DRAGGY!ードラギィ!ー【フレデリック編連載中!】

Sirocos(シロコス)

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①〈フラップ編〉

6『風船は、心の友達です』②

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(しまった、マズイ!)

フラップは焦り一色になって、頭を抱えます!
どうすればよいのでしょう?   たった一匹、危険をかえりみずに飛びだした挙句、
人間の女の子に見つかってしまうとは。
こんな時にどうすればよいか、スクールで習っているわけがありません。

 これには、弱ってしまいました。


「ああ、いた!!」

つと、近くの曲がり角の陰から、青いバッグを持った少年が走ってきました。


レンです!   ちゃんと追いかけてきてくれたのです。


「あ、レンくん……」
フラップは、安心感と罪悪感が入り乱れて、涙が出そうでした。

「もう、そんなとこで何やってんのさ、まったく!
いきなりバッグから飛びだすとか……
キミまだ、この世界に慣れてないんでしょ?   だれかに見られたかも!」

レンは、まるで保護者気どりのように顔をしかめていました。
まわりに聞こえないように声は落としていましたけれど。

「そ、そのことなんですけど、レンくん……あのう、その――」

「風船、捕まえたんでしょ?   どこにあるの!?」

「こ、ここに!」

フラップは、庭の木にくくりつけていた風船のヒモを解いて、
レンに手渡しました。

「それで、ぼく……じつは――」

「細かいことはいいから、とにかく入って!」

フラップは素早くネズミサイズになって、レンのバッグに身をひそめます。

とそこへ、道路のむこうの曲がり角の陰から、
先ほどの女の子が死にもの狂いでお母さんの両手で引っぱって、戻ってきました。
突然、興奮したわが子に連れてこられたために、困惑しているお母さん。

しかし、女の子がお母さんに見てほしかった生き物は、
廃屋の庭からこつ然と消え失せ、
代わりに、十歳の小学生が道路に立っていたのです。

「いない……」

女の子は、石塀のすき間からキョロキョロ見回しました。
しかし、あの赤い竜のような、犬のような生き物は、もうどこにもいません。

(やっぱり、フラップのやつ、この子に?)

考えこまなくても、女の子の雰囲気で、レンは直感しました。
先ほどのこの子の叫び声を頼りに、ここに駆けつけたのですから。

「どこー!?」

むすっとした女の子は、コンクリートを踏み鳴らしながら、レンに聞きました。
こういう時、幼い子どもの思考力には、度肝をぬかされます。
まるで、レンがフラップを隠したことに、気づいているかのようなにらみ方!

「ど、どこって、何聞きたいのかな……?」

「ごめんね、この子ったら――」女の子のお母さんが、苦笑いして言いました。
「ここで変な赤い犬を見たって騒ぐから。ふふふ、おかしいでしょ。
ここで、何か見なかった?」

「な、なんにも……」レンはとっさに誤魔化しました。
「ぼくも、この子の叫び声を聞いて、何かなあって見に来たんですけど、
ここには何もいませんでしたよ。あ、でも、その代わりに――はい」

レンは、手に持っていた風船を見せます。女の子にも、すぐ分かりました。
その赤い風船は、先ほど自分が手放した、肉球マークつきの風船であると!

「この庭の木の枝に、引っかかってたのを見つけたんだ」レンは言いました。
「この風船のマーク、ワンワントイズのでしょ?   いいよね、ワンワントイズ。
たくさんおもちゃ売ってるし、楽しい乗り物もいっぱいあるし。
今日は第三土曜日だから、わんぱっくんが風船くばりに来てくれたんだね」

わんぱっくんとは、ワンワントイズの公式マスコットキャラクターです。

「ぼくの名前は、レン。キミは?」

「リリ……」

「リリちゃん、この赤い風船はきっと、リリちゃんのことが大好きなんだね。
だから、赤い不思議な犬になって、リリちゃんのところに帰ってきたんだよ」

そう言って、レンは女の子の右手首に、風船のヒモをむすんであげました。

「もう失くさないように、お家に着くまで大切にしてあげようね」

すると、女の子の表情が、急にぽわあっと明るくなったのです。
まるで、保育園で素敵な保育士のお兄さんと、めぐり合った時のように!

「あーん、優しいのね。ありがと!」お母さんもときめいているようです。
「どっかに飛んでっちゃったはずなのに、不思議なこともあるのね。
ほら、リリちゃん。お兄さんにありがとうって」

「レンー、アリガトー!」リリちゃんは、ぷるぷると左手を振りました。

そうして、お母さんと手をつないで帰っていくリリちゃんの横顔は、
なんだか魔法にでもかけられたみたいに、キラキラとしていました。
きっとあの子は、フラップの顔を忘れられないことでしょう。
たった一度の不思議体験として、大人になるまで胸に秘めて――。


「……ふう、なんとか乗り切ったかあ」

レンは、そっと胸をなで下ろしました。フラップの尻ぬぐいも大変です。

「本当に助かりましたよ、レンくん」
フラップが、バッグの口からにょきっと顔を出しました。

「これにこりたら、もう二度と、軽はずみなマネはしないこと。いいね?」

「はい、肝にめいじておきます。ところでレンくんは、言葉の達人ですか?」

「へ?」レンはポカンとしました。

「だって、あの状況であんなことを言えるなんて、ただ者じゃないでしょう?」

「た、たまたまだし!   なんとなーく、頭に浮かんだっていうか。
とりあえず、帰ったらみっちり対策会議しなきゃ。同じこと起きないようにね」

「はぁい、対策会議します……」フラップはしょんぼり。

「まあ、でも」レンは、にこっとして言いました。
「キミのこと、少し分かった気がするよ。とっても優しいんだってことがね」

「ぼくこそ、レンくんのこと、よく分かりましたよ。
ぼくだけでなく、他のヒトにも親切なんですね。抱きしめたいくらいです!」


 
ふっふっふ……。

レンのバッグの中、
フラップとは反対側のスペースにうずまった白ネズミが、怪しく笑いました。

(やはり、わしの目に狂いはなかった!)
 
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