70 / 145
③〈フレドリクサス編〉
13『もしもあだ名がたくさんあったら、人気者の証かな』①
しおりを挟む
謎の球体に岸まで連行されたフラップとレンは、
草の生えた荒れ地の上に、ゆっくりと降ろされました。
ふたりを包んでいたピラミッド状の光も、しゅっと消え去ります。
「んん……フラップ、平気?」
「ま、まあ、なんとか」
なんだか肌がピリピリします。
レンがフラップの背から降りてあげると、フラップもよろりと立ち上がりました。
レンの手放していたスマホが、フラップの背から落ちて草の上に落ちます。
「おっとっと、オレのスマホ。拾わなくちゃ――よっ……と。
カメラアプリ、ずっと起動したまんまだ」
幸い、ふたりとも外傷は見当たりません。ただ、困惑だらけでした。
異界穴を開いていた先ほどのトビラ装置といい、ミサイルザメといい、
次々とわけの分からないメカに遭遇しましたが、
まさか、すべてひとりの人間か何かが操っているのでしょうか?
「こんなことするの、いったいだれなんだよ……」
「ホントですよ、もう。どうして、ぼくらがこんな目に――」
ふたりは、あたりをぐるりと見回してみましたが、
先ほど自分たちを連行していた黒猫球体の姿は、もうどこにもありません。
フリーナとフレディの姿もなく、人っ子ひとり見えないのです。
「フラップ、よく分からないけど、ここに長居しない方がいいんじゃない?」
「そうですね。他のみんなも探さないといけませんし。
さあ早く、もう一度ぼくの背中に」
レンが背中のサドルに飛び乗ると、フラップは力強く翼を動かそうとします――
が、翼がうまく広げられません。
まるで、翼そのものが羽ばたくのをためらっているように、抵抗しているよう。
おまけに翼がビリビリとしびれます。マヒしているのかもしれません。
「レン、くぅ~~ん……! ダメです、翼がぁ。なんなんです、これ?」
「――まさか、さっきの黒いヤツが出した電撃のせいかも!
あれは、オレたちを捕まえるための、ただの電撃銃じゃなかったりして」
「これじゃあ、『浮遊の術』で低空を移動できても、
また何かヘンテコなものに襲われたら、素早く逃げられませんよう」
「なら、オレが元の大きさになって、キミを抱いて運ぶよ。
そうすればきっと、問題ないんじゃない?」
「あ、そっか! チヂミバンド! レンくんたち、新しくつけてましたね」
「今まで襲ってきた変なメカは、よく分かんないけど、
どっちとも今のオレたちとそんなに変わらないサイズだったしね」
「じゃあ、それでさっそく――レンくん、待って! 何かこっちくる」
「はぁ? 今度はなに!?」
――大きな車が、けたたましいエンジン音を立てて走ってくるのが聞こえます。
湖と逆方向に広がる、斜面の下からです。
そのさらにむこうに広がる森の青々とした木々から、
車に驚いた無数の鳥たちが飛び去って行くのが、斜面の上からも分かります。
「もうすぐそこまで来てます……ああ、来た!!」
ドォォォォォ!!
トラックのような、オフロード車のような、細長でどっしりとした大型車が、
前脚を上げていななく黒馬のように、土をけたてながら飛び出してきました。
ゴツゴツしたタイヤを外側にむき出しにした、その漆黒の大型車は、
ドシーン!! とやかましい音を立てて着地して、そのまま停車。
その拍子に起きた地鳴りで、ネズミサイズだったふたりの足の裏が、
ぴょこんと地面を弾みます。
(……エ? あれ、なんで)
なぜだか不明ですが、その大型車のフロントに――黒猫の顔。
瞳孔を細めた金色の瞳に、いたずらっぽくベロンと出したピンクの舌。
振動でゆれる半透明の長いヒゲや、全身の毛の質感まで再現したこだわりよう。
目下ネズミサイズのフラップたちにとって、
この黒猫カーは、漆黒の宇宙戦艦も同然の壮大さ!
唐突すぎる出来事に、ふたりが目をパチクリさせていると、
黒猫カーの頭の上のハッチが開いて、中から一匹の猫がせり上がってきました。
その猫は、車に負けずおとらずの黒猫で――後ろ脚だけで立っています。
おまけに、マフィアのような濃灰色のコートを羽織っていたのです。
やや大柄ですし、いわゆる猫界のギャング、にも見えますが、
一つチャームポイントを上げるとすれば、
オレンジ色のネクタイを巻いていることでしょうか。
「あん? まだ一匹しかおらんやないかい」
その猫は、黒猫カーの頭から、ぴょーん! と鮮やかな跳躍を見せつけると、
四本の足でピタリと着地。そこからまた二本足で立ちあがり、
二、三歩ほど近づいてきてから、二ッと不敵な笑みを浮かべました。
「なんやねん、リアクション薄いやないか。猫が口利いたんやで?
ここはもっと、『ワァー! 猫がしゃべったわ~!』ってビビるとこやろ?」
「「………」」
「ふっ、しかしまあ……こんなところで会えるとは、
フシギなこともあるもんやのう。坂本少年?」
えっ、坂本? 自分の苗字を呼ばれた瞬間、
レンは、目の前の黒猫の目元についていたひっかき傷に、気がつきました。
「ああ~っ! キミもしかして、くろさま!?」
「え? くろさまって、
ぼくがこの間、レンくんちの外階段でお会いした、あの怖そうな猫さん!?」
フラップも、黒猫から香ってくる嗅ぎ覚えのあるニオイに、ピンときました。
「や~っと驚いてくれたか、ジブンら」
黒猫は、苦笑いを浮かべながら、やれやれと両手を広げます。
最近よく会っていた野良猫が、黒服をまとっていきなり現れる――
どう考えても奇天烈でした。
「ワイはなあ、この人間界を西へ東へさすらいつつ」
黒猫は、その場を行ったり来たりしながら、語りました。
「各地にいくつもの根城をこさえてきた、ベテランの旅猫なんや。
根城っちゅうんは、文字通りの根城や。どこもごっつええ場所やねんで!
ちなみに、こないな黒服姿なんは、ちょっとした趣味やねん。気にせんといてや」
妙になれなれしく話しかけてくる黒猫の口調に、
レンは調子を狂わされそうでした。
「……で、くろさま?」
「ん、なんやねん坂本」
「後ろのでっかい車……キミの?」
「チッチッチッ」黒猫は舌打ちしながら指を振ります。
「ワイのやあらへん。ワイらのや」
ワイら? 一匹で来たわけではないのでしょうか?
「それと、ゆうとくけどな少年、ワイのホンマの名ァは、くろさまやあらへん。
ワイの名は……ふん、いっぱいあんねん。
けどまあ、ウン、やっぱこれやな」
黒猫は、ぴたりと止まってこちらに面とむかい合い、
どっしりと構えながら言いました。
「ワイはその名も、ルドルフ・シュレデンガー様や!
猫界に! 古今東西! その名を轟かす! 珍生物コレクターやねん!」
「ちんせいぶつ、コレクタぁー?」
レンには、なんだかくだらなそうな肩書きに聞こえました。
「それで、あ、あのう」フラップがおびえながら聞きました。
「ル、ルド、シュ、シュレ……デンガナさん?」
「デンガナちゃうわ、アホゥ!」ルドルフがプンスカ怒りました。
「ぼくたちに何のご用です? まさか、ぼくたちを捕まえて、ガブリ! とか?」
「あ、せやせや。お前らを頭からしっぽの先までザクザク~! と角切りにして、
タコ焼きみたいに焼いて食うたら、どんだけうまいやろな~、てちゃうわ!!
そないなかわいそーなマネ、できるかっちゅーねん。
ワイがわざわざ、ここまで来たんも、目的はたった一つや……」
静かにそう言うと、ルドルフはいきなりフラップを指で指し示し、
「空島スカイランドから落とされし、摩訶不思議な生物ドラギィ!
オマエら全部、ワイのコレクションに加えるためやがな!」
「えええ~~~~っ!?」顔を真っ青にするフラップ。
「……て、これくしょんってなんなんです?」
「だはっ!!」
ルドルフは、その場で足を滑らすようなポーズを取りました。
よほど不意をつかれたのか、苦い茶葉を噛んだような顔で向き直ると、
「……ワイをズッコケさせるとは、なかなかの手練れやな。
今のは、ただのボケとちゃうんやろ? どんだけ天然モノやねん」
「テンネンモノ、です?」フラップは、ポカンとして首をかしげました。
「ねえ、くろさま? 今キミ、オマエら全部って言ったよね?
もしかして、さっきオレたちを襲った魚雷ザメは、キミの差し金?」
「もち、決まっとるやろ。あの黒猫型の電撃捕獲ドローンもな。
まあ、遠隔操作したんは、ワイの相棒やけどな。今、車内に待機させとんねん。
……お~っと? ウワサすれば、もう一匹」
ルドルフが遠くを見るようなポーズをするので、フラップたちも振り返ると、
湖の真ん中から、あの黒猫顔の飛行物体がやってくるところでした。
そのピラミッドに捕らえているのは――フレディとタクでした!
彼らの水泡の術も、すでに割れてしまっています。
(ああ! あのふたりも捕まったのか!)
フレディたちを、丁重にゆっくりと地面に降ろした黒猫球体は、
ルドルフの頭上をくるりと旋回してから、
彼の後ろにある車の上のハッチの中へ、撤収していきました。
フレディとタクも、なんとか無事なようです。
ただふたりとも、この状況にたいして用意ができていなかったせいで、
黒猫のルドルフの姿や、その後ろに停まっている巨大な車に、目を疑っていました。
「お、おいフラップ、これは……どうなっているんだ?
この黒いヤツ……いったい何者なんだ?」
「あ、この黒い猫さんは、デンガナさんだよ」
うっかりでもしていたのか、フラップは間違いだと指摘されたばかりの名前を、
フレディに教えてしまうのでした。
「デンガナだって? こいつの名前がか?」
「あれ? ブラックスターじゃないか」と、タクがルドルフのことを呼びました。
「やあ、しばらく見ないうちに、二足になって、おしゃれまでしちゃって」
「はぁ? ぶらっ……? デンガナじゃないのか?」とフレディ。
「あ、違う違う、くろさまだよ」
と、レンが悪乗りするように伝えます。
「く、くろさま? ぶらすたーじゃなくて?」
「あ~~もう! なんでもええわ!」
しびれを切らしたルドルフが、地団駄をふんで叫びます。
「そこの青いドラギィ! ちょうどええ。
オマエに会いたいやつがおんねん。よう知っとる人間のはずや」
するとルドルフは、黒猫カーにむかって、
「おーい! フレドリクサスが来たでぇ! 姿見せたれ!」
すると、黒猫カーの後ろの荷台についた小さなドアが、つと開いて、
中から、一人の少年が姿をあらわにしました。
(((はっ……あれは!)))
こんなところで遭遇するとは、だれも予想だにしなかったでしょう。
小野寺ヨシ。
全身黒服の彼が、何やら画面つきのコントローラーを手にして、
ゆっくりと車外に降り立ったのです。
草の生えた荒れ地の上に、ゆっくりと降ろされました。
ふたりを包んでいたピラミッド状の光も、しゅっと消え去ります。
「んん……フラップ、平気?」
「ま、まあ、なんとか」
なんだか肌がピリピリします。
レンがフラップの背から降りてあげると、フラップもよろりと立ち上がりました。
レンの手放していたスマホが、フラップの背から落ちて草の上に落ちます。
「おっとっと、オレのスマホ。拾わなくちゃ――よっ……と。
カメラアプリ、ずっと起動したまんまだ」
幸い、ふたりとも外傷は見当たりません。ただ、困惑だらけでした。
異界穴を開いていた先ほどのトビラ装置といい、ミサイルザメといい、
次々とわけの分からないメカに遭遇しましたが、
まさか、すべてひとりの人間か何かが操っているのでしょうか?
「こんなことするの、いったいだれなんだよ……」
「ホントですよ、もう。どうして、ぼくらがこんな目に――」
ふたりは、あたりをぐるりと見回してみましたが、
先ほど自分たちを連行していた黒猫球体の姿は、もうどこにもありません。
フリーナとフレディの姿もなく、人っ子ひとり見えないのです。
「フラップ、よく分からないけど、ここに長居しない方がいいんじゃない?」
「そうですね。他のみんなも探さないといけませんし。
さあ早く、もう一度ぼくの背中に」
レンが背中のサドルに飛び乗ると、フラップは力強く翼を動かそうとします――
が、翼がうまく広げられません。
まるで、翼そのものが羽ばたくのをためらっているように、抵抗しているよう。
おまけに翼がビリビリとしびれます。マヒしているのかもしれません。
「レン、くぅ~~ん……! ダメです、翼がぁ。なんなんです、これ?」
「――まさか、さっきの黒いヤツが出した電撃のせいかも!
あれは、オレたちを捕まえるための、ただの電撃銃じゃなかったりして」
「これじゃあ、『浮遊の術』で低空を移動できても、
また何かヘンテコなものに襲われたら、素早く逃げられませんよう」
「なら、オレが元の大きさになって、キミを抱いて運ぶよ。
そうすればきっと、問題ないんじゃない?」
「あ、そっか! チヂミバンド! レンくんたち、新しくつけてましたね」
「今まで襲ってきた変なメカは、よく分かんないけど、
どっちとも今のオレたちとそんなに変わらないサイズだったしね」
「じゃあ、それでさっそく――レンくん、待って! 何かこっちくる」
「はぁ? 今度はなに!?」
――大きな車が、けたたましいエンジン音を立てて走ってくるのが聞こえます。
湖と逆方向に広がる、斜面の下からです。
そのさらにむこうに広がる森の青々とした木々から、
車に驚いた無数の鳥たちが飛び去って行くのが、斜面の上からも分かります。
「もうすぐそこまで来てます……ああ、来た!!」
ドォォォォォ!!
トラックのような、オフロード車のような、細長でどっしりとした大型車が、
前脚を上げていななく黒馬のように、土をけたてながら飛び出してきました。
ゴツゴツしたタイヤを外側にむき出しにした、その漆黒の大型車は、
ドシーン!! とやかましい音を立てて着地して、そのまま停車。
その拍子に起きた地鳴りで、ネズミサイズだったふたりの足の裏が、
ぴょこんと地面を弾みます。
(……エ? あれ、なんで)
なぜだか不明ですが、その大型車のフロントに――黒猫の顔。
瞳孔を細めた金色の瞳に、いたずらっぽくベロンと出したピンクの舌。
振動でゆれる半透明の長いヒゲや、全身の毛の質感まで再現したこだわりよう。
目下ネズミサイズのフラップたちにとって、
この黒猫カーは、漆黒の宇宙戦艦も同然の壮大さ!
唐突すぎる出来事に、ふたりが目をパチクリさせていると、
黒猫カーの頭の上のハッチが開いて、中から一匹の猫がせり上がってきました。
その猫は、車に負けずおとらずの黒猫で――後ろ脚だけで立っています。
おまけに、マフィアのような濃灰色のコートを羽織っていたのです。
やや大柄ですし、いわゆる猫界のギャング、にも見えますが、
一つチャームポイントを上げるとすれば、
オレンジ色のネクタイを巻いていることでしょうか。
「あん? まだ一匹しかおらんやないかい」
その猫は、黒猫カーの頭から、ぴょーん! と鮮やかな跳躍を見せつけると、
四本の足でピタリと着地。そこからまた二本足で立ちあがり、
二、三歩ほど近づいてきてから、二ッと不敵な笑みを浮かべました。
「なんやねん、リアクション薄いやないか。猫が口利いたんやで?
ここはもっと、『ワァー! 猫がしゃべったわ~!』ってビビるとこやろ?」
「「………」」
「ふっ、しかしまあ……こんなところで会えるとは、
フシギなこともあるもんやのう。坂本少年?」
えっ、坂本? 自分の苗字を呼ばれた瞬間、
レンは、目の前の黒猫の目元についていたひっかき傷に、気がつきました。
「ああ~っ! キミもしかして、くろさま!?」
「え? くろさまって、
ぼくがこの間、レンくんちの外階段でお会いした、あの怖そうな猫さん!?」
フラップも、黒猫から香ってくる嗅ぎ覚えのあるニオイに、ピンときました。
「や~っと驚いてくれたか、ジブンら」
黒猫は、苦笑いを浮かべながら、やれやれと両手を広げます。
最近よく会っていた野良猫が、黒服をまとっていきなり現れる――
どう考えても奇天烈でした。
「ワイはなあ、この人間界を西へ東へさすらいつつ」
黒猫は、その場を行ったり来たりしながら、語りました。
「各地にいくつもの根城をこさえてきた、ベテランの旅猫なんや。
根城っちゅうんは、文字通りの根城や。どこもごっつええ場所やねんで!
ちなみに、こないな黒服姿なんは、ちょっとした趣味やねん。気にせんといてや」
妙になれなれしく話しかけてくる黒猫の口調に、
レンは調子を狂わされそうでした。
「……で、くろさま?」
「ん、なんやねん坂本」
「後ろのでっかい車……キミの?」
「チッチッチッ」黒猫は舌打ちしながら指を振ります。
「ワイのやあらへん。ワイらのや」
ワイら? 一匹で来たわけではないのでしょうか?
「それと、ゆうとくけどな少年、ワイのホンマの名ァは、くろさまやあらへん。
ワイの名は……ふん、いっぱいあんねん。
けどまあ、ウン、やっぱこれやな」
黒猫は、ぴたりと止まってこちらに面とむかい合い、
どっしりと構えながら言いました。
「ワイはその名も、ルドルフ・シュレデンガー様や!
猫界に! 古今東西! その名を轟かす! 珍生物コレクターやねん!」
「ちんせいぶつ、コレクタぁー?」
レンには、なんだかくだらなそうな肩書きに聞こえました。
「それで、あ、あのう」フラップがおびえながら聞きました。
「ル、ルド、シュ、シュレ……デンガナさん?」
「デンガナちゃうわ、アホゥ!」ルドルフがプンスカ怒りました。
「ぼくたちに何のご用です? まさか、ぼくたちを捕まえて、ガブリ! とか?」
「あ、せやせや。お前らを頭からしっぽの先までザクザク~! と角切りにして、
タコ焼きみたいに焼いて食うたら、どんだけうまいやろな~、てちゃうわ!!
そないなかわいそーなマネ、できるかっちゅーねん。
ワイがわざわざ、ここまで来たんも、目的はたった一つや……」
静かにそう言うと、ルドルフはいきなりフラップを指で指し示し、
「空島スカイランドから落とされし、摩訶不思議な生物ドラギィ!
オマエら全部、ワイのコレクションに加えるためやがな!」
「えええ~~~~っ!?」顔を真っ青にするフラップ。
「……て、これくしょんってなんなんです?」
「だはっ!!」
ルドルフは、その場で足を滑らすようなポーズを取りました。
よほど不意をつかれたのか、苦い茶葉を噛んだような顔で向き直ると、
「……ワイをズッコケさせるとは、なかなかの手練れやな。
今のは、ただのボケとちゃうんやろ? どんだけ天然モノやねん」
「テンネンモノ、です?」フラップは、ポカンとして首をかしげました。
「ねえ、くろさま? 今キミ、オマエら全部って言ったよね?
もしかして、さっきオレたちを襲った魚雷ザメは、キミの差し金?」
「もち、決まっとるやろ。あの黒猫型の電撃捕獲ドローンもな。
まあ、遠隔操作したんは、ワイの相棒やけどな。今、車内に待機させとんねん。
……お~っと? ウワサすれば、もう一匹」
ルドルフが遠くを見るようなポーズをするので、フラップたちも振り返ると、
湖の真ん中から、あの黒猫顔の飛行物体がやってくるところでした。
そのピラミッドに捕らえているのは――フレディとタクでした!
彼らの水泡の術も、すでに割れてしまっています。
(ああ! あのふたりも捕まったのか!)
フレディたちを、丁重にゆっくりと地面に降ろした黒猫球体は、
ルドルフの頭上をくるりと旋回してから、
彼の後ろにある車の上のハッチの中へ、撤収していきました。
フレディとタクも、なんとか無事なようです。
ただふたりとも、この状況にたいして用意ができていなかったせいで、
黒猫のルドルフの姿や、その後ろに停まっている巨大な車に、目を疑っていました。
「お、おいフラップ、これは……どうなっているんだ?
この黒いヤツ……いったい何者なんだ?」
「あ、この黒い猫さんは、デンガナさんだよ」
うっかりでもしていたのか、フラップは間違いだと指摘されたばかりの名前を、
フレディに教えてしまうのでした。
「デンガナだって? こいつの名前がか?」
「あれ? ブラックスターじゃないか」と、タクがルドルフのことを呼びました。
「やあ、しばらく見ないうちに、二足になって、おしゃれまでしちゃって」
「はぁ? ぶらっ……? デンガナじゃないのか?」とフレディ。
「あ、違う違う、くろさまだよ」
と、レンが悪乗りするように伝えます。
「く、くろさま? ぶらすたーじゃなくて?」
「あ~~もう! なんでもええわ!」
しびれを切らしたルドルフが、地団駄をふんで叫びます。
「そこの青いドラギィ! ちょうどええ。
オマエに会いたいやつがおんねん。よう知っとる人間のはずや」
するとルドルフは、黒猫カーにむかって、
「おーい! フレドリクサスが来たでぇ! 姿見せたれ!」
すると、黒猫カーの後ろの荷台についた小さなドアが、つと開いて、
中から、一人の少年が姿をあらわにしました。
(((はっ……あれは!)))
こんなところで遭遇するとは、だれも予想だにしなかったでしょう。
小野寺ヨシ。
全身黒服の彼が、何やら画面つきのコントローラーを手にして、
ゆっくりと車外に降り立ったのです。
1
あなたにおすすめの小説
14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート
谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。
“スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。
そして14歳で、まさかの《定年》。
6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。
だけど、定年まで残された時間はわずか8年……!
――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。
だが、そんな幸弘の前に現れたのは、
「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。
これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。
描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。
あだ名が242個ある男(実はこれ実話なんですよ25)
tomoharu
児童書・童話
え?こんな話絶対ありえない!作り話でしょと思うような話からあるある話まで幅広い範囲で物語を考えました!ぜひ読んでみてください!数年後には大ヒット間違いなし!!
作品情報【伝説の物語(都道府県問題)】【伝説の話題(あだ名とコミュニケーションアプリ)】【マーライオン】【愛学両道】【やりすぎヒーロー伝説&ドリームストーリー】【トモレオ突破椿】など
・【やりすぎヒーロー伝説&ドリームストーリー】とは、その話はさすがに言いすぎでしょと言われているほぼ実話ストーリーです。
小さい頃から今まで主人公である【紘】はどのような体験をしたのかがわかります。ぜひよんでくださいね!
・【トモレオ突破椿】は、公務員試験合格なおかつ様々な問題を解決させる話です。
頭の悪かった人でも公務員になれることを証明させる話でもあるので、ぜひ読んでみてください!
特別記念として実話を元に作った【呪われし◯◯シリーズ】も公開します!
トランプ男と呼ばれている切札勝が、トランプゲームに例えて次々と問題を解決していく【トランプ男】シリーズも大人気!
人気者になるために、ウソばかりついて周りの人を誘導し、すべて自分のものにしようとするウソヒコをガチヒコが止める【嘘つきは、嘘治の始まり】というホラーサスペンスミステリー小説
【完結】玩具の青い鳥
かのん
児童書・童話
かつて偉大なる王が、聖なる塔での一騎打ちにより、呪われた黒竜を打倒した。それ以来、青は幸福を、翼は王を、空は神の領域を示す時代がここにある。
トイ・ブルーバードは玩具やとして国々を旅していたのだが、貿易の町にてこの国の王女に出会ったことでその運命を翻弄されていく。
王女と玩具屋の一幕をご覧あれ。
僕らの無人島漂流記
ましゅまろ
児童書・童話
夏休み、仲良しの小学4年男子5人組が出かけたキャンプは、突然の嵐で思わぬ大冒険に!
目を覚ますと、そこは見たこともない無人島だった。
地図もない。電波もない。食べ物も、水も、家もない。
頼れるのは、友だちと、自分の力だけ。
ケンカして、笑って、泣いて、助け合って——。
子どもだけの“1ヶ月サバイバル生活”が、いま始まる!
ノースキャンプの見張り台
こいちろう
児童書・童話
時代劇で見かけるような、古めかしい木づくりの橋。それを渡ると、向こう岸にノースキャンプがある。アーミーグリーンの北門と、その傍の監視塔。まるで映画村のセットだ。
進駐軍のキャンプ跡。周りを鉄さびた有刺鉄線に囲まれた、まるで要塞みたいな町だった。進駐軍が去ってからは住宅地になって、たくさんの子どもが暮らしていた。
赤茶色にさび付いた監視塔。その下に広がる広っぱは、子どもたちの最高の遊び場だ。見張っているのか、見守っているのか、鉄塔の、あのてっぺんから、いつも誰かに見られているんじゃないか?ユーイチはいつもそんな風に感じていた。
四尾がつむぐえにし、そこかしこ
月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。
憧れのキラキラ王子さまが転校する。
女子たちの嘆きはひとしお。
彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。
だからとてどうこうする勇気もない。
うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。
家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。
まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。
ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、
三つのお仕事を手伝うことになったユイ。
達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。
もしかしたら、もしかしちゃうかも?
そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。
結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。
いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、
はたしてユイは何を求め願うのか。
少女のちょっと不思議な冒険譚。
ここに開幕。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
