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第47話 拝啓、未来の旦那様へ──“推しの初めて”をいただきました。
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「ねぇ……早く入れてくれないかしら?」
ドアの向こうから、どこかそっけない――けれど、ほんのりと赤く染まった顔の安城が、じれったそうに俺を見上げていた。
「え? ど、どうしたんだよ、安城……?」
まるで予期せぬ訪問に、俺は言葉を失う。
すると安城は、少し目を逸らして小さくため息をついた。
「……姫花ちゃんから連絡が来たの。“今日から林間学校だから、お兄ちゃん絶対カップ麺で済ますと思うんです。安城さん、お世話してあげてください”って。」
「お世話って……俺はペットか何かかよ……」
思わずツッコミそうになったが――
次の瞬間には、俺の心の中に敬意が満ちていた。
(……さすが、我が妹。天才か? いや、もはや天の采配。)
この妹、できすぎて怖いレベルだ。帰ってきたらいきなり抱っこして高い高い確定だな?まぁ同時にビンタも確定されたがそこは気にしないでいよう。
「じゃ、さっそくだけど台所借りるわね」
そう言って、安城はまるで慣れたような動きでエプロンを取り出し、しなやかな所作で腰に巻きつけた。
キッチンに立つ姿が、なんか……新婚生活感出ててやばい。
俺は心臓のドキドキを抑えつつ、さりげなくクローゼットから自分用のエプロンを取り出す。
(これはあくまで戦力補充だ。戦力の均衡だ。決して“隣に並びたい”とか“夫婦ごっこ”とか、そんなやましい理由では断じて――)
「……ちょっと、あんた何してるの?」
エプロン姿の俺を見た安城の冷ややかな視線が突き刺さる。
「え? いや、俺も一応手伝おうかと思って……」
俺は安城と新婚ごっこがしたいと言う気持ちを絶対悟られないように
「え? いや、俺も一応……手伝おうかと思ってさ?」
口ではそれっぽく言ってみたけれど――
実際のところは、もっとこう、切実で、やや業が深い。
(……推しと新婚夫婦ごっこがしたい)
だって安城は――きっといつか、未来のどこかで「誰かの奥さん」になって、幸せそうにキッチンに立つのだろう。
その相手は、優しくて、頼りがいのある、ハイスペックな旦那かもしれない。
(……でもな。推しが“結婚”するって、ファンとして受け入れるべきだろ? だからせめてもの逆襲なんだよ)
俺は決意する。
(今だけは、おれが安城の“初めて”を奪ってやる――!夫婦にならんで料理する“その初体験”を、俺が、推しとして!!)
その心の声"推しの初めてを奪ってやる宣言"はもちろん横の推しにに届いている
その瞬間。
「……そう、わかったわ」
安城はちらりとこちらを一瞥すると、すっとまな板の横をあけた。
「ジャガイモ、剥いて切ってちょうだい」
「え?」
正直、拍子抜けした。
てっきり「邪魔だからあっちで待ってて」とでも言われるかと思ってたのに――。
(え、いいの? 本当に?)
驚きで動けなくなった俺に、安城がちらっと視線をよこす。
「……何よ、やらないの?」
「い、いや、今やる!」
慌ててキッチンに立ち、ジャガイモを手に取る。
隣で、安城の指が小気味よく包丁を動かしていた。
――そしてその心の声は、当然ながら、彼女に筒抜けである。
安城(心の声)
(……まったく。あんたってほんと、馬鹿正直。……でも、まぁ――)
(私も、意外だった。前の私なら、絶対に「手伝わないで」って言ってたはずなのに)
安城はそんな自分に、ほんの少しだけ驚きながら、けれどどこか、表情を緩ませていた。
(……料理って、二人でやると案外悪くないのね)
――そう。
この瞬間だけは、確かに“ふたり”で同じ時間を刻んでいた。
俺はなんとか、ジャガイモの皮むき専用器具を使って格闘しながら、無理やりそれっぽく剥き終えた。
(少しでも……少しでも推しに“料理できる男子”って思われたいんだ!)
(神田君って意外とやるじゃん――そう言わせたいっ!)
と、気合を入れて包丁を手に取る。
が――
ジャガイモは案外言うことを聞いてくれず、丸くてつるんとした表面がまな板の上で左右にゆらゆらと舞い踊る。
(ぐ……この芋、手ごわすぎるだろ……!)
その様子を見かねたのか、安城がスッと俺のすぐ横にやってくる。
「待ちなさい。こうやるのよ?」
そう言って俺の手にそっと手を添え、ナイフの持ち方を正してくる。
その瞬間――
安城の香りがふわっと鼻先をくすぐった。
甘すぎず、それでいてどこかクセになる。
クールな彼女にぴったりの、あの香り――。
俺はその匂いを追うように、いつもより深く、鼻で息を吸っていた。
意識的に……いや、むしろ無意識に、意識的に吸ってしまったのかもしれない。
そして気づいたときには、俺はもう――
“変態”という名の沼に、片足を突っ込んでいた。
(だ、ダメだ……! いい匂いすぎる。このままじゃ“かっこいい”どころか、“ただの変態”認定されてしまう……!)
包丁を持つ手がぷるぷると震える。
もう理性の限界だった。
(なに、プルプル震えてるのよ……)
(……でも、ふふ。なんか神田君って、ほんと一生懸命で可愛いわ)
(いつも私のことばっかり考えてるし……)
――その瞬間。
安城の匂いの影響かバクン、と胸が脈打った。
鼓動の高鳴りと共に、俺の瞳孔がわずかに開く。
そう、あの“能力”がまた、無意識に発動してしまったのだ。
「ふふ……神田君って、一生懸命で可愛いわ」
聞き間違いかと思った。
俺の知ってる安城は、いつもクールで、ツンと澄ました女の子。普段ならそんなこと絶対に言わない。
俺はからかってるのかと彼女の顔を見ると――
「きゃっ……!」
そこには、頬を真っ赤に染めた“デレ安城”がいた。
(……う、うそだろ……? 今の、マジで安城の本音……?)
その可愛さに、俺の理性は完全にキャパオーバー。頭が真っ白になり、その場でふらりと意識が遠のいて――俺は、ソファの上で沈没した。
* * *
「……ん?あれ?俺ジャガイモ切ってたはずなのに?なんで寝てんだ?」
目を覚ますと、夕焼け色の光が部屋を優しく照らしていた。
(……なんか、倒れる前、とんでもないものを見たような気がする)
そう思って上体を起こし、テーブルの上を見れば――
そこには、ふっくらと煮込まれた肉じゃがが湯気を立てていて。
そして、その向かい側。
「やっと起きたの? 早く食べましょう、冷めないうちに」
そう言って椅子に座っていたのは――
あの、いつも通りの、クールな安城恵梨香だった。
まるで何事もなかったかのように。
だが――
(……いや、違うだろ?。さっきのは、夢なんかじゃなかった)
(俺のこと…可愛いって言ってたよな?なんで?)
俺の心臓はまだ、さっきのドキドキを引きずっていた。
そして、きっと安城も――
ほんの少しだけ、いつもと違う“何か”を、感じていたに違いない。
(……なんで私、声に出しちゃったんだろう?)
(あんなの……自分でも、意味わからない……)
視線を落としたまま、口をつぐむ彼女。
けれど、その頬はほんのり赤く染まり、湯気に隠れているのがもったいないくらいだった。
対する俺は――
(これは、ただの夕飯なんかじゃない)
(俺と安城の、“はじめて”の食卓なんだ)
そう思うと、自然と胸が熱くなった。
俺はゆっくりとスプーンを手に取り、目の前の肉じゃがにそっと手を伸ばす。
煮込まれたジャガイモと、透き通ったタマネギ、優しい香りが鼻をくすぐる。
(拝啓、未来の安城の旦那さんへ)
(あなたがまだ知らない“初めて”、俺が先にいただきました)
(推しとの初共同作業――つまり、疑似・新婚夫婦ごっこだッ!!)
――俺は今、確かに未来の推しの旦那に勝利したのだ。胸の奥でガッツポーズを決めながら、俺はスプーンを口に運んだ。
ほんのり甘くて、でもどこかホッとする味――
それは、きっと安城の“素直”が、ほんの少しだけ溶け込んでいる味だった。
ドアの向こうから、どこかそっけない――けれど、ほんのりと赤く染まった顔の安城が、じれったそうに俺を見上げていた。
「え? ど、どうしたんだよ、安城……?」
まるで予期せぬ訪問に、俺は言葉を失う。
すると安城は、少し目を逸らして小さくため息をついた。
「……姫花ちゃんから連絡が来たの。“今日から林間学校だから、お兄ちゃん絶対カップ麺で済ますと思うんです。安城さん、お世話してあげてください”って。」
「お世話って……俺はペットか何かかよ……」
思わずツッコミそうになったが――
次の瞬間には、俺の心の中に敬意が満ちていた。
(……さすが、我が妹。天才か? いや、もはや天の采配。)
この妹、できすぎて怖いレベルだ。帰ってきたらいきなり抱っこして高い高い確定だな?まぁ同時にビンタも確定されたがそこは気にしないでいよう。
「じゃ、さっそくだけど台所借りるわね」
そう言って、安城はまるで慣れたような動きでエプロンを取り出し、しなやかな所作で腰に巻きつけた。
キッチンに立つ姿が、なんか……新婚生活感出ててやばい。
俺は心臓のドキドキを抑えつつ、さりげなくクローゼットから自分用のエプロンを取り出す。
(これはあくまで戦力補充だ。戦力の均衡だ。決して“隣に並びたい”とか“夫婦ごっこ”とか、そんなやましい理由では断じて――)
「……ちょっと、あんた何してるの?」
エプロン姿の俺を見た安城の冷ややかな視線が突き刺さる。
「え? いや、俺も一応手伝おうかと思って……」
俺は安城と新婚ごっこがしたいと言う気持ちを絶対悟られないように
「え? いや、俺も一応……手伝おうかと思ってさ?」
口ではそれっぽく言ってみたけれど――
実際のところは、もっとこう、切実で、やや業が深い。
(……推しと新婚夫婦ごっこがしたい)
だって安城は――きっといつか、未来のどこかで「誰かの奥さん」になって、幸せそうにキッチンに立つのだろう。
その相手は、優しくて、頼りがいのある、ハイスペックな旦那かもしれない。
(……でもな。推しが“結婚”するって、ファンとして受け入れるべきだろ? だからせめてもの逆襲なんだよ)
俺は決意する。
(今だけは、おれが安城の“初めて”を奪ってやる――!夫婦にならんで料理する“その初体験”を、俺が、推しとして!!)
その心の声"推しの初めてを奪ってやる宣言"はもちろん横の推しにに届いている
その瞬間。
「……そう、わかったわ」
安城はちらりとこちらを一瞥すると、すっとまな板の横をあけた。
「ジャガイモ、剥いて切ってちょうだい」
「え?」
正直、拍子抜けした。
てっきり「邪魔だからあっちで待ってて」とでも言われるかと思ってたのに――。
(え、いいの? 本当に?)
驚きで動けなくなった俺に、安城がちらっと視線をよこす。
「……何よ、やらないの?」
「い、いや、今やる!」
慌ててキッチンに立ち、ジャガイモを手に取る。
隣で、安城の指が小気味よく包丁を動かしていた。
――そしてその心の声は、当然ながら、彼女に筒抜けである。
安城(心の声)
(……まったく。あんたってほんと、馬鹿正直。……でも、まぁ――)
(私も、意外だった。前の私なら、絶対に「手伝わないで」って言ってたはずなのに)
安城はそんな自分に、ほんの少しだけ驚きながら、けれどどこか、表情を緩ませていた。
(……料理って、二人でやると案外悪くないのね)
――そう。
この瞬間だけは、確かに“ふたり”で同じ時間を刻んでいた。
俺はなんとか、ジャガイモの皮むき専用器具を使って格闘しながら、無理やりそれっぽく剥き終えた。
(少しでも……少しでも推しに“料理できる男子”って思われたいんだ!)
(神田君って意外とやるじゃん――そう言わせたいっ!)
と、気合を入れて包丁を手に取る。
が――
ジャガイモは案外言うことを聞いてくれず、丸くてつるんとした表面がまな板の上で左右にゆらゆらと舞い踊る。
(ぐ……この芋、手ごわすぎるだろ……!)
その様子を見かねたのか、安城がスッと俺のすぐ横にやってくる。
「待ちなさい。こうやるのよ?」
そう言って俺の手にそっと手を添え、ナイフの持ち方を正してくる。
その瞬間――
安城の香りがふわっと鼻先をくすぐった。
甘すぎず、それでいてどこかクセになる。
クールな彼女にぴったりの、あの香り――。
俺はその匂いを追うように、いつもより深く、鼻で息を吸っていた。
意識的に……いや、むしろ無意識に、意識的に吸ってしまったのかもしれない。
そして気づいたときには、俺はもう――
“変態”という名の沼に、片足を突っ込んでいた。
(だ、ダメだ……! いい匂いすぎる。このままじゃ“かっこいい”どころか、“ただの変態”認定されてしまう……!)
包丁を持つ手がぷるぷると震える。
もう理性の限界だった。
(なに、プルプル震えてるのよ……)
(……でも、ふふ。なんか神田君って、ほんと一生懸命で可愛いわ)
(いつも私のことばっかり考えてるし……)
――その瞬間。
安城の匂いの影響かバクン、と胸が脈打った。
鼓動の高鳴りと共に、俺の瞳孔がわずかに開く。
そう、あの“能力”がまた、無意識に発動してしまったのだ。
「ふふ……神田君って、一生懸命で可愛いわ」
聞き間違いかと思った。
俺の知ってる安城は、いつもクールで、ツンと澄ました女の子。普段ならそんなこと絶対に言わない。
俺はからかってるのかと彼女の顔を見ると――
「きゃっ……!」
そこには、頬を真っ赤に染めた“デレ安城”がいた。
(……う、うそだろ……? 今の、マジで安城の本音……?)
その可愛さに、俺の理性は完全にキャパオーバー。頭が真っ白になり、その場でふらりと意識が遠のいて――俺は、ソファの上で沈没した。
* * *
「……ん?あれ?俺ジャガイモ切ってたはずなのに?なんで寝てんだ?」
目を覚ますと、夕焼け色の光が部屋を優しく照らしていた。
(……なんか、倒れる前、とんでもないものを見たような気がする)
そう思って上体を起こし、テーブルの上を見れば――
そこには、ふっくらと煮込まれた肉じゃがが湯気を立てていて。
そして、その向かい側。
「やっと起きたの? 早く食べましょう、冷めないうちに」
そう言って椅子に座っていたのは――
あの、いつも通りの、クールな安城恵梨香だった。
まるで何事もなかったかのように。
だが――
(……いや、違うだろ?。さっきのは、夢なんかじゃなかった)
(俺のこと…可愛いって言ってたよな?なんで?)
俺の心臓はまだ、さっきのドキドキを引きずっていた。
そして、きっと安城も――
ほんの少しだけ、いつもと違う“何か”を、感じていたに違いない。
(……なんで私、声に出しちゃったんだろう?)
(あんなの……自分でも、意味わからない……)
視線を落としたまま、口をつぐむ彼女。
けれど、その頬はほんのり赤く染まり、湯気に隠れているのがもったいないくらいだった。
対する俺は――
(これは、ただの夕飯なんかじゃない)
(俺と安城の、“はじめて”の食卓なんだ)
そう思うと、自然と胸が熱くなった。
俺はゆっくりとスプーンを手に取り、目の前の肉じゃがにそっと手を伸ばす。
煮込まれたジャガイモと、透き通ったタマネギ、優しい香りが鼻をくすぐる。
(拝啓、未来の安城の旦那さんへ)
(あなたがまだ知らない“初めて”、俺が先にいただきました)
(推しとの初共同作業――つまり、疑似・新婚夫婦ごっこだッ!!)
――俺は今、確かに未来の推しの旦那に勝利したのだ。胸の奥でガッツポーズを決めながら、俺はスプーンを口に運んだ。
ほんのり甘くて、でもどこかホッとする味――
それは、きっと安城の“素直”が、ほんの少しだけ溶け込んでいる味だった。
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