俺の隣にいるのはキミがいい

空乃 ひかげ

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第一章

ふれあいコーナー

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小さな吊り橋の上を、ふわふわのしっぽがひょこひょこ揺れていた。
 その姿があまりにも可愛くて、私たちは全員釘ずけで見る。

「わ、見て見て!
 あのレッサーパンダ、手で顔こすってる!」
「マジか、あんなの反則だろ……可愛すぎる」
 瑠夏が珍しくテンション上がってて、ちょっと笑ってしまう。

「もふもふしたい~!」
「ひなた、あれ抱っこできるやつじゃないからね?」
「わかってるよ~、でも見てるだけでも幸せ…!」

 檻の向こうで、レッサーパンダが木の枝に登ってはバランスを崩して、
 慌ててしっぽで支えてる。
 隣の瑠夏が「ドジだな、あいつ」と笑ったけど、
 その笑顔がどこか優しくて、なんか胸がくすぐったくなる。

 蛍はというと、すでにスマホで連写中。
「はい、みんな笑ってー!
 この角度いい感じ!」
 ぱしゃぱしゃと音が響いて、
「ちょ、蛍!? 今の絶対変な顔してたって!」
「いいのいいの! 自然体がいちばん可愛いんだから!」
 そう言って笑う蛍に、みんなもつられて笑った。

 しばらくしてレッサーパンダゾーンを離れると、
 ちょうどお昼どき。
 通り沿いには焼きそば、フランクフルト、クレープの屋台。
 漂ってくる香りに、お腹がきゅるると鳴った。

「……ひなた、今お腹鳴っただろ?」
「な、鳴ってないよ!」
「はは、可愛い音したよ?」
 天音が穏やかに笑ってる。
 うぅ、恥ずかしい……。

「何か買って食べようぜ。
 どれにする?」
「うーん……クレープかなぁ。
 あ、瑠夏、この前くれたやつ美味しかったよ!」
「……っ! 
 そ、そうかよ。
 なら、また買ってやる」
「ほんと!? 
 ありがと!」
 思わず嬉しくて笑顔になると、瑠夏が少しだけ顔を逸らした。
 その耳がほんのり赤い気がして、なんだか胸がぽかぽかした。

「私はポテト! 
 悠理、半分こしようよ!」
「お、いいね。
 じゃあ俺はドリンク係で」
「ナイス!」
 蛍と悠理のテンポの良いやりとりが、
 まるで仲良し兄妹みたいで見てて微笑ましい。
「あと焼きとうもろこしも欲しいな」
 そう言って悠理は飲み物ととうもろこしを買いにそそくさと行ってしまった。
 それを見て私たちも各々に買いに行って、後で野外に置いてあるテーブルに集合という形になった。

 少しして、それぞれ手に食べ物を持って合流する。
 クレープの包みを開いた瞬間、ふわっと甘い香りが広がった。

「……これ、めっちゃ美味しい!」
 いちごと生クリームの組み合わせが最高で、思わず声が漏れた。
「ほらな、言っただろ」
「うん! 
 瑠夏のおすすめ当たりだったよ!」
 嬉しくて笑うと、瑠夏が一瞬だけ目を丸くしてから、そっぽを向く。
「……そんな大げさに言うほどじゃねぇよ」
「…照れてる?」
「照れてねぇ!」
 蛍と悠理が笑い出して、天音が「まあまあ」となだめながら微笑む。

「…悠理、それ焦げてるじゃん」
「これがいいんだよ。香ばしいのが旨いんだ」
「いや、それほぼ炭でしょ」
 蛍が笑いながら悠理の焼きとうもろこしを取り上げる。
 悠理は肩をすくめて、「味見」と言いながら蛍のポテトをひょいとつまんだ。

 私たちはそんな二人を見ながら、のんびり食べ進めた。
 周りではクラスメイトたちの笑い声やカメラのシャッター音が響いていて、
 春の光がどこまでも明るくて、心が軽くなる。

「こういうの、いいね」
 自然とそんな言葉がこぼれた。
 すると隣の天音が穏やかに微笑む。
「うん。
 みんなで笑っていられる時間って、貴重だからね」
「……だな」
 瑠夏が短くそう言って、空を見上げる。
 淡い雲がゆったりと流れていく。
 ――この瞬間が、ずっと続けばいいのにな。
 そんなことを、ふと考えてしまった。



 食べ終わった後向かった先は、ふれあいコーナー。
 「ウサギ・モルモット・ヤギ・ひよこ」と書かれた看板の前で、思わず足が止まる。

「やば……めっちゃ可愛い……!」
 ふわふわの白いウサギが、ぴょんと跳ねた瞬間、みんな同時に声を上げた。

「ひなた、抱っこしてみなよ」
「え、いいの? 
 ……うわぁ、あったかい……」
 そっと手を差し出すと、ウサギが小さな足で私の腕を踏んでくる。
 その柔らかさに思わず顔がゆるんだ。

「おい、落とすなよ?」
「だ、大丈夫だよ~……ほら、瑠夏も触ってみて」
「え、いいのか?」
「うん。ふわふわだよ?」
 差し出した手の先で、瑠夏が恐る恐る指先でウサギの背をなでる。
「……ほんとだ、あったけぇな」
 その穏やかな表情を見て、胸の奥がじんわりとした。
 ――瑠夏、こういう顔もするんだ。

 横で蛍が写真を撮りながら微笑んで、悠理がぼそっと呟く。
「……青春だな」
「なに勝手にまとめ入ってんの」
「いや、絵面がほのぼのしすぎてさ」

 笑い声が重なって、
 春の風がまた、そっと頬をくすぐった。
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