俺の隣にいるのはキミがいい

空乃ひかげ

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第二章

誰かの幸せ

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【蛍side】

　波の音が、少しだけ静かに響いていた。
　夕方の喧騒が落ち着き、浜辺はオレンジから群青へと変わりつつある。
　潮風が肌を撫で、冷たいラムネの瓶がカランと鳴った。

　今ひなたと陽翔くんは海の家に、２人で花火を買いに出かけてる。
　だからこの砂浜にいるのは、私と瑠夏と天音と悠理だけ。

　みんなしゃがみ込んで、片手にラムネ瓶を持って輪になって黄昏る。

「……はぁ、陽翔さんがいねぇだけで、なんか空気がゆるいな」
　悠理がぼそりと呟き、栓を抜いたラムネを一口飲む。
　その隣でクスリと笑う。
「そりゃそうだよ～。
　あんな圧あるお兄ちゃんそうそういないって！」

「まぁ、俺は嫌いじゃないな。
　ちゃんと筋が通ってるし、ひなたの事大事に思ってるし…」
　天音が肩をすくめて答えると、瑠夏が無言で頷いた。
「はる兄、昔からそういう人だよ。
　言ってること厳しいけど、全部“ひなたのため”ってわかるから反論できねぇ」

「ふぅん……“ひなたのため”ね」
　悠理が面白そうにラムネの瓶を指で回しながら、
「……そりゃ、兄貴があんだけ可愛い妹持ってたら、心配にもなるわな」
　と笑っていた。

　その言葉に、瑠夏が軽く眉を上げる。
「お前……何が言いたい」

　悠理はにやりと口角を上げた。
「いや、別に～？　
　ただ、陽翔さんが“ひなた泣かせたら沈める”とか言ってたけど、
　あれ冗談じゃなさそうだな～って思って」

　天音が飲んでいたラムネを吹き出しそうになりながら、気管に入ったのか咳ごんでいる。

　波の音が、少しだけ静かに響いていた。
　夕方の喧騒が落ち着き、浜辺はオレンジから群青へと変わりつつある。
　潮風が肌を撫で、冷たいラムネの瓶がカランと鳴った。

　今ひなたと陽翔くんは海の家に、２人で花火を買いに出かけてる。
　だからこの砂浜にいるのは、私と瑠夏と天音と悠理だけ。

　みんなしゃがみ込んで、片手にラムネ瓶を持って輪になって黄昏る。

「……はぁ、陽翔さんがいねぇだけで、なんか空気がゆるいな」
　悠理がぼそりと呟き、栓を抜いたラムネを一口飲む。
　その隣でクスリと笑う。
「そりゃそうだよ～。
　あんな圧あるお兄ちゃんそうそういないって！」

「まぁ、俺は嫌いじゃないな。
　ちゃんと筋が通ってるし、ひなたの事大事に思ってるし…」
　天音が肩をすくめて答えると、瑠夏が無言で頷いた。
「はる兄、昔からそういう人だよ。
　言ってること厳しいけど、全部“ひなたのため”ってわかるから反論できねぇ」

「ふぅん……“ひなたのため”ね」
　悠理が面白そうにラムネの瓶を指で回しながら、
「……そりゃ、兄貴があんだけ可愛い妹持ってたら、心配にもなるわな」
　と笑っていた。

　その言葉に、瑠夏が軽く眉を上げる。
「お前……何が言いたい」

　悠理はにやりと口角を上げた。
「いや、別に～？　
　ただ、陽翔さんが“ひなた泣かせたら沈める”とか言ってたけど、
　あれ冗談じゃなさそうだな～って思って」

天音が飲んでいたラムネを吹き出しそうになりながら、気管に入ったのか咳ごんでいる。
「まぁ瑠夏、お前が一番狙われそうだな。
　昔からの付き合いだし」

「はぁ？
　俺はもうぜってぇアイツの事泣かせねぇし！」
　瑠夏がムッとして反論した後、私は笑いながら瑠夏の背中を叩いた。　
「そうそう、ひなたの事今後は泣かせないもんね～。
　でも、泣かされる方だったりして？」
　ニヤリとして口元に手を添えて笑う。

「蛍、うるせぇ」
「はーい、図星っと」

　悠理がその様子を見て、口元を緩めた。
「……でもさ、俺陽翔さんの気持ちちょっとわかる気がするんだよね」

「何が？」と天音が聞き返すと、
　悠理は空を見上げながら、砂の上に置いた瓶を指先でカチンと鳴らした。

「ひなたって、守りたくなるタイプだろ。
　見てるだけで安心するのに、放っとけない。
　……そんな子が誰かに泣かされたら、そりゃ怒るさ」

　風が少し吹いて、火照った空気を運んでいく。
　私は笑みを浮かべながら「……悠理、珍しく真面目だね」って言った。
　悠理は苦笑して、「たまにはな」とだけ返す。

　瑠夏と天音は、そんな悠理をジッと真剣な表情をして見つめていた。

　そんな３人人を見て、小さく笑いながら視線を下に逸らして思い出す。
　そういえばついこの間、瑠夏が嫉妬してひなたを悲しませたって相談された時は少しビックリしたな。
　今じゃもう懐かしく感じる。

　あれからだよね、瑠夏があまり嫉妬を表に出さなくなったのは。
　心の中ではきっと凄くヤキモチ焼いてるんだけど、それをあからさまに出したらまたひなたが悲しむから…。
　瑠夏は瑠夏なりに気持ちをコントロールしてるんだよね。

　そう思うとやっぱりちょっとずつ成長してるんだなって、何だかお姉ちゃん目線で見てしまう。
　中学の頃は私も瑠夏の事が好きだったのに…今じゃ良き友人関係。
　でも、これでよかったなって思う。
　瑠夏はひなたの事が好き…今もずっと。
　それは変えられない事実だから。

　ひなたはすごく良い子。

　初めてあの桜の花見の日に会った時、すぐそう思った。
　今じゃひなたとも色んな相談ができるほど仲良くなったし、親友と言っても過言じゃない。
　だから、私にとってはひなたも凄く大切な存在になってる。
　もちろん、天音も悠理も…。

　でもだからこそ私は、誰よりも瑠夏の気持ちを知ってると思うから、瑠夏が幸せになって欲しいと願ってる。
　これからどんな結末を迎えようとも…。

　ふと、夜空にまたたく無数の星を見上げる。
　――ゆっくりと、夏の夜が深まっていく気がした。

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