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緑の指を持つ娘 温泉湯けむり編
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肌の爛れた青年のジア殿下の幻影の後ろには、うっすら幾つもジア殿下の歩んできたそれまでの人生が、走馬灯のようにぼんやり重ねて見えている。
何かを、ジア殿下はこの鏡の次の持ち主に伝えようとしているのだ。
ジア殿下の黄金の像のように輝かしい青年時代。屈強な精神と肉体を誇り、敵軍を駆逐してゆく王国の希望。
乙女の憧れという憧れをその一身に受け、自信みなぎる若く美しいその姿。
フェリクスは、少し前の輝かしい己の姿と重ねて、暗い気持ちになる。
そして映像はアビーブの火山の不穏な動きに変わる。
火山が不気味な黒煙を吐き出し始めた頃に、ジア殿下の皮膚の疾患がはじまり出す。
火山が熱を持つと、ジア殿下の体に熱がこもる。
暗い寝室で苦しみもがいているジア殿下の姿は目をおおうものだった。
肌は火を吹いたように崩れ、強く逞しいその姿は二目とみれないほどの姿に変わり果てていた。
痛ましい映像に心が乱れる中、だがフェリクスは一つの可能性に思い至った
(もしも、アビーブ火山の活動に、王家の雷属性の魔力が反応しているのであれば)
火山熱の高まりに連動して、皮膚からの魔力の放出に苦しんでいるジア殿下の映像を見て、火山の入り口に建立されている聖なる石碑の散文詩の文言を思い出す。
火山の子、アビーブの王。
アビーブの山を母とし、
アビーブの神を父とする。
聖なる赤子よ、アビーブは其方の王国。
ああ愛しい我が子、アビーブの王。
映像は流れてゆく。
王宮で苦しみ抜いたジア殿下は病気の療養の為に、王宮から、王家の領地の田舎の小さなコテージに身を移した様子だ。コテージから、黒い煙を吐くアビーブ火山が見える。
たった数人の従者を連れて、もう馬にすら乗ることができなくなったジア殿下は、馬車に揺られていた。
どうやらこの温泉の地が気に入ったジア殿下は離宮を建築する事とした様子で、次の映像でゆっくりと建物の建築の様子が伺える。例の背の高い温室も、同じ時期に建てられている様子だ。
鏡に込められた古い魔術はそこで、魔術の展開に亀裂が入っている様子。鏡の表面に走るヒビがそれなのだろう。ジア殿下の離宮での生活の映像が浮き上がるが、乱れて、何も良く映らない。
次に鮮明に映像が整ったのは、あの人外の温泉の映像だった。
深い森の奥の、水色の温泉は、フェリクスが見たあの温泉と寸分も変わらない。温泉の湯には、二つの顔のある女や、耳の尖った生き物。白くて長い、みみずのような大きな生き物。人外達がその体を湯に浸して、じっと目を閉じて湯に身を任せている。
ちゃぷん、と湯が揺れている。
水色の温泉に、痛ましい肌をあらわにした、ジア殿下が体を浸してゆくのが見える。
ジア殿下の体は、やがてゆっくりと水色の湯の中に溶けてゆき、そして、水色の湯の中から、一匹の巨大な黒亀の姿が現れた。
(な・・何だと・・)
この全く何が起こっているのか理解ができないような光景に、だが完全無欠の王太子と呼ばれたフェリクスの明晰な頭脳は、すぐに状況を判断した。
(あの温泉は、人外の癒しの温泉などではない。命が、魂のあるべき姿に戻る、復旧の場所だったのか)
汗の滲む拳をフェリクスは握りしめた。
神々の世界の住人は、その本来あるべき姿ではなく、別の姿に身をやつして生きている事が多いのだ。
別の姿に身をやつしていた神が、その本来あるべき姿に身を戻すために、作られた温泉なのだ。
フェリクスは確信した。
怪我を負った生き物の体が癒やされるのは、おそらくそのただの副産物で、その副産物の恩恵に授かるために、人外が集まっているのだろう。
(黒亀の姿こそが、我々雷属性の王族の、真の姿だとしたら)
やがて、かつてジア殿下であった黒亀の体に、大きな大きな雷の魔力が満ちてくる。
黒亀の硬い甲羅に守られて、どれほど雷の魔力がその体に満ちても、もう魔力は黒亀の皮膚を破らない。
そして黒亀となったジア殿下は、ゆっくり、ゆっくり火山の火口を目指して歩みを進めてゆく。
そしてアビーブ火山の荒れ狂う火口に辿り着くと、その全身全霊で大きな雷を放出して、火口にその身を投げ込んだ。
火口は巨大な雷の魔力を受け、一気に噴火は鎮静した。
何かを、ジア殿下はこの鏡の次の持ち主に伝えようとしているのだ。
ジア殿下の黄金の像のように輝かしい青年時代。屈強な精神と肉体を誇り、敵軍を駆逐してゆく王国の希望。
乙女の憧れという憧れをその一身に受け、自信みなぎる若く美しいその姿。
フェリクスは、少し前の輝かしい己の姿と重ねて、暗い気持ちになる。
そして映像はアビーブの火山の不穏な動きに変わる。
火山が不気味な黒煙を吐き出し始めた頃に、ジア殿下の皮膚の疾患がはじまり出す。
火山が熱を持つと、ジア殿下の体に熱がこもる。
暗い寝室で苦しみもがいているジア殿下の姿は目をおおうものだった。
肌は火を吹いたように崩れ、強く逞しいその姿は二目とみれないほどの姿に変わり果てていた。
痛ましい映像に心が乱れる中、だがフェリクスは一つの可能性に思い至った
(もしも、アビーブ火山の活動に、王家の雷属性の魔力が反応しているのであれば)
火山熱の高まりに連動して、皮膚からの魔力の放出に苦しんでいるジア殿下の映像を見て、火山の入り口に建立されている聖なる石碑の散文詩の文言を思い出す。
火山の子、アビーブの王。
アビーブの山を母とし、
アビーブの神を父とする。
聖なる赤子よ、アビーブは其方の王国。
ああ愛しい我が子、アビーブの王。
映像は流れてゆく。
王宮で苦しみ抜いたジア殿下は病気の療養の為に、王宮から、王家の領地の田舎の小さなコテージに身を移した様子だ。コテージから、黒い煙を吐くアビーブ火山が見える。
たった数人の従者を連れて、もう馬にすら乗ることができなくなったジア殿下は、馬車に揺られていた。
どうやらこの温泉の地が気に入ったジア殿下は離宮を建築する事とした様子で、次の映像でゆっくりと建物の建築の様子が伺える。例の背の高い温室も、同じ時期に建てられている様子だ。
鏡に込められた古い魔術はそこで、魔術の展開に亀裂が入っている様子。鏡の表面に走るヒビがそれなのだろう。ジア殿下の離宮での生活の映像が浮き上がるが、乱れて、何も良く映らない。
次に鮮明に映像が整ったのは、あの人外の温泉の映像だった。
深い森の奥の、水色の温泉は、フェリクスが見たあの温泉と寸分も変わらない。温泉の湯には、二つの顔のある女や、耳の尖った生き物。白くて長い、みみずのような大きな生き物。人外達がその体を湯に浸して、じっと目を閉じて湯に身を任せている。
ちゃぷん、と湯が揺れている。
水色の温泉に、痛ましい肌をあらわにした、ジア殿下が体を浸してゆくのが見える。
ジア殿下の体は、やがてゆっくりと水色の湯の中に溶けてゆき、そして、水色の湯の中から、一匹の巨大な黒亀の姿が現れた。
(な・・何だと・・)
この全く何が起こっているのか理解ができないような光景に、だが完全無欠の王太子と呼ばれたフェリクスの明晰な頭脳は、すぐに状況を判断した。
(あの温泉は、人外の癒しの温泉などではない。命が、魂のあるべき姿に戻る、復旧の場所だったのか)
汗の滲む拳をフェリクスは握りしめた。
神々の世界の住人は、その本来あるべき姿ではなく、別の姿に身をやつして生きている事が多いのだ。
別の姿に身をやつしていた神が、その本来あるべき姿に身を戻すために、作られた温泉なのだ。
フェリクスは確信した。
怪我を負った生き物の体が癒やされるのは、おそらくそのただの副産物で、その副産物の恩恵に授かるために、人外が集まっているのだろう。
(黒亀の姿こそが、我々雷属性の王族の、真の姿だとしたら)
やがて、かつてジア殿下であった黒亀の体に、大きな大きな雷の魔力が満ちてくる。
黒亀の硬い甲羅に守られて、どれほど雷の魔力がその体に満ちても、もう魔力は黒亀の皮膚を破らない。
そして黒亀となったジア殿下は、ゆっくり、ゆっくり火山の火口を目指して歩みを進めてゆく。
そしてアビーブ火山の荒れ狂う火口に辿り着くと、その全身全霊で大きな雷を放出して、火口にその身を投げ込んだ。
火口は巨大な雷の魔力を受け、一気に噴火は鎮静した。
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