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第三章『スカイランドへの旅』

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「――荷物はすべて、このキャンプ場に置いていってください。

スカイランドには、私物の持ちこみが一切できません。

くわしい理由は言えませんが、どうかご協力をお願いします。

必要な荷物は、ぼくたちオハコビ隊がすべてご用意していますよ」


寝る前に開かれた集会で、

フラップがツアー初参加者たちに、真面目そうに最後の説明会をした。

子どもたちの多くは最初、

スマホや着替えまで置いていく理由が納得いかなかったけれど、

大人たちの説得もあって、最後は全員、なんとか受け入れた。


その後、ハルトたち参加者は全員テントで寝巻に着がえ、早々に寝袋に入った。

しかし、明日からはじまる異世界への旅に期待がふくらんでしまうせいで、

どの班もなかなか寝つけず、小声でぺちゃくちゃと話しだす子があとを絶たない。


ケント班の男子テントも例外ではなかった。

とくにハルトは、

明日はどうやってスカイランドに行くのか、ケントたちにしきりに聞いていた。

ケントたちは、明日のお楽しみだ、とばかり言って、

ハルトをなだめすかせるのに心を折っていた。


「みなさん、明日はいろいろありますから、早く寝ないとだめですよ」


ハルトたちのテントの入り口から、フラップが大きな顔をつっこんできてそう言った。


「いやあ、だってハルトがさあ、明日のことを聞いてくるから……」

と、ケントが代表して答えた。


「なるほどお、しょうがないなあ。

では、オハコビ竜の甘いブレスを嗅がせてあげましょう。

これで、みーんなぐっすり眠っちゃうんです」


……ふううう~。


テントの中に、花のように甘やかなフラップの吐息が充満する。

それを嗅いだ瞬間、

ケント班の男子たちはたちまち眠気の中に意識をさらわれていった。



――そして来たる翌朝。

ツアー参加者たちは言われた通り、

着ているもの以外の手荷物をテントに預け、

大人たちに保管してもらうことになった。

ところが、その大人たちの人数が少なくなっていた。

昨夜は六人いたのが、今朝は二人しか見当たらない。

ハルトが聞いてみると、他の人たちは、

まだ暗いうちにスカイランドへ先行してしまったというのだ。


クロワキ氏や、ケント班の引率者のモニカさんも、いなくなっていた。

どうなっているのだろう。参加者はみんな奇妙に思った。


それはさておき、

スカイランドへむかう前の参加者たちの面倒は、すべて竜たちに任されていた。

子どもたちは、

右や左にも、前や後ろにもいる活気あふれた十二頭の竜たちの誘導により、

自然と軽くなっていく足取りに心を弾ませながら、また広い野原へと集まった。

空は澄みきった青。進行役のフラップは、コホンとせきばらいを一つ。


「それではみなさん。これからいよいよ、スカイランドへむかいます!

と、その前に、ぼくたちはこれから、

フライトスーツを装着いたします。見てもあんまり驚かないようにね」


フラップがにこりとすると、

竜たちはそれを合図に、手首に何かをおもむろに装着した。

ハルトは目をこらして、それが何なのかを知ろうとした。

あれは、腕時計?  リストバンド? 

――いや、タッチ画面つきの小さな端末だ。手首につけるタイプの。

たしか、ウェアラブルデバイスといっただろうか。


竜たちが端末の画面を指で上になでると、

端末から透明の空中パネルが浮かび上がり、

竜たちの顔の近くでピタリと静止した。

思いもよらぬ光景だ。いきなりだが、かっこいい!


「「「装着!!」」」


十二頭の竜たちは、その空中パネルを指でポンとタップしてみせた。

するとどうだろう。竜たちの姿が、

まばゆい虹色の光によって瞬時に取り巻かれ、見えなくなったのだ。

小さな竜巻のように逆巻く光。

ビュワァァァ!  風の音ともモーター音とも判別できない効果音。

しゅん!  光が消えた時、そこには、

先ほどまでとはすっかり様子の異なるオハコビ竜たちが立っていた。


胴体には、青と白でシンプルにデザインされた、ワンピースに似たスーツ。

顔にはいかにもハイテクそうなゴーグル。腰には大きなウエストポーチ。

なじみやすいSFアニメのような、何ともいえない出で立ちに、

子どもたちはあっけにとられるばかりだ。
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