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第二章
図書館
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夏祭りが終わって二日後の昼下がり。
空は雲一つなく澄み渡っていて、お祭りの熱気はすっかり引いていたけど、まだあの楽しかった夜の記憶が心の中に残っていた。
残りの宿題を片付けようと私は家の近くにある市立図書館へとやってきた。
家だとゴロゴロしてしまって集中できないから、こういう時は静かな場所が一番だ。
図書館の重たいガラスのドアを開けようとした、その時。
「よぉ」
後ろから声をかけられて振り返ると、瑠夏が立っていた。
「瑠夏!?
びっくりした、どうしたの?
瑠夏も宿題?」
「おー…。
家でやろうと思ったけど、暑くてさ。
お前こそまだ宿題終わってねーのかよ」
「ㇺッ、残すところあと少しなの!
瑠夏こそどうなの?」
「俺もあとちょい。
…一緒にやるか、ひなた?」
瑠夏が少し照れたように視線を一瞬外して、また私に視線を戻して首の後ろをかく仕草をする。
私は微笑んで「うん」と頷いた。
2人で図書館の中に入ると、涼しい風が汗ばんだ肌をひんやりと冷やしてくれた。
久々に瑠夏と2人で宿題するのもいいなぁ。
小学生の頃の夏休みを思い出す…。
小5の時だったかな、2人で最終日に焦りながら宿題終わらせたの。
懐かしい思い出に浸ってクスリと笑うと、瑠夏が訝し気に私の顔を覗いた。
「何が可笑しいんだよ?」
「んー?
ちょっと小学生の頃の夏休みの事思い出してたの。
ほら、5年生の時夏休み最終日に2人で宿題やったの覚えてる?」
クスクスと口元に手を添えて笑う。
すると瑠夏も前を向いて懐かしそうに笑った。
「あー、あったなそんなこと。
ひなたが宿題が終わらなくて泣いてたやつだろ?」
「なっ…!
瑠夏だって涙ぐんでたじゃん!」
「は?
涙ぐんでなんかねぇし。
あれは泣きながら宿題をしてるお前が面白くて…!」
「いーや、瑠夏も先生に怒られるって焦ってたの私知ってるんだからね!」
「あのなぁ…」
言い合う様に段々と私たちの声量が大きくなっていき、瑠夏が何か言いかけた時。
「2人とも、ここ図書館だって事忘れてる?」
瑠夏の後ろから誰かに声をかけられた。
やばっ、図書館だって事忘れて大声出しちゃってた!
スタッフの人かな…?
そう思い、瑠夏が前にいて見えない人物を見ようとひょっこり瑠夏の身体から首を傾ける。
瑠夏もその声で振り返った。
「あっ、天音!?」
私より先に瑠夏が声を上げた。
「だから、静かに。
2人の声図書館中に響いてたよ?」
本を片手で抱えた天音がハハッと小さく笑う。
私たちは恥ずかしさからか、顔が熱くなるのを感じた。
「こんな所で話すのもあれだし、俺と同じテーブルで良かったらおいで」
そう言って歩き出す天音に、私と瑠夏は顔を見合わせてから後ろを付いて行った。
天音が使っていただろうテーブルに着くと、すでに広げられたノートパソコンと参考書が置いてあった。
椅子に座りだす天音を見て、私は天音の前に、瑠夏は私の隣に腰を下ろす。
「凄い量だね…。
天音はもう宿題終わったの?」
「うん、今は予習と復習してる感じかな。
ほら、夏休み明けってすぐテストあるだろ?」
「うっ…、そうだね…」
「お前は相変わらず真面目だな」
今は宿題で手一杯なのに、天音はテストの事まで考えてるなんて…流石だなぁ。
広げられた問題集やノートの中身を見るけど、数学をしていたのか私にはさっぱりだった。
とりあえずそれぞれリュックから夏休みの宿題の問題集の紙を取り出す。
瑠夏はいつも通り豪快だけど、図書館だからか小さな音しか立てないように気遣っているのが、なんだか面白かった。
宿題を目の前に広げたところで、私はふと静かに口を開いた。
「ねぇ、なんかさ…3人でこうして過ごすの久しぶりじゃない?」
最近は悠理や蛍も一緒で、いつも賑やかな5人組でいるのが当たり前になっていたから、3人だけで図書館にいるのがなんだか不思議な感じだった。
いつもならここに悠理と蛍もいるんだよね…。
「夏祭りもみんなで回ったし、前集まった時もみんなでゲームセンター行ったしね。
3人だけっていつぶりだろ?」
つい最近まで3人で過ごす時間が多かったのに、何だかそれがかなり前の事の様で、懐かしくて小さくくすくすと笑った。
私の言葉に、瑠夏と天音もペンを持つ手を止める。
「…確かにな。
悠理と蛍が関わるまでいつも3人で行動したりしてたもんな」
瑠夏は、ぼそっと答えた。
少し口角が上がっているのが見える。
天音も私を見て小さく微笑んでいた。
「そうだね、何だか凄く久しぶりな気がする。
賑やかなのもいいけど、たまにはこうやって前みたいに3人で過ごすのもいいな」
2人の表情はとても穏やかで、友達としてこの時間を共有できていることが私にとっても嬉しかった。
みんなのことが大切だから、こういう”いつもの友達との時間”って本当に宝物みたいだなって思う。
さてと、私も早く宿題終わらせないと!
私は2人の大切な友達に囲まれながら、シャーペンを握り直した。
この後、瑠夏と天音に答えが違うと何度もダメだしされたのは言うまでもないけど…。
空は雲一つなく澄み渡っていて、お祭りの熱気はすっかり引いていたけど、まだあの楽しかった夜の記憶が心の中に残っていた。
残りの宿題を片付けようと私は家の近くにある市立図書館へとやってきた。
家だとゴロゴロしてしまって集中できないから、こういう時は静かな場所が一番だ。
図書館の重たいガラスのドアを開けようとした、その時。
「よぉ」
後ろから声をかけられて振り返ると、瑠夏が立っていた。
「瑠夏!?
びっくりした、どうしたの?
瑠夏も宿題?」
「おー…。
家でやろうと思ったけど、暑くてさ。
お前こそまだ宿題終わってねーのかよ」
「ㇺッ、残すところあと少しなの!
瑠夏こそどうなの?」
「俺もあとちょい。
…一緒にやるか、ひなた?」
瑠夏が少し照れたように視線を一瞬外して、また私に視線を戻して首の後ろをかく仕草をする。
私は微笑んで「うん」と頷いた。
2人で図書館の中に入ると、涼しい風が汗ばんだ肌をひんやりと冷やしてくれた。
久々に瑠夏と2人で宿題するのもいいなぁ。
小学生の頃の夏休みを思い出す…。
小5の時だったかな、2人で最終日に焦りながら宿題終わらせたの。
懐かしい思い出に浸ってクスリと笑うと、瑠夏が訝し気に私の顔を覗いた。
「何が可笑しいんだよ?」
「んー?
ちょっと小学生の頃の夏休みの事思い出してたの。
ほら、5年生の時夏休み最終日に2人で宿題やったの覚えてる?」
クスクスと口元に手を添えて笑う。
すると瑠夏も前を向いて懐かしそうに笑った。
「あー、あったなそんなこと。
ひなたが宿題が終わらなくて泣いてたやつだろ?」
「なっ…!
瑠夏だって涙ぐんでたじゃん!」
「は?
涙ぐんでなんかねぇし。
あれは泣きながら宿題をしてるお前が面白くて…!」
「いーや、瑠夏も先生に怒られるって焦ってたの私知ってるんだからね!」
「あのなぁ…」
言い合う様に段々と私たちの声量が大きくなっていき、瑠夏が何か言いかけた時。
「2人とも、ここ図書館だって事忘れてる?」
瑠夏の後ろから誰かに声をかけられた。
やばっ、図書館だって事忘れて大声出しちゃってた!
スタッフの人かな…?
そう思い、瑠夏が前にいて見えない人物を見ようとひょっこり瑠夏の身体から首を傾ける。
瑠夏もその声で振り返った。
「あっ、天音!?」
私より先に瑠夏が声を上げた。
「だから、静かに。
2人の声図書館中に響いてたよ?」
本を片手で抱えた天音がハハッと小さく笑う。
私たちは恥ずかしさからか、顔が熱くなるのを感じた。
「こんな所で話すのもあれだし、俺と同じテーブルで良かったらおいで」
そう言って歩き出す天音に、私と瑠夏は顔を見合わせてから後ろを付いて行った。
天音が使っていただろうテーブルに着くと、すでに広げられたノートパソコンと参考書が置いてあった。
椅子に座りだす天音を見て、私は天音の前に、瑠夏は私の隣に腰を下ろす。
「凄い量だね…。
天音はもう宿題終わったの?」
「うん、今は予習と復習してる感じかな。
ほら、夏休み明けってすぐテストあるだろ?」
「うっ…、そうだね…」
「お前は相変わらず真面目だな」
今は宿題で手一杯なのに、天音はテストの事まで考えてるなんて…流石だなぁ。
広げられた問題集やノートの中身を見るけど、数学をしていたのか私にはさっぱりだった。
とりあえずそれぞれリュックから夏休みの宿題の問題集の紙を取り出す。
瑠夏はいつも通り豪快だけど、図書館だからか小さな音しか立てないように気遣っているのが、なんだか面白かった。
宿題を目の前に広げたところで、私はふと静かに口を開いた。
「ねぇ、なんかさ…3人でこうして過ごすの久しぶりじゃない?」
最近は悠理や蛍も一緒で、いつも賑やかな5人組でいるのが当たり前になっていたから、3人だけで図書館にいるのがなんだか不思議な感じだった。
いつもならここに悠理と蛍もいるんだよね…。
「夏祭りもみんなで回ったし、前集まった時もみんなでゲームセンター行ったしね。
3人だけっていつぶりだろ?」
つい最近まで3人で過ごす時間が多かったのに、何だかそれがかなり前の事の様で、懐かしくて小さくくすくすと笑った。
私の言葉に、瑠夏と天音もペンを持つ手を止める。
「…確かにな。
悠理と蛍が関わるまでいつも3人で行動したりしてたもんな」
瑠夏は、ぼそっと答えた。
少し口角が上がっているのが見える。
天音も私を見て小さく微笑んでいた。
「そうだね、何だか凄く久しぶりな気がする。
賑やかなのもいいけど、たまにはこうやって前みたいに3人で過ごすのもいいな」
2人の表情はとても穏やかで、友達としてこの時間を共有できていることが私にとっても嬉しかった。
みんなのことが大切だから、こういう”いつもの友達との時間”って本当に宝物みたいだなって思う。
さてと、私も早く宿題終わらせないと!
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