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「あ、聖女メリル様だ。珍しい、こんな所にお一人で歩いておられるところを目にするなんて、今日はなんて良い日だ」
「本当だ、ああ噂に違わずユリの化身のようなお姿だ」
「大聖女様の末の娘だけあって、聖力は全聖女の中で一番大きいそうだ」
「なんとたおやかで美しい」
神殿の回廊を一人の若い聖女がゆっくりと歩んでゆく姿をみて、神殿の若い衛兵たちは、ひそやかにそう噂する。
雪のように白いきめ細やかな肌。絹のような真っすぐな黒髪。長いまつげに覆われた伏し目がちな黒い瞳。
メリルはここ、スタインウェイ王国の神殿にいる聖女の一人だ。
聖女とは、王国の中で非常に希少な存在である光魔法を使う事のできる娘達の中から、神の神託により選ばれた娘達の事を指す。
このスタインウェイ王国で登録されている聖女は合計で19人。
その聖女たち、引いては神殿の頂きに存在するのが大聖女。
大聖女は王すら凌駕するほどの尊敬と力を誇り、神殿の九重のベールの奥に神の花嫁として存在する。
メリルは、そんな大聖女の末娘で、大聖女の人の世界での交わりによって生まれた。
メリルは19人のいる聖女達の中でも大聖女の実の娘という事もあり、他の聖女とは一線を画すほどの大きな聖力の持ち主だ。
尚、実の父親はメリル本人にすら明かされていない。大聖女の人としての営みは、謎で包まれているのだ。
「あ、メリル様がこちらを向いてくださった!」
衛兵がおもわず叫んだ。
「なんて美しいお姿だ。ああ、なんと憂いに満ちたお顔をされているんだ。きっとこの神殿に祈りをささげに来る人人の為にその美しいお心を砕いているにちがいない」
「あれほどお姿の美しい、生まれついての聖女様だ。きっとお心も湖のように澄み切って美しいのだろう」
聖女達は神殿の奥で、人々の願いを神に伝える祈りを捧げて日々を暮らしている。
時には呪いを受けた人を浄化したり、生まれたばかりの子供に祝福をさずけたり、参拝者に挨拶する為に神殿の表にでてくる事もあるが、基本的に結婚して聖女を引退するまでは神殿の奥で日々祈祷を行い清い暮らしをしているので、神殿の人々以外とは接する事はほとんどない。
そういった訳で、その美貌と大聖女の娘であるという触れ込みから、聖女メリルは外の世界の人々からはこのように憧れと尊敬の存在とされている存在だ。
だがメリルを実際よく知る全ての神殿の関係者からは、メリルは「失敗聖女」とよばれている。
(どうしよう、どうしよう・・・!)
衛兵達のひそやかな声を後ろに、メリルは静かに回廊を歩きながら、だが心の中は大海原の中で大嵐にあったかのごとく荒れに荒れていた。
メリルはゆっくりと歩みを進めると、回廊を抜けた先にある一つの大きな扉の前で歩みを止めた
神官の執務室だ。
メリルは覚悟を決めたように一つため息をついて、震える手で、扉を叩く。
「せ・・聖女メリル、入ります」
「本当だ、ああ噂に違わずユリの化身のようなお姿だ」
「大聖女様の末の娘だけあって、聖力は全聖女の中で一番大きいそうだ」
「なんとたおやかで美しい」
神殿の回廊を一人の若い聖女がゆっくりと歩んでゆく姿をみて、神殿の若い衛兵たちは、ひそやかにそう噂する。
雪のように白いきめ細やかな肌。絹のような真っすぐな黒髪。長いまつげに覆われた伏し目がちな黒い瞳。
メリルはここ、スタインウェイ王国の神殿にいる聖女の一人だ。
聖女とは、王国の中で非常に希少な存在である光魔法を使う事のできる娘達の中から、神の神託により選ばれた娘達の事を指す。
このスタインウェイ王国で登録されている聖女は合計で19人。
その聖女たち、引いては神殿の頂きに存在するのが大聖女。
大聖女は王すら凌駕するほどの尊敬と力を誇り、神殿の九重のベールの奥に神の花嫁として存在する。
メリルは、そんな大聖女の末娘で、大聖女の人の世界での交わりによって生まれた。
メリルは19人のいる聖女達の中でも大聖女の実の娘という事もあり、他の聖女とは一線を画すほどの大きな聖力の持ち主だ。
尚、実の父親はメリル本人にすら明かされていない。大聖女の人としての営みは、謎で包まれているのだ。
「あ、メリル様がこちらを向いてくださった!」
衛兵がおもわず叫んだ。
「なんて美しいお姿だ。ああ、なんと憂いに満ちたお顔をされているんだ。きっとこの神殿に祈りをささげに来る人人の為にその美しいお心を砕いているにちがいない」
「あれほどお姿の美しい、生まれついての聖女様だ。きっとお心も湖のように澄み切って美しいのだろう」
聖女達は神殿の奥で、人々の願いを神に伝える祈りを捧げて日々を暮らしている。
時には呪いを受けた人を浄化したり、生まれたばかりの子供に祝福をさずけたり、参拝者に挨拶する為に神殿の表にでてくる事もあるが、基本的に結婚して聖女を引退するまでは神殿の奥で日々祈祷を行い清い暮らしをしているので、神殿の人々以外とは接する事はほとんどない。
そういった訳で、その美貌と大聖女の娘であるという触れ込みから、聖女メリルは外の世界の人々からはこのように憧れと尊敬の存在とされている存在だ。
だがメリルを実際よく知る全ての神殿の関係者からは、メリルは「失敗聖女」とよばれている。
(どうしよう、どうしよう・・・!)
衛兵達のひそやかな声を後ろに、メリルは静かに回廊を歩きながら、だが心の中は大海原の中で大嵐にあったかのごとく荒れに荒れていた。
メリルはゆっくりと歩みを進めると、回廊を抜けた先にある一つの大きな扉の前で歩みを止めた
神官の執務室だ。
メリルは覚悟を決めたように一つため息をついて、震える手で、扉を叩く。
「せ・・聖女メリル、入ります」
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