隣の席のオッドアイギャルは俺の心の声が聞こえるらしい

夕凪けい

文字の大きさ
25 / 124

第25話 推しがうちに泊まった朝、俺の理性は限界突破した。

しおりを挟む
キッチンからふわっと香る、あたたかい朝の匂い。
 ゆういちはダイニングに座る安城を見て、思わず息を呑んだ。
 白いワンピースが朝の光をふんわり受けて、まるで絵本から抜け出してきたみたいだった。

(……やっぱ、似合いすぎだろ)

 自然と口が動いていた。

「……おはよう、安城。そのワンピース……すげぇ似合ってるよ」

 少し照れながら、頬をかいて言うと――

「ありがとう。私も気に入ってるわ。……男の子からプレゼントなんて、生まれてはじめてよ」

 いつも通りのクールな表情のまま、安城はさらりと答えた。

 その瞬間、ゆういちの脳内でレベルアップ音が鳴り響く。

(な、なにこの満足感……!? 推しに喜んでもらえるって、こんなに尊いのか!?)

(今ので俺の人間レベル、1から99まで一気に上がったわ……!)

「……って、どんだけレベル上がってんのよ」

 無表情のまま、パンをかじる安城が即ツッコミ。

「てか、元のレベル低すぎでしょ」

 さらに――

「そうよ!お兄ちゃんはもっと高いよ!……6から99くらいよ!」

 笑顔でフォローを入れてくる妹・姫花。だが、それはフォローではなく、ただの追い打ちだった。

「フォローしてんのかトドメ刺しにきてんのか、どっちかにしてくれないか?」

 ゆういちは軽く頭を抱えながら、姫花の「えへへー」に敗北を悟った。

 食事も終わり、安城が立ち上がる。

「……もう帰るのか?」

「ええ。朝ごはんまでご馳走になって……本当にありがとう」

そう言って、玄関でふっと微笑む安城は、
まるで“夢の続き”が目の前に立っているようだった。

ドアが閉まり、リビングに残されたのはゆういちと姫花のふたり。

 その姫花が、ふとスプーンを置いて声を上げた。

「安城さん~、お料理教えてくれてありがとう! めっちゃ勉強になったよ!」

「ふふ、どういたしまして」

「また何かあったら、“LINE”するね?」

 
 ――カチン。

 ゆういちの箸がピタリと止まった。

(……LINEだと?)

(ま、待てよ……俺、安城のLINE知らないぞ!?)

 思わず漏れた心の声。

「……LINEだと?」

 つぶやくゆういちに、姫花はきょとんとし、
 安城は、コーヒーを飲みながら、心の中で静かに返す。

(聞かれてないからよ……)

(…こうなったら姫花に後でこっそり教えてもらうか)

悶々としながら、箸が再び動き始めた、その瞬間――

「そうそう、姫花ちゃん」

 安城がさらりと言った。

「私のLINE、あまり他の人に教えたりしないでね?」

 ――カチン。

 またしても、箸が止まる。

(……け、牽制!? 今の、牽制!?)

(俺の心、読まれてるのか……? いや、まさか……いやでも……)

 心の中で混乱が爆発しかけたそのとき。
 ゆういちは、ひとつの覚悟を決めた。

(……もう、自分で聞くしかない)

(でもあの安城が相手だ。「え? なんで?」とか、冷たく返される可能性が……)

 想像だけで胃が痛い。

(だけど! 推しと! LINEしたいっ!!)

 意を決して、彼は言った。

「……あのさ、安城。俺とも……LINE、交換してくれないか?」

 一瞬の沈黙――そして、

「ええ、いいわよ」

 即答だった。

「……え、あ、ありがとう!」

 目を泳がせつつ、なんとか交換完了。

(これが……“推しとLINE”の感触……ッ!)

 心の中でガッツポーズを決めるゆういち。

 「じゃあ、そろそろ帰るわね。朝から、ありがとう」

 手を振って去っていく安城の背中が、
 今朝見た夢よりも、現実の方が甘いことを教えてくれる。

 その日の夜。

 ゆういちは、何度も文章を打っては消してを繰り返し、ようやく一通のLINEを安城に送った。

『今日はありがとう。ワンピース、ほんとに似合ってた』

 ……送信完了。

 画面の「既読」の表示を、祈るような気持ちで見つめ続ける。

 ――そして。

 表示は、変わった。

 既読。

 ……だけど、それっきりだった。

(……あれ?)

静かに、心の中で崩れ落ちるゆういち。

(今朝のあの空気、夢じゃなかったよな? なあ、そうだよな?)

だが、返事はこない。

スマホを伏せて、ベッドにダイブ。

「……推し活って、こんなに……心臓に悪かったっけ……?」

 その夜、ゆういちは眠れなかった――。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

清掃員と僕の密やかな情状

MisakiNonagase
恋愛
都心のオフィスビルで働く会社員の26歳・高城蓮(たかぎれん)。彼の無機質な日常に唯一の彩りを与えていたのは、夕方から現れる70歳の清掃員・山科和子だった。 青い作業服に身を包み、黙々と床を磨く彼女を、蓮は「気さくなおばあちゃん」だと思っていた。あの日、立ち飲み屋で私服姿の彼女と再会するまでは――。 肉じゃがの甘い湯気、溶けゆく氷の音、そして重ねた肌の温もり。 44歳の年齢差を超え、孤独を分かち合った二人が辿り着いた「愛の形」とは。これは、一人の青年が境界線の向こう側で教わった、残酷なまでに美しい人生の記録。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...