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モラルは社会には、必要だけれども

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「師よ。秋の挨拶にお伺いいたしました。高みにおわす光の存在に、敬意と、そして尊敬を」

ダンテは非常に品のある所作で、そういって、ふわりと膝をついて、持ってきた紫のローブを目の前にいる美しい女性にささげた。
女性は、長く黒い髪を誇り、柔らかなピンク色の唇は、とてもつややかだ。
胸元は柔らかいレースとリボンだが、足元はあまり、上半身にあわない、深いスリットの入ったドレス。まあよく似合っているし、そのレースとリボンの中身もミシェルのものの、二倍のサイズ感だ。
まだ16歳くらいにしか見えないし、透き通るような肌はまるで雪のよう。

何かの研究室だろうか。
大きな屋敷の一角に案内された二人は、静謐な広い、小さな椅子と、机と、そして少ない本だけが入っている、何もない広い部屋につれていかれた。広い部屋は、元は何か、家具でもおかれていたのだろう。カーペットに沈んだ家具の足の後が、少し寂しい。

「遠き道をゆくわが弟子よ。お前の行く道に光があるように。お前が神の愛と共にあるように」

美しい女性は、ダンテの肩と、頭を魔力を纏わせた杖でさわった。
どうやらこれが、儀式らしい。
二人とも、なにやら舞踊を踊るかの如く、きめられた文言を口にし、お互いの魔力を確かめあい、そしてダンテはその紫のローブをこの女性の肩に、かけた。

ダンテの美しさとはまた違ったが、並ぶにふさわしい、実に清楚ではかなげな美しい女性だ。
ミシェルはおもわず、見とれてしまっていた。水分の多い黒い瞳、吸いつくような美しい白い肌。
黒く長い髪は、絹のごとく。これで御年200超えとは。

これで儀式は終了らしい。
ダンテの魔力がふんわりとこのローブに纏わり、ほんのりと美しく、光を放つ。

「秋の満月の、魔術師が大集会の時に着用するローブだ」

ダンテがそう、説明していた。
月夜にやわらかく光る魔力をまとったローブは、実に美しく見えるのだろう。
ミシェルはうっとりと、このダンテの師という、清楚で可憐な女性を見つめた。

いかにも清楚で、可愛らしくて、はかなげな少女のようなあどけない顔立ちの、このお姉さまが齢200超えで、しかも聞くには、恋愛は地雷系だなんて、なかなか業が深い。

「さて、ダンテよ。お前が外国から客人を招いている事は耳に入っている。この娘が、お前の客か」

儀式が終わったのか、女性は普通の会話モードで、そうちらりとミシェルを見て、気安くミシェルに声を掛けた。

「いと高きお方よ。ミシェルと申します」

ミシェルも教えられた通りの挨拶をした。
女は、上から下まで検分するようにミシェルをじろじろと見つめたのち、ミシェルの肩に、自分のローブと同じ染料で染められたショールを見て、少し何かを考えた様子で、そして静かに、ダンテに声を掛けた。

「なるほど。結構。よくわかった。してダンテよ。何をたくらんでいる」

ダンテが何かの目的を以ってミシェルを連れてきたことなど、お見通しらしい。
ダンテは表情を変えずに、女に言った。

「何も。ミシェルは私の友人です。そして、占いを生業にしております。師の男性関係のあまりの不甲斐なさに、何か手がないか、ミシェルに鑑定をお願いしたのです。師よ、もういい加減に立ち直っていただかないと・・」

すると、目の前の清楚な少女のような女は、急にガラリと姿を白い大蛇にかえると、キッシャー!とダンテに威嚇して、

「なによダンテ!あんたに女の気持ちなんかわかるもんですか!」

そう、耳まで割けた口から、これまた先端が二つに裂けた舌をレロレロと突き出して大声で叫ぶ。

「ぎゃー!!!!!」

ミシェルはあまりの事に大声で叫びまくるが、ダンテも負けちゃいない。ミシェルをマントの後ろにかくすと、

「ええわかりませんよ、だからミシェルを呼んでます。いいですか、貴女が失恋する度に、屋敷は壊れるは弟子は避難させなくてはいけないわ、前なんか湖ひとつ干上がらせるわで、本当に迷惑なんですよ!もういい年なんだから、男の扱い方もご自分の扱い方も学んでください!本当にみっともない。いい歳してまた大蛇になって!!」

「きー!くやしいわ、あんたみたいなひよっこに説教されるなんて、だれがあんたの鼻水を拭いてやったとおもってるのよ!」

びったんばったんと、その大きな大蛇の体を上に下にと、大暴れだ。

美しい屋敷の静謐な空間に案内されたと思っていたが、やけに物が少ないと思ったら、ここ、大蛇の閉じ込め部屋かよ!大方家具全部この白い大蛇がぶっこわしたんだろう!


ひょいひょいとダンテを襲ってくる大きなびったんばったんとしてくる大蛇の尾を器用にかわしながら、

「と、いう訳でたのんだぞ、ミシェル!幸運を祈る!」

がしっとミシェルの肩をつかむと、ダンテは風の勢いで、扉の向こうに逃げていった。

「ちょっとダンテ!この卑怯者!」

部屋には、大暴れの、大蛇一匹。レースとリボンで覆われた胸元は、清楚でとても可愛いが、こうなってくると、上半身にあわない、深いスリットが入っていたスカートをはいていた理由もよくわかる。下半身が大蛇になっても、いい感じでちゃんとスカートが破れずについてくるのだ。

(頭いたくなってきたわ・・)

ミシェルは痛む頭を抱えて、目の前の大蛇に言った。

「さあ、さっさと終わらせましょう。何が貴女を蛇にかえてるのか、さっさと見せて、早く解放してちょうだい」

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