俺の隣にいるのはキミがいい

空乃 ひかげ

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第一章

花見

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 ある晴れた昼下がり。
 淡いピンク色の花びらが、春の風に乗ってひらりひらりと舞い落ちていく。

 私は両手をそっと広げ、その花びらを受け止めるようにして見上げた。
「……綺麗」
 小さく呟いた声が、春の空気に溶けていく。

 そのとき、背後から聞き慣れた声が響いた。
「おーい、ひなたー!」
「お待たせ!」

 振り向くと、荷物を抱えた瑠夏と天音が、桜並木を背景に歩いてくるのが見えた。
 その後ろには、見慣れない2人の影。
 ――ああ、そういえば今日は友達を連れてくるって言ってたっけ。

「瑠夏、天音。ほんと、いい桜日和だね」
 私が笑顔で手を振ると、二人も笑って頷いた。
「晴れてよかったね」
「ま、一週間ずっと晴れ予報だったしな」

 2人は桜の木の下に荷物を降ろし、花見の準備を始める。
 私はその様子を眺めながら、後ろの2人へ視線を向けた。
「えっと……2人は瑠夏と天音の友達、かな?」

 右にいた女の子がにっこり笑って、一歩前へ出た。
「こんにちは! 
 私は水樹蛍(みずきほたる)!
 瑠夏の友達で、今日はお花見に誘われて来たんだ。
 よろしくね!」
 明るくて元気な声。
 腰まである栗色の髪が、陽光を受けてきらりと揺れる。
 ああ、確か瑠夏が言ってた――中学の頃の友達って、この子のことだ。

 次に、左側にいたみんなより少し背の高い男の子が口を開いた。
「俺は櫻井悠理(さくらいゆうり)。
 天音に誘われて来た。
 よろしくな」
 軽く笑って自己紹介するその姿は、どこか落ち着いていて雰囲気の柔らかい人だった。

「私は朝日ひなた。
 よろしくね、二人とも!」
 そう言って微笑むと、5人で花見の準備を始めた。

「悠理、そこ石でしっかり押さえてー!」
「はいはいっと」
 蛍と悠理はもうすっかり打ち解けていて、笑いながら協力してシートを広げている。

「二人ともノリがいいし、すぐ仲良くなりそうだね」
 私がそう言うと、瑠夏が隣で少し笑って頷いた。
「今日初めて会ったとは思えないな」
「うん、でも……こういう賑やかなのも悪くないよね」
 天音も楽しそうに笑いながら、シートの端を石で押さえる。

「よし、準備完了! それじゃ、みんなで乾杯しよう!」
 悠理の掛け声に合わせて、それぞれコップを手に取る。
「新しい出会いと、桜に――乾杯!」
「かんぱーい!」
 笑い声が重なって、春風がそっと頬を撫でた。

 そのあとは、楽しい時間があっという間に過ぎていった。
 持ち寄った料理を広げて食べたり、トランプで盛り上がったり。
 蛍も悠理もすぐに打ち解けて、まるでずっと前からの仲間みたいだった。

 舞い落ちる花びらが、まるで私たちを祝福しているみたいに見えた。

「あ、ひなた……髪に花びらついてる」
 隣に座っていた天音が、そっと私の髪に触れて花びらを取る。
 その優しい仕草に、胸が少しくすぐったくなった。
「あ、ありがとう」
 言葉にした瞬間、なぜか天音の笑顔が少し眩しく見えた。

 その光景を見ていたのか、右隣の瑠夏が声をかけてくる。
「ひなた」
「ん?」
 振り向いた瞬間、口の中に何かが押し込まれた。
「……んん!?」
 甘いクリームの味が広がって、思わず目を丸くする。

「ふっ、変な顔。
 これコンビニの新作クレープだってさ、美味しいか?」
 瑠夏がいたずらっぽく笑う。
 私は思わず頷きながら、もぐもぐと味わった。
 ――うん、美味しい。
 びっくりしたけど。
 瑠夏の嬉しそうな笑顔に、つられて私も微笑んでしまう。

「……瑠夏に相談されて気持ちは知ってたけど、あの二人ほんと分かりやすいね」
「だな。
 俺も天音から相談受けてたけど、想像以上だわ」
 蛍と悠理がくすくす笑いながら、私たちを見守るように視線を交わしていたことに――そのときの私は、まだ気づいていなかった。
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