異世界占い師・ミシェルのよもやま話

Moonshine

文字の大きさ
19 / 113
お水の神様がついてるのに、お水にならないのは、不幸な話だ

8

しおりを挟む
キラキラと輝く光は、二つのサイコロを包み、二つの数字を示した。

ミシェルは、祈るような気持ちで手元の歌詞集のページを繰る。

ページが指示したのは、ミシェルが、どの男とだったか、コンサートに行ったこともある、割と有名な歌手のヒット曲だ。ミシェルは、ゆっくりと歌詞を読んだ。

「人は泣いてばかりじゃない、貴女の涙が枯れ果てたら、そしたら一緒に海にいこう、海でおよぐ君はきれいだ」

「人魚のように自由に泳ぐ君はきれいだ」

「君はきれいだ」

そして、光の粒は、お酒に酔っているのだろうか、少し赤い顔をして、海際ではしゃぐ、人魚のように美しい女の姿をみせた。

女は晴れやかな顔をしていた。
自由を取り戻したように光り輝く女は、幸せそうだった。

そして多くの煌びやかな男たちが、波と戯れる女のその手を求めて、追っていた。
そして、そのしなやかに伸びる手には、たくさんの、剣ダコ。

ミシェルは、笑ってしまった。

後ろの光の粒は、妖艶にほほ笑むと、片目をつぶって、ミシェルの思考にはいりこんだ。

(なるほど。割と簡単な話だわ)

ミシェルは思考がゆったりと入り込んでくるのを心地よく受け取りながら、妙に納得してしまった。

アランの母は、アランと同じ水の神様の、強い祝福をもっていた。

だが、アランの母には、祝福を御するほどの、人間の器がなかったのだ。
祝福の引力の強さにに抗えずに、水の女神の祝福の衝動の元に、人生を歩いた。
アランの母は、水の女神の祝福の力に飲まれ、人生を支配され、祝福という名の呪いの、奴隷となったのだ。

祝福と呪いは、表裏一体のもの。

強すぎる祝福は、御す事ができなければ、呪いともなる。
アランの母は、その強大な祝福を御すだけの強い器を、もっていなかったのだ。

アランは違う。
アランはその母と同じ祝福を受け、生まれてきている。

だが、心優しい父と、そして兄の為に、自分を律し、己の魂と肉体を鍛え、その本質を封印し、強く生きてきた。

今、水の神の祝福を解放した所で、祝福の引力に、引きずられたりはしない。
人生を、飲み込まれたりしない。
アランは、水の神の祝福を、正しく祝福として受け取る事ができる大きな器を、手に入れているのだ。

(そうよ。アンジェリーナは、勝ったのよ。もう安全なのよ)

ミシェルの、いつも正しいおばさんは、宝くじを買ったり、しないといっていたな。
こんなところでまた、おばさんの事を思い出して、少し苦笑いだ。

「みちちゃん、大きな祝福には、税金がついてくるの。大きな幸福の後は、不幸が一緒についてくるっていうのよ。だから宝くじの高額当選者は、だいたい後で不幸になる事が多いのよ。だから堅実に生きるのが一番なの」

なんてつまらない考え方だ、と当時は感じていたものだ。
おばさんよりもう少し夢みているおじさんは、20枚ほどこっそり買っていたか。

アランとその母の受けた水商売の神からの大きな祝福の厄介さを思うと、やっぱりおばさんは、いつも正しい。

きょとんとしているアランに、ミシェルは先ほどまでの深刻な顔などどこかに行ったかのごとくカラカラと笑って、アランの肩を、ポンと叩いた。

父と兄に大切に作り上げられたアランという人物は、アンジェリーナという哀れな娘への呪いなのでは、なかった。
強力すぎる水の神の祝福を身に受けた、アンジェリーナを、守るための、騎士を、この娘の父は、作っていたのだ。

(愛されていたのね。水の神様からも、そしてご家族からも)

このアンジェリーナを愛してやまない父は、本能的にこの娘を祝福から守る方法を知っていたのだろう。
父の大きな、大きな愛の為す技だ。
素晴らしい、いい父ちゃんだ。本当に。

ミシェルは、ちょっとしんみりとして、それから、このアンジェリーナに付いている神様が、水商売のお姉さま方垂涎の、最強の水商売の神様だったことを思い出した。

ちぇ、ちょっとうらやましいじゃないか。

アランがアンジェリーナに戻った瞬間、本当に瞬間で、彼女を追い求めてやまない男たちが列をなすだろう。
水の祝福を正しく受け取り、御す事ができる器の持ち主であるアンジェリーナは、男たちを手玉に取って、自由自在に祝福を、使いこなすだろう。

ミシェルはちょっと物欲しげにアランの後ろの神様に視線を送ってみたが、神様はどうやらミシェルにはまるきりご利益をくれる気はないらしく、ちらっと目を合わせると、光の粒はさらさらと霧散して、さっさと姿をくらませた。

やれやれ、ミシェルへの用事は終わったらしい。現金な神様だ。

(ちょっとくらい私にも、水の祝福のおすそ分けほしかったところだわ)

ちぇ、と思うが、アンジェリーナを、このがちがちの近衛の騎士、アランの中から出してくる方が先だ。
これは正直、得意分野だ。いっちょ人肌脱いであげる事にする。

「大丈夫よ。もう大丈夫よ。アンジェリーナ、でておいで。今すぐ海辺の酒場で酔っ払って、いい男に追いかけてもらいましょう。大丈夫よ、アランがアンジェリーナの事は守ってくれるから、安心してでておいで!」


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

オマケなのに溺愛されてます

浅葱
恋愛
聖女召喚に巻き込まれ、異世界トリップしてしまった平凡OLが 異世界にて一目惚れされたり、溺愛されるお話

召喚聖女に嫌われた召喚娘

ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。 どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。

ついてない日に異世界へ

波間柏
恋愛
残業し帰る為にドアを開ければ…。 ここ数日ついてない日を送っていた夏は、これからも厄日が続くのか? それとも…。 心身共に疲れている会社員と俺様な領主の話。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

波間柏
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

気がつけば異世界

波間柏
恋愛
 芹沢 ゆら(27)は、いつものように事務仕事を終え帰宅してみれば、母に小さい段ボールの箱を渡される。  それは、つい最近亡くなった骨董屋を営んでいた叔父からの品だった。  その段ボールから最後に取り出した小さなオルゴールの箱の中には指輪が1つ。やっと合う小指にはめてみたら、部屋にいたはずが円柱のてっぺんにいた。 これは現実なのだろうか?  私は、まだ事の重大さに気づいていなかった。

【完結】異世界転移した私、なぜか全員に溺愛されています!?

きゅちゃん
恋愛
残業続きのOL・佐藤美月(22歳)が突然異世界アルカディア王国に転移。彼女が持つ稀少な「癒しの魔力」により「聖女」として迎えられる。優しく知的な宮廷魔術師アルト、粗野だが誠実な護衛騎士カイル、クールな王子レオン、最初は敵視する女騎士エリアらが、美月の純粋さと癒しの力に次々と心を奪われていく。王国の危機を救いながら、美月は想像を絶する溺愛を受けることに。果たして美月は元の世界に帰るのか、それとも新たな愛を見つけるのか――。

捕まり癒やされし異世界

波間柏
恋愛
飲んでものまれるな。 飲まれて異世界に飛んでしまい手遅れだが、そう固く決意した大学生 野々村 未来の異世界生活。 異世界から来た者は何か能力をもつはずが、彼女は何もなかった。ただ、とある声を聞き閃いた。 「これ、売れる」と。 自分の中では砂糖多めなお話です。

処理中です...