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第二章
帰り道のアイス
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梅雨が終わり、昼間は少しじんわりと暑いけど、夕方は気持ちいい涼しさになった放課後。
部活も終わって、帰り道を歩いていたらふと夏の風が頬を撫でた。
少し湿気を含んだ空気の中に、セミの声が混じってる。
――もう夏休みが近いんだなぁ。
なんとなく涼みたくて、アイスの自販機の明かりに引き寄せられるように足を止めた。
「何にしよっかな……」
小銭を握って迷っていると、後ろから声がした。
「……ひなた?」
振り返ると、そこにいたのは瑠夏だった。
部活帰りなのか、首にタオルをかけて髪が少し乱れている。
汗で額のあたりが光っていて、なんだかいつもより男らしく見えた。
「瑠夏、お疲れ様。
今帰り?」
「まぁな。
……お前こそ、こんなとこで何してんの」
「アイス買おうと思って。
ほら、暑くなってきたし冷たい物欲しくなる季節でしょ?」
そう言うと、瑠夏がポケットから小銭を取り出して
「じゃ、奢ってやる」
なんて、無造作にお金を自販機に突っ込んだ。
「えっ、いいよ、自分で…」
「いいって。
ほら、何にすんだ」
「じゃあ……チョコモナカで」
「了解」
ボタンを押すと、コトンッと落ちた音。
瑠夏はそれを拾って、私に差し出してくれる。
「ありがと」
「礼はアイスでいい」
「え?」
「……一口くれりゃいいって意味だ」
ふっと笑って隣に腰を下ろす。
近くのベンチ、夕陽に照らされて瑠夏の横顔が橙色に染まってた。
私は少し照れながら包装を開けて、一口食べる。
「……美味しい」
「チョコモナカって夏っぽいよな」
「うん、溶けやすいけどね」
ふたりで笑い合って、少しだけ沈黙。
けれどその沈黙は、不思議と居心地が悪くなかった。
すると、瑠夏がぽつりと呟いた。
「……お前ってさ、誰にでも優しいよな」
「え?」
「いや、悪い意味じゃねぇけど。
……なんか、見てて焦んだよ」
“焦る”って、どういう意味だろう。
胸の奥が少しざわついて、私は小さく瞬きをした。
「焦るって……何に?」
「……さぁな。
自分でもわかんねぇ」
そう言って、瑠夏は小さく笑った。
でもその笑顔は、どこか寂しそうで。
私はなんて返せばいいかわからず、代わりにアイスをもう一口食べてからそっと差し出した。
「はい、一口」
「は?」
「お礼だよ」
「……マジか」
少し驚いたように私の手元を見る瑠夏。
でも、次の瞬間ふっと口元が緩んだ。
「……じゃ、遠慮なく」
ぱくっと、私の手ごと掴んで一口アイスを口に含む。
一瞬距離が近くなって、少し胸がドキッとした。
「な、なんか……間接的に恥ずかしいね」
「お前が言うなよ……」
2人してほんのり顔を赤くして、視線をそらす。
幼馴染で、昔はよくシェアとかしてたのに…こう、大きくなって2人きりでってなると何だかこそばゆい。
沈みかけた太陽の光が、オレンジから淡いピンクに変わっていく。
――蝉の声と、チョコモナカの甘さ。
その全部がなんだか特別に感じた。
部活も終わって、帰り道を歩いていたらふと夏の風が頬を撫でた。
少し湿気を含んだ空気の中に、セミの声が混じってる。
――もう夏休みが近いんだなぁ。
なんとなく涼みたくて、アイスの自販機の明かりに引き寄せられるように足を止めた。
「何にしよっかな……」
小銭を握って迷っていると、後ろから声がした。
「……ひなた?」
振り返ると、そこにいたのは瑠夏だった。
部活帰りなのか、首にタオルをかけて髪が少し乱れている。
汗で額のあたりが光っていて、なんだかいつもより男らしく見えた。
「瑠夏、お疲れ様。
今帰り?」
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そう言うと、瑠夏がポケットから小銭を取り出して
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なんて、無造作にお金を自販機に突っ込んだ。
「えっ、いいよ、自分で…」
「いいって。
ほら、何にすんだ」
「じゃあ……チョコモナカで」
「了解」
ボタンを押すと、コトンッと落ちた音。
瑠夏はそれを拾って、私に差し出してくれる。
「ありがと」
「礼はアイスでいい」
「え?」
「……一口くれりゃいいって意味だ」
ふっと笑って隣に腰を下ろす。
近くのベンチ、夕陽に照らされて瑠夏の横顔が橙色に染まってた。
私は少し照れながら包装を開けて、一口食べる。
「……美味しい」
「チョコモナカって夏っぽいよな」
「うん、溶けやすいけどね」
ふたりで笑い合って、少しだけ沈黙。
けれどその沈黙は、不思議と居心地が悪くなかった。
すると、瑠夏がぽつりと呟いた。
「……お前ってさ、誰にでも優しいよな」
「え?」
「いや、悪い意味じゃねぇけど。
……なんか、見てて焦んだよ」
“焦る”って、どういう意味だろう。
胸の奥が少しざわついて、私は小さく瞬きをした。
「焦るって……何に?」
「……さぁな。
自分でもわかんねぇ」
そう言って、瑠夏は小さく笑った。
でもその笑顔は、どこか寂しそうで。
私はなんて返せばいいかわからず、代わりにアイスをもう一口食べてからそっと差し出した。
「はい、一口」
「は?」
「お礼だよ」
「……マジか」
少し驚いたように私の手元を見る瑠夏。
でも、次の瞬間ふっと口元が緩んだ。
「……じゃ、遠慮なく」
ぱくっと、私の手ごと掴んで一口アイスを口に含む。
一瞬距離が近くなって、少し胸がドキッとした。
「な、なんか……間接的に恥ずかしいね」
「お前が言うなよ……」
2人してほんのり顔を赤くして、視線をそらす。
幼馴染で、昔はよくシェアとかしてたのに…こう、大きくなって2人きりでってなると何だかこそばゆい。
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