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モラルは社会には、必要だけれども

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え、えっ、えっ

そうやってメソメソとミシェルの前でメソメソ泣いているのは、御年200歳超えの大蛇のお姉さまだ。
半眼で、話を半分以下しか聞いていないのは、やさぐれ占い師・ミシェル。

ミシェルはもう飽きた。

(本当に、重いひとだな・・)

この恋愛のはじめから終わりまでのあらましの ずーーーーっと、重すぎる愛を、聞かされて、ミシェルは与えらえたお茶はもう3杯は飲んだし、山ほど出ていたお菓子も、あらかた食い尽くして気持ち悪いのだ。だというのにまだ話は終わりを見せない。

「それでね、私がこんなに愛しているのに、彼ったら一週間に一回くらいしか会う時間をくれなくて、苦しくて、悲しいっていったら、重いとか、うっとおしいとかいうの」

しくしく。

「そうですか」

入り方は、そんなもんだった。
よくある男女間の温度感の違いかと思って、ミシェルも話をちゃんときいていたのだが、どうやら少しずつ、この女のおかしさが見えてきた。

「私が朝ごはんも昼ご飯も夜ご飯も全部作って、全部ね、毎回感想を聞いて、それからお弁当もつくったらちゃんとお手紙もいれてたの。返事も最初はかいててくれたのに、途中から便箋一枚どころか、一行くらいしか返事がこなくなってきて、最後には返事がなくなってたの。いっぱい作ったのに、最初は完食してくれたのに、少しずつご飯残すようになって、それに怒ったら、勘弁してくれ、たまには他のものを食わしてくれ、弁当の時間が恐怖になるって」

「それから、二人が出会った記念日とか、はじめて同棲した記念日とか、私はいつだって記念日大事にしたいのに、彼はそんな一杯、おぼえてられん、とか言って、頭をかきむしるのよ、ひどくない?」

「そうですね、ちょっと男性はそういう部分、冷たいですよね」

ミシェルもこのあたりまでは、少し同情していたのだ、ミシェルの元カレに、記念日大好きな男がいたが、そういう事にはあまり温度が低いミシェルとは、あまり合わなかった事を、ぼんやりと思い出していた。

「そうよ、月に2回くらいおぼえていてほしいわ」

(多くないか、めっちゃそれ)そうミシェルは思うが、とりあえず話を聞く。

「いいのよ、はじめて手をつないだ記念日は、仕方がないと思う。でもね、はじめてデートした記念日も、はじめてキスした記念日も忘れてるなんて、ありえないわ」

(そうか、ありえないのか)

恋人の誕生日もあんまり覚えていないタイプのミシェルは、冷や汗だ。
女は、めそめそしながらも、しっぽをじったんばったんとさせて、続ける。大分ヒートが上がってきたらしい。

「今何してるかな、って愛してる人ならいつもそんな事、考えて、魔法で手紙を書くじゃない、そしたら返事がなかなかこないから、もう一回手紙を出したの、心配で。そしたら返事がこないから、また手紙をだしたの。そしたら午後の間に、彼から返事がくるまでに私が出した手紙の数が、全部で12枚になっちゃって、重すぎるっていわれたの」

「つきあう事がきまった次の日にね、彼の職場におしかけて、上司の方と、それから先輩の方に挨拶したの、そしたら、結婚もしてないのに重いっていうのよ」

「クッキーとかもよく焼いてあげてたんだけど、いつも私の髪の毛とか血とか混ぜたのがばれて、すごくこわがられたの。え、なんでそんなことをした?だって、私の一部が彼になるなんて、素敵じゃない、どうしてわかってくれないのかしら、すごく嫌がられたし、怖がられたわ」

「そしたら、その件で随分怒ってたみたいで、部屋にかえってこなかったから、彼のお友達の家の前で待ち伏せしたの。怖い、やめてくれ、って泣いてたわ。どうしてかしら」

「待たれるのが嫌だっていうから、その後ぐらいから、魔術で、どこにいても居場所がわかるようにしてたのだけど、とても嫌がるし、こわがるの。愛していたら、居場所が知られたってかまわないじゃない?浮気にしてるのか、って聞いたら、そうじゃない、もう逃がしてくれ、重いって」

「お付き合いがはじまったその日には、いっしょの朝を過ごしたのに、一月もすると、あんまり夜の生活もかまってくれなくなってきたから、私、思いつめて、卵を産んで、貴方の子供よ、っていったの。喜んでくれるとおもったのよ!」

卵うむんかい!というミシェルの突っ込みは、一旦のみこんだ。

「そしたら辛そうに、君に養育費を払うから、たのむから、僕には重すぎるって、別れてくれって」

「ひどいでしょ? 結局卵は無精卵だったって、言ったら、もう解放してくれって号泣されて、それから接近禁止令をだされたわ」


重い。重すぎる。なんだよこの激重。
ミシェルはこの美しい女性が蛇女だった事よりも、卵を毎月産むことよりも、この重さにドン引きだ。

こんな重けりゃ、これほど美しい女でも、絶対ごめんだ。


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