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『Nuwara Eliya』
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三月。寒さが和らぎ春の息吹も感じられるようになった頃。今日は朝からずっと快晴で、ほころび始めた菜の花の黄色い蕾が、昼下がりの陽光に暖められて喜んでいる。
出張営業から帰ってきたあたしと杏介さんは、カフェ『TEAS 4u』の扉を開いた。
「たっだいまー!」
「ただいまって、お前の家じゃないだろ」
いちいち挟んでくれる杏介さんの突っ込みは愛情の証として無視しておく。
あたしは手に提げた紙袋を下ろしながらカウンターの一席に腰かけた。卒業式を終え、もう着ることもないと思っていた高校の制服は、今日の結婚式のためにしっかりアイロンがかけられていて今もまだ張りがあった。
「あー、陽凪さん、すっごい綺麗だったなー。やっぱり結婚は女の夢かなぁ」
大きな独り言をこぼしながら、ちら、ちら、と杏介さんに視線をやる。
礼服のネクタイを緩めてカウンターに入る杏介さんは「ま、そうかもな」なんて小さく笑う。
お、なんだかとても機嫌がよさそう。そう思ったあたしは、勇み足覚悟でもうちょっとだけ攻めてみようと紙袋を漁った。
「じゃーん、杏介さん! ほらブーケ、ブーケもらっちゃいましたよあたし!」
「知ってるよ。見てたし」
立派な花束。それを両手で、香りもわかるほど顔の近くに持って思わずうっとりする。
「これもらった人は、次に結婚できるんですよね。だったらあたし、杏介さんと結婚したいなぁ」
「いいよ」
杏介さんはさっそくジャケットを脱いでハンガーに掛け、布巾でカップを拭きながら言った。棚から茶葉の缶を取り出し、コンロでやかんの湯を沸かし――って、え?
「えっ!? 杏介さん……今なんて!?」
カウンターに激しく乗り出して訊き返すあたし。
杏介さんは目を閉じ動じず、手を動かしながら答えた。
「いいよって言ったんだよ。なんだ、それともさっきのは冗談か?」
「いや……いや冗談じゃないですけど! でも――」
「でも、いきなり結婚はお互いまだ無理だ」杏介さんは見計らったかのような先回りであたしの言葉の先をさらう。「だからまずは結婚より先にお付き合いで、恋人から。今日は先に、メニューのご紹介とお勉強だな」
杏介さんは茶葉をポットに移したあと、銘柄の書かれた缶をあたしの前の台に置いた。
「さて。この紅茶は、スリランカ産のヌワラエリヤ。中でもラバーズリープという茶園で採れた逸品だ。その茶園のある渓谷にはちょっとした言い伝えがあってな。昔々、彼の地に栄えたキャンディ王国の王子と国の女性が恋に落ち、その渓谷に身を隠したことから名付けられた地名だそうだ。で、ラバーズリープの意味は『恋人たちのときめき』」
「恋人たちの、ときめき……」
「そ。ヌワラエリヤの花のような爽やかな香りはまさしくブーケに喩えられ、グリーンノートと呼ばれている。さっきからそいつを握りしめている今のお前に、ぴったりだろう」
杏介さんは少しだけ口角を引き上げながら、あたしの手元の花束を示した。
なんだか素敵な話っぽいけど……でも正直、今のあたしは「そう、ですね」と話半分で返すことしかできない。なぜならもっと、遥かに気になることがあるからだ。
「あの、ホントのホントに、あたしと付き合ってくれるんですか?」
「ああ。ちゃんと四月になって、高校を卒業したらな。さすがに女子高生とは付き合えない。ってか、肝心の受験はどうだったんだよ」
「受験は結構前に発表で、受かりましたけど。いやそんなことより!」
「おいおい、そんなことじゃないぞ。受かったなら早く教えてくれ。俺だって一応、気にしてたんだから」
「気にしてくれてたのは嬉しいですけど! それよりもう聞きましたよ! 聞いちゃいましたからね杏介さん! 本当に付き合ってくれるんですね? もう一回訊いていいですか? 嘘とか冗談じゃなく、付き合ってくれるんですね!?」
あたしの質問攻めに杏介さんは「疑り深いな」と一瞬だけ顔をしかめて動きを止めたが、すぐにまた流れるような作業へと戻る。
「少なくとも俺は、冗談でこいつを出すつもりはないよ」
そしてその言葉と同時、コトッとあたしの目の前に置かれたのは、本来店の格子棚の左上で眠るはずの、白磁に銀のティーカップ。丁寧に布巾で磨かれて、湯で温められていた。
「お前、いつだったかこれ、使ってみたいって言ってただろう」
そのときあたしは、心の底から驚いた。
確かに言った。バイトを始めてすぐの頃、このカップを指で示して、使ってみたいと。そのときのあたしは知らなかったのだ。このティーカップにどんな想いが込められているのか。
でも、今ならわかる。
あたしは不安な顔で杏介さんを見た。
「あの、でもこれって、楓さんの……」
「そうだけど、菜乃花ならいいかなって思ったんだ」
杏介さんは、あたしの不安を払うような穏やかな声と表情で優しく言った。そして手元のポットを携え、カウンターを回り込んでこちら側へと歩いてくる。
「俺のことが好きだなんて、最初はすぐに飽きると思ったよ。でも、菜乃花がここに来るようになって、もうじき一年だ。意外に一途だし、俺も、その気持ちをあまり無碍にはできないかなって」
杏介さんはあたしの隣にゆっくりと立ち、できあがったばかりの紅茶を美しいティーカップに注いでいく。
そうして続けた。あたしを見て。
「なあ、菜乃花。きっと俺も、菜乃花のこと好きになるよ。だからこのティーカップ、よかったらもらってくれないか」
あまりにも真剣な顔でそう言われ、あたしは思わず舞い上がった。いや、さっきからずっと舞い上がっていたのだろうけど、もっともっと舞い上がった。それはもう高く高く、風に吹き上げられた花びらのように。
そしてそのまま勢いに任せて「はいっ!」と、杏介さんに思いきり飛びつく。杏介さんはふらつきながらもしっかりとあたしを受け止めてくれる。
力強く暖かい腕の中、抱きしめられた杏介さんの肩越しに見える店先。
巡り巡ってまた新しく訪れた春の、明るい日が差す、その場所で。
爽風にそよぐ菜の花が心地よさそうに笑っていた。
了
出張営業から帰ってきたあたしと杏介さんは、カフェ『TEAS 4u』の扉を開いた。
「たっだいまー!」
「ただいまって、お前の家じゃないだろ」
いちいち挟んでくれる杏介さんの突っ込みは愛情の証として無視しておく。
あたしは手に提げた紙袋を下ろしながらカウンターの一席に腰かけた。卒業式を終え、もう着ることもないと思っていた高校の制服は、今日の結婚式のためにしっかりアイロンがかけられていて今もまだ張りがあった。
「あー、陽凪さん、すっごい綺麗だったなー。やっぱり結婚は女の夢かなぁ」
大きな独り言をこぼしながら、ちら、ちら、と杏介さんに視線をやる。
礼服のネクタイを緩めてカウンターに入る杏介さんは「ま、そうかもな」なんて小さく笑う。
お、なんだかとても機嫌がよさそう。そう思ったあたしは、勇み足覚悟でもうちょっとだけ攻めてみようと紙袋を漁った。
「じゃーん、杏介さん! ほらブーケ、ブーケもらっちゃいましたよあたし!」
「知ってるよ。見てたし」
立派な花束。それを両手で、香りもわかるほど顔の近くに持って思わずうっとりする。
「これもらった人は、次に結婚できるんですよね。だったらあたし、杏介さんと結婚したいなぁ」
「いいよ」
杏介さんはさっそくジャケットを脱いでハンガーに掛け、布巾でカップを拭きながら言った。棚から茶葉の缶を取り出し、コンロでやかんの湯を沸かし――って、え?
「えっ!? 杏介さん……今なんて!?」
カウンターに激しく乗り出して訊き返すあたし。
杏介さんは目を閉じ動じず、手を動かしながら答えた。
「いいよって言ったんだよ。なんだ、それともさっきのは冗談か?」
「いや……いや冗談じゃないですけど! でも――」
「でも、いきなり結婚はお互いまだ無理だ」杏介さんは見計らったかのような先回りであたしの言葉の先をさらう。「だからまずは結婚より先にお付き合いで、恋人から。今日は先に、メニューのご紹介とお勉強だな」
杏介さんは茶葉をポットに移したあと、銘柄の書かれた缶をあたしの前の台に置いた。
「さて。この紅茶は、スリランカ産のヌワラエリヤ。中でもラバーズリープという茶園で採れた逸品だ。その茶園のある渓谷にはちょっとした言い伝えがあってな。昔々、彼の地に栄えたキャンディ王国の王子と国の女性が恋に落ち、その渓谷に身を隠したことから名付けられた地名だそうだ。で、ラバーズリープの意味は『恋人たちのときめき』」
「恋人たちの、ときめき……」
「そ。ヌワラエリヤの花のような爽やかな香りはまさしくブーケに喩えられ、グリーンノートと呼ばれている。さっきからそいつを握りしめている今のお前に、ぴったりだろう」
杏介さんは少しだけ口角を引き上げながら、あたしの手元の花束を示した。
なんだか素敵な話っぽいけど……でも正直、今のあたしは「そう、ですね」と話半分で返すことしかできない。なぜならもっと、遥かに気になることがあるからだ。
「あの、ホントのホントに、あたしと付き合ってくれるんですか?」
「ああ。ちゃんと四月になって、高校を卒業したらな。さすがに女子高生とは付き合えない。ってか、肝心の受験はどうだったんだよ」
「受験は結構前に発表で、受かりましたけど。いやそんなことより!」
「おいおい、そんなことじゃないぞ。受かったなら早く教えてくれ。俺だって一応、気にしてたんだから」
「気にしてくれてたのは嬉しいですけど! それよりもう聞きましたよ! 聞いちゃいましたからね杏介さん! 本当に付き合ってくれるんですね? もう一回訊いていいですか? 嘘とか冗談じゃなく、付き合ってくれるんですね!?」
あたしの質問攻めに杏介さんは「疑り深いな」と一瞬だけ顔をしかめて動きを止めたが、すぐにまた流れるような作業へと戻る。
「少なくとも俺は、冗談でこいつを出すつもりはないよ」
そしてその言葉と同時、コトッとあたしの目の前に置かれたのは、本来店の格子棚の左上で眠るはずの、白磁に銀のティーカップ。丁寧に布巾で磨かれて、湯で温められていた。
「お前、いつだったかこれ、使ってみたいって言ってただろう」
そのときあたしは、心の底から驚いた。
確かに言った。バイトを始めてすぐの頃、このカップを指で示して、使ってみたいと。そのときのあたしは知らなかったのだ。このティーカップにどんな想いが込められているのか。
でも、今ならわかる。
あたしは不安な顔で杏介さんを見た。
「あの、でもこれって、楓さんの……」
「そうだけど、菜乃花ならいいかなって思ったんだ」
杏介さんは、あたしの不安を払うような穏やかな声と表情で優しく言った。そして手元のポットを携え、カウンターを回り込んでこちら側へと歩いてくる。
「俺のことが好きだなんて、最初はすぐに飽きると思ったよ。でも、菜乃花がここに来るようになって、もうじき一年だ。意外に一途だし、俺も、その気持ちをあまり無碍にはできないかなって」
杏介さんはあたしの隣にゆっくりと立ち、できあがったばかりの紅茶を美しいティーカップに注いでいく。
そうして続けた。あたしを見て。
「なあ、菜乃花。きっと俺も、菜乃花のこと好きになるよ。だからこのティーカップ、よかったらもらってくれないか」
あまりにも真剣な顔でそう言われ、あたしは思わず舞い上がった。いや、さっきからずっと舞い上がっていたのだろうけど、もっともっと舞い上がった。それはもう高く高く、風に吹き上げられた花びらのように。
そしてそのまま勢いに任せて「はいっ!」と、杏介さんに思いきり飛びつく。杏介さんはふらつきながらもしっかりとあたしを受け止めてくれる。
力強く暖かい腕の中、抱きしめられた杏介さんの肩越しに見える店先。
巡り巡ってまた新しく訪れた春の、明るい日が差す、その場所で。
爽風にそよぐ菜の花が心地よさそうに笑っていた。
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