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第三章
お出かけという名のデートの約束
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夏休みが明けて数日が経ち、学校生活のリズムが戻ってきたある日の放課後。
その日はたまたま瑠夏と私、2人だけで教室の掃除当番をやる事になった。
他にも後2人いるんだけど、まさかの2人とも
「ごめん、外せない用事があるんだ」
「私も。
ごめんね、明日はちゃんとやるから!」
そう言ってそそくさと帰ってしまった。
蛍や天音、悠理と一緒だといつも賑やかなのに、2人きりだと教室は妙に静かで瑠夏の掃き掃除をするホウキの音だけが、カサカサと響いていた。
「……瑠夏、そこ埃が残ってるよ」
雑巾を持って窓の桟を吹いていた私はそう言って、瑠夏の足元を指さす。
「…あぁ」
彼は短く返事を返してホウキで埃を隅に寄せる。
…何だか元気がないみたいだった。
どうしたのかな?
何か悩んでるとか?
いつもの強気な感じがないと言うか、借りてきた猫のように静かだ。
そういえば最近、瑠夏は何かずっと考え事してるみたいに返事が薄いし、ボーとしてる事が増えた気がする。
「ねぇ、瑠夏」
「…んだよ」
「…最近何か悩んでたりする?」
私は掃除する手を止めて瑠夏を見つめる。
瑠夏はピクッと一瞬肩を揺らした後、何も言わず固まった。
そして、チラチラと私の様子を窺っては何か言いたそうにして黙る。
「何?
何か相談とかあるなら聞くよ?」
瑠夏を安心させるように優しく微笑んでみせる。
すると瑠夏は深呼吸をした後、決心した様に前を向いて足を進め、私の瞳をジッと見つめながら目の前に立った。
「ひなた」
「うん、どうしたの?」
私の名前を呼ぶ瑠夏に、優しく返事を返す。
教室には私達2人だけ。
窓から差し込む夕日が、教室内をオレンジ色に染めて2人を照らす。
その光の中で、瑠夏が私を真っ直ぐに見つめて真剣な顔をしている。
瑠夏がこんな真剣な表情するなんて、珍しいな。
そんな事をふと思った。
「あのさ……」
一瞬だけ視線が外れるものの、またすぐに戻る。
「今度の休みの日、2人でどっか出かけねぇか?
その日1日…ひなたの時間を俺にくれ」
いつもの強気な言葉ではなく、少しだけ言葉を選んでいるみたいにゆっくりと切り出す。
「……えっ」
私は思わず、手に持っていた雑巾を落としそうになった。
少し驚いた顔をして瑠夏を見つめ返す。
瑠夏が、自分から『どこか出かけよう』なんて誘ってくるのも珍しい。
しかも2人でって。
この真剣な顔も珍しいのに、珍しい事が2つ同時に発生することあるんだ?
私の返事待ちなのか、瑠夏は視線を外そうとしない。
もしかして、どこか行きたい場所でもできたのかな?
瑠夏がこうやってどこか行こうって誘ってくれたことが、私はすごく嬉しかった。
幼馴染として、瑠夏が行きたい場所があるならもちろん付き合ってあげたい。
「うん、いいよ!
誘ってくれて凄く嬉しい!
どこに行くの?」
笑顔で答えると、瑠夏はホッとしたように目を細めて口元を緩める。
そして、少しだけ視線を横に逸らした。
「……別に、俺が行きたい場所とかはねぇけど。
でも、ひなたとどっか出掛けてぇ。
どっか行きたい場所あるか?」
視線を戻して聞く瑠夏の顔が夕日に照らされて、ほのかに頬が赤く染まってるみたいだった。
「行きたい場所…」
うーんと腕を組んで考える。
瑠夏とならどんな所が楽しいかな?
ワイワイ楽しめる所とか?
…あっ、遊園地とか!
「瑠夏、遊園地はどうかな?
休日だから人は多いかもだけど…」
「遊園地か…。
いいな、じゃあそこで決まりだ」
瑠夏も一瞬だけ考えた後、すぐに賛成する。
「また詳細とかはメッセージでやりとりしよっか。
ははっ、楽しみ」
「そう…だな」
次の休みの日をワクワクしながら掃除を再開させると、瑠夏は微笑みながらも歯切れの悪い返事をした後、スッと笑みを消して窓の外を静かに眺めていた。
何かを決意したような眼差しで…。
その日はたまたま瑠夏と私、2人だけで教室の掃除当番をやる事になった。
他にも後2人いるんだけど、まさかの2人とも
「ごめん、外せない用事があるんだ」
「私も。
ごめんね、明日はちゃんとやるから!」
そう言ってそそくさと帰ってしまった。
蛍や天音、悠理と一緒だといつも賑やかなのに、2人きりだと教室は妙に静かで瑠夏の掃き掃除をするホウキの音だけが、カサカサと響いていた。
「……瑠夏、そこ埃が残ってるよ」
雑巾を持って窓の桟を吹いていた私はそう言って、瑠夏の足元を指さす。
「…あぁ」
彼は短く返事を返してホウキで埃を隅に寄せる。
…何だか元気がないみたいだった。
どうしたのかな?
何か悩んでるとか?
いつもの強気な感じがないと言うか、借りてきた猫のように静かだ。
そういえば最近、瑠夏は何かずっと考え事してるみたいに返事が薄いし、ボーとしてる事が増えた気がする。
「ねぇ、瑠夏」
「…んだよ」
「…最近何か悩んでたりする?」
私は掃除する手を止めて瑠夏を見つめる。
瑠夏はピクッと一瞬肩を揺らした後、何も言わず固まった。
そして、チラチラと私の様子を窺っては何か言いたそうにして黙る。
「何?
何か相談とかあるなら聞くよ?」
瑠夏を安心させるように優しく微笑んでみせる。
すると瑠夏は深呼吸をした後、決心した様に前を向いて足を進め、私の瞳をジッと見つめながら目の前に立った。
「ひなた」
「うん、どうしたの?」
私の名前を呼ぶ瑠夏に、優しく返事を返す。
教室には私達2人だけ。
窓から差し込む夕日が、教室内をオレンジ色に染めて2人を照らす。
その光の中で、瑠夏が私を真っ直ぐに見つめて真剣な顔をしている。
瑠夏がこんな真剣な表情するなんて、珍しいな。
そんな事をふと思った。
「あのさ……」
一瞬だけ視線が外れるものの、またすぐに戻る。
「今度の休みの日、2人でどっか出かけねぇか?
その日1日…ひなたの時間を俺にくれ」
いつもの強気な言葉ではなく、少しだけ言葉を選んでいるみたいにゆっくりと切り出す。
「……えっ」
私は思わず、手に持っていた雑巾を落としそうになった。
少し驚いた顔をして瑠夏を見つめ返す。
瑠夏が、自分から『どこか出かけよう』なんて誘ってくるのも珍しい。
しかも2人でって。
この真剣な顔も珍しいのに、珍しい事が2つ同時に発生することあるんだ?
私の返事待ちなのか、瑠夏は視線を外そうとしない。
もしかして、どこか行きたい場所でもできたのかな?
瑠夏がこうやってどこか行こうって誘ってくれたことが、私はすごく嬉しかった。
幼馴染として、瑠夏が行きたい場所があるならもちろん付き合ってあげたい。
「うん、いいよ!
誘ってくれて凄く嬉しい!
どこに行くの?」
笑顔で答えると、瑠夏はホッとしたように目を細めて口元を緩める。
そして、少しだけ視線を横に逸らした。
「……別に、俺が行きたい場所とかはねぇけど。
でも、ひなたとどっか出掛けてぇ。
どっか行きたい場所あるか?」
視線を戻して聞く瑠夏の顔が夕日に照らされて、ほのかに頬が赤く染まってるみたいだった。
「行きたい場所…」
うーんと腕を組んで考える。
瑠夏とならどんな所が楽しいかな?
ワイワイ楽しめる所とか?
…あっ、遊園地とか!
「瑠夏、遊園地はどうかな?
休日だから人は多いかもだけど…」
「遊園地か…。
いいな、じゃあそこで決まりだ」
瑠夏も一瞬だけ考えた後、すぐに賛成する。
「また詳細とかはメッセージでやりとりしよっか。
ははっ、楽しみ」
「そう…だな」
次の休みの日をワクワクしながら掃除を再開させると、瑠夏は微笑みながらも歯切れの悪い返事をした後、スッと笑みを消して窓の外を静かに眺めていた。
何かを決意したような眼差しで…。
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