぜん」フリーナが答えます。
「だって、スカイランドの外は、見渡すかぎりずーっと、雲だもん」
「へぇ~、ロマンがあるじゃんよ!」ジュンが言いました。
「でも、そしたら、いったいだれがここの水を、海水に変えちまったんだ?」
「分かんないけど」レンが言いました。
「これで真実味を帯びてきたじゃない? 謎の生物が潜んでるってハナシ」
「それでは、いよいよフレディの出番ですね。
このまんまだと、探索しようがありませんから」
「なら、まずは計画通り、こいつの出番だね」
と、レンは自分の右手首に巻いていた、白いリストバンドを示しました。
それは今回、しろさんが新たに発明した『チヂミバンド』でした。
バンドについたしろさんマークのボタンを押すだけで、
装着した者はどこでも自由にネズミサイズになれる代物です。
まあ、ほとんど前のチヂミガンと性能は、同じなのですが。
レンがこの間、銃を一丁どこかに失くしてしまったことで、
しろさんはカンカンに怒りました。
それでしろさんが、急きょ再発防止のために作ったのが、このバンドでした。
ポチッとな。
三人でチヂミバンドを起動させると、みるみるサイズが縮んでいき、
目の前に映る湖が、まるで海のように雄大に広がりゆく感覚がしました。
「ほんっと、銃よりもチョー使いやすいよな、コレ!」
と、ジュンが絶賛しました。
それから、子どもたちが各自乗ってきたドラギィの背に再び飛び乗ると、
ドラギィたちは三匹で輪になるように並びました。
「さて、これからぼくがみんなに施すのは、『水泡の術』というものだ。
ちょっと精神を集中させるから、話しかけないでくれたまえよ……」
フレディは、肉球のついた両手で、ポンッ、と合掌すると、
心の内側で何かと静かに格闘するかのようにうなりながら、力を高めました。
それから数秒後、両手を勢いよく空にむかって差し出したのです。
すると、三匹と三人の身体のまわりで、いくつもの大きな泡が発生し、
ぶくぶくと音を立てながら次々とくっつきあって大きくなり、
しまいには、一匹と一人をすっかり包みこむほどの巨大な泡になりました。
「「「おおお~~~!!」」」
子どもたちの感嘆の声が、薄い膜にさえぎられたようにくぐもります。
まるで、身体が空気みたいに、ふわふわと軽くなったようです。
泡の中はひんやりと涼しく、クーラーの聞いたカプセルに入っているかのよう。
泡の表面にゆらめく陽の光が、レンたちの身体をなめまわすように踊っています。
「じゃあ、それぞれ計画通り、すぐカメラアプリを起動できるようにしておいて」
と、タクが言いました。
「くぅ~ん。どうか、謎のだれかさんに食べられませんように」
フラップが、天をあおぎながら祈ります。
「それじゃあ、出発!」
レンのかけ声を合図に、一同は謎の海水に満ちた湖の中へ、
ジョポン、ジョポン、と、果敢に突入してゆきました。
高度七百メートル上空を飛び続けるうちに、びっしりと広がっていた住宅地も、
今や鮮やかな緑地と田園風景が多くを占めるようになりました。
それから、なだらかな山地へと突入し、しばらく深い森の上を飛び続けると、
やがて、小さな山々の中に抜きんでて背の高い山が見えてきました。
「あれが、はなもり山!」と、レンが指さしました。
「で、あの山のふもとに見えてるのが、ウワサの湖だよ」
山々の中の広大な窪地に、
やや大きめのひょうたん型の湖が、美しい青空を映して横たわっていました。
「へぇ~、キレイな湖! まあ、スカイランドほどじゃないケド」
と、フリーナがすましたように言いました。
「水辺に登山客がいるかもしれない。少し離れた森の中に降りよう!」
レンの合図で、ドラギィたちは、
湖から百メートルくらい離れた森の中へと、高度を下げていきました。
*
すんとした清涼な風が、水辺を渡って、頬を優しくをなでていきます。
物静かな湖が、雲一つない青空の美しさに見とれてしまったように、
自分も真似をして水面を真っ青に染め上げています。
幸い、レンたちの近くに人気はなく、静寂に満ちたものです。ただ、
小さな波が次々と岸辺に打ちつけて、ピチャン、ピチャン、と音を立てるのみ。
こうして見ると、怪しい生物の気配なんて、ちっとも感じられません。
しかし、レンたちのレーダーアプリは、この湖の中から、
この世界のモノではないエネルギーを探知していました。
「絶対、ヘン!」タクはアプリを見下ろして言いました。
アプリの航空画面に映る湖全体に、
ぽつぽつと大量に浮かぶ青い点、点、点……。
それは、裏世界に属する物象のありかを示す色なのですが、
まるで湖を埋めつくすばかりの点の量でした。
『この湖が、怪しい生き物をおおい隠しておるのは、確かなようじゃな』
レンのAIしろさんが、静かにつぶやいていました。
『が、珍生物の反応はないと。うーむ、これではよく分からんのう』
「なんかさ……」ジュンがポツリと言いました。
「潮っぽい香りしねぇか? この湖」
「「潮?」」レンとタクは、クンクンと辺りのニオイを嗅いでみます。
確かに、海を思わせるようなニオイです。ここは山の中なのに。
子どもたちは、とんちんかんな感じになりました。
「てことは、これって海水!?」レンが目を丸くしました。
「ねえ、フラップたちはどう感じる? これ、ホントに海水かな?」
「「「カイスイ?」」」
モルモットサイズで宙を飛んでいたドラギィたちは、
自分たちも周囲のニオイを注意深く嗅いでみましたが、
「う~ん、ぼくたちには、どうとも答えられないですよう」
「カイスイってサ、海っていう、人間界で一番デッカイ湖の水のことだよネ?」
「まあ、普通の水ではなさそうなのは、ニオイで分かるが、これがそうなのか」
フレディは波打ち際に降りると、
湖の水に手をつけて、それをペロッとなめてみました。
「うわっ、しょっぱい! 涙みたいな味だ」
子どもたちも湖の水に触れて、各々その水をなめてみました。
すると、フレディの言う通り、これはまさしく海水そのものでした。
『おぬしらは、海を見たことがないのかの?』
と、ジュンのAIしろさんが聞きました。
「うん! ぜーんぜん」フリーナが答えます。
「だって、スカイランドの外は、見渡すかぎりずーっと、雲だもん」
「へぇ~、ロマンがあるじゃんよ!」ジュンが言いました。
「でも、そしたら、いったいだれがここの水を、海水に変えちまったんだ?」
「分かんないけど」レンが言いました。
「これで真実味を帯びてきたじゃない? 謎の生物が潜んでるってハナシ」
「それでは、いよいよフレディの出番ですね。
このまんまだと、探索しようがありませんから」
「なら、まずは計画通り、こいつの出番だね」
と、レンは自分の右手首に巻いていた、白いリストバンドを示しました。
それは今回、しろさんが新たに発明した『チヂミバンド』でした。
バンドについたしろさんマークのボタンを押すだけで、
装着した者はどこでも自由にネズミサイズになれる代物です。
まあ、ほとんど前のチヂミガンと性能は、同じなのですが。
レンがこの間、銃を一丁どこかに失くしてしまったことで、
しろさんはカンカンに怒りました。
それでしろさんが、急きょ再発防止のために作ったのが、このバンドでした。
ポチッとな。
三人でチヂミバンドを起動させると、みるみるサイズが縮んでいき、
目の前に映る湖が、まるで海のように雄大に広がりゆく感覚がしました。
「ほんっと、銃よりもチョー使いやすいよな、コレ!」
と、ジュンが絶賛しました。
それから、子どもたちが各自乗ってきたドラギィの背に再び飛び乗ると、
ドラギィたちは三匹で輪になるように並びました。
「さて、これからぼくがみんなに施すのは、『水泡の術』というものだ。
ちょっと精神を集中させるから、話しかけないでくれたまえよ……」
フレディは、肉球のついた両手で、ポンッ、と合掌すると、
心の内側で何かと静かに格闘するかのようにうなりながら、力を高めました。
それから数秒後、両手を勢いよく空にむかって差し出したのです。
すると、三匹と三人の身体のまわりで、いくつもの大きな泡が発生し、
ぶくぶくと音を立てながら次々とくっつきあって大きくなり、
しまいには、一匹と一人をすっかり包みこむほどの巨大な泡になりました。
「「「おおお~~~!!」」」
子どもたちの感嘆の声が、薄い膜にさえぎられたようにくぐもります。
まるで、身体が空気みたいに、ふわふわと軽くなったようです。
泡の中はひんやりと涼しく、クーラーの聞いたカプセルに入っているかのよう。
泡の表面にゆらめく陽の光が、レンたちの身体をなめまわすように踊っています。
「じゃあ、それぞれ計画通り、すぐカメラアプリを起動できるようにしておいて」
と、タクが言いました。
「くぅ~ん。どうか、謎のだれかさんに食べられませんように」
フラップが、天をあおぎながら祈ります。
「それじゃあ、出発!」
レンのかけ声を合図に、一同は謎の海水に満ちた湖の中へ、
ジョポン、ジョポン、と、果敢に突入してゆきました。
0
あなたにおすすめの小説
14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート
谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。
“スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。
そして14歳で、まさかの《定年》。
6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。
だけど、定年まで残された時間はわずか8年……!
――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。
だが、そんな幸弘の前に現れたのは、
「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。
これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。
描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。
あだ名が242個ある男(実はこれ実話なんですよ25)
tomoharu
児童書・童話
え?こんな話絶対ありえない!作り話でしょと思うような話からあるある話まで幅広い範囲で物語を考えました!ぜひ読んでみてください!数年後には大ヒット間違いなし!!
作品情報【伝説の物語(都道府県問題)】【伝説の話題(あだ名とコミュニケーションアプリ)】【マーライオン】【愛学両道】【やりすぎヒーロー伝説&ドリームストーリー】【トモレオ突破椿】など
・【やりすぎヒーロー伝説&ドリームストーリー】とは、その話はさすがに言いすぎでしょと言われているほぼ実話ストーリーです。
小さい頃から今まで主人公である【紘】はどのような体験をしたのかがわかります。ぜひよんでくださいね!
・【トモレオ突破椿】は、公務員試験合格なおかつ様々な問題を解決させる話です。
頭の悪かった人でも公務員になれることを証明させる話でもあるので、ぜひ読んでみてください!
特別記念として実話を元に作った【呪われし◯◯シリーズ】も公開します!
トランプ男と呼ばれている切札勝が、トランプゲームに例えて次々と問題を解決していく【トランプ男】シリーズも大人気!
人気者になるために、ウソばかりついて周りの人を誘導し、すべて自分のものにしようとするウソヒコをガチヒコが止める【嘘つきは、嘘治の始まり】というホラーサスペンスミステリー小説
【完結】玩具の青い鳥
かのん
児童書・童話
かつて偉大なる王が、聖なる塔での一騎打ちにより、呪われた黒竜を打倒した。それ以来、青は幸福を、翼は王を、空は神の領域を示す時代がここにある。
トイ・ブルーバードは玩具やとして国々を旅していたのだが、貿易の町にてこの国の王女に出会ったことでその運命を翻弄されていく。
王女と玩具屋の一幕をご覧あれ。
僕らの無人島漂流記
ましゅまろ
児童書・童話
夏休み、仲良しの小学4年男子5人組が出かけたキャンプは、突然の嵐で思わぬ大冒険に!
目を覚ますと、そこは見たこともない無人島だった。
地図もない。電波もない。食べ物も、水も、家もない。
頼れるのは、友だちと、自分の力だけ。
ケンカして、笑って、泣いて、助け合って——。
子どもだけの“1ヶ月サバイバル生活”が、いま始まる!
ノースキャンプの見張り台
こいちろう
児童書・童話
時代劇で見かけるような、古めかしい木づくりの橋。それを渡ると、向こう岸にノースキャンプがある。アーミーグリーンの北門と、その傍の監視塔。まるで映画村のセットだ。
進駐軍のキャンプ跡。周りを鉄さびた有刺鉄線に囲まれた、まるで要塞みたいな町だった。進駐軍が去ってからは住宅地になって、たくさんの子どもが暮らしていた。
赤茶色にさび付いた監視塔。その下に広がる広っぱは、子どもたちの最高の遊び場だ。見張っているのか、見守っているのか、鉄塔の、あのてっぺんから、いつも誰かに見られているんじゃないか?ユーイチはいつもそんな風に感じていた。
四尾がつむぐえにし、そこかしこ
月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。
憧れのキラキラ王子さまが転校する。
女子たちの嘆きはひとしお。
彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。
だからとてどうこうする勇気もない。
うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。
家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。
まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。
ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、
三つのお仕事を手伝うことになったユイ。
達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。
もしかしたら、もしかしちゃうかも?
そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。
結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。
いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、
はたしてユイは何を求め願うのか。
少女のちょっと不思議な冒険譚。
ここに開幕。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる