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体に寝違えた様な痛みが走り、意識がゆっくり戻ってくる。顔面にダイレクトに当たる日差しを煩わしく思いつつ、瞼を持ち上げる。ぼんやりした俺の視界に数秒後、何かが被さってくる。顔に当たっていた光が突然遮られ、薄く開いていた目蓋を無理やり持ち上げる。



ようやくピントのあった俺の視野に入っていたのは、綺麗な2つの翡翠。は?と少し顔を近付けてそれが人間の目だと気づいた俺は声にならない悲鳴をあげた。無理もない話だろう。起き抜けに誰かの顔が息の掛かるくらい近距離にあるんだ。誰だってびっくりするだろ。



後退しようともがくが狭いシートの上。逃げ場なんてない。そこでもう一度腰に痛みが走る。そう言えば、車で寝てたんだった。寝違えた様なじゃなくて、寝違えた痛みだわこれは。そこで俺の意識は完全に覚醒する。




昨日、いや正確には3、4時間前のことを思いだし肩を落とす。そうだ俺。面倒臭いことになってるんだった。目の前の子供は後ろの席から身を乗り出しこちらをじっと窺っている。




「お前…大丈夫か?」



俺の第一声はまさかのそれだった。もっと何かあるだろ。そもそも日本語通じんのか。言ってから思った。俺が独り思考を巡らせていると、そん子供はこてんと首を傾げた。




やっぱ通じねぇじゃん。




俺は、少し考えたあと今度はなけなしの英語での会話を試みる。




「あー、えーっと…Are you ok?」





良く聞くフレーズを当て嵌めてみる。しかし、子供はこんどは反対側に首をかしげてくる。






……馬鹿にされてる訳ではないよな?





もしかすると英語圏の人間では無いのかもしれない。だとすれば会話は不可能を極めるぞ。フランス語だのドイツ語だのは俺は全く縁がないからな。生粋の日本人だし。まさか喋れないとか…?


俺の顔を見つめてくる子供の顔色は良く、体温を確認する為に額に触れると一瞬体を強張らせた後、力を抜いた。まじか、もう下がってやがる。とんでもない回復力だな。あれから4時間位しか経ってないぞ。とはいっても病み上がりに変わりはないから、席に座らせる。後ろの席へ移ると俺は荷造りを解いて、ポットを取り出す。



中に飲料水を注いで、車に備え付けのコンセントに繋ぐ。バッテリー上がったらどうしようかなぁ、とお湯が沸くのを待つ。その間にカップヌードルを取り出し蓋を開けて、粉末スープを入れる。その間も、奇妙な子供は俺の行動をずっと観察している。



そんなにカップラーメンが珍しいのか?



不思議そうな視線を浴びること数分。やっと沸いた熱湯をカップに注いで割りばしとコンビニでもらったフォークを載せる。









3分後。



黙ったままこちらを見つめ続ける子供にフォークが載った方のカップ麺を渡す。受け取った子供にはますます不思議そうな顔をする。仕方無しに、蓋を取ってやる。そのまま少しかき混ぜ少量フォークで取り、冷ましてからその子供の口へ運ぶ。その子供は漸くラーメンを食べ物だと認識したらしく、口を開ける。ぱくりと麺を口にした子供はその綺麗な瞳を見開いた。



俺は見た。その瞬間、そいつの目に生気が戻ったのを。そんなにうまいか、カップヌードル……もっとくれという表情で催促する子供にカップを渡す。





「熱いから気を…」




言うが早いか、熱々の麺をがっついて目を白黒させる変な子供。まぁ、言ってもどうせ通じないんだろうが、あまりに予想通りの展開に俺は思わず吹き出す。笑われたと気づいた子供が此方を非難がましい目で見るので余計に笑えた。






「そんなにうまいか。俺のも食うか?」






頭をなでながら言うと嬉しそうに頷いた。あれ?通じた?と思ったが偶然だろう。一個目のラーメンを食べきった子供に俺のラーメンをもう一つ与えるとそれはそれは嬉しそうに笑った。



夜は暗くて良く見えなかったが、透き通る金髪とエメラルドを思わせる瞳の色は人と思えないほど綺麗で、俺は人種の差って凄いなと思わずにはいられなかった。




早くも二つ目に手をつけるその子供。お前…そんなにカップラーメン好きなのか…?子供はジャンクフードとか好きだと良く聞くがどうやら本当なようだな、と思う今日この頃。
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