ガチ勢転生

kashizaki

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第6話〜技〜

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「グハハハハ!俺二会ッタノヲ後悔スルガイイ人間!!」
「フォトンエッジ!」
「ヌグアァァ!!」
「おっ!クリティカル。」
「グッ…ヤルデハナイカ。最後二貴様ト戦エタコト…ヨガッ…タ。カンシャ…ス……ル。」
「ねぇ、お前たち最後の言葉ワンパターンなの?」
俺の疑問を解消する人はここには居なく、俺の攻撃で致命傷を受けたゴブリンは、ドロップアイテムでもうお馴染みの耳を残して消え去った。

(今日これで10体目。この中に最初に倒したゴブリンの家族は…確かめる意味も無いか。)
普段なら触るだけでアイテムボックスに行く筈の耳を、慣れた動作で腰の麻袋にしまう。
「元世界1位が縛りプレイなんて知られたら、掲示板で写真付きで取り上げられそうだな…。」

この世界はグロレムに似てる。全く同じと言ってもいい。だが、所々こうやって現実味があるせいで、元を知っているだけにストレスで溜息を吐くしか無かった。
だが、それでもかなり進歩した方だろう。と、ロギンスは思う。彼の持っているダガー。相変わらず小さく子供用で、大人が見たら使い捨てか?と見てしまいそうだが、大きくその性能は進化していた。

それは先日妹の誕生日に気まぐれでアクセサリーを作った時、その出来栄えが今までのボロでは無く、普通へとランクアップしたのだ。

「フォトンエッジ。前世でもかなりコスパ良くて好評だったけど、実際1ヶ月以上も地力でやってたら余計強く見えるな。」
普通へとランクアップしたのは、ただの武器の性能面だけでは無い。“技”を覚えられるようになったのだ。
技とは、一定の条件下で放てる、戦いの中で役に立つ武器職ならではの切り札のこと。

解放条件がプレイヤーがLv10を超えていることと、
所持するメイン武器が☆2を超えていること。  (つまりボロじゃないことだ。)
流石にこれにはホーム画面が変更され、新たに『技の強化』というものが増えた。プレイヤーの思惑通りにやってくれる便利機能はどこえやら、この世界ではホーム画面は解禁性らしい。とことん現実に置き換えてやがる。

ちなみにフォトンエッジの使う条件は戦闘中であること。最早それは条件というのか?
効果は、簡単に言うと3つ。クリティカルヒット確率を極小アップさせるのと、発動時の攻撃力小アップ。そして最後の1つが、
正面の攻撃のクリティカルダメージが2倍だ。
最後の1つが特にこの技のコスパが良いとされている理由で、最初にゴブリンと戦った時に成功させた『受け流し』。受け流しにはただ敵の攻撃を受け流すだけではなく、確定で次回の攻撃のクリティカルがある。
そして、フォトンエッジはクリティカル時のダメージ2倍だ。ただでさえ普段よりダメージ量が増加するクリティカルが、この技で2倍になる。このように武器職は様々な技を使い、強化することで成り立っている。
もはやゴブリンの皮膚など薄紙も同然だ。

何?『受け流し』は技じゃないのかだって?
ちっちっち。受け流しは技ではなく、プレイヤースキルだ。敵の攻撃をしっかりと確認し、その攻撃を体で受けず、流す。この工程を成功させなければ、受け流しは成功しない。前世でこの方法を見つけた奴はきっと現実でも絶対そういう事で有名だったのだろう。
それほど受け流しは難しい。俺は出来るが!ヌハハハ!!………廃人とは言わないでおくれ。

ただ、そのプレイヤースキルでクリティカルが確定するのはおかしい。恐らくグロレムの運営側が最初から見越して入れていたのだろう。武器に刀もあるくらいだ。

「この辺りのゴブリンはもう狩り尽くしたか?」

見れば先程から周りのゴブリン達の気配がしなくなった。
狩り尽くした。とは言い過ぎだが、それに近いであろうし、この惨状を見て逃げ出したのだろう。
ゲームではダンジョンのボス部屋やイベントでも無ければ無限湧きだったが、この世界ではしっかりと弱肉強食が自然と作られているのだと思う。少しずつ、この世界のゲームと現実の違いを理解してきたつもりだ。

そう、ゲームでは起こらなかったことも、現実となると、起こり得る。俺はそれをこれから身に染みて知ることになる。


「…あれは何だ。」

東の方角、明らかにトラブルがまさに今起こったように、黒い煙が上がっていた。
(急ごう。何かあったかもしれない。)
イベントか?とも思いながら、俺は煙の上がった方角へと走った。





「これは…。」
茂みの奥で、俺は息を潜めながら前の風景を見ていた。

「これは高く売れそうだ!」
「やりましたねお頭!当たりですよこの馬車!金だけじゃねぇ。奴隷も運んでる馬車です!」
「おう!おめぇら、早く運べ!煙が上がっちまってる。近くの町の警備兵が来るかもしれねえ。」

「なんでランダムイベントのアプソル盗賊団がこんな所いるんだ!?」
アプソル盗賊団。グロレムで外にさえ入れば、どこでもランダムで発生する強制イベント。
突如、何処からともなく現れたアプソルという盗賊たちが、プレイヤーやNPC達を襲うそのイベントは、前世では、発生した途端、襲われたプレイヤー達を恐怖に落とす…ではなくさせた。

自分たちのLvからだいたい10ほど下げられた盗賊達が約15~30人ほど現れる。
それだけ聞けば、厄介極まりないが、ハイリスクハイリターン。
倒した時の盗賊が落とす報酬が、一人に付き1つ、ドロップアイテムがレッド宝石だったのだ。
レッド宝石は、自分が持っている武器の強化に使える。
本来、高難易度イベントや、強力な魔物の討伐報酬で、それでも数個程度だったその宝石が、一人15個は確定で手に入る。なんて美味しいイベントなのだろうか。

だが、そのイベントが目の前で実際に起こっているのに、俺は確実な違和感に苛まれていた。

「アプソル盗賊の出現は、プレイヤーが最低でも3人以上居なければ出くわさないイベントなのに、なんで…。」

そう。全てはプレイヤーがいないと起こらない。プレイヤーが居てこそのイベントであり、プレイヤーがあってこそのアプソル盗賊団。それが目の前で全く関係の無い、本来なら風景。NPCを襲っている。

「……いや、そうだ。何度考えたら分かる。あれはNPCじゃないだろ。しっかり人間なんだ。」
(そう。ここは現実。あの盗賊団ももちろん生きている。プレイヤーの美味しい餌じゃない。こうして、人を襲っているんだ。)

ロギンスは答えに辿り着いた。そして、その現実を知り、もう一度振り返って彼らを見る。ロギンス自身も同じだった。頭では、彼らの出現に驚きながらも、他のプレイヤー達と同じく少なからず考えていなくても、喜んでいたのだ。

「くそっ駄目だ。ぐあぁぁぁ!!!」
「おい、お前たち金は払う。払うから助け………。」

目の前で襲われているを蔑ろにして。

(なら…それが分かったなら、ここからは分かるだろロギンス。最強のアバターよ。今のお前はプレイヤーと一心同体。ならば、やることはただ一つ!)

「護るんだ!!」

かつて、一匹狼と、ただ一人で戦い続けた男が、今まさに動き出した。
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