俺の隣にいるのはキミがいい

空乃 ひかげ

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第二章

妹を思う兄心

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 【陽翔side】

 潮の匂いと波の音が混ざる。
 砂浜の熱が足裏を通してじんわり伝わる午後。
 パラソルの下、俺はビール缶を軽く揺らしながら言った。

「はぁ~、やっぱ夏はこれだな。
 ……で、お前らどう? 
 うちの妹と、ちゃんと仲良くやってるか?」

 悠理がストロー付きのジュースをくわえたまま苦笑する。
「“ちゃんと仲良く”って、質問が怖ぇですよ、陽翔さん」

「いやいや、ただの確認だよ?」
 俺はニヤリと笑って、軽くビールをあおった。
「だってさ、俺が見てないとこで誰かがひな泣かせたら困るし?」

「……はる兄、やっぱそういうとこブレねぇな」
 瑠夏が呆れたように笑いながら、ペットボトルのキャップを指で弾いた。
「むしろアイツの方が容赦ねぇだろ、たまにからかってくるし」

「ははっ、確かに」
 俺は楽しそうに笑って、瑠夏の肩を軽く叩いた。
「お前は昔っからそうやって口悪ぃけど、
 ちゃんと見てるのは知ってるからな、瑠夏」

 その言葉に、瑠夏は少しだけ視線を逸らす。
「……そんなん言われたら、照れるっつの」

「かわいくねぇなぁ」
 俺が笑うと、悠理が横でジュースを置いてこっちを見つめる。

「てか陽翔さん、俺ら全員“候補扱い”なんすか?」
「ん? 
 違うのか?」
「……あ~、やっぱこの人最強だわ」
 悠理が額に手を添えて笑い、天音が小さく息をついた。

「……お兄さんは、本当にひなたのことを大切にされてるんですね」
「そりゃ当然だろ?」
 柔らかく笑って、波打ち際ではしゃぐひなたと蛍に目を向ける。
「妹なんてな、何歳になっても“守ってやりたい存在”なんだよ。
 ……でも、それだけじゃいけねぇのも分かってる。
 もう俺が先に立って守る歳じゃねぇしな。
 いつか、誰かの隣で笑う方が幸せなんだろうなって思うんだ」

 その言葉に、天音がわずかに目を細める。
「“守る”より、“支える”時期、ですか」
「……お、わかってんじゃん」
 指を鳴らして天音に笑いかける。
「やっぱ頭キレるな、お前」

「いえ……そういう風に感じただけです…」
 悠理が少し真顔になり、俺に問いかけた。
「陽翔さん。
 もし、俺らの誰かが本気でひなたのこと好きになったら――どうします?」

 その言葉を聞いて、少しだけ表情を引き締め、空になった缶をテーブルに置いた。
「本気なら、止めねぇよ。
 ただし――」

 ビールを飲み干した声に、波の音が重なる。
「“泣かせねぇ”って自信がある時だけ来い。
 中途半端な気持ちなら、俺がその場で沈める」

 一瞬、この場だけ風が止まった気がした。。
 真面目な眼差しに、3人とも自然と背筋を伸ばしす。

 けど次の瞬間、コイツ等を見てふっと笑う。
「ま、でも今の顔見たら安心した。
 お前ら、ちゃんと“いい奴ら”だな」

 悠理が苦笑して、箱のジュースを掲げる。
「それ、褒め言葉って事でいいっすか?」
「もちろん。
 ……乾杯、するか?」

 2人のペットボトルと箱のジュース、そしてビール缶がカチンと軽くぶつかる。
 その音が、波の音に溶けていった。
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