俺の隣にいるのはキミがいい

第三章

見守り役なのに

【悠理side】

チャイムが鳴る少し前。
ひなた達と別れ、教室を出て蛍と並んで歩く。

廊下はざわざわしてるのに、なぜか耳に入ってこない。
蛍が口を開いた瞬間、空気の色が変わった気がした。

「あのさ、さっき言ってた“変わった理由”なんだけどさ」
「ん」
蛍はまっすぐ前を向いたまま小さく息を吐き、俺は短く返事を返す。
「…少し前に、天音が瑠夏に“負ける気はない”って宣戦布告したらしいんだよね」
「……は？」

心臓が一瞬、強く跳ねた。
「まぁ瑠夏からそれ聞いたんだけどね？
あと…。
ひなたから聞いたんだけど、この前の土曜日瑠夏と遊園地に遊びに行ったんだって」

…遊園地に遊びに行くくらいならなんてことないだろ、あの２人幼馴染なんだし…。
そう思うのに、何故か俺の気持ちはソワソワして落ち着かなかった。
黙って蛍の次の言葉に耳を貸す。

「でさ、夕方観覧車に乗って…。
その時、瑠夏から告白されたんだってさ」

それを聞いた瞬間、頭と視界が止まった様に感じた。
でも、すぐに軽く笑う。

「へぇ…アイツら、やっと本格的に動き出したのか」
「…軽いね、もっと驚くと思ったのに」

蛍が俺を残念そうに笑いながら、横目で俺を見た。
その目がどうしようもなく優しくて、でもどこか刺さる。

「で、悠理はこのままでいいの？」
蛍の一言に足が止まった。
歩いてる途中で、誰かに背中を掴まれたみたいに。
胸の奥で、言葉にならない何かがキリッと鳴るのを感じた。
蛍も少し先を歩いて、俺の方を振り向いて足を止める。

「……何言ってんだよ」
小さく笑い、絞り出す様に言葉を続ける。
「最初からあそこは三角関係だろ？
俺はただの見守り役だっつーの」

蛍は「ふーん？」とだけ言って深くは追求してこなかった。
それが逆に気まずい。

再び歩き出して、廊下の途中で蛍と別れた。
教室に戻り、椅子に腰を下ろす。
頬に手を当てて肘をつきながら、窓の外を見る。
蛍のさっきの言葉が、ふっと頭に流れた。

――このままでいいの？

なんでだよ。
当たり前すぎて、考えるまでもないはずなのに…。
胸の奥がチクチクと鈍く痛む。

なんだよこれ。
何でこんな気にしてんだよ。

外は晴れてるのに、胸の中だけは妙に曇って落ち着かなかった。