俺の隣にいるのはキミがいい

第二章

やっぱ好きだ

【瑠夏side】

夕方、みんなで駄菓子を食べ終わった後それぞれ別れて帰った。
家に帰って、すぐさま自分の部屋のベッドの上に倒れ込んだ瞬間、エアコンの風が首筋を撫でた。

昼間のあの騒がしくて暑かった時間が、まだ身体のどこかに残ってる気がする。
…駄菓子屋の匂いとか、みんなの笑い声とか。
そして、なにより…ひなたの声。

『ねぇ、瑠夏。
それ一口ちょうだい』

……あの瞬間、完全に固まった。
普通に言われただけなのに、
めっちゃ心臓が跳ねた。

「はぁ……。
俺、マジでヤバいな」

枕を抱え込んで、顔を埋める。
思い出しただけで、耳のあたりがじんわり熱くなった。

昔なら、なんとも思わなかった。
「ほらよ」って言って、渡して終わり。
一口ちょうだいなんて、小学校の頃何度もあった事なのに…。
なのに今は――「あ、これ俺も食べたら間接キスじゃん」なんて、くだらないことが頭をよぎる。

バレてないよな？　
変に思われてなかったよな？
そんなこと考えて、後から一人でモヤモヤしてる自分が情けなくて、
枕をさらにギュッと抱きしめた。

「でも……やっぱ、嬉しいんだよな」

ぽつりとこぼした声が、部屋の静けさに溶けていく。
アイツ、きっと何にも思ってないんだろうな。
ただ普通に「美味しそうだから一口ちょうだい」って言っただけ。
本当に、それだけ。

それでも――。

その「普通のやり取り」が、俺にとっては特別なんだ。
アイツが無邪気に誰かの横で笑うたび、少しずつ心の距離が遠くなる気がしてた。
いつか俺じゃない、誰かの隣で幸せに過ごす日が来るかもしれない。
そう考えると胸が苦しくなる。

でも、こうやって昔みたいに駄菓子を分け合える時間がまだある。
それが、どうしようもなく嬉しい。

まぁ、結局チョコ棒は全部食われてたけど…。
思い出してははっと小さく笑う。

「……あーもう。
ホント、好き過ぎんだろ…」

枕を抱えたまま、顔を真っ赤にしてベッドの上で転がる。

誰にも見せられない情けない姿。
けど、この気持ちだけは――
誰にも負けたくなかった。