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第十八章『光と影の決着』

3-Ⅰ

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鮮やかな月の光のもと、フーゴ率いる警備部が城に到着した。


だれもが火傷や切り傷をその身に負い、

黒色の勇ましいプロテクターに大小さまざまなヒビを入れていた。

中でもフーゴが受けた傷はかなりひどく、彼は敵の長の攻撃によって、

眉間に斜めまっすぐなひっかき傷を負っていた……

とはいえ、竜の傷の治りはとても素早い。

部下たちの傷も、フーゴの顔の傷も、すでにかさぶたになって塞がっていた。

しかし、火傷だけは別だった。


警備部の要請で、救援部のオハコビ竜たちがすでに何十頭もかけつけていた。

戦った者たちはみな的確な火傷治療を受けたあと、

患部に白い傷パッドをぺたぺたと貼りつけられていた。


安堵と不安、歓喜と落胆――さまざまな声が地上といわず空中といわず行き交い、

数時間前まで陰気に包まれていたガオルの古城は、

今や何百頭というオハコビ隊員たちの活力に包まれていた。


互いの戦果をたたえ合って肩を抱き合う者、

敵にやられて雲海に落下した戦友の行方を案じる者、

最後まで残った戦友を探しまわる者、

上官に現在の状況をくわしく報告する者。


けれど、もっともにぎやかだったのが、フラップの大勝利を祝福する声だった。


というのも、モニカさんの連絡を受けて、戦いの衝撃で気絶した子どもたちを

守っていた他の虹色の翼のメンバーが戻ってきたためだ。

フリーダをはじめとした九頭が

――みんな各自のエッグポッドに子どもたちを入れたままだった――

フラップを取り囲みながら大声でほめそやすので、

数十頭もの警備部員たちがつられて称賛の声を加えたのだ。


「フラップ、お前ってホントにすごいやつなんだな!」

「あなたほどにやれる隊員なんて、そうざらにはいないわよ!」

「今年のベスト功労賞は、キミで間違いなしだぜ!」


フラップは、警備部にガオルの護送をまかせたばかりで、

早く会いたい子どもたちがいた。

まわりのみんなは、フラップがガオルに勝ったという事実に気を取られ、

自分たちが何のためにここまで来たのか忘れている様子だった。

会いたい子たちがいる、と伝えると、

みんなはすぐに納得して、フラップに道を開けてくれた。


一目散に城の正面口の前に飛んでいくと、

六人の子どもたちがフレッドとクロワキ氏とともに待っていた。

ハルトとスズカの姿も、たしかにそこにあった。


「『フラップ!』」


ハルトとスズカは、

フラップが正面口前に降りて来るやいなや、同時にその胸に抱きついた。

フラップは二人の小さな体を、両腕の中にしっかりと包みこんだ。

至福の時間だった……二人と一頭は、

まるで何日も長らく離れ離れにされていたかのように、

互いの体の温もりをじっと確かめ合っていた。


「よかった……よかったです、スズカさぁん……!」


フラップは、涙ぐみながら安堵の言葉をもらした。


『――傷だらけだよ。顔も、腕も、脚も……』


フラップの腕から解放された時、

スズカが彼の体じゅうを心配そうに見回しながら、そう伝えた。


「大丈夫だよ、スズカちゃん」


ケント、タスク、アカネ、トキオの四人とともに、

フラップたちを微笑ましそうに見守っていたフレッドが、優しく声をかけた。


「ターミナルで治療を受ければ、

かさぶたも痕も残らないくらいに回復するからさ。なあ、フラッ……あ」


おえつするフラップの顔を見たとたん、

フレッドは、「こりゃまずい」という表情になった。そして、次の瞬間――。


「うわあああぁあぁぁああぁぁああん!!」


ハルトとスズカをまた両腕に抱きこみながら、

フラップが耳をろうする大声で大泣きしてしまった。

ボロボロと頬を伝う彼の涙に、いつの間にかまわりに集まっていた

九頭の虹色の翼のメンバーたちも、次々にもらい泣きしだした。

フラップのように大声で泣くメンバーもあれば、

犬の遠吠えのように声高らかに泣くメンバーも……


どうやらオハコビ竜は、大切な仲間の涙に感応しやすい生き物のようだった。


「フラップ、ぐるじっ、ぐるじいっでば……!」


大号泣の合唱の中、ハルトはフラップの両腕にきつく抱きしめられるあまり、

何度も繰り返し解放を求めた。

けれど、フリーダとフレッチェルが泣き腫らしながらフォローに入るまで、

フラップが二人を解放することはなかった。

この直後、フラップが涙をぬぐいながら語ったことには、

どうやらガオルの前で我慢していたものが、

今になっておさえきれずに爆発してしまったということだった。


フラップはハルトにたいして、何度も何度も感謝の言葉を伝えていた。

ハルトは、スズカを助けることができたのは、

あの小さなオハコビ竜のおかげだと答えたが、

肝心のあの子の姿は今、どこにもなかった。


気絶状態から回復した十八人の子どもたちが、

ポッドの中から一時的に解放された。

そして、たちまち全員でハルトとスズカを取り囲み、

彼女の無事をみんなで元気よく祝福した。

さほど広くもない城の正面口のスペースは、

二十四人の子どもたちと、十一頭のオハコビ竜たちによって、

お祭り会場のようにいっぱいいっぱいになってしまった。


思いもよらない温かい笑顔に囲まれたスズカは、最初こそ顔面が蒼白しかけた。

けれど、ハルトと、そしてアカネが率先してスズカの両手をそれぞれにぎった。

二人とも手袋だったとはいえ、

そこから伝わってくる思いは、「大丈夫だよ」という声よりも雄弁だった。


『みんな……ありがとね』


スズカは心臓を高鳴らせながら、大勢にむかって笑顔でそう伝えた。
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