失敗聖女と不運の騎士 

Moonshine

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古都・ラペット

翌朝、二人はもう例の断崖の麓まで来ていた。

カイアス的には一夜漬けではなく、もうちょっと絨毯を飛ばす練習してから断崖に来たかったのだが、今日の明け方宿から断崖の方を見てみると、砂漠ホークの親鳥の旋回に加えて、他の砂漠ホーク達も集まってきて、黒い渦になっているのが見えたのだ。

砂漠ホークは非常に知能が高く、愛情が深い。
仲間の子供の命の危機が近いことを群れが察して、だがどうする事もできないで旋回しているのだろう。
おそらく一刻の猶予もないのだろう。

カイアスは薔薇色のつちの上にメリルの白い絨毯をそっと広げると、メリルをその上に乗せて、ブツブツと魔術を唱え、ふわり、と絨毯を浮かせた。

原理は簡単。弱い風魔法を地面に放って、その吹き返しの風に乗って浮かせているだけだ。
あとはその風の強さを調節して、ゆっくりと崖の下に降りていけばいい。

カイアスは絨毯が魔力で安定した事を確認すると、自分もそっと絨毯に乗り込んで、覚悟を決めて断崖をゆっくり降りて行くこととした。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

カイアスはゆっくりと風魔術を展開させ、慎重に少しづつ絨毯は崖伝いに降りてゆく。
断崖の壁には他にも珍しい砂漠燕の巣や、珍しい砂漠の植物などが自生しており、カイアスにとってはなかなか興味深いものだ。

「メリルみえるか、巣の中で幼鳥がぐったりしている。早く結界を閉じないと、あれは明らかに脱水症状だ」

カイアスは懐から魔道具の双眼鏡を取り出して地面を覗きながら、己の傍で高さに慄いているメリルに語りかけた。

「ほ、本当ですね、カイアス様・・早く行って結界を閉じてあげないと・・でも、カイアス様・・めちゃくちゃこ、こここ怖いです」

断崖の生態系の観察を楽しんでいるカイアスとは違い、メリルは目をぎゅっとつぶって、ガタガタ震えてカイアスにガッチリとつかまって離そうとしない。

それはそうだ。何せ急な断崖をゆらゆら揺れる絨毯に乗って下降しているのだ。
断崖での訓練を重ねている騎士のカイアスとは違って、メリルは神殿の箱入り。行ったことのある高い場所になど、神殿の塔以外では、せいぜい王宮の広間ぐらいだ。
カイアスの手を離して、絨毯から落ちたら最後、神様の元へ直行する事は確実であろう高さ、弱い風がメリルの頬を掠めるたびに真っ青になる。

カイアスは呆れて言った。

「だから何度も聞いただろう、こんな絨毯に本当に乗れるのか、お前は本当に大丈夫なのかと! まあしっかり俺に捕まっていろ」
「カイアス様、絵本で見た絨毯の旅はもっと楽しそうだったんです! こんな高くて怖くて揺れるだなんて一言も書いてなかったんです!」
「アホか! 絵本は夢物語だ! 現実はこんなもんだ!」

ギー!ギー!

そうこうしているうちに、何者かが巣に近づくのを察知した砂漠ホーク達が警戒音を発しながら二人の絨毯の周りを旋回し始めた。
黒い旋回は最初は遠くから見ているだけだったが、少しづつ、そしてどんどん近づいてきて、その大きな体で二人を威嚇し始める。

「あ、こら、向こうにいけ! お前らの仲間の子供を助けてやるんだ、邪魔するな!」

魔術を発動させているので片手が塞がっているカイアスは、しっし、と大声を出して追い払おうとした。

ギー!ギー!

もちろんそんなカイアスの願いの声など砂漠ホークに届くわけはない。砂漠ホーク達は仲間の声を聞きつけて、どんどんと絨毯の周りに集まってくる。

「きゃああ! カイアス様、私の髪を引っ張られました!」
「あ、痛え! こら突っつくな!」
「痛い!ちょっと、私のベール! 返してちょうだい!!」

興奮状態に陥った砂漠ホーク達は、どんどん激しく二人を突っつき出して、メリルのベールを引っぺがすわ、カイアスの髪をむしるわで、手がつけられない。

「ああ! こら、絨毯はやめろ! 落ちる!!」

右から左から、砂漠ホーク達は今度は事もあろうに絨毯を突っつき出した。

「きゃああ!!」

ぶすりとくちばしで穴が空いた絨毯は、バランスを失って傾き始めた。

「まずい、メリル!! 地面はもうすぐだ、今すぐここから発動できるか!! 俺が支えている!!体を預けてくれ!!」

「やってみます!」

カイアスは半分崩れかけた絨毯の上で、メリルの体を後ろからぎゅっと抱きしめて固定すると、メリルは両手を地面に向けて、最大の出力で聖力を放出した!

ゴゴゴゴゴゴ

あたり一面はメリルの放出した聖力が反射して、薔薇色の岩がカッと黄金に輝く。

ぴよぴよと力なく囀るひな達の横で、聖力を浴びた結界の穴は、みるみるうちに閉じてゆく。

「塞ぎました! カイアス様成功です!」

光に怯んだ砂漠ホーク達は、一瞬怯んだが、結界が閉じられたのが感じたのか、一斉に巣の幼鳥を目指してゆく。おそらく間に合ったのだろう。
メリルの後ろから、大きな声が帰ってくる。

「でかしたぞメリル!! 後は目を閉じて耳を塞いでいてくれ!!」

「ええ? カイアス様なんで??」

メリルの問いには答えずに、カイアスは二人の体に強い防御魔法をかけると、メリルはカイアスの体に包まれたまま、どこかに強い衝撃で吹き飛ばされているを感じていた。
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