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リンゴ園 ワーウィック
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翌日。
空は秋の抜けるような青空が広がる、美しい日だ。
「ああ、気を付けて帰ってくれ、大神官様によろしく伝えてくれ」
「はいよ旦那も気を付けて。ここはリンゴ園と遺跡以外は何もないですけど、最近は時々厄介な魔獣がでるようになったとかいうんですよ。大聖女様の結界がこんな近くにあるのにおかしなこったです。他の結界の街でも同じらしいですぜ」
「はははは、ありがとう。気を付けてリンゴ園を楽しんでくるよ」
(何も知らないはずの馬車の御者まで、そろそろ結界の様子に気が付いている。この旅を迅速に、そして無事全うする事は、俺が考えていたよりも重大な責任を伴うものなのかもしれない)
馬車の中で一晩過ごした後、ワーウィックの街まで二人を送り届けてくれた幌馬車の御者に挨拶をすると、カイアスは心の中でそう考えていた。
「ああやっと着いたー! ああ、お尻が痛いわ。 ひゃー、カイアス様、ここは本当に何もないですね。見渡す限りのリンゴの森ですね」
慣れない馬車に2日もゆられて、カイアスの後ろで大きくメリルは伸びをして当たりを見渡した。
二人の最初の目的地、ワーウィックの街。
どこまでも続くリンゴ園と、小さな石づくりのかつての神殿があった建物の名残があるだけの、何もない場所。
その当時聖女達が共同生活していた石づくりの建物は一応聖地扱いなので、大聖女の全国行幸の際はここにも立ち寄られる。
カイアスは懐かしそうに景色を見渡すと言った。
「ああ、夏にここに来たら一面真っ白い花畑だ。まるで幻の世界に入り込んだみたいに美しいぞ。幻の海を泳いでいる気持ちになる。風が吹くと、花びらが吹雪のようで実に美しい。夜の景色も素晴らしいぞ。お前が聖女をお払い箱になったら、是非夏にここを訪れると良い」
「ええ!!なんて綺麗な景色! 私、是非見てみたいわ。カイアス様は夏にここによく来られるのですか?」
メリルはうっとりと、想像の世界に羽根を羽ばたかせた。
一面真っ白な、幻の海に紛れ込んだかのような花の海。満開の花の森の中心で空を見上げると、ひらひらと雪のように花びらが降ってくる。
夜になると、白い海の合間から、ちかちかと星の瞬きが見えるのだろうか。
ひらひら花びらはどんな香りがするのだろう。きっとこのリンゴのような・・・
「ああ。ここの奥に岩の断崖があるんだ。ここの断崖で軍事訓練が行われる事があって、その時に何度か通りかかった事がある。辺り一体が真っ白い花できれいだ・・って!!! こらお前、コラ拾うな! ここの落ちたリンゴには」
カイアスが叫ぶ声も間に合わず、
「きゃああああ!!!!」
メリルが何気なく手にした、落ちたリンゴの中に潜んでいた、小型の蜂型魔獣がメリルの顔の前に飛び出してきた!!
ばちん!!
蜂型魔獣はメリルの顔に至近距離から思い切り体当たりをかまして何処かに飛んで行ってしまった。
「いたあーい!!!」
「お、おい、大丈夫か」
ぼうっとして想像の世界に意識を飛ばしていたメリルは、避ける事もできずにまともに食らってしまった。
蜂型魔獣に鼻を噛まれしまったらしく、メリルの鼻は真っ赤に腫れあがって酷い状況だ。
あわてて水で濡らしたハンカチをメリルの鼻に当ててやりながら、呆れてカイアスは言った。
「あー、やれやれ。落ちたリンゴには蜂型の魔獣が巣を作るんだよ。青いリンゴは大丈夫だけれど、絶対に熟れて落ちたリンゴは拾うなって、子供でも知ってるだろう。お前は親から学ばなかったのか?」
真っ赤なに腫れた鼻を抑えながら、メリルは涙顔で答えた。
「ごめんなさい、母親は大聖女様だし何も教えてもらってなくて。それに神殿育ちなので、リンゴが木に生えてるのを見たのも初めてなんです・・嬉しくなっちゃって、つい」
「あ・・そうだったな、悪い・・それにしても見事に腫れたな」
二人がそうしてオロオロしていると、後ろの方から、声がした。
「おーい、おじょうちゃん大丈夫かー?」
後ろを振り返ると、農家の恰好をした若い男が大きく手を振りながら遠くから歩いてきている所だった。
大きな笑顔を見せながら近づいてきた男は、メリルの顔を一目見ると笑って言った。
「ははは、魔蜂にやられたのか。ここの蜂は毒がないから大丈夫だけれど、丸一日はそのまま腫れがひかないよ。近くに俺の家がやってる宿があるからそこで手当してやるよ、俺の名前はガラ。父ちゃんとここのリンゴ園をやってるんだ」
空は秋の抜けるような青空が広がる、美しい日だ。
「ああ、気を付けて帰ってくれ、大神官様によろしく伝えてくれ」
「はいよ旦那も気を付けて。ここはリンゴ園と遺跡以外は何もないですけど、最近は時々厄介な魔獣がでるようになったとかいうんですよ。大聖女様の結界がこんな近くにあるのにおかしなこったです。他の結界の街でも同じらしいですぜ」
「はははは、ありがとう。気を付けてリンゴ園を楽しんでくるよ」
(何も知らないはずの馬車の御者まで、そろそろ結界の様子に気が付いている。この旅を迅速に、そして無事全うする事は、俺が考えていたよりも重大な責任を伴うものなのかもしれない)
馬車の中で一晩過ごした後、ワーウィックの街まで二人を送り届けてくれた幌馬車の御者に挨拶をすると、カイアスは心の中でそう考えていた。
「ああやっと着いたー! ああ、お尻が痛いわ。 ひゃー、カイアス様、ここは本当に何もないですね。見渡す限りのリンゴの森ですね」
慣れない馬車に2日もゆられて、カイアスの後ろで大きくメリルは伸びをして当たりを見渡した。
二人の最初の目的地、ワーウィックの街。
どこまでも続くリンゴ園と、小さな石づくりのかつての神殿があった建物の名残があるだけの、何もない場所。
その当時聖女達が共同生活していた石づくりの建物は一応聖地扱いなので、大聖女の全国行幸の際はここにも立ち寄られる。
カイアスは懐かしそうに景色を見渡すと言った。
「ああ、夏にここに来たら一面真っ白い花畑だ。まるで幻の世界に入り込んだみたいに美しいぞ。幻の海を泳いでいる気持ちになる。風が吹くと、花びらが吹雪のようで実に美しい。夜の景色も素晴らしいぞ。お前が聖女をお払い箱になったら、是非夏にここを訪れると良い」
「ええ!!なんて綺麗な景色! 私、是非見てみたいわ。カイアス様は夏にここによく来られるのですか?」
メリルはうっとりと、想像の世界に羽根を羽ばたかせた。
一面真っ白な、幻の海に紛れ込んだかのような花の海。満開の花の森の中心で空を見上げると、ひらひらと雪のように花びらが降ってくる。
夜になると、白い海の合間から、ちかちかと星の瞬きが見えるのだろうか。
ひらひら花びらはどんな香りがするのだろう。きっとこのリンゴのような・・・
「ああ。ここの奥に岩の断崖があるんだ。ここの断崖で軍事訓練が行われる事があって、その時に何度か通りかかった事がある。辺り一体が真っ白い花できれいだ・・って!!! こらお前、コラ拾うな! ここの落ちたリンゴには」
カイアスが叫ぶ声も間に合わず、
「きゃああああ!!!!」
メリルが何気なく手にした、落ちたリンゴの中に潜んでいた、小型の蜂型魔獣がメリルの顔の前に飛び出してきた!!
ばちん!!
蜂型魔獣はメリルの顔に至近距離から思い切り体当たりをかまして何処かに飛んで行ってしまった。
「いたあーい!!!」
「お、おい、大丈夫か」
ぼうっとして想像の世界に意識を飛ばしていたメリルは、避ける事もできずにまともに食らってしまった。
蜂型魔獣に鼻を噛まれしまったらしく、メリルの鼻は真っ赤に腫れあがって酷い状況だ。
あわてて水で濡らしたハンカチをメリルの鼻に当ててやりながら、呆れてカイアスは言った。
「あー、やれやれ。落ちたリンゴには蜂型の魔獣が巣を作るんだよ。青いリンゴは大丈夫だけれど、絶対に熟れて落ちたリンゴは拾うなって、子供でも知ってるだろう。お前は親から学ばなかったのか?」
真っ赤なに腫れた鼻を抑えながら、メリルは涙顔で答えた。
「ごめんなさい、母親は大聖女様だし何も教えてもらってなくて。それに神殿育ちなので、リンゴが木に生えてるのを見たのも初めてなんです・・嬉しくなっちゃって、つい」
「あ・・そうだったな、悪い・・それにしても見事に腫れたな」
二人がそうしてオロオロしていると、後ろの方から、声がした。
「おーい、おじょうちゃん大丈夫かー?」
後ろを振り返ると、農家の恰好をした若い男が大きく手を振りながら遠くから歩いてきている所だった。
大きな笑顔を見せながら近づいてきた男は、メリルの顔を一目見ると笑って言った。
「ははは、魔蜂にやられたのか。ここの蜂は毒がないから大丈夫だけれど、丸一日はそのまま腫れがひかないよ。近くに俺の家がやってる宿があるからそこで手当してやるよ、俺の名前はガラ。父ちゃんとここのリンゴ園をやってるんだ」
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