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第2章〜クルムテント王立学園〜
第23話〜だから私は〜
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私の名前はラオ・ラットプント。恥ずかしながら、この王国の第3王子です。
私は、兄さんや姉さんとは、歳が離れていて、最近14歳になったばかり。
末っ子だけど、それなりに今日まで生きてきました。
ただ、周りの方には私はとても怪しく見えるようです。それもそのはず、私は自分を男だと思ったことがこれまでの人生でありません。
物心がつかない頃から、私はそのような傾向があったそうで、父上は私を色々な方々に見せて回ったそうです。そして、分かったことは、何らかの精神的病と言うこと。
それから私には、同年代の子にまで、気味が悪いと言われたり、逆にそんな私を可哀想だと言われ続けてきました。
ですが、私は可哀想だと、そのことが、まるで自分という存在を受け入れられていないようで、どちらの言葉でも、この私の性質を言われるのに慣れるまでは、とても苦労しました。
誰もこの世界で私のことを理解してくれる存在がいない。そう思ってしまった。
だからある日、そんな私を理解してくれる者がいることを願って、私は城を抜け出したのです。
初めての外の世界は、色々な不思議に溢れていて、使用人に見つからないようにと、フードを深く被っていた私は、その世界に目を輝かせました。
でも、私は同時にその世界に無知だった。
城を抜け出した私には、最早この何百倍にも広がった世界は、何処にも知っている物はない。
全てが初めて。だからこそ自分が今どこにいるのか理解出来ていなかった。
私が迷い込んだ場所、と言うより建物は冒険者ギルド。
この時の私はとにかく人が多くいる場所で、道案内をお願いできる方を探していました。
「し、失礼。少しよろしいでしょうか。」
「・・・なんだ?」
私は目の前で見かけた二人組を目にし、話しかけました。その二人は、一人は白銀のアーマーをフル装備していて、顔も分からない方。
もう一人は私が知ってる貴族的な雰囲気が微少に感じる魔法使いの、私と同じくらいの女の子。
「少しの間、道の案内をして頂きたいのです。」
「それは俺への指名か?悪いが今日は他の依頼を受ける予定なのだ。」
そう言うと、彼は席を立とうとします。そんな彼を見て、私は諦めようとしました。
他にも人はいると思って、そうですか。
と、振り返ろうとした時。
「それだったら私が案内致しますよ?」
「「へ?」」
私と彼が同時にもう一人の女の子の方へ素っ頓狂な返事を返しました。そう反応している間に女の子が彼の耳元に手を持っていって私に聞こえないよう小さな声で話し合っていました。
そして、その話に彼が納得する表情を見せると、私を見て言いました。
「道案内をすればいいのだろう?・・・(ボソッ)どこかのお貴族様、家出したんだろう?」
「!?何故それを。」
「フードを被るならもう少し大きな物を使うんだな。」
それを聞いて私は自身の被っていたフードを見ました。ですが何も異常なんて見えません。
そう思って困惑していると、私と同じくらいの女の子が今度は私の耳元に顔を近づけて言いました。
「普通の子はそんなドレスを着ませんよ?」
「・・・そうなのですか、分かりました。
ご忠告感謝致します。ですが私はこの通り、家出した身の上、道を案内してもらっても報酬は渡すことができません。」
彼らが私を貴族思って心変わりしたのならと、私は言いました。
「別にお金などいりません。私はその気持ちが理解出来るので。」
「あ、あなたも私と同じ・・・!」
「もう没落して平民ですよ。ですがあなたの気持ちも少しは理解できます。なので今日だけ私達はあなたの味方でいてあげますね。」
そう言って私の手を握った彼女は、ミディと名乗りました。私も名乗りましたが、彼女にとても渋い顔をされてしまいました。
やはりミディは、私と同じような辛さを味わっているのだろうと、感じました。
それから私は、二人と色々な場所を周り、夕日が照らす頃までそれは続きました。
ただ、私は自信がどれだけの人物かを理解出来ていませんでした。
私達がある街道を歩いていた時それは起こりました。
「止まれっ!」
「「「!!?」」」
私たちの前に突然騎士団らしき者たちが現れたのです。その者らをよく見ると、よく城で見る人間たちでした。
「ラオ様を返してもらおう、誘拐犯共。」
低くともよく響く声。
騎士の一人が言うと、周りを歩いていた方々も驚いて私たちを見ました。
「貴様らの後ろにいるのが我が国の第3王子、ラオ・ラットプント様であることはもう分かっている。大人しくこちらへ渡せば、命だけは許してやろう。」
更にその言葉が加わり、周りの者、そして私達は驚きました。
「誘拐犯だと?それにこの子が第3王子様だと?それは一違いにも甚だしい。俺達はこの者の道案内をしていただけだ。なぁミディ?」
「・・・。」
「ミディ?」
「お兄さん、ミディちゃん。今日は楽しかった。ありがとね。」
そう言ってラオは、二人の前にいる騎士の方へ走っていく。
彼らの取り巻きの一人が、少し笑みを浮かべているのを見て、先程まで顔を伏せていたミディが思わずそれに気付いた。
「ラオちゃん行っちゃダメ!」
たが時は既に遅かった。
「私が勝手に城を抜け出しました。ごめんなさい。」
フードを脱いで、騎士の方に頭を下げました。
私はもう充分に楽しんだ。二人と一緒に色々な所を回って、色々な物を見て。
だけど、私は二人の迷惑になってはいけない。これ以上私のわがままで二人を困らせてはいけない。
そう思って、私は謝った。それで誤解が解けると思って。
だけど、私の考えは甘かった。
「第3王子ラオ様の安全は確保された。これでお前たちを殺すことに躊躇う必要は無くなった。」
「・・・・・・え?」
信じられなかった。今目の前にいる彼は、明らかに矛盾していた。彼は今ほどに、私を渡せば命を助けるとそう言った。だけど、結果は私が悪かったと誤ったのにこの状況。
「なんで、私が悪いんです!彼らは私に道を案内して頂いただけ・・・。」
「王子、そんなことでは示しがつかないのですよ。一国の王子が家出したと知れれば、王子の名に傷がつきます。これはやらなければならない事なのです。」
そう言って彼らは自身の得物をお兄さん達に向けました。
「私の名なんてもう傷はついています。今更それくらいついた程度でそんな」
そうだ。私はもうこんな存在だからと、誰も私を見ていない。
「王子、少しお静かに。あなたは王族であって決してあの者のような野蛮な冒険者共と関わってはならないのですよ。」
その顔は先程までの正義を振りかざすような顔ではなく、侮蔑と僅かな私への嘲笑がこもった顔でした。
そこで私は気付きました。
この騎士は、私を助けるのではなく、自分の為に。
もう手遅れだと知って私の心に闇が渦巻く。
私がこんなことをしていなければ。
私が良い子でいれば。
私が生まれなければ。
あの方達は死ななかったのに。
でも、どうしてだろう。私の心にはまだ余裕がある。
何故?どうして?
sideユマ
「騎士様はやけに出世がしたいように見える。」
「何・・・?」
ナビ!よろしく!
『イエス。』
「バンタレイモン家次男、オラン・バンタレイモン。貴様、無実の市民をその手で何人殺した。今回もその手か?」
「貴様なぜそれを!?」
「俺には優秀な情報屋がいるのでな。悪いが調べさせてもらった。」
僕がそう言うと、ラオは、思わずその目を見開いた。
疑いの視線をオランに向けると、何故か彼は僕を見て、一瞬笑顔になった。
「貴様!そこまでが計画だったのか!?俺をそんな言葉でこんな公衆の面前でありもしないことを並べて、更にそこの女はラオ様に催眠の魔法をかけるとは。だが、私はそんな小癪な真似に屈指はしない!!お前たちをここで切り伏せてやろう!!」
そう言うと、彼と彼の取り巻きたちは剣を構えた。
そこで僕は理解した。彼らはラオを助けに来たのではない。自身の欲望の為に彼を利用しているのだと。
「成程な。貴様らのような下卑いた奴がこの国にいるなんてな。・・・ミディ、下がっていろ。お前はまだ勝てん。」
「・・・分かりました。」
悔しそうな表情をするミディに、この後少しだけ稽古をつけてやろうかと思ったのもつかの間、彼らは僕らに突貫していったのだった。
sideラオ
「お兄さんダメ!!」
彼らはこれでも国の騎士様。それにその騎士様が五人もいる。
このままではお兄さん達は本当に殺されてしまう。
私のせいで、私のせいでお兄さん達が。
彼らは突貫した。お兄さん達の元に。
お兄さん達はただ呆然としているだけ。多分反応もできていないのだろう。
彼らの剣が、二人を切り裂こうとして、私は思わず目をつぶった。
一瞬の暗闇。その暗闇はとても長く感じられた。
今まで生きてきた自分とそれを影で笑うあの子たち。
そして、それを哀れと思う家族や大人。
誰も、誰も私を見てくれない。私は私。他の誰でもない。
お前たちが私を否定するな!!・・・そう言いたいのに。
結局、私を認めてくれる人なんていなかった。外の世界も、私は見ることなんて許されなかった。
闇が更に深くなっていくのを感じる。なのに、なのに何故。
「もうこんな私なんて。」
「諦めるな。」
え?
視界が赤くなる。闇が晴れた。そういえば夕日がもう沈むころ・・・
だけど私の目の前にいたのは、その夕日でも騎士様でもない。白銀のお兄さんとミディちゃんだった。
後ろを見たら騎士様が全員倒れてて・・・。
「な、なんで・・・。」
「ラオちゃん、いいんだよ!人に振り回されなくても!」
私の疑問に答えたのは、その疑問とは違った答えだった。
「他の人がなんて言おうと、自分は自分。ラオちゃんはラオちゃんだよ!」
「み、ミディちゃん。」
「俺達は冒険者だ。冒険者に制約なんてない。常識なんてない。全てが自由だ。だから俺達はお前がどんな存在でも、どんなひねくれた性格でも自由であり、咎めることも同情することも無い。」
「お兄さん。」
「だから、「素直になれ!」」
貫かれた。今まで岩石よりも固くなっていた物を。
そして、岩石の中に入ってたものは大量の私のこれまでの想い。
それが決壊して、溢れ出す。そんな私を彼らは抱きしめてくれた。
△▽
その後、私が自分から城へ帰り、私の大切な人達に危害を加えようとした騎士を父、国王に話しました。
首謀者だったオラン・バンタレイモンは鉱山に送られ、取り巻きだった者達は、全員多額の罰金と騎士職の剥奪及びむち打ちの刑に処されました。
私にも注意が下り、一ヶ月間部屋での謹慎を受けました。
ただ逆にそれは良かったと思います。私は自由。
なら周りなんて気にする必要が無い。それに私自身が目標を持つのだって誰も咎めることは無い。
もう何ヶ月かすれば、あの学園の入試がある。私はその目標の為に、今はとにかくこの時間を使って・・・!
「最近ラオ王子頑張ってますね。」
「何でもあの学園を目指しているとか。」
「あら!そうなのですか!?」
それから彼は変わった。今までの悪いとも良いとも言えない印象は、確実な好色に。
将来を見すえる彼の目は、以前の女々しいモノではなく、気高き王族のようなモノへ。
やがて彼は第一皇子、第二王子程にまで、その人気を高めていくのであった。
△▽
それ以来か。彼は自分の好きなように。・・・女性として振舞っていたはずだが。
僕はラオをこの学園で見た時、正直驚いた。彼はドレスを着ていたし、でも、でも、
「マリアルを好きになったか・・・。はは。
彼は一体、彼なのか彼女なのか・・・分からないな。」
一人放課後の職員室で僕は、どっと疲れた方を背に、
白くなるのだった。
私は、兄さんや姉さんとは、歳が離れていて、最近14歳になったばかり。
末っ子だけど、それなりに今日まで生きてきました。
ただ、周りの方には私はとても怪しく見えるようです。それもそのはず、私は自分を男だと思ったことがこれまでの人生でありません。
物心がつかない頃から、私はそのような傾向があったそうで、父上は私を色々な方々に見せて回ったそうです。そして、分かったことは、何らかの精神的病と言うこと。
それから私には、同年代の子にまで、気味が悪いと言われたり、逆にそんな私を可哀想だと言われ続けてきました。
ですが、私は可哀想だと、そのことが、まるで自分という存在を受け入れられていないようで、どちらの言葉でも、この私の性質を言われるのに慣れるまでは、とても苦労しました。
誰もこの世界で私のことを理解してくれる存在がいない。そう思ってしまった。
だからある日、そんな私を理解してくれる者がいることを願って、私は城を抜け出したのです。
初めての外の世界は、色々な不思議に溢れていて、使用人に見つからないようにと、フードを深く被っていた私は、その世界に目を輝かせました。
でも、私は同時にその世界に無知だった。
城を抜け出した私には、最早この何百倍にも広がった世界は、何処にも知っている物はない。
全てが初めて。だからこそ自分が今どこにいるのか理解出来ていなかった。
私が迷い込んだ場所、と言うより建物は冒険者ギルド。
この時の私はとにかく人が多くいる場所で、道案内をお願いできる方を探していました。
「し、失礼。少しよろしいでしょうか。」
「・・・なんだ?」
私は目の前で見かけた二人組を目にし、話しかけました。その二人は、一人は白銀のアーマーをフル装備していて、顔も分からない方。
もう一人は私が知ってる貴族的な雰囲気が微少に感じる魔法使いの、私と同じくらいの女の子。
「少しの間、道の案内をして頂きたいのです。」
「それは俺への指名か?悪いが今日は他の依頼を受ける予定なのだ。」
そう言うと、彼は席を立とうとします。そんな彼を見て、私は諦めようとしました。
他にも人はいると思って、そうですか。
と、振り返ろうとした時。
「それだったら私が案内致しますよ?」
「「へ?」」
私と彼が同時にもう一人の女の子の方へ素っ頓狂な返事を返しました。そう反応している間に女の子が彼の耳元に手を持っていって私に聞こえないよう小さな声で話し合っていました。
そして、その話に彼が納得する表情を見せると、私を見て言いました。
「道案内をすればいいのだろう?・・・(ボソッ)どこかのお貴族様、家出したんだろう?」
「!?何故それを。」
「フードを被るならもう少し大きな物を使うんだな。」
それを聞いて私は自身の被っていたフードを見ました。ですが何も異常なんて見えません。
そう思って困惑していると、私と同じくらいの女の子が今度は私の耳元に顔を近づけて言いました。
「普通の子はそんなドレスを着ませんよ?」
「・・・そうなのですか、分かりました。
ご忠告感謝致します。ですが私はこの通り、家出した身の上、道を案内してもらっても報酬は渡すことができません。」
彼らが私を貴族思って心変わりしたのならと、私は言いました。
「別にお金などいりません。私はその気持ちが理解出来るので。」
「あ、あなたも私と同じ・・・!」
「もう没落して平民ですよ。ですがあなたの気持ちも少しは理解できます。なので今日だけ私達はあなたの味方でいてあげますね。」
そう言って私の手を握った彼女は、ミディと名乗りました。私も名乗りましたが、彼女にとても渋い顔をされてしまいました。
やはりミディは、私と同じような辛さを味わっているのだろうと、感じました。
それから私は、二人と色々な場所を周り、夕日が照らす頃までそれは続きました。
ただ、私は自信がどれだけの人物かを理解出来ていませんでした。
私達がある街道を歩いていた時それは起こりました。
「止まれっ!」
「「「!!?」」」
私たちの前に突然騎士団らしき者たちが現れたのです。その者らをよく見ると、よく城で見る人間たちでした。
「ラオ様を返してもらおう、誘拐犯共。」
低くともよく響く声。
騎士の一人が言うと、周りを歩いていた方々も驚いて私たちを見ました。
「貴様らの後ろにいるのが我が国の第3王子、ラオ・ラットプント様であることはもう分かっている。大人しくこちらへ渡せば、命だけは許してやろう。」
更にその言葉が加わり、周りの者、そして私達は驚きました。
「誘拐犯だと?それにこの子が第3王子様だと?それは一違いにも甚だしい。俺達はこの者の道案内をしていただけだ。なぁミディ?」
「・・・。」
「ミディ?」
「お兄さん、ミディちゃん。今日は楽しかった。ありがとね。」
そう言ってラオは、二人の前にいる騎士の方へ走っていく。
彼らの取り巻きの一人が、少し笑みを浮かべているのを見て、先程まで顔を伏せていたミディが思わずそれに気付いた。
「ラオちゃん行っちゃダメ!」
たが時は既に遅かった。
「私が勝手に城を抜け出しました。ごめんなさい。」
フードを脱いで、騎士の方に頭を下げました。
私はもう充分に楽しんだ。二人と一緒に色々な所を回って、色々な物を見て。
だけど、私は二人の迷惑になってはいけない。これ以上私のわがままで二人を困らせてはいけない。
そう思って、私は謝った。それで誤解が解けると思って。
だけど、私の考えは甘かった。
「第3王子ラオ様の安全は確保された。これでお前たちを殺すことに躊躇う必要は無くなった。」
「・・・・・・え?」
信じられなかった。今目の前にいる彼は、明らかに矛盾していた。彼は今ほどに、私を渡せば命を助けるとそう言った。だけど、結果は私が悪かったと誤ったのにこの状況。
「なんで、私が悪いんです!彼らは私に道を案内して頂いただけ・・・。」
「王子、そんなことでは示しがつかないのですよ。一国の王子が家出したと知れれば、王子の名に傷がつきます。これはやらなければならない事なのです。」
そう言って彼らは自身の得物をお兄さん達に向けました。
「私の名なんてもう傷はついています。今更それくらいついた程度でそんな」
そうだ。私はもうこんな存在だからと、誰も私を見ていない。
「王子、少しお静かに。あなたは王族であって決してあの者のような野蛮な冒険者共と関わってはならないのですよ。」
その顔は先程までの正義を振りかざすような顔ではなく、侮蔑と僅かな私への嘲笑がこもった顔でした。
そこで私は気付きました。
この騎士は、私を助けるのではなく、自分の為に。
もう手遅れだと知って私の心に闇が渦巻く。
私がこんなことをしていなければ。
私が良い子でいれば。
私が生まれなければ。
あの方達は死ななかったのに。
でも、どうしてだろう。私の心にはまだ余裕がある。
何故?どうして?
sideユマ
「騎士様はやけに出世がしたいように見える。」
「何・・・?」
ナビ!よろしく!
『イエス。』
「バンタレイモン家次男、オラン・バンタレイモン。貴様、無実の市民をその手で何人殺した。今回もその手か?」
「貴様なぜそれを!?」
「俺には優秀な情報屋がいるのでな。悪いが調べさせてもらった。」
僕がそう言うと、ラオは、思わずその目を見開いた。
疑いの視線をオランに向けると、何故か彼は僕を見て、一瞬笑顔になった。
「貴様!そこまでが計画だったのか!?俺をそんな言葉でこんな公衆の面前でありもしないことを並べて、更にそこの女はラオ様に催眠の魔法をかけるとは。だが、私はそんな小癪な真似に屈指はしない!!お前たちをここで切り伏せてやろう!!」
そう言うと、彼と彼の取り巻きたちは剣を構えた。
そこで僕は理解した。彼らはラオを助けに来たのではない。自身の欲望の為に彼を利用しているのだと。
「成程な。貴様らのような下卑いた奴がこの国にいるなんてな。・・・ミディ、下がっていろ。お前はまだ勝てん。」
「・・・分かりました。」
悔しそうな表情をするミディに、この後少しだけ稽古をつけてやろうかと思ったのもつかの間、彼らは僕らに突貫していったのだった。
sideラオ
「お兄さんダメ!!」
彼らはこれでも国の騎士様。それにその騎士様が五人もいる。
このままではお兄さん達は本当に殺されてしまう。
私のせいで、私のせいでお兄さん達が。
彼らは突貫した。お兄さん達の元に。
お兄さん達はただ呆然としているだけ。多分反応もできていないのだろう。
彼らの剣が、二人を切り裂こうとして、私は思わず目をつぶった。
一瞬の暗闇。その暗闇はとても長く感じられた。
今まで生きてきた自分とそれを影で笑うあの子たち。
そして、それを哀れと思う家族や大人。
誰も、誰も私を見てくれない。私は私。他の誰でもない。
お前たちが私を否定するな!!・・・そう言いたいのに。
結局、私を認めてくれる人なんていなかった。外の世界も、私は見ることなんて許されなかった。
闇が更に深くなっていくのを感じる。なのに、なのに何故。
「もうこんな私なんて。」
「諦めるな。」
え?
視界が赤くなる。闇が晴れた。そういえば夕日がもう沈むころ・・・
だけど私の目の前にいたのは、その夕日でも騎士様でもない。白銀のお兄さんとミディちゃんだった。
後ろを見たら騎士様が全員倒れてて・・・。
「な、なんで・・・。」
「ラオちゃん、いいんだよ!人に振り回されなくても!」
私の疑問に答えたのは、その疑問とは違った答えだった。
「他の人がなんて言おうと、自分は自分。ラオちゃんはラオちゃんだよ!」
「み、ミディちゃん。」
「俺達は冒険者だ。冒険者に制約なんてない。常識なんてない。全てが自由だ。だから俺達はお前がどんな存在でも、どんなひねくれた性格でも自由であり、咎めることも同情することも無い。」
「お兄さん。」
「だから、「素直になれ!」」
貫かれた。今まで岩石よりも固くなっていた物を。
そして、岩石の中に入ってたものは大量の私のこれまでの想い。
それが決壊して、溢れ出す。そんな私を彼らは抱きしめてくれた。
△▽
その後、私が自分から城へ帰り、私の大切な人達に危害を加えようとした騎士を父、国王に話しました。
首謀者だったオラン・バンタレイモンは鉱山に送られ、取り巻きだった者達は、全員多額の罰金と騎士職の剥奪及びむち打ちの刑に処されました。
私にも注意が下り、一ヶ月間部屋での謹慎を受けました。
ただ逆にそれは良かったと思います。私は自由。
なら周りなんて気にする必要が無い。それに私自身が目標を持つのだって誰も咎めることは無い。
もう何ヶ月かすれば、あの学園の入試がある。私はその目標の為に、今はとにかくこの時間を使って・・・!
「最近ラオ王子頑張ってますね。」
「何でもあの学園を目指しているとか。」
「あら!そうなのですか!?」
それから彼は変わった。今までの悪いとも良いとも言えない印象は、確実な好色に。
将来を見すえる彼の目は、以前の女々しいモノではなく、気高き王族のようなモノへ。
やがて彼は第一皇子、第二王子程にまで、その人気を高めていくのであった。
△▽
それ以来か。彼は自分の好きなように。・・・女性として振舞っていたはずだが。
僕はラオをこの学園で見た時、正直驚いた。彼はドレスを着ていたし、でも、でも、
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