封印された魔神凹に精気を求められた人の話

八億児

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封印された魔神凹に精気を求められた人の話

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「我をここから出してくれるなら、願いをひとつ叶えてやろう……♥」
 天蓋付きの寝台の上から僕をそう誘惑したのは、なめらかな褐色の裸体をかろうじて宝飾品と薄衣で覆っているだけの、扇情的な姿をした美しい男だった。
 招くように伸ばされた腕はなまめかしく動き、身につけた金の鎖と宝石がしゃらしゃらと可憐な音を立てる。
 だがここは、遭難して流れ着いた無人島にある洞窟の中だ。宮殿でもなければ後宮でもない。そんなところで美しい半裸の男が一人、妖しい光に照らされた寝台で優雅に待っているはずはない。それが人間ならば。
「この世のどこかに、魔神が封印された島があると聞いていました。……あなたが、その魔神なんですね」
「おお、我を知っておるのか? ならば話は早い。そうじゃ、我こそは魔神だとかグロムだとかさまざまな名で呼ばれておる」
 さっきまで夢幻めいた仕草で僕を誘っていたはずの魔神は、僕の言葉にぴょこんと身を乗り出した。
 知っているも何も、僕の乗っていた船はその伝説の魔神のいる島を探せと命令されていたのだ。だがその船は難破し、一番下っ端だった僕はボートにも乗せてもらえず、必死で板きれにしがみついていたら、いつしかこの無人島の白い砂浜に流れ着いていた。
「この洞窟に封印されてから何年……何十? 何百年か? さて、どれほど経ったかもうはっきり覚えておらぬが、まあよい。よく来たのう、人間」
 魔神は目を細めて舌なめずりをし、僕は緊張で唾を飲みこんだ。
 封印された魔神のことなど本気で信じている船員などほとんどいなかったが、それでも自分なら何を叶えて貰うかといった話は、時折話題に上がった。皆が望んでいたものには、使い切れない金銀財宝や、豪華な宮殿や、世界一の美姫などがあった。しかし実際こうした状況になってみると、まず自分が無事に島から出られなければ財宝も宮殿も意味がない。
「でも、あの、僕、あなたをここから出す方法は分からないので、願いも叶えてもらえないと思います……」
 僕の絞り出した辞退の言葉を、魔神は鼻で笑った。
「簡単なことだ。お主が我を抱けばよい」
「そんな、嘘でしょう?」
「嘘ではない。だから我が人の精気で容易に力を取り戻せぬよう、こうして辿り着くのも難しい島の洞窟に封印されたのだ。人を食うか人の精気を食うかで力を得られれば、我はここから出られるしお主の願いも叶えられる。一石二鳥であろう?」
 途中でさらっと恐ろしい二択を出された気がする。
「く、食われるのは嫌です!」
「ならばさっさと精気を与えよ。安心するがよい。素直に我に身を任せれば、お主がこれまで知らぬ至上の悦びを授けてやろうぞ」
 魔神が身を乗り出すと、それまで豪奢な首飾りで隠れていた乳首がちらりとのぞく。思わずそこに向けた視線に気付いたのか、魔神は僕の手を取った。
「それともお主のしたいことを、好きなだけさせてやってもよいのだぞ……♥」
 しっとりと絡みついた魔神の指はひんやりとしている。それなのに、触れられた部分から僕の身体が熱くなっていくような気がする。魔神は僕の手を自らの胸元に導こうとする。近づく魔神の身体からは、えもいわれぬ香気が漂ってくる。
「さあ、とろけるほどの快楽がお主のものじゃ……」
 彼の存在の全てが、目もくらむほどに僕を煽り、誘惑していた。
「ご、ごめんなさい!」
 それらを振り切ろうとするには全力が必要で、絡められた手を振り払うと想像以上に大きな声が出た。魔神ですら目を丸くしている。
「お主、まさか我が人を騙して食うとでも思うておるのか?」
「違うんです。あの、魔神さんはすごくエッチで……えっちなことは、したいですけど……」
「そうであろうな」
 魔神は僕の下半身をチラリと見た。
「じゃなくて、これって僕ばっかり得しませんか!? こんな綺麗な魔神さんと……しかも願いまで叶えて貰えるって、おかしいですよ!」
「ふむ、疑う知恵はあるようじゃな。だが魔神の契約は公平じゃ。嘘はつかぬ。それにお主が今すぐこの洞窟から逃げ出したら、封印されている我はお主を捕らえることもできぬ」
 魔神はもう笑ってはいなかった。
「とは言え、お主もすぐにはこの島から出られぬだろう。我の誘いを断って気長にボートでも作るというなら、止めはせぬよ」
「え……いいんですか」
「何、我は人間よりは気が長い。そうなればまた、次の獲物が現れるのを待つだけよ」
 あっさりとそんなことを言われて、拍子抜けしてしまう。確かに魔神にとって必要なのはここから出してくれる人間であって、僕でなければいけない理由はない。当たり前のことのはずだが、胸の奥がモヤモヤする。
「ああ、だがそうじゃな……。島を出るまでの間、気が向いたら顔を見せに来ては貰えぬか」
 そう言って魔神は嬉しそうに笑う。
「なにしろ、こうして話の出来る相手と出会うのは久方ぶりじゃからの」
 企んでいるようでも、誘うようでもない、柔らかな笑み。
「魔神さん……」
 これだって騙されているのかも知れない。
 でも僕は、今度は自分から魔神のひんやりする手を取った。
「いずれ願いは叶えて欲しいですけど、今は魔神さんをここから出してあげたいって気持ちだけじゃ、駄目ですか……?」
「お主……チョロい男じゃのう。しかも思っていたよりずっと愚かときている」
「それはそうかも知れませんけど、ちょっと酷くないですか!?」
「事実であろう。チョロくて愚かで欲のない男は、魔神の食い物にされてしまうぞ」
 魔神はにんまり笑いながら僕に顔を寄せる。
「──だがそういう男は、魔神に好かれる」
 そんな囁きとともに、唇が柔らかく触れてきた。
 僕はその感触と芳しい香気に理性を溶かされながら、魔神にとって「僕と一緒に来て欲しい」という願いは叶えられるものなのどうかを頭の隅で一瞬だけ考えた。それが一瞬だけだったのは、僕の理性がそんなに長く保たなかったからだ。
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