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後編
第三十四話 推理
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「なぜ密室を作り上げたか、いまいち釈然としない。もし密室を作るなら、自殺と勘違いされるような工作をするべきだ」
清家は顎に手をやる。
「その自殺って線はどうだい。昔の推理作品で読んだことがある。殺人だと思っていたのが、実は自殺だったんだ」
黒井が言及したのは、おそらくミステリの古典作品だろう。この自殺という解法は、あるあるだ。
「自分で自分を体を切断したのか。百歩譲って腕や足はどうにか切れるかもしれないが、首はどう落とす。切断器具はどう回収したんだ」
説明しつつ、縦筋の方がやや深いのは、この器具を運んでいたためだろうか、と清家はふとよぎった。
「ほかにないのか」
と彼女は彼の推理を促す。黒井は清家の持っていない視点から推理を進めようとする。彼女は新しい角度から事件を見つめることが、解決につながると期待した。
「そうだな。安直なのはわかってるけどさ、下半身がひとりでに雪上を歩行した、ってのはどうだ。でも結構、真剣に」
それは、あまりにも非現実的すぎて、二人が避けていた話題でもある。
「そう付け加えるからには、それだけの理由があるんだろう」
「俺の妹がそうだった。俺の妹は電車に轢かれて即死したわけじゃない。真っ二つになりつつも、上半身だけで這いずった。現場にいなかったから、本当かどうか知らないが」
心痛む証言である。
「だが黒井、下半身に脳みそはない。昆虫ならまだしも、人間は違う。脊髄だけでは、歩行といった複雑な制御をできるはずがない。もしそれを肯定するなら、自身を切断した、というのも同じくらい信ぴょう性があるといえるな」
人体の神秘。人の体の隠された可能性、火事場の馬鹿力、盲人の卓越した四感、もしくは第六感。使われていない脳みその一角、無意識、防衛機構、抑圧や分裂。そんなことを言い始めれば、この事件は火山性ガスの見せた幻覚なのかもしれなかった。
「都市伝説なら、テケテケが一番状況に即してるんだ。あれは下半身を持ち去る妖怪さ。妖怪ならば、足跡もつかない」
「そして、帰りはセグウェイみたいに足に乗って帰った、といいたいのか。辻褄は合うが辻褄が合うだけだな」
と彼女は、ちょっぴりシュールな想像図に笑ってしまう。
「別に本気で言ってるわけじゃない。ただ、今日は俺の妹の命日でさ。一年前の、丁度、今頃じゃないか。あの伝承みたいに電車に轢かれたんだ。だから、ふと考えてしまっただけだよ」
妹がテケテケになった、というのは半ば、彼女の生存をどんな形であれ望む、悲しいある兄の妄想だった。
「にしても、テケテケではない犯人が、下半身を持ち去った動機はいかなるものか」
この学者は問う。
「犯人は神宮寺なんてどうだ。聖域の主だし、奴は残酷な少年だった。だから、ゆがんだ愛情を持っていてもおかしくない。親も早くに死んでるし、愛情を知らないんだろう。きっと、人の愛し方がわからない。だから、意識の宿る頭部とその周辺を切り取ったんだ」
人間が、すぐにでもなれる怪異がある。それは鬼だ。すなわち殺人鬼。
「それは、単なるお前の偏見だが。ただし、狂人の仕業ではありそうだ。密室殺人にしつつ、殺人を隠そうとしないこと。下半身を持ち去ったこと。放置するならおおよそ不要なバラバラ殺人。行動がちぐはぐだからな」
疑問符の連続。雪の密室、バラバラ死体、足跡、それらは三位一体で不完全さを補い合い、仮想の密閉空間を織りなす。その密室は難攻不落の要塞でもあった。
清家は顎に手をやる。
「その自殺って線はどうだい。昔の推理作品で読んだことがある。殺人だと思っていたのが、実は自殺だったんだ」
黒井が言及したのは、おそらくミステリの古典作品だろう。この自殺という解法は、あるあるだ。
「自分で自分を体を切断したのか。百歩譲って腕や足はどうにか切れるかもしれないが、首はどう落とす。切断器具はどう回収したんだ」
説明しつつ、縦筋の方がやや深いのは、この器具を運んでいたためだろうか、と清家はふとよぎった。
「ほかにないのか」
と彼女は彼の推理を促す。黒井は清家の持っていない視点から推理を進めようとする。彼女は新しい角度から事件を見つめることが、解決につながると期待した。
「そうだな。安直なのはわかってるけどさ、下半身がひとりでに雪上を歩行した、ってのはどうだ。でも結構、真剣に」
それは、あまりにも非現実的すぎて、二人が避けていた話題でもある。
「そう付け加えるからには、それだけの理由があるんだろう」
「俺の妹がそうだった。俺の妹は電車に轢かれて即死したわけじゃない。真っ二つになりつつも、上半身だけで這いずった。現場にいなかったから、本当かどうか知らないが」
心痛む証言である。
「だが黒井、下半身に脳みそはない。昆虫ならまだしも、人間は違う。脊髄だけでは、歩行といった複雑な制御をできるはずがない。もしそれを肯定するなら、自身を切断した、というのも同じくらい信ぴょう性があるといえるな」
人体の神秘。人の体の隠された可能性、火事場の馬鹿力、盲人の卓越した四感、もしくは第六感。使われていない脳みその一角、無意識、防衛機構、抑圧や分裂。そんなことを言い始めれば、この事件は火山性ガスの見せた幻覚なのかもしれなかった。
「都市伝説なら、テケテケが一番状況に即してるんだ。あれは下半身を持ち去る妖怪さ。妖怪ならば、足跡もつかない」
「そして、帰りはセグウェイみたいに足に乗って帰った、といいたいのか。辻褄は合うが辻褄が合うだけだな」
と彼女は、ちょっぴりシュールな想像図に笑ってしまう。
「別に本気で言ってるわけじゃない。ただ、今日は俺の妹の命日でさ。一年前の、丁度、今頃じゃないか。あの伝承みたいに電車に轢かれたんだ。だから、ふと考えてしまっただけだよ」
妹がテケテケになった、というのは半ば、彼女の生存をどんな形であれ望む、悲しいある兄の妄想だった。
「にしても、テケテケではない犯人が、下半身を持ち去った動機はいかなるものか」
この学者は問う。
「犯人は神宮寺なんてどうだ。聖域の主だし、奴は残酷な少年だった。だから、ゆがんだ愛情を持っていてもおかしくない。親も早くに死んでるし、愛情を知らないんだろう。きっと、人の愛し方がわからない。だから、意識の宿る頭部とその周辺を切り取ったんだ」
人間が、すぐにでもなれる怪異がある。それは鬼だ。すなわち殺人鬼。
「それは、単なるお前の偏見だが。ただし、狂人の仕業ではありそうだ。密室殺人にしつつ、殺人を隠そうとしないこと。下半身を持ち去ったこと。放置するならおおよそ不要なバラバラ殺人。行動がちぐはぐだからな」
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