俺の隣にいるのはキミがいい

空乃 ひかげ

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第二章

瑠夏の過去

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【瑠夏side】

 カエルと虫の鳴き声を聞きながら、ひなたの家からの帰り道。
 キラキラと光る星空を見上げながら、昔のことをふと思い出していた。

 "丸くなったな"か…。
 昼間はる兄に言われた事が脳内を駆け巡っていく。
 いつからだっけ、俺が荒れてたの…。
 確かあれは…中学2年の春頃からだったっけ…。


-------


 ……あの頃の俺は、正直どうかしてた。
 誰かに何か言われたわけじゃねぇ。
 ただ、ムカつくことばっかで、全部ぶっ壊したかった。
 先生の説教もうるせぇし、家の空気も重い。
 喧嘩売られたら倍で返す。
 それが日常だった。

「なぁ瑠夏、またやったんだって? 
昨日3年の調子づいてた奴等、みんな血だらけだったらしいじゃん」

 休み時間、廊下の隅でタバコを吸っていた上級生の一言に、俺は舌打ちで返した。
 くだらねぇ噂なんかどうでもいい。
 俺はただ、殴ることでしか自分の存在を確認できなかった。
 拳を振るえば、少しだけ息ができる気がした。

 ――そんな日々の中でも、ひなたとだけは距離を取れなかった。
 幼馴染で家も近いし、いつも俺に何かしら話しかけてくる。
 昔から俺の隣にいて、笑いかけてくれてた。

 けど…今の俺と関わったらアイツにまで火の粉が飛ぶ。
 だからなるべく話さないようにしてた。
 なのに、放課後の帰り道でよく会うんだよな、アイツに。

「瑠夏、またケンカしたの?」
「……してねぇよ」
「嘘。
ほっぺに湿布貼ってるじゃん」
「うるせぇな。
ほっとけ」

 冷たく言い返して、ひなたの横を通り過ぎる。
 そんな俺の手を掴んで、ひなたは真剣な目で俺を見ていた。

「ほっとけないから言ってるの。
瑠夏、前みたいに笑わなくなった」

 その言葉が胸に刺さって、俺は何も言い返せなかった。
 ただそっぽ向いて
「早く帰れよ」
 とだけ吐き捨てる。
 ひなたは困ったように笑って
「……わかった。
でも、無茶だけはしないでね」
 そう言って腕を掴んでいた手を離して、時折こちらを気にしながらも、先に1人帰っていった。

 …優しすぎんだよ、昔から。
 あんな顔で言われたら、余計に自分が嫌になる。

 それでも俺は止まれなかった。
 止まり方がわからなかった。

 ――そして、中三の夏。
 こんなクソみたいな日常が当たり前になってきていた時、一本の電話で全てが変わった。

 昼過ぎ、いつもの溜まり場で当時の俺が連んでた数少ない仲間の、黒瀬海(くろせかい)と八代真昼(やしろまひる)と3人でだらだらしてた時。
 スマホに知らない番号から電話がかかってきた。

 訝しげにスマホの画面と睨めっこした後、しつこく鳴り響く着信音にイラっとしながら通話に出ると、聞き覚えのない低い声がした。

『おっ、やっと出た。
おーい、これ瑠夏くんの電話番号で合ってる?」
「あ?
誰だてめぇ」
イライラで俺の声も低くなる。

『…お前さ、ひなたって子、知ってるよな?』

 名前を聞いた瞬間、心臓が跳ねた。
 嫌な予感が一気に広がる。
 電話向こうから、小さく響く聞き覚えのある女の子の声。

『…か…!
…来ちゃ…め…!』
上手くは聞き取れないけど、確実にこの声はひなただ。

『こっち来いよ。
話があんだ。
ここらで有名な溜まり場の廃倉庫、わかるだろ?
――逃げんなよ』

 ツーと一方的に通話が切れた。
 手に持ったスマホを握りしめる。
 額に冷や汗が1つ垂れて、息が止まった気がした。

「…今の、誰だ?」
 呆然としてる俺を見て、海が眉をひそめる。
「…ひなたが、攫われた」

 そう呟いた瞬間、頭の中が真っ白になった。
 俺のせいで…俺がひなたと関わったから…!
 拳を握って立ち上がる。

「行ってくるわ」
「は? 
相手ぜってぇ多いぞ! 
しかも――」

「関係ねぇ。
今アイツを守れんのは…俺なんだ」
 真っ直ぐに前を向いて走り出す。

「たくっ…1人で行かせる訳ないだろ」
「何々、喧嘩しに行くの~?
僕も行く~!」

 後ろで俺を心配する海の声と、楽しそうに笑って走り出す真昼の声が聞こえてくる。
 ホント、仲間には恵まれてんな俺…。

 付いて来てくれる2人に心の中で感謝しながら、止まる事なく走り続ける。

 あの倉庫はここからそう遠くねぇはずだ。
 ひなた…。

 心臓が焼けるみたいに熱かった。
 怖いとか、勝てるかとか、そんなのどうでもいい。

 ただ――
 アイツを助けたい。
 今はそれだけだった。
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