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第82話 現れた初恋の亡霊――彼女の名は本郷愛理
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放課後の図書館を後にして、俺と蜂須賀は駅前のゲームセンターへ向かっていた。その途中、大所帯の集団とすれ違う。1人の女の子の周りを男達が囲んでいた。
「うわっすげえ人数……人気者も大変だな…」
(………人混みが嫌いな俺からしたらあれは普通に地獄だな)
「わわっ……すごい人もいるものですね……」
(あわわわわわ…凄くいっぱいお友達がいて羨ましいです。私なんて最近やっとお話しできる人ができたのに……)
俺たちの目に映ったのは、人混みの中心に立つ一人の少女。その隙間から、彼女がこちらを見ていた。
――その視線は、俺達に向けられていた。
「あれお兄ちゃんと蜂須賀さん……!?あのにぃにが女の子と放課後デートしてる……?」
昼休み、俺が「蜂須賀は妹みたいなもんだ」って言った言葉が、彼女の脳裏でフラッシュバックしていたとは、露知らず。
「にぃにはうちのにぃにやのに……もう知らない!!ふんだ!」
そんな妹の嫉妬に当然に気付かない俺はすっかりご機嫌で、駅前の大きなゲームセンターに到着した。
「確か、るんちゃんのコーナーは……こっちだ!」
(うわ!懐かしいな……あの時とほとんど変わってないな…)
俺は慣れた足取りで蜂須賀を案内する。
「あ、あの…か、神田君って、よくここに来るんですか……?」
「ん?あぁ…中学のとき、仲よかった友達とさ。放課後、よく遊びに来てた」
――愛理、蓮也、聖。あの頃は、ただ笑って遊んでた。そんな記憶が、ゲームセンターの音と光に溶けていく。まるで、あの時の楽しい記憶が蘇ってくるような感覚だ。
(……まさか、またここに来る日があるなんてな)
蓮也と愛理と──あの二人と縁を切ったあの日から、この場所にはもう二度と来ることはないと思っていた。失ったものの大きさに、一瞬だけ未練が込み上げる。
そんな気配を察したのか、隣の蜂須賀は口を閉ざし、そっとこちらを見つめていた。
(あわわわわ……神田くん、今……すごく辛そうな顔してました……そのお友達と何かあったんでしょうか?)
けれど、そんな沈黙もすぐに、俺の中の温かさがかき消してくれる。
(でもまあ……こうして新しい友達と来られたのは、なんか嬉しいな……過去の失ったものより今を大切にしないとな?)
「っしゃ、やるぞ蜂須賀! あっ、これだこれ!」
俺がそう叫ぶと同時に、見覚えのあるキャラが目に飛び込んできた。
「あっ!!るんちゃん……!」
蜂須賀の声がひときわ高くなる。
「……あれは、私の大好きな……ヒーロー回のるんちゃん……!」
ぬいぐるみの向こうで、蜂須賀の瞳がキラキラと輝いていた。その表情はまるで、「お願い、取ってください」と無言で訴えているようだった。
(……あかん、これは絶対取ってあげたい)
(ここでかっこいいとこ見せて、ぬいぐるみをギュッて抱きしめながら喜ぶ蜂須賀を……俺は見たいんだ!)
その瞬間――
「俺は蜂須賀の喜ぶ姿が見たい……」
ぼそっ、と口からこぼれた本音。
しかし俺自身は、その言葉が漏れたことにまったく気づいていなかった。完全モードに入っていた。狙いはUFOキャッチャーの中心。るんちゃん一直線。
そう、忘れていた。
今朝飲んだ如月製薬の“栄養剤”のせいで、俺の心の声は盛大に漏れやすくなってるってことを──。
「ぬぬぬぬぬぬぬ……!」
蜂須賀は顔を真っ赤に染め、ぷしゅーっと湯気を噴き上げていた。
(こ、これは完全に罠なのです……!
彼は“ただの善意”を装ってますが、これは──恋愛ルート突入イベントなのです!!
私のために頑張っている姿を見せつけて、誠実そうな印象を与え……そのまま私を落としにかかる作戦……!)
くるくると脳内で思考を巡らせながら、蜂須賀は必死に自分を律する。
(そうはいきませんよ……! 私は、ちょろインではないのです……!
たとえ目の前に落とし穴が掘られていようとも、私はそれに気づいているのですから、落ちるはずがないのです……!)
──そんな脳内会議が行われていることなど露知らず、俺は静かに百円玉を投入した。
「……いくぜ」
スマートに、かっこよくプレゼントする。
そう決めたのに。
(もうフツメンとは言わせない……今日から俺は女の子にクレーンでプレゼントを取ってあげるようなイケメンになるぜ?)
ガタン。
「あ、あれ?」
あっけなく、クレーンにかかっていた“るんちゃん”は落下した。まるで、この手のイケメンイベントを、神様が全力で阻止しているかのように。どうやらフツメンの俺に神様は厳しいらしい。
(……ちくしょう!!こんな時ぐらいかっこつけさせてくれよ!!神!!)
(てか、やっぱ俺、昔からこういうイケメン展開になると絶望的に上手くいかねぇんだよな?なんか成功するイメージよりも失敗して恥をかくイメージの方が脳に浮かぶというか……)
俺の脳内で言い訳をしながら、落ちた景品を見下ろしながら、思わずため息が漏れる。
(見てろよ?神?俺は諦めねぇぞ!?俺はどんな試練だろうと乗り越えて、熊のるんちゃんを蜂須賀にプレゼントしてやるからな?)
このクレーンゲームは実力でどうにかなるゲームじゃない。運がすべてだ。――つまり、これは、運ゲーだ。その運をフツメンに厳しい神様は簡単に掴ませてはくれないのだ。
――でもな、運ゲーを攻略するたったひとつの方法がある。
それは――
「……数の暴力だ…」
俺は静かに財布を取り出し、シュッと小銭を投入した。
(俺は絶対諦めないぞ……俺の野口英世が尽きるまで戦い抜く覚悟があるぞ?)
(さぁ…勝負だ神、、、お前か俺の野口英世どちらに軍配があがるのか?)
俺は更に極限の集中モードにはいる。クレーンから落ちては掴み、落ちては掴みの繰り返し。そんな努力の甲斐あってか、熊のるんちゃんの位置は確実に、もう“穴のすぐ前”まで来ている。
(イケメン? モテ男? そういう奴らなら、きっと一発で取るんだろうな)
(でもな?俺は、違う。俺は粘着質で、執念深くて、しつこいタイプなんだよ。何度だって立ち上がってやるぜ?神様よぉ?)
クレーンのアームが、ゆっくりと――ぬいぐるみの、ギリギリの縁に滑り込む。
(過程なんかどうだっていい。取れりゃそれでいいんだよ、結果がすべてだ。蜂須賀の喜ぶことが最も重要なんだ!!)
熊のるんちゃんはすぐ目の前にある。もう勝負が決まりそうだったその瞬間
――俺の脳内にアラートが鳴り響く。
(……っ!! しまった!!)
ポケットに手を入れる。財布を開く。
(くそっ、もう小銭がねぇ……!!)
震える手で財布の中を確認するが――残っていたのはお札だけ。
(ちくしょう!!英世……お前じゃだめなのか?お前はクレーンゲームに参加する権限すらないのか!?)
(こうなったらあの両替機までダッシュするしかない……俺が2階の両替機に行ってる間に他の奴らが横取りされないように…全速力で行くしかねぇ!!)
「――蜂須賀、すまねぇ! ちょっと両替してくる!!見といてくれ!!」
「ちくしょう!!俺は蜂須賀の喜ぶ顔がみたいだよぉぉぉおおお!!」
俺は例の如、呪いにより本音が漏れていた。だが今の俺は極限の集中モードのため、本音が漏れていることにさえ気づいていない。
「わ、わわっ……神田君……」
その背中を、蜂須賀はポカンと見つめる。
(私のために、こんなに一生懸命に……うぅ、こ、こんなの…………)
(……今まで私のためにこんなにも頑張ってくれた男の子なんていなかった……みんな可哀想な人を見る目で私を見ていたのに…)
頬を真っ赤に染めながら、彼女はぎゅっとスカートの裾を握る。
俺が2階の両替機に向かって走り去った。その直後だった。
圧倒的な気配を纏いし少女が、静かに歩み寄ってきた。
「にししっ♡ お嬢ちゃん、ならんでる~?」
ピンク色の髪がふわりと揺れる。
ひとりの少女が蜂須賀の前に現れた。
そのいたずらっぽい笑顔は、まるで舞台の上で観客を虜にする役者のよう。計算された無邪気さと挑発の絶妙なバランス。存在するだけで場の空気を支配する――そんな圧倒的なオーラを放っていた。
蜂須賀は息をのむ。
(す、すごい……綺麗な人です……)
だがその視線は、蜂須賀ではなく――階段を駆け上がっていった、彼の背中を追っていた。
その唇が、懐かしむように微かに動く。
(ゆういち……会いに来ちゃった♡)
――現れた初恋の亡霊。
彼女の名は、本郷愛理だった。
「うわっすげえ人数……人気者も大変だな…」
(………人混みが嫌いな俺からしたらあれは普通に地獄だな)
「わわっ……すごい人もいるものですね……」
(あわわわわわ…凄くいっぱいお友達がいて羨ましいです。私なんて最近やっとお話しできる人ができたのに……)
俺たちの目に映ったのは、人混みの中心に立つ一人の少女。その隙間から、彼女がこちらを見ていた。
――その視線は、俺達に向けられていた。
「あれお兄ちゃんと蜂須賀さん……!?あのにぃにが女の子と放課後デートしてる……?」
昼休み、俺が「蜂須賀は妹みたいなもんだ」って言った言葉が、彼女の脳裏でフラッシュバックしていたとは、露知らず。
「にぃにはうちのにぃにやのに……もう知らない!!ふんだ!」
そんな妹の嫉妬に当然に気付かない俺はすっかりご機嫌で、駅前の大きなゲームセンターに到着した。
「確か、るんちゃんのコーナーは……こっちだ!」
(うわ!懐かしいな……あの時とほとんど変わってないな…)
俺は慣れた足取りで蜂須賀を案内する。
「あ、あの…か、神田君って、よくここに来るんですか……?」
「ん?あぁ…中学のとき、仲よかった友達とさ。放課後、よく遊びに来てた」
――愛理、蓮也、聖。あの頃は、ただ笑って遊んでた。そんな記憶が、ゲームセンターの音と光に溶けていく。まるで、あの時の楽しい記憶が蘇ってくるような感覚だ。
(……まさか、またここに来る日があるなんてな)
蓮也と愛理と──あの二人と縁を切ったあの日から、この場所にはもう二度と来ることはないと思っていた。失ったものの大きさに、一瞬だけ未練が込み上げる。
そんな気配を察したのか、隣の蜂須賀は口を閉ざし、そっとこちらを見つめていた。
(あわわわわ……神田くん、今……すごく辛そうな顔してました……そのお友達と何かあったんでしょうか?)
けれど、そんな沈黙もすぐに、俺の中の温かさがかき消してくれる。
(でもまあ……こうして新しい友達と来られたのは、なんか嬉しいな……過去の失ったものより今を大切にしないとな?)
「っしゃ、やるぞ蜂須賀! あっ、これだこれ!」
俺がそう叫ぶと同時に、見覚えのあるキャラが目に飛び込んできた。
「あっ!!るんちゃん……!」
蜂須賀の声がひときわ高くなる。
「……あれは、私の大好きな……ヒーロー回のるんちゃん……!」
ぬいぐるみの向こうで、蜂須賀の瞳がキラキラと輝いていた。その表情はまるで、「お願い、取ってください」と無言で訴えているようだった。
(……あかん、これは絶対取ってあげたい)
(ここでかっこいいとこ見せて、ぬいぐるみをギュッて抱きしめながら喜ぶ蜂須賀を……俺は見たいんだ!)
その瞬間――
「俺は蜂須賀の喜ぶ姿が見たい……」
ぼそっ、と口からこぼれた本音。
しかし俺自身は、その言葉が漏れたことにまったく気づいていなかった。完全モードに入っていた。狙いはUFOキャッチャーの中心。るんちゃん一直線。
そう、忘れていた。
今朝飲んだ如月製薬の“栄養剤”のせいで、俺の心の声は盛大に漏れやすくなってるってことを──。
「ぬぬぬぬぬぬぬ……!」
蜂須賀は顔を真っ赤に染め、ぷしゅーっと湯気を噴き上げていた。
(こ、これは完全に罠なのです……!
彼は“ただの善意”を装ってますが、これは──恋愛ルート突入イベントなのです!!
私のために頑張っている姿を見せつけて、誠実そうな印象を与え……そのまま私を落としにかかる作戦……!)
くるくると脳内で思考を巡らせながら、蜂須賀は必死に自分を律する。
(そうはいきませんよ……! 私は、ちょろインではないのです……!
たとえ目の前に落とし穴が掘られていようとも、私はそれに気づいているのですから、落ちるはずがないのです……!)
──そんな脳内会議が行われていることなど露知らず、俺は静かに百円玉を投入した。
「……いくぜ」
スマートに、かっこよくプレゼントする。
そう決めたのに。
(もうフツメンとは言わせない……今日から俺は女の子にクレーンでプレゼントを取ってあげるようなイケメンになるぜ?)
ガタン。
「あ、あれ?」
あっけなく、クレーンにかかっていた“るんちゃん”は落下した。まるで、この手のイケメンイベントを、神様が全力で阻止しているかのように。どうやらフツメンの俺に神様は厳しいらしい。
(……ちくしょう!!こんな時ぐらいかっこつけさせてくれよ!!神!!)
(てか、やっぱ俺、昔からこういうイケメン展開になると絶望的に上手くいかねぇんだよな?なんか成功するイメージよりも失敗して恥をかくイメージの方が脳に浮かぶというか……)
俺の脳内で言い訳をしながら、落ちた景品を見下ろしながら、思わずため息が漏れる。
(見てろよ?神?俺は諦めねぇぞ!?俺はどんな試練だろうと乗り越えて、熊のるんちゃんを蜂須賀にプレゼントしてやるからな?)
このクレーンゲームは実力でどうにかなるゲームじゃない。運がすべてだ。――つまり、これは、運ゲーだ。その運をフツメンに厳しい神様は簡単に掴ませてはくれないのだ。
――でもな、運ゲーを攻略するたったひとつの方法がある。
それは――
「……数の暴力だ…」
俺は静かに財布を取り出し、シュッと小銭を投入した。
(俺は絶対諦めないぞ……俺の野口英世が尽きるまで戦い抜く覚悟があるぞ?)
(さぁ…勝負だ神、、、お前か俺の野口英世どちらに軍配があがるのか?)
俺は更に極限の集中モードにはいる。クレーンから落ちては掴み、落ちては掴みの繰り返し。そんな努力の甲斐あってか、熊のるんちゃんの位置は確実に、もう“穴のすぐ前”まで来ている。
(イケメン? モテ男? そういう奴らなら、きっと一発で取るんだろうな)
(でもな?俺は、違う。俺は粘着質で、執念深くて、しつこいタイプなんだよ。何度だって立ち上がってやるぜ?神様よぉ?)
クレーンのアームが、ゆっくりと――ぬいぐるみの、ギリギリの縁に滑り込む。
(過程なんかどうだっていい。取れりゃそれでいいんだよ、結果がすべてだ。蜂須賀の喜ぶことが最も重要なんだ!!)
熊のるんちゃんはすぐ目の前にある。もう勝負が決まりそうだったその瞬間
――俺の脳内にアラートが鳴り響く。
(……っ!! しまった!!)
ポケットに手を入れる。財布を開く。
(くそっ、もう小銭がねぇ……!!)
震える手で財布の中を確認するが――残っていたのはお札だけ。
(ちくしょう!!英世……お前じゃだめなのか?お前はクレーンゲームに参加する権限すらないのか!?)
(こうなったらあの両替機までダッシュするしかない……俺が2階の両替機に行ってる間に他の奴らが横取りされないように…全速力で行くしかねぇ!!)
「――蜂須賀、すまねぇ! ちょっと両替してくる!!見といてくれ!!」
「ちくしょう!!俺は蜂須賀の喜ぶ顔がみたいだよぉぉぉおおお!!」
俺は例の如、呪いにより本音が漏れていた。だが今の俺は極限の集中モードのため、本音が漏れていることにさえ気づいていない。
「わ、わわっ……神田君……」
その背中を、蜂須賀はポカンと見つめる。
(私のために、こんなに一生懸命に……うぅ、こ、こんなの…………)
(……今まで私のためにこんなにも頑張ってくれた男の子なんていなかった……みんな可哀想な人を見る目で私を見ていたのに…)
頬を真っ赤に染めながら、彼女はぎゅっとスカートの裾を握る。
俺が2階の両替機に向かって走り去った。その直後だった。
圧倒的な気配を纏いし少女が、静かに歩み寄ってきた。
「にししっ♡ お嬢ちゃん、ならんでる~?」
ピンク色の髪がふわりと揺れる。
ひとりの少女が蜂須賀の前に現れた。
そのいたずらっぽい笑顔は、まるで舞台の上で観客を虜にする役者のよう。計算された無邪気さと挑発の絶妙なバランス。存在するだけで場の空気を支配する――そんな圧倒的なオーラを放っていた。
蜂須賀は息をのむ。
(す、すごい……綺麗な人です……)
だがその視線は、蜂須賀ではなく――階段を駆け上がっていった、彼の背中を追っていた。
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