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第十七章『本当の自分へ』

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「真打ちィ?」

ケントが頭をひねった。


「ねえ、キミはだれ?」


と、ハルトは小さなオハコビ竜に聞いた。

今目の前にいる相手が、どうしてもフラップたちのような成獣には見えなかった。


「むむ?  わしのことが気になるかの?」


小さいオハコビ竜は、ハルトの目と鼻の先まで近づいてきた。

頭のてっぺんからつま先まで、じつに三十センチ程度の大きさしかない。


「気持ちは分かるぞ。でも、今は詮索無用じゃ、少年」


「少年……」

ハルトは思わず口答えしそうになった。


「あのう、このヒトたち……キミがやったんですか?」

倒れたビケットたちを指さしながら、トキオが半信半疑でたずねた。


「無論じゃ。他にだれがおる?」

と、小さなオハコビ竜は事もなげに答えた。


「まったく、

おぬしたちをこんな危険にさらした愚か者は、いったいどこのどいつじゃ?

今すぐ見つけ出して、とっちめてやりたいところじゃが……

ふう、ここは辛抱せねば。今は他に優先すべきことがある」


子どもたちよ!  小さなオハコビ竜は、フーゴのように厳格な口調で言った。


「どうやらおぬしたちは、なかなかに勇敢な者たちと見える。

そんな者たちが、友人のためにありったけの勇気をふりしぼり、

無理も無茶も押し通す意欲でもってのぞむ姿を、わしは心から愛おしく思う。

たとえそれが人であってもじゃ」


「あのさー、チビ助。何が言いたいワケ?」

と、ケントが横柄な態度で聞いた。


「コレ!  チビ助とはなんじゃ、チビ助とは!」


小さなオハコビ竜は、片手をふりふり憤慨した。なんとも愛らしいしぐさだ。


「助太刀すると言っておるんじゃ!

本件については、わしもとある伝手を通じて、バッチリ把握しておるからの。

――ハルトよ。おぬし、スズカを助けたいのじゃろう?」


「あ、はい!」


「なら、わしについてまいれ!

この中でもっともスズカに近しいおぬしなら、彼女を助ける手がかりになりうる。

他の四人も来るのじゃ。遅れるでないぞ。それ、駆け足!」


小さなオハコビ竜は、それだけ言うと、颯爽と曲がり角の先へと飛び去っていった。


だれがこんな展開を予想できただろうか。

ハルトは、どうしてあの白いオハコビ竜に敬語を使ってしまったのか、

自分でも分からなかった。まるでとんちんかんにかられたみたいに、

他の四人とともに彼の小さな後ろ姿を呆然と見つめていた。


子どもらしい見た目に、なんともそぐわない年寄りじみた口調。

颯のように現れて、くわしい自己紹介もまるでなし。

強いのか、弱いのかも見当がつかない。こんな切羽詰まった状況の中で、

子どもたちに力を貸そうとしている小さなオハコビ竜は、いったい何者なのか。


「どうします?」

トキオが聞いた。


「あいつさー、ゼッタイ怪しーって」


ケントは完全に疑ってかかっていた。


「でも、ぼくとスズカちゃんのことをよく知ってるふうだったし。

オハコビ隊に関わりがあるんじゃないかな?」

と、ハルトは推測した。


「同感。どう考えても味方だよ、ケントくん」

と、タスクが言った。

「というか、そうであることを望むしかないね」


「むこうが俺らをだます気だったら、バレーボールみたいにぶっ飛ばしてやる」


この、この!  と、ケントはスパイクを決めるような動きをした。


「ケントくんソレ、だいぶヒドイやつです……」

と、トキオがあきれ顔をした。


「はーやーくーせぬかぁー!!」


子どもたちはぎょっとした。

いつの間にやら、あの小さなオハコビ竜が子どもたちの近くに戻っていた。


どうやら、この小さな珍客に逆らうべきではないらしい。

子どもたちはわけも分からないまま、大人しくそのあとを走って追っていった。
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