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第三章『スカイランドへの旅』

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「さて、続いてはこちらをご覧くださあい!」


フラップがポーチから取りだしたのは、カプセル剤の形をした何かだった。

手の中に四つおさまっており、

その中からさらに何かが出てくるのかと、だれもが思った。

するとフラップは、それらを数メートルずつ間隔を開けて地面に置いていった。

彼から少し離れた場所に、別の二頭が同じようなカプセルを、

同じ間隔で設置するのも見えた。


「こっちはびっくりして結構ですよ。見ていてごらん!」


フラップが空中パネルをタップすると、

地面に置いた計十二個のカプセルが青白い光に包まれた。

かと思うと、それらは風船のごとくプクッとふくらみ、

徐々にかさ上げされるように巨大化していく。

しまいには、一つで全長四メートル以上のサイズになっていたのだ。


「すごい。まるで秘密道具みたーい!」

「不思議だあ!」

「コレなあに!?」


驚くべき科学の力を前に大はしゃぎの参加者たち。

フラップは、一台のカプセルのそばに立って説明した。


「これは、スカイトレインという乗り物です。

これで、みなさんをスカイランドへお運びいたします」


カプセル型の車両は、奇妙なことに、縦ではなく横向きにならべられていて、

上半分は清々しいガラスドームの車窓になっていた。

下半分には、なにやら穴の開いた突起物が、

中央のスライドドアをへだてて二つついている。

車両の後ろにも、同じものが二つあるようだ。


「かさばる大きさなんですが、一台につき二人乗りの快適車両。

これらが連結して四両編成、あわせて八人乗りの列車になるわけです。

……といっても、とても列車には見えないよね。

連結部はどこ?  どうやって動くの?  とか、

いろいろギモンがあると思うけど、まずはご乗車ください。

くわしくは、みなさんが乗りこんだ後に、分かりますから」


言われるままに、子どもたちは竜たちの誘導を受けながら、

二人ずつ順番に車両へと案内されていった。


トレインは全部で三編成あって、一番から三番と番号でよばれた。


ハルトとスズカは、偶然にも同じ車両に案内された。一番列車の三号車両だ。


「また二人になったね。にしても、ドキドキしてきちゃうよね!」


ハルトの気さくな言葉に、

スズカは嬉しいのか気分が悪いのか、よく分からない反応を見せた。

本当に、彼女にはどんな言葉をかければいいのやら。
 

ドアがつと上に開き、車両内に入れるようになった。

竜たちの指示で、子どもたちはゆっくりとした足どりで乗りこんでいく――。


「「「わあ!」」」


車両に足をふみ入れた瞬間、子どもたちの着ていた服が、

白く閃いたかと思うと、一瞬にして別の服装に変わっていた。

全身オレンジ色の、ふっくらした半そでウェアにズボン。

男子の両肩には青色の、女子にはピンク色のポイントカラーがついている。

着心地なめらかで、しかもひんやりして気持ちいい。

中に冷感ジェルでも入っているのだろうか?

おまけに、靴もブラウンカラーのショートブーツに変わっている。


突然のことに驚く子どもたちは、

相乗り相手と向き合いながらお互いの服を指さしたり、

あれっと自分の姿をながめたりした。


『そちらは、みなさんのためにご用意したツアー衣装です』


車両内にフラップの声が広がった。

どこかにスピーカーが内蔵されているようだ。


『みなさんのお洋服やお靴は、

帰る時まで、われわれオハコビ隊のほうで大事に保管させていただきます。

あ、心配しなくても大丈夫。悪いようにはしませんので』


いっぽう、車両内はさほど狭くはなく、気持ちよくすごせそうだった。

というのも、床の様子が、超ハイテクマシンを思わせるほど真っ白で、

つやつやにコーティングされているのだ。

まさに未来的な内装だ。床のそこここに走る青い光線もかっこいい。


四角い土台にのったシートが、たがいに広くスペースを開けた状態で、

むかい合わせに設置されている。

それらのシートには、ショルダーベルトや、

前から引き倒してお腹を固定する安全バーが搭載してある。

なんとも徹底した安全対策だ。


「いくらなんでも、すごいよね……」


ハルトとスズカは、互いの顔を見るという不思議な状態で座席に着いた。

しかし、ああなるほど、

これはかなりゆったりしていて、包みこまれるような座り心地――。

と、ふたりの目の前に、空中モニターがぱっと現れ、

そこに指示画面が映し出された。


『スカイトレインへ、ようこそ!  席に着きましたら、まず、

背もたれのショルダーベルトを、ランドセルのように背負いましょう』


なんと、音声ガイドつきだった。

ヘッドレストのそばのスピーカーから出ている。

ふたりはあぜんとしつつも、

温かみのある指示音声にしたがい、ベルトを背負った。


『それから、付属の黄色いヒモを下へ引っ張って、上半身を固定しましょう。

――はい、オーケー!  おふたりとも、バッチリ装着できましたね』


子どもをやる気にさせる快活な口調で、音声ガイドは続けた。


『続きまして、前の安全バーとクッションが、

自動である程度倒れてきます――。

最後はご自身で、カチャッと音が鳴るまでお腹へ引きよせてください。

――オーケー!  セッティング完了できましたね。

飛行中は、安全クッションについている取っ手に、

両手でしっかりとおつかまりくださいね。

それでは、牽引係の案内があるまで、そのままでお待ちください。

以上、カスタマーシート・ガイダンス・サービスでした。

ご協力、ありがとうございます!』


音声ガイドはそこまでだった。

そのかわり、車内にポップでリズムカルな音楽が流れ出す。

どうやらすべて、子どもを退屈させないための配慮のようだ。

おまけに、ヘッドレストが枕みたいにふかふかしているし、

このまま眠れるのではないだろうか。
 

車両の外には、竜たちが乗客たちの状態を見るために、

窓のむこうから子どもたちをのぞきこんだり、手を振ったりしていた。

思えば、竜たちはずいぶん団結した動きをしている。

彼らがれっきとした組織を組んでいるのだと、ハルトはやっと合点がいった。


「それにしてもさ、どうやってこの乗り物が動くんだろう。

どう思う、スズカちゃ……あ、あれ?」


スズカは、魂がぬけたみたいに上の空で、何も答えられなかった。

まだ彼女の脳内で、ここまでの目まぐるしい変化が整理できていないのだ。
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