天使とストーカー

椎野アネ

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天使とストーカー2

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天使観察日記

6月4日(水)
 今日天使は昔からの日課である学校の花壇の世話をしていた。花壇には天使が植えた季節の花達。まだ蕾の花達に天使は声をかけながら今日も楽しそうに水やりをしていた。
 花に話しかけ微笑みを向ける天使……マジ尊い。

 その可憐な笑みを俺だけに向けてくれたらそれだけで俺は死ねる自信がある。本当に死んだら勿体ないから本当に死にはしないが、脳内で軽く何百回何千回は死ねる。絶対に。

 今日は水やりだけじゃなく生えてきた雑草も抜くようだ。しゃがみこんで雑草をせっせと抜いていく天使は、その白くて柔らかそうな綺麗な手が土で汚れてるのも厭わないようだ。

 天使の手に触れてもらえる土や雑草ですら嫉妬を覚えてしまう。ああ、俺もあの雑草のように天使の手によって抜かれたい!

 いや、俺は別の意味で抜かれ……。いや今は考えるのを辞めよう。

 あらかた雑草を抜き終わったのか、満足気に天使は微笑み新たに種を植えようとしている。しかし今から種を全て植え終えるには時間が足りないんじゃないか?まあまあの範囲があるぞ。
 天使もそれがわかったのか、自身の腕時計と花壇を交互に見て眉を顰める。そんな悲しそうな顔なんて天使には似合わない!

 俺は隠れていた物陰から何食わぬ顔をして出て、天使の方へと歩いていく。たまたまここに来ましたよばりに天使に話しかける事に成功。

 しゃがみ込んでるから天使が驚いたように俺を見上げてきた。その予期せぬ上目遣いですら可愛いって……マジ尊い(2回目)。

 どうしたのかと聞いた俺に天使は困ったように笑って時間がないけど種をどうしても植えておきたいという予想通りの回答をしてきた。困った顔なんて天使には似合わない。

 俺も手伝うと提案すれば天使は申し訳なさそうに一度断ったが、そこはどうにか言って一緒にやる方向に持っていった。天使は申し訳なさそうに謝りながらも嬉しそうに顔を綻ばせた。

 もうその表情を見れただけで感無量。死ねる(2回目)。

 内心天使の俺だけに向けてくれた笑みだけで顔がだらしなく緩みそうになるが、そこは気合いで耐えた。
 天使と2人で肩が触れそうなほど近い距離にいられるなんて今日はなんていい日なんだ。

 時折触れる天使の肩に何度意識を持って行かれて何度悶えそうになったことか。

 そんな至福の時は一瞬で終わってしまったが、朝礼前に種を植え終えた後は天使からの満面の笑みと感謝が俺を包み込んだ。

 ああ……朝からなんていい日なんだ。天使のこの満面の笑みを写真に収めたかった。帰ったら数日前に撮った天使の微笑みの写真をゆっくり眺めようとこの時誓った。



――――

 今日はいつも世話をしている花壇に水やりをしていて、雑草が随分生えてきたなーっと思って雑草を抜いてしまおうと思った。気を抜くとすぐ雑草が生えてしまって、雑草に花の分の栄養が持って行かれてしまうから本当に油断ならない。
 せっせと雑草を抜きながら、そういえばそろそろ種を植えないといけないなと思い種を植える準備をしたが、ちらりと見た腕時計の時間は朝礼まであまり時間はなかった。

 暫く水をあげる位しか朝時間が取れないため、今日種を植えてしまっておきたいのにこれは諦めるしかないなーっと溜息を吐いた時、不意にしゃがみ込んでいる自分の頭上から声がした。


「どうかしたの?」
「え!あ、灰賀くん?」


 びくりと肩を震わせ突然の呼び掛けに驚き顔を上げた私は、いつの間にか傍にいる灰賀くんの姿に驚いた。
 灰賀くんは私の隣にかがみ込んで「もしかして種植えたいのに時間ないからどうしようかなって悩んでた?」っと私がついさっきまさに悩んでたことを当てて来た。


「どうしてわかったの??」
「ん?なんとなく?」


 当てられた事に驚く私に、灰賀くんはそう言ってくすりと笑う。


「灰賀くんって、思えばいつも私の考えてることわかってるみたいだよね」
「んーそうだねー。俺超能力者なのかもね?」


 「なーんて」と笑った後、灰賀くんは「ほら時間なくなっちゃうから早くやっちゃお」と、私が持っていた種の袋を取り自分の手のひらの上に種を出して巻き始めた。
 その姿に私も慌てて袋から種を取り出して花壇に撒いていく。
 昔からそうだけど、本当に灰賀くんは超能力者なんじゃないかって位、私がしたいことや考えてることをさらりと言うことがある。
 友達と呼ぶにはなんだかおこがましいし、けれど知り合いって言うとなんだか距離があるような気もするし、私と灰賀くんはどんな関係なんだろう。
 黙々と種を撒いてくれている灰賀くんの横顔をぼーっと見つめ考えてしまった。


「どうかしたの?小林さん」


 私の視線に気付いた灰賀くんは不思議そうな顔で私を見て首を傾げた。我に帰った私は慌ててなんでもないと首を振り自分も種を撒くことに専念する。
 わたわたと種を撒き始めた私に、灰賀くんは隣でくすりと笑っていたけど、もう気にしないことにした。

 灰賀くんは、やっぱり不思議な人だ。
 
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