12 / 36
貳、ユエ
ユエ①
しおりを挟む
他人に言っても信じてもらえないかもしれないが、今の俺にとって、学校はそれほど嫌な場所ではない。会いたい人がいるというだけで、驚くほど気持ちは違ってくるものだ。席に座って授業を受けている限り、ずっと想い人を見ていられる。一週間なんてあっという間だ。
ちなみにアオはアオで、月曜以降もときたま学校に現れた。そのせいだろうか、いつしか、どこからともなく「学校の中に大風呂敷を担いだ兎が……」なんて噂も出ているようだった。呆れるほどにシュールな噂だが、まあ実際に捕まることがなければ誰も本気にはしないだろう。
そして金曜。この日の下校時、アオは兎ではなく人の姿で学校に現れた。校門前で姿勢良く、華やかな姿で佇む着物姿の若い女性は、非常に周囲の目を集める。しかも明らかに異国人めいた銀髪蒼眼。改めて家の外で見ると、目眩を覚えるほど非日常的な存在だ。おかげで俺まで余計な注目を浴びることになる。まあいっそ見られるのは諦めるとして、それでも妙な誤解を生んでほしくはない。特に月見里の耳には、入ってほしくないものだ。
俺はとにかく早足でアオのところまで向かい、無言でその手を取って学校を離れた。
「お前、ちょっと目立ちすぎだよな……」
「あんたがあそこで待ってるように言ったんでしょ。あたしはただ立ってただけよ」
「いやまあ、そうだけど!」
確かに、それについては間違いない。週末にじじいの病院を訪問するから、今日は学校帰りに駅でそのための買い物をする予定なのだ。もともと一人で済ませるつもりだったが、そのことを今朝アオに話したら、同行すると申し出てきた。
けれども、アオはスマホのような遠隔の連絡手段を持たないから、俺が事前に待ち合わせの時間と場所を指定しておいた。「行き違いになると困るから、わかりやすい校門がいい」と。
結果がこれだ。わかりやすすぎるのも問題である。しかしながら今回は完全に俺の失態。こいつの容姿格好の奇抜さを考慮に入れなかった俺のミスだ。
奇抜ゆえに人目を集め、秀麗ゆえに人目を逃さない。言動がどれだけ残念でも、一般的にアオの外見が優れているのは事実なのだ。
こうして駅の百貨店を歩く今でも、すれ違う人々は高確率でアオを振り返り、足を止める。これでは落ち着いて買い物もできない。もし何かのはずみでアオの頭からひょっこり長い耳が飛び出しでもしたら、いったいどんな騒ぎになるのだろう。そう考えると気が気じゃない。
しかしアオは、そんな俺の半歩後ろを歩きながら、平気な顔で囁いた。
「大丈夫よ。この視線の理由は、言ってしまえばあたしが浮いてるから。仮にあたしが今ここで自慢の耳を立てたとしても……なんだっけあれ、こすぷれ? とかいうのに思われるのが関の山でしょ。だったらむしろ堂々としてればいいのよ」
……また変な言葉を覚えたな。
しかし、それを聞いて俺はもう一度、周囲の人の表情を見る。ただ漠然とではなく、一人ひとりを順番に。すると確かに、アオの言葉ももっともだと思えた。向けられた視線のほとんどは「物珍しさ」へのそれだ。
「ま、もちろんこの注目は、あたしの容姿があってこそだけどね。いつの世も美しきは罪よね」
自慢げに言われると癪だがその通りではある。
その後もアオは、まるで周囲に紛れるということをせず、買い物を続ける俺の横で「あれは何? これは何?」と忙しなく動いた。あまつさえ、目立つがゆえに声をかけてきたコスメショップの店員に連れていかれ、見事に足を縫い付けられてしまう。結局、声をかけてもうんともすんとも言わずに店員の話ばかりを聞いているので、痺れを切らした俺は勝手に当初の用事である見舞いの買い物を済ませにいった。
洗面用具、ティッシュ、飲料水などの日用品に加え、じじいの気に入っているメーカーのカステラも忘れず買う。そもそもこれが、わざわざ駅の百貨店まで足を伸ばした理由なのだ。
そうして三十分ほど経っただろうか。アオを拾いにコスメショップに戻ったら、あろうことかすっかりたらし込まれていて「ねいるするからこれ買って」と小瓶を二、三押し付けられた。
「ネイルの発音が平仮名の口で何言ってんだ」
「いいじゃない。これであたしの機嫌が買えるなら安いもんでしょ」
なんという買わせ文句かと思ったが、しかし、それも一理あるのでは、などと考えてしまったあたり、俺も相当キているなと感じた。
おそらく試供で店員にやってもらったのであろう、せがむアオの爪には既に立派な空色のネイルがあしらわれていて、着物姿にもよく合っている。これをアオが自分でできるのかと思うと、ある意味、見ものだ。暇をネイルに費やすなら多少は大人しくもなるかもしれない。
そう思いながら、俺はレジで財布を出した。もちろん俺の金じゃない。じじいの財布から客の接待代として引いた。
ちなみにアオはアオで、月曜以降もときたま学校に現れた。そのせいだろうか、いつしか、どこからともなく「学校の中に大風呂敷を担いだ兎が……」なんて噂も出ているようだった。呆れるほどにシュールな噂だが、まあ実際に捕まることがなければ誰も本気にはしないだろう。
そして金曜。この日の下校時、アオは兎ではなく人の姿で学校に現れた。校門前で姿勢良く、華やかな姿で佇む着物姿の若い女性は、非常に周囲の目を集める。しかも明らかに異国人めいた銀髪蒼眼。改めて家の外で見ると、目眩を覚えるほど非日常的な存在だ。おかげで俺まで余計な注目を浴びることになる。まあいっそ見られるのは諦めるとして、それでも妙な誤解を生んでほしくはない。特に月見里の耳には、入ってほしくないものだ。
俺はとにかく早足でアオのところまで向かい、無言でその手を取って学校を離れた。
「お前、ちょっと目立ちすぎだよな……」
「あんたがあそこで待ってるように言ったんでしょ。あたしはただ立ってただけよ」
「いやまあ、そうだけど!」
確かに、それについては間違いない。週末にじじいの病院を訪問するから、今日は学校帰りに駅でそのための買い物をする予定なのだ。もともと一人で済ませるつもりだったが、そのことを今朝アオに話したら、同行すると申し出てきた。
けれども、アオはスマホのような遠隔の連絡手段を持たないから、俺が事前に待ち合わせの時間と場所を指定しておいた。「行き違いになると困るから、わかりやすい校門がいい」と。
結果がこれだ。わかりやすすぎるのも問題である。しかしながら今回は完全に俺の失態。こいつの容姿格好の奇抜さを考慮に入れなかった俺のミスだ。
奇抜ゆえに人目を集め、秀麗ゆえに人目を逃さない。言動がどれだけ残念でも、一般的にアオの外見が優れているのは事実なのだ。
こうして駅の百貨店を歩く今でも、すれ違う人々は高確率でアオを振り返り、足を止める。これでは落ち着いて買い物もできない。もし何かのはずみでアオの頭からひょっこり長い耳が飛び出しでもしたら、いったいどんな騒ぎになるのだろう。そう考えると気が気じゃない。
しかしアオは、そんな俺の半歩後ろを歩きながら、平気な顔で囁いた。
「大丈夫よ。この視線の理由は、言ってしまえばあたしが浮いてるから。仮にあたしが今ここで自慢の耳を立てたとしても……なんだっけあれ、こすぷれ? とかいうのに思われるのが関の山でしょ。だったらむしろ堂々としてればいいのよ」
……また変な言葉を覚えたな。
しかし、それを聞いて俺はもう一度、周囲の人の表情を見る。ただ漠然とではなく、一人ひとりを順番に。すると確かに、アオの言葉ももっともだと思えた。向けられた視線のほとんどは「物珍しさ」へのそれだ。
「ま、もちろんこの注目は、あたしの容姿があってこそだけどね。いつの世も美しきは罪よね」
自慢げに言われると癪だがその通りではある。
その後もアオは、まるで周囲に紛れるということをせず、買い物を続ける俺の横で「あれは何? これは何?」と忙しなく動いた。あまつさえ、目立つがゆえに声をかけてきたコスメショップの店員に連れていかれ、見事に足を縫い付けられてしまう。結局、声をかけてもうんともすんとも言わずに店員の話ばかりを聞いているので、痺れを切らした俺は勝手に当初の用事である見舞いの買い物を済ませにいった。
洗面用具、ティッシュ、飲料水などの日用品に加え、じじいの気に入っているメーカーのカステラも忘れず買う。そもそもこれが、わざわざ駅の百貨店まで足を伸ばした理由なのだ。
そうして三十分ほど経っただろうか。アオを拾いにコスメショップに戻ったら、あろうことかすっかりたらし込まれていて「ねいるするからこれ買って」と小瓶を二、三押し付けられた。
「ネイルの発音が平仮名の口で何言ってんだ」
「いいじゃない。これであたしの機嫌が買えるなら安いもんでしょ」
なんという買わせ文句かと思ったが、しかし、それも一理あるのでは、などと考えてしまったあたり、俺も相当キているなと感じた。
おそらく試供で店員にやってもらったのであろう、せがむアオの爪には既に立派な空色のネイルがあしらわれていて、着物姿にもよく合っている。これをアオが自分でできるのかと思うと、ある意味、見ものだ。暇をネイルに費やすなら多少は大人しくもなるかもしれない。
そう思いながら、俺はレジで財布を出した。もちろん俺の金じゃない。じじいの財布から客の接待代として引いた。
0
あなたにおすすめの小説
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
まだ見ぬ未来へ駆け抜けて!
小林汐希
ライト文芸
2年5組の生徒:松本花菜(17歳 高校2年生)
2年5組の担任:長谷川啓太(23歳 教師歴1年目)
幼い頃から、様々な悩みを抱えながら過ごしてきた花菜。
それは幼い頃に父との離別を経験した家庭環境だったり、小学校の最後に作ってしまった体の古傷であったり。
学校外の時間を一人で過ごすことになった彼女の唯一、かつ絶対的な味方でいてくれたのが、近所に住む啓太お兄ちゃんだった。
しかし年の離れた二人の関係では仕方ないとはいえ、啓太の大学進学や環境変化とともに、その時間は終わりを迎えてしまう。
ふさぎ込む花菜を前に、啓太は最後に「必ず迎えに来る」という言葉を残して街を離れた。
言葉を受け取った花菜は、自分を泣かせないための慰めだったという諦めも入りつつ、一方で微かな希望として心の中で温め続けていた。
数年の時を経て二人が再び顔を合わせたものの、もはや運命の意地悪とでもいうべき「担任教師と生徒」という関係。
最初は様子伺いだったけれど、往時の気持ちが変わっていないことを再確認してからは、「一人じゃない」と嬉しいこと・辛いことも乗り越えていく二人には少しずつ背中を押してくれる味方も増えていく。
再会した当初は「おとなしい終末的運命キャラ」になっていた花菜も次第に自信を取り戻し、新米教師の啓太も花菜のサポートを裏で受けつつ堂々と教壇に立ち続けた。
そんな互いを支えあった二人の前に開けた世界は……。
たった一つだけの約束を胸に、嬉しいときは一緒に喜び、悲しいときは支えあって走り抜けた二人の物語です。
愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました
由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。
尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。
けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。
そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。
再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。
一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。
“尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。
静かに離婚しただけなのに、
なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
白苑後宮の薬膳女官
絹乃
キャラ文芸
白苑(はくえん)後宮には、先代の薬膳女官が侍女に毒を盛ったという疑惑が今も残っていた。先代は瑞雪(ルイシュエ)の叔母である。叔母の濡れ衣を晴らすため、瑞雪は偽名を使い新たな薬膳女官として働いていた。
ある日、幼帝は瑞雪に勅命を下した。「病弱な皇后候補の少女を薬膳で救え」と。瑞雪の相棒となるのは、幼帝の護衛である寡黙な武官、星宇(シンユィ)。だが、元気を取り戻しはじめた少女が毒に倒れる。再び薬膳女官への疑いが向けられる中、瑞雪は星宇の揺るぎない信頼を支えに、後宮に渦巻く陰謀へ踏み込んでいく。
薬膳と毒が導く真相、叔母にかけられた冤罪の影。
静かに心を近づける薬膳女官と武官が紡ぐ、後宮ミステリー。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる