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第十三章『虹色の翼と赤き超新星(スーパールーキー)』
3-Ⅱ
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その一言に、ツアー参加者たちがさらにざわついた。
無論、フラップたちも雷に撃たれたように驚愕していた。
しかしモニカさんは事前に聞いていたようで、冷静にしていた。
フーゴは映像を切ると、再びフラップたちにむかって話した。
「黒影竜とはかつて、われわれオハコビ竜の始祖が誕生して間もない時代、
繁殖期の段階において、遺伝子の偶発的な変異によって発生した、
いわゆる希少種であったそうだ。その身は黒い体毛におおわれ、
通常のオハコビ竜とは比べものにならないほど強靭な存在になるとのこと。
くわしいことはまだまだ研究段階だが、
ガオルがわれわれと同じ力も有しているのだとしたら、
やつを攻略する糸口は必ずあるはずだ」
オハコビ隊も、今回の一件がなければ目をむけることもなかっただろう。
正体不明だった黒影竜という存在が、驚くべき形で解明されたことに、
ハルトも複雑な心境を抱いていた。
「ガオルがみんなと同じだってこと、ぼくもなんとなく思ってました」
ハルトは手を上げていた。
「ぼく、いろんな竜の姿をよく見て覚えるのが得意なんです。
あいつ……姿形がみんなに似てるなって、ただそう思ったからですけど」
「おお、ハルト様はすでに感づいてらっしゃったのですね」
と、フーゴが感心したように言った。
「でもな、ハルトくん。
じつは俺たちも、そうなんじゃないかなって思ってたのさ」
「な~んか匂うなって思ってたケド、やっぱりそーだったかーってカンジ。ねー?」
フレッドとフリッタがそう言った。
すると、まわりの十頭もコクコクとうなずいた。
「もっとも有力な裏づけになったのはね――」
今度はモニカさんが、ハルトのそばに来て話しだした。
「タワー内の監視カメラがとらえていた、
ガオルがスズカちゃんを眠らせる時に吐いた、桃色に輝くブレス。
あれは、オハコビ竜にしか使えない特殊な《催眠ブレス》なの。
どんな竜でも訓練すれば使えるようなブレスじゃない。
それは、オハコビ隊の長年の研究によって証明されてる。
ちなみにその映像でも、ガオルは仮面をはずしていたの。
ハルトくんも見たはずだよ」
「じゃあ、フレッドたちは、自分たちの仲間と戦うってことになりませんか?」
トキオが気づかわしげにオハコビ竜たちに聞いた。
オハコビ竜たちのあいだに沈黙がただよった。返答に困っているようだ。
「……これが事実なら、われわれはガオルとの戦いは避けたく思います」
フーゴがようやく口を開いた。
「同族を傷つけあうことは、オハコビ竜にとってはとても悲しいこと。
しかし、われわれがガオルとの戦いにのぞまなくてはならない理由は、
スズカ様のためだけではないのです。
じつを言うと……クロワキ主任も行方不明なのです」
クロワキさんもいないだって?
「対策本部の考えでは、ターミナル襲撃のどさくさに紛れて、
何者かがガオルのもとに連れ去ったということです。
主任が拉致された理由は定かではありませんが、おそらくガオルが、
クロワキ主任の技術力を使い、何かよからぬことを企んでいる可能性が高い……」
「俺たち、ハルトくんがベッドで休んでもらっている間」
フレッドがくたびれたように首をふりながら言った。
「ずっとターミナルを捜索していたんだ。
だけど、主任の影も形もなかったってオチさ」
「だ・か・ら。クロワキ主任の部下であるアタシたちが、
なーんとしてでもあいつから二人を奪還しなくちゃいけない……
そうですよネ、総官?」
「その通りだ、フリッタ。これは深刻な事態だ。
オハコビ隊の技術が、外部で悪用されてしまう」
フーゴが大真面目な声で答えた。
「さらに、スズカ様の安否もまったく分からない。
とはいえ、どんな竜でも人間を食い殺すためだけに、
わざわざここまで横暴を働くことはしない……この事件、何か裏があるはずだ。
だから、スズカ様はきっと必ず生きていらっしゃる!」
フーゴは、フラップの顔をまっすぐに見て、こう言った。
「フラップ。キミには、
ここにいるキミの仲間たちを指揮する、部隊長をまかせたい」
「えっ、えっ、ぼくがです? いやあ、急に言われましても――」
「何を弱気なことを言うんだ。
キミは、ツアーの引率リーダーだって、快く引き受けたそうじゃないか。
それにキミは、わたしの旧友であるフレドリクソン……
父ゆずりの卓越した戦闘能力を持っている。
戦場で彼らを指揮するリーダーとして、キミ以上の適任はいない」
フーゴは、フラップのそばへ歩いていき、その肩にそっと右手をのせた。
「頼むよ。もしもガオルと交戦せざるを得なくなった時は、
キミがガオルの戦闘能力に対抗しうる、唯一の戦士になるかもしれないのだから」
フラップは、おだやかな顔をやや引きつらせていた。
「あー、やっぱりそれが第一理由ですね……
ぼくからしてみれば、フーゴ総官のほうがよっぽど対抗できると思うのですが」
「いいや。わたしでは、ガオルの変化した空戦能力には対抗できない。
わたしが期待をよせられるのは、若きキミの潜在能力だけだ……
《赤き超新星》のフラップ」
フラップがなんだかよく知らない強さを秘めていることも、
フラップたちが秘密の特殊戦闘部隊だったということも、
はっきり言って今のハルトにはどうでもよかった。
それよりも、はっきりしてほしいことがある。
「フーゴさん。ぼくたちは……ツアーの参加者はどうなるの?」
それを聞いたとたん、フーゴと、フラップたちの顔色が変わった。
それまでかすかに聞こえていた他の参加者たちのひそひそ声も、ぴたりと止んだ。
フーゴが、子どもたちのほうに重たい足取りで歩みよってきた。
「……そのことについても、対策本部より連絡事項を預かっておりまして」
この時フーゴの顔が、ここ一番に言いにくそうな重苦しい表情をしたのを、
子どもたちは嫌な予感に心臓を鼓動させながらじっと見ていた。
「今回の重大トラブルを受けて、今年のスカイランドツアーは中止。
皆さんはこの後すぐに、飛行可能なスカイトレインで、
地上界へお帰りいただきます……」
無論、フラップたちも雷に撃たれたように驚愕していた。
しかしモニカさんは事前に聞いていたようで、冷静にしていた。
フーゴは映像を切ると、再びフラップたちにむかって話した。
「黒影竜とはかつて、われわれオハコビ竜の始祖が誕生して間もない時代、
繁殖期の段階において、遺伝子の偶発的な変異によって発生した、
いわゆる希少種であったそうだ。その身は黒い体毛におおわれ、
通常のオハコビ竜とは比べものにならないほど強靭な存在になるとのこと。
くわしいことはまだまだ研究段階だが、
ガオルがわれわれと同じ力も有しているのだとしたら、
やつを攻略する糸口は必ずあるはずだ」
オハコビ隊も、今回の一件がなければ目をむけることもなかっただろう。
正体不明だった黒影竜という存在が、驚くべき形で解明されたことに、
ハルトも複雑な心境を抱いていた。
「ガオルがみんなと同じだってこと、ぼくもなんとなく思ってました」
ハルトは手を上げていた。
「ぼく、いろんな竜の姿をよく見て覚えるのが得意なんです。
あいつ……姿形がみんなに似てるなって、ただそう思ったからですけど」
「おお、ハルト様はすでに感づいてらっしゃったのですね」
と、フーゴが感心したように言った。
「でもな、ハルトくん。
じつは俺たちも、そうなんじゃないかなって思ってたのさ」
「な~んか匂うなって思ってたケド、やっぱりそーだったかーってカンジ。ねー?」
フレッドとフリッタがそう言った。
すると、まわりの十頭もコクコクとうなずいた。
「もっとも有力な裏づけになったのはね――」
今度はモニカさんが、ハルトのそばに来て話しだした。
「タワー内の監視カメラがとらえていた、
ガオルがスズカちゃんを眠らせる時に吐いた、桃色に輝くブレス。
あれは、オハコビ竜にしか使えない特殊な《催眠ブレス》なの。
どんな竜でも訓練すれば使えるようなブレスじゃない。
それは、オハコビ隊の長年の研究によって証明されてる。
ちなみにその映像でも、ガオルは仮面をはずしていたの。
ハルトくんも見たはずだよ」
「じゃあ、フレッドたちは、自分たちの仲間と戦うってことになりませんか?」
トキオが気づかわしげにオハコビ竜たちに聞いた。
オハコビ竜たちのあいだに沈黙がただよった。返答に困っているようだ。
「……これが事実なら、われわれはガオルとの戦いは避けたく思います」
フーゴがようやく口を開いた。
「同族を傷つけあうことは、オハコビ竜にとってはとても悲しいこと。
しかし、われわれがガオルとの戦いにのぞまなくてはならない理由は、
スズカ様のためだけではないのです。
じつを言うと……クロワキ主任も行方不明なのです」
クロワキさんもいないだって?
「対策本部の考えでは、ターミナル襲撃のどさくさに紛れて、
何者かがガオルのもとに連れ去ったということです。
主任が拉致された理由は定かではありませんが、おそらくガオルが、
クロワキ主任の技術力を使い、何かよからぬことを企んでいる可能性が高い……」
「俺たち、ハルトくんがベッドで休んでもらっている間」
フレッドがくたびれたように首をふりながら言った。
「ずっとターミナルを捜索していたんだ。
だけど、主任の影も形もなかったってオチさ」
「だ・か・ら。クロワキ主任の部下であるアタシたちが、
なーんとしてでもあいつから二人を奪還しなくちゃいけない……
そうですよネ、総官?」
「その通りだ、フリッタ。これは深刻な事態だ。
オハコビ隊の技術が、外部で悪用されてしまう」
フーゴが大真面目な声で答えた。
「さらに、スズカ様の安否もまったく分からない。
とはいえ、どんな竜でも人間を食い殺すためだけに、
わざわざここまで横暴を働くことはしない……この事件、何か裏があるはずだ。
だから、スズカ様はきっと必ず生きていらっしゃる!」
フーゴは、フラップの顔をまっすぐに見て、こう言った。
「フラップ。キミには、
ここにいるキミの仲間たちを指揮する、部隊長をまかせたい」
「えっ、えっ、ぼくがです? いやあ、急に言われましても――」
「何を弱気なことを言うんだ。
キミは、ツアーの引率リーダーだって、快く引き受けたそうじゃないか。
それにキミは、わたしの旧友であるフレドリクソン……
父ゆずりの卓越した戦闘能力を持っている。
戦場で彼らを指揮するリーダーとして、キミ以上の適任はいない」
フーゴは、フラップのそばへ歩いていき、その肩にそっと右手をのせた。
「頼むよ。もしもガオルと交戦せざるを得なくなった時は、
キミがガオルの戦闘能力に対抗しうる、唯一の戦士になるかもしれないのだから」
フラップは、おだやかな顔をやや引きつらせていた。
「あー、やっぱりそれが第一理由ですね……
ぼくからしてみれば、フーゴ総官のほうがよっぽど対抗できると思うのですが」
「いいや。わたしでは、ガオルの変化した空戦能力には対抗できない。
わたしが期待をよせられるのは、若きキミの潜在能力だけだ……
《赤き超新星》のフラップ」
フラップがなんだかよく知らない強さを秘めていることも、
フラップたちが秘密の特殊戦闘部隊だったということも、
はっきり言って今のハルトにはどうでもよかった。
それよりも、はっきりしてほしいことがある。
「フーゴさん。ぼくたちは……ツアーの参加者はどうなるの?」
それを聞いたとたん、フーゴと、フラップたちの顔色が変わった。
それまでかすかに聞こえていた他の参加者たちのひそひそ声も、ぴたりと止んだ。
フーゴが、子どもたちのほうに重たい足取りで歩みよってきた。
「……そのことについても、対策本部より連絡事項を預かっておりまして」
この時フーゴの顔が、ここ一番に言いにくそうな重苦しい表情をしたのを、
子どもたちは嫌な予感に心臓を鼓動させながらじっと見ていた。
「今回の重大トラブルを受けて、今年のスカイランドツアーは中止。
皆さんはこの後すぐに、飛行可能なスカイトレインで、
地上界へお帰りいただきます……」
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