俺の隣にいるのはキミがいい

空乃 ひかげ

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第三章

救護テントで

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天音に連れられて、救護テントにやって来た私達は女性の保健の先生にこの足を診てもらおうと思ってたんだけど…。
まさか他の子の手当てしてるからと、天音に見てもらう様に言われてしまうだなんて…。

「九条君、確か保健委員だったわよね?
先生ちょっと他の子の治療で今手が離せないから、私が少し見た後は処置の方はお願いできる?」
「えっ」
「…わかりました」
先生に言われて私が驚いていると、天音はすんなり頷いて受け入れてしまった。

「そう。
じゃあ朝日さん…どこが悪いの?」
椅子に座さられ、痛めた方の足を差し出す。
天音は心配そうに横に立って見ていた。
「えっと、右の足首が…」
そう言いかけたところで、先生がしゃがみ込み私の靴と靴下を脱がせて足首をジッと観察していた。

「なるほど。
…これは捻挫ね。
この後も何か種目出るんでしょう?
無理はしない様にね」
「…わかりました」
あれ、他の子に変われって言わないんだ…?

「…今、他の子に変わって貰えって言われると思ってた?」
顔を上げた先生が少し笑う。
私は慌てて首を振った。

「い、いえ…」
「フフ、気を使わなくてもいいわ。
本来ならそう言うのが一番なんだろうけど…、あなたが誰かに任せた方が良いって思うならそうすればいいわ。
でもせっかくの体育祭ですもの。
他の種目に出たいんじゃないかなと思ったから、そう言ったまでの事よ」
そう言いながら立ち上がった先生は、「後はよろしくね」と天音に伝えて他の子の元に行ってしまった。

「…ひなた、手当てするね」
「あ、うん。
お願いします…」
フッと微笑んだ天音が私の前に来てしゃがみ込む。
「少し触るけど良い?」
「うん」
素足になった私の右足を優しく持ち上げて、天音は片膝を地面に付けもう片方の空いてる自分の太ももに、それを置いた。

「あ、天音…」
「何?
今から湿布張るから、少しジッとしてて」
「う、ん……」

天音の太ももに足を置いて治療するなんて…。
触れてる右足の事を考えると、何故か少し意識してしまって胸がドキドキする。
こんな大切に扱ってくれてるみたいな…。
いやいや、私の考えすぎだよね!
天音にとってはなんてことない事なんだよ、きっと!

独り頭の中で言い聞かせながら、湿布を丁寧にシワなく張ってテープを巻いてくれる天音を上から見下ろす。
「…天音、ありがとう」
「どういたいまして。
これくらいなら部活とかで俺も良くくじいてたりしてから、無理しなければ早く治るよ」
「そっか。
私、午後に借り物競争が残ってるんだよね…。
あとリレーもあるけど、それは誰か代わりの人に声かけてみる」
私の言葉を聞いて、天音の動きがピタリと止まる。

顔を上げることなく、天音は手を止めたまま聞いてきた。
「…借り物競争は出たいの?」
静かだけど、少しいつもより低めの声色。
天音は出る事反対なのかな…?
そう思いつつも、私はなるべく明るめに答えた。

「うん、借り物は出たい。
流石にこの足でリレーに全力を注ぐことはできないけど、借り物なら探す時間もあるだろうし大丈夫かなって」
優しく答える私に、天音がやっと顔を上げて見つめてくる。
その表情はさっき私の腕を掴んだ時と同じ様に、真剣な眼差しだった。
私もそんな天音を見つめ返し、少しの沈黙が流れる。
一瞬の出来事だったのに、何分もそうしてみるみたいに思えた。
そして痺れを切らしたのか、小さくため息を漏らす声と共に天音の顔が緩んだ。

「…はぁ、わかったよ。
ひなたがこうだって決めたら中々諦めないもんな。
テーピングしといたから、これで少しはまともに歩けると思うよ」
巻き終わって、ゆっくりと太ももから私の足を降ろして立ち上がる。
「ホント?
ありがとう天音!」
これで少しは痛みも引くかな?
私は治療してもらった足首を確認しながら、丁寧に靴下と靴を履いた。

「テーピングしてるって言っても、あまり無茶しない事。
いい?」
「はーい」
まるでお母さんとのやり取りみたい。
私は可笑しくてクスクスと笑うと、天音もそう思ったのか小さく笑っていた。
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