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第一章『姿の見えない竜』

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「探したんだよ、ハルトくん!  

探し物があるからって山のほうへ行ったきり戻らないから、

あたし心配しちゃったよ」


草木をかき分けながらひょっこり現れたのは、同じ班のひとり、アカネだった。

彼女はハルトのことを指さし、かなりご立腹の様子だ。


「ごめん、ごめん。これから戻ろうと思ってたところなんだ」

「もう、大人たちにばれたら、怒られちゃうよ。

こんな危ないところにいて、うっかり崖から落ちたら、話にならないでしょ!」


アカネは、ハルトよりひとつ年上の六年生だ。

だから、ハルトをこうも頭ごなしに叱るのは、当然のことだった。


「ここで何してたわけ?  探し物は見つかったの?」

「いや、その……そういうわけじゃないんだけどさ」

「ケントたちも心配してるよ。

このあとも、大人たちがお楽しみの時間を用意してくれてるんだしさ。

どうするの、たったひとりで熊とか、山姥とかに襲われたら」


いや、熊は分かるけど山姥って……。

ハルトがのどに言葉をつっかえさせている間に、

また雑木林のなかから子どもが出てきた。


「ああっ、やーっと見つけた!  こんなとこにいたのかよ」

「ふう、探したよハルトくん」


今度はふたりだ。ケントとタスク。ふたりともアカネとおなじ六年生の男子だ。

ケントは元気のよさが自慢の男子で、

タスクは大人のような落ち着きのある男子だった。


「あれ、ふたりも来たの?  あたしだけで十分だって言ったのに」

「だってさー、気になるじゃん。ハルトがなんの探し物しているのかさ」

「にしても、ここが例の写真が撮られた崖かあ。

ハルトくん、もしかして竜の写真を撮りにきたの?」


タスクの質問に、ハルトは思わず目を丸くして、聞き返した。


「あのサイトに載っていた竜の写真のことを、知ってるの?」

「タスクだけじゃなくて、おれたちみんな知ってるぜ。ちょっとした話題だもんな」
と、ケントが答えた。


「まあ、ぼくら四人が参加したのは、べつに写真を撮るためじゃないんだけどね」

「え、どういうこと?」


ハルトが眉をひそめて聞き返した時だった。

また雑木林からひとりの男の子が出てきた。


「はあ、はあ……みんな、ぼくを置いてかないでくださいよ。

山道は苦手なんですから」


眼鏡をかけたこの少年は、トキオといった。

礼儀正しいしゃべり方だが、ひょろりとした背格好が今にも取って食われそうで、

軽く手で押したら簡単に倒れそうな子だ。

彼も六年生だが、小柄な見た目から三年生くらいに間違われることもあるようだ。


「おお、トキオじゃん。お前、無理してついてくるなっていったのに」

「だ、だってケントくん、

四人の中でぼくだけ置いてけぼりなの、嫌だったんですよう」

「でもトキオ、あんたスズカちゃんをひとりキャンプ場に残してくるなんて、

そっちのほうが男の子としてはずかしいでしょ!」

「だ、大丈夫ですよ。

あそこにはほかの子たちや大人たちがいますし……ところで、

ここって例の影が撮影されたっていう場所ですよね?」


やっぱり、トキオも例の写真を知っているみたいだ。

ここは同じ班のよしみ。

ハルトは、スマホに記録したあの竜のシルエット写真を、四人にも見せた。


「ていうかお前、待ち受けにしてるのかよ。ちょーウケるな!」

「なるほど、ハルトくんはこっちの謎をおって、ここに来たわけだね」

「こっちの謎?  ほかにもこのキャンプ場に謎があるの?」

「あるよ、聞きたい?」


アカネのいたずらなまなざしに、ハルトは、もちろん!  と首を縦にふった。



「フフ……あのね、

ハルトくんは、まだこの長野の自然界に、オオカミがいると思う?」
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