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①〈フラップ編〉
10『はじめてのお使いには、お届け物がちょうどいい』②
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『レンー、ちょっどだけお店、手伝ってくれる?』
ヘルプに入る日でもないのに、お母さんに下の階からスマホで呼ばれて、
レンは視線を上にむけて、ハァ~、とため息を一つ。
どうやら、夕方に団体客が来店して、
お皿がとてもたくさん出たらしく、後片づけが大変だということです。
いつもなら、たいして珍しくないことなので、素直に駆けつけるのですが、
今日のレンは、ユカから引き受けた依頼のことで、頭がいっぱいでしたから、
「さてと、めんどくさいけど行くかあ」
重たい腰を上げながら、サカモト一番の店内に駆けつけたのでした。
店内全てのテーブルに所狭しと並んでいた皿を下げつつ、
布巾でテーブルをキレイにしていたレン。
しかし、途中でユカの顔が頭をよぎった瞬間、
レンはピタッ! と手を止めて、テーブルを呆然と見つめてしまいます。
いけません。ドラギィを養うと決めた時には、平常な気持ちでいられたのに、
どうもユカのことになると、心がどこかへふわふわと泳いでしまうのです。
こんなにも熱くて、ちょっぴり苦しい胸の感覚、生まれてはじめてでした。
「レンが石になってる……」
お父さんが厨房からレンの様子を見て、心配そうにつぶやきました。
「なーんか、最近のレンって、ちょっと変かもね」
お母さんは、ここのところのレンの変化に気づいていたようです。
お母さんは、厨房での作業を少し中断して、
こっそりとレンの後ろに回りこみました。
「コラッ、手が止まってるよ、レン!」
ぴしゃりと、レンの背後からわざと脅かすように声を張ると、
レンは、びくりと全身をふるわせて驚きました。
その様子に、お母さんはしてやったりと歯をちらつかせました。
「ちょっとぉ、母さん、何?」
「あんた、最近ぼうっとすることが多いんじゃない?
なんか、ワンワントイズで買いたい物があるから、お小遣いがほしいとか?」
「なんでワンワントイズ限定なの。お小遣いなんて、今はいいよ。ただね……」
「ただ?」
「――ちょっと、悩んでることがあるんだよね。
ぼくって、今まで女の子の知りあいとか、作ったことがなくてさ」
「へ? 女の子?」お母さんは目を丸くしました。
「そんなぼくがさ、ある日突然、あまり関わりのない女の子から、
大事な届け物を頼まれたとするじゃない?
もしそうしたらぼくは、その子から感謝されたいから、きっと、
『引き受けます』って答えちゃうと思うんだ」
「えーっと、話が見えないんだけど――」
「だって、その届け物は、依頼主の女の子が、
遠くに住んでる親友の女の子に渡したい誕生日プレゼントなんだ。
でも、いろいろワケがあって、自分から渡しに行けないから――」
「というか、レン! その女の子のことが好きなのかい!?」
と、いきなり割りこんできたのは、お父さんでした。
「な! ちょっと、なんでそうなるのさ!」
「だってレン、顔が真っ赤っかじゃないか」
「え、ウソ……いや、これは……父さんの勘違いだって!
ふう……ぼくが話している女の子っていうのは、
今読んでるネット小説に出てくる子のこと。
その子、相手の男の子から『いやだ』って断られちゃうんだ」
ごまかし文句を言わせたら、なかなかマネのできる者はいない坂本レン。
「だから、ぼくなら引き受けてやるのにって、やきもきしてるってわけ。
でも、女子に慣れてないぼくだと、もしかすると、
親友の女の子にうまく渡せないかもだから、依頼主の女の子を悲しませちゃうかな」
「何を言ってるんだ、レン。
父さんの息子は、ヒトを泣かせるような子じゃないぞ」
「そうそう! あんただったら、うまいこと渡せるもんだって!」
小説の中の人物だったらの話なのに、妙に自信ありげに答えるお父さんとお母さん。
レンは、なんだか喜びづらい状況でした。
「あ、ありがと、父さん、母さん。
……でもさ、ぼくが本当に悩んでるのは、そこじゃないんだよね」
「?」「?」
「じつは今、ぼくには新しくできた友達がいるんだ。ちょっと変わったやつでさ、
ぼく意外の人前に出るのが、その、怖いって言えばいいのかな?
それなのに、少しでも人に役立つ何かをしたいっていうんだ。
だからぼくは、女の子の依頼を達成するために、
多少なりとも、そいつに手伝ってもらいたいなって思ってる。
でもさ、ぼくが依頼主の女の子から感謝されたいがために、
なんだかその友達を利用するみたいな形でさ。やりにくいんだよね。
そのことでぼく、ちょっと……いや、真剣に悩んでてさ」
まるでこの先、実際に起こる事柄であるかのように話すレン。
すると、おかあさんがポツリと聞きました。
「ね、ねえ。それってあくまでも、もしもの話だよね?」
「え? ああ、うん、もちろん! もしもの話ね」
「ならそんなの――」お母さんは言いました。
「全然、考えこむ必要ないんじゃない?
どんな頼まれゴトでも、一人だと力不足だったり、心細かったり、迷子になったり。
だから、友達にも手伝ってもらうなんて、別に悪いことじゃないって」
「そうだぞう」お父さんも、レンの肩に手を置いて言いました。
「利用してるとか、そんないらない引け目を感じる必要なんてないよ。
その、新しい友達? その子がどんな子かは知らないけど、
レンの友達なら、きっと、レンの優しい人柄にこたえて、
レンに花を持たせてやりたいって思ってくれてるはずだよ」
「……そうか。なるほど、ね。母さんたちは、そう言ってくれるんだ」
お父さんとお母さんは、深く考えて答えてくれたわけではないのでしょう。
いっしょにこの家で暮らしてきたレンを、ジマンの息子だと信じて、
いつも通り疑問に答えてくれたに違いありません。
レンの言う新しい友達が、異世界から来たばかりのドラギィだと知ったなら、
いったい他にどんな言葉をかけたことでしょう?
(そもそもこれは、フラップの修行もかねてるんだよね。
だったら、最初からあれこれ気にする必要なんて、ないのかなあ……?)
ヘルプに入る日でもないのに、お母さんに下の階からスマホで呼ばれて、
レンは視線を上にむけて、ハァ~、とため息を一つ。
どうやら、夕方に団体客が来店して、
お皿がとてもたくさん出たらしく、後片づけが大変だということです。
いつもなら、たいして珍しくないことなので、素直に駆けつけるのですが、
今日のレンは、ユカから引き受けた依頼のことで、頭がいっぱいでしたから、
「さてと、めんどくさいけど行くかあ」
重たい腰を上げながら、サカモト一番の店内に駆けつけたのでした。
店内全てのテーブルに所狭しと並んでいた皿を下げつつ、
布巾でテーブルをキレイにしていたレン。
しかし、途中でユカの顔が頭をよぎった瞬間、
レンはピタッ! と手を止めて、テーブルを呆然と見つめてしまいます。
いけません。ドラギィを養うと決めた時には、平常な気持ちでいられたのに、
どうもユカのことになると、心がどこかへふわふわと泳いでしまうのです。
こんなにも熱くて、ちょっぴり苦しい胸の感覚、生まれてはじめてでした。
「レンが石になってる……」
お父さんが厨房からレンの様子を見て、心配そうにつぶやきました。
「なーんか、最近のレンって、ちょっと変かもね」
お母さんは、ここのところのレンの変化に気づいていたようです。
お母さんは、厨房での作業を少し中断して、
こっそりとレンの後ろに回りこみました。
「コラッ、手が止まってるよ、レン!」
ぴしゃりと、レンの背後からわざと脅かすように声を張ると、
レンは、びくりと全身をふるわせて驚きました。
その様子に、お母さんはしてやったりと歯をちらつかせました。
「ちょっとぉ、母さん、何?」
「あんた、最近ぼうっとすることが多いんじゃない?
なんか、ワンワントイズで買いたい物があるから、お小遣いがほしいとか?」
「なんでワンワントイズ限定なの。お小遣いなんて、今はいいよ。ただね……」
「ただ?」
「――ちょっと、悩んでることがあるんだよね。
ぼくって、今まで女の子の知りあいとか、作ったことがなくてさ」
「へ? 女の子?」お母さんは目を丸くしました。
「そんなぼくがさ、ある日突然、あまり関わりのない女の子から、
大事な届け物を頼まれたとするじゃない?
もしそうしたらぼくは、その子から感謝されたいから、きっと、
『引き受けます』って答えちゃうと思うんだ」
「えーっと、話が見えないんだけど――」
「だって、その届け物は、依頼主の女の子が、
遠くに住んでる親友の女の子に渡したい誕生日プレゼントなんだ。
でも、いろいろワケがあって、自分から渡しに行けないから――」
「というか、レン! その女の子のことが好きなのかい!?」
と、いきなり割りこんできたのは、お父さんでした。
「な! ちょっと、なんでそうなるのさ!」
「だってレン、顔が真っ赤っかじゃないか」
「え、ウソ……いや、これは……父さんの勘違いだって!
ふう……ぼくが話している女の子っていうのは、
今読んでるネット小説に出てくる子のこと。
その子、相手の男の子から『いやだ』って断られちゃうんだ」
ごまかし文句を言わせたら、なかなかマネのできる者はいない坂本レン。
「だから、ぼくなら引き受けてやるのにって、やきもきしてるってわけ。
でも、女子に慣れてないぼくだと、もしかすると、
親友の女の子にうまく渡せないかもだから、依頼主の女の子を悲しませちゃうかな」
「何を言ってるんだ、レン。
父さんの息子は、ヒトを泣かせるような子じゃないぞ」
「そうそう! あんただったら、うまいこと渡せるもんだって!」
小説の中の人物だったらの話なのに、妙に自信ありげに答えるお父さんとお母さん。
レンは、なんだか喜びづらい状況でした。
「あ、ありがと、父さん、母さん。
……でもさ、ぼくが本当に悩んでるのは、そこじゃないんだよね」
「?」「?」
「じつは今、ぼくには新しくできた友達がいるんだ。ちょっと変わったやつでさ、
ぼく意外の人前に出るのが、その、怖いって言えばいいのかな?
それなのに、少しでも人に役立つ何かをしたいっていうんだ。
だからぼくは、女の子の依頼を達成するために、
多少なりとも、そいつに手伝ってもらいたいなって思ってる。
でもさ、ぼくが依頼主の女の子から感謝されたいがために、
なんだかその友達を利用するみたいな形でさ。やりにくいんだよね。
そのことでぼく、ちょっと……いや、真剣に悩んでてさ」
まるでこの先、実際に起こる事柄であるかのように話すレン。
すると、おかあさんがポツリと聞きました。
「ね、ねえ。それってあくまでも、もしもの話だよね?」
「え? ああ、うん、もちろん! もしもの話ね」
「ならそんなの――」お母さんは言いました。
「全然、考えこむ必要ないんじゃない?
どんな頼まれゴトでも、一人だと力不足だったり、心細かったり、迷子になったり。
だから、友達にも手伝ってもらうなんて、別に悪いことじゃないって」
「そうだぞう」お父さんも、レンの肩に手を置いて言いました。
「利用してるとか、そんないらない引け目を感じる必要なんてないよ。
その、新しい友達? その子がどんな子かは知らないけど、
レンの友達なら、きっと、レンの優しい人柄にこたえて、
レンに花を持たせてやりたいって思ってくれてるはずだよ」
「……そうか。なるほど、ね。母さんたちは、そう言ってくれるんだ」
お父さんとお母さんは、深く考えて答えてくれたわけではないのでしょう。
いっしょにこの家で暮らしてきたレンを、ジマンの息子だと信じて、
いつも通り疑問に答えてくれたに違いありません。
レンの言う新しい友達が、異世界から来たばかりのドラギィだと知ったなら、
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だったら、最初からあれこれ気にする必要なんて、ないのかなあ……?)
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