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十六日目 リセット
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目が覚めると朝だった。
良い夢も悪い夢も見なかった。
朝鳴き鳥の声を聞きながら、ひどい倦怠感に溜息ををひとつ。こんな朝にも天国を展開してくれるお布団に感謝。
あったかふわふわ。こんなに俺に優しい存在は他にあるまい。いつになく温い寝床に、このまま布団の一部になってしまいたいとさえ思う。
それも良いだろうと、俺は夢の世界へもう一度(或いは永遠に)旅立とうとする。
「おはようラウル」
二度寝に突入しようとしていた体がビクッと大袈裟に跳ねた。
左様。いつもより狭い布団がやたらと温いと感じたのなら油断は禁物。布団という聖域に自分以外の熱源の存在を覚悟せねばならない。
狂騒曲を奏でる心臓。重い瞼をギギギと開く。
眼前には、新妻でも愛でるような眼差しでじっとこちらを見つめるヒーローさま。上機嫌でニッコリと微笑んでいる。
ど。どど、どどとととどど、どういう状況?
話の前後が繋がらん!もしや俺は前話を読み飛ばしてしまったのかい……?
「ふふ、かわいい。そんなに青くなって……」
慈しみ深い青の瞳を細めて、セドリックは言った。
カワイイは正義……!てのは、俺の価値観にそぐわんと言うに。そも、血の気が引いて青くなってる様子を「かわいい」て……。狂気だよね。
フっと極上の笑顔をかましてから、もぞりと起き出してサイドテーブルへ手を伸ばすセドリック。
お前さんには、俺を拉致監禁した上で食事を与えないという虐待行為に及んだ自覚はないのかい?自覚していてその態度かい?
俺はもう、自分が無茶苦茶に憎まれている可能性をどう否定していいか分からん。
「ねぇラウル?僕のかわいい芋虫ちゃーん。朝ごはんにしようよ。はいあーん」
ねえ、どういう神経……!?
開いた口が塞がらないラウルは心の内で叫んだ。ラウルの塞がらない口に、ムギュっとサンドイッチが押し込まれる。
……ムグッうまい。
二晩ぶりの食糧である。味わわない手はない。ラウルは目を閉じてじっくりと咀嚼する。まんまと餌付けされてる。でも美味しいものに罪はない。もぐもぐ。
セドリックはラウルの隣でヘッドボードに上半身をもたれ、腰から下を布団にもぐり込ませている。ぴったりと寄り添って横たわるラウルを見下ろし、その髪を指に絡める優しい手つきにホワホワしてくる。
朝日がセドリックを照らして金髪が一際輝く。あれ、なんかやつれた……?ぬう?いやしかし、神々しいな……!!ふぐっ……いかん。イケメン直視しすぎて目が潰れそう。美の暴力……。
「ラウル?お水も欲しい?」
ください。
二日間のネグレクトは百年の恋も覚める暴挙だったと思うのだが。セドリックの甘い声に鼓膜が溶けそうなの何で?
この冬休みに俺たちの関係はすっかり変わってしまい、俺たちが本当に仲の良い幼馴染だったのかさえ疑わしく思う。俺の目に見えていたセドリックは、願望が見せる幻だったか、それともそれらしく作り上げられた虚構なのか。
いずれにせよ厄介なことである。
よく噛み砕いたサンドイッチでも、今はうまく飲み込めそうにない。お水プリーズ。
最高のタイミングで水の入ったコップが差し出され、ラウルは受け取った。セドリックの目が見られなくて、コップを煽って誤魔化す。
ゴクゴクと喉が鳴る。水と糖質が五蔵六腑に染み渡る。
思わず「プハー」と盛大に息を吐いたあとで、少し活力を取り戻し、モゴモゴと小声で感謝を述べる。なけなしの反骨精神と勇気とをかき集めてセドリックの顔をチラ見する。セドリックは、よく知った幼馴染の顔で微笑んでいて、「どういたしまして」と鷹揚に応えた。
美しい。聖人君子の見本のよう。
誰だ、セドリックが「無慈悲、無神経、無共感」で邪神まっしぐらだなんて考えたのは。
俺か。
いつも通り過ぎるのよ。……俺の方がおかしいのかい?
ラウルは混乱する。だってラウルの左足には今も硬い鎖が絡みついてジャラジャラしているのだ。
ねえ。俺、怒ってもいいよね?
割と精神を病む程度の絶望を味わう仕打ちだと思うのよ。俺だから許されるようなもんよ?ふつう事案ですよ。事案。
……いや待て、俺でも許されんわい!
俺の生殺与奪の権を握る男が、愛すべき人間であって欲しいという願望が俺の目を曇らせるのか。抗いようもないセドリックの魅力が、俺の正気を失わせるのか。
セドリックは何でこんな事をするんだ?監禁と拷問(快楽責めからの飢餓)ぞ?
こんな面倒な真似をして、俺から何を引き出したい?いったい俺にセドリックのどんな望みが叶えられると言うんだ?無い物ねだりというやつじゃないか?
無理難題を吹っかけて痛めつけるなんて、いじめっ子かよ。酷い奴。
バカ!ドS!変態!悪魔!サイコパス!ヤリチンクソイケメン!(ヤリチンはゲーム内匂わせだけど)
こんな仕打ちの動機に憎しみ以外の理由があるだろうか。くそう。なんか、涙が出てきそう……。
ラウルは空になったコップをセドリックに押し返すと、サンドイッチを強奪する。そして獣のように齧り付き、一心不乱に噛み砕いて涙と一緒に飲み込んだ。
折角の好物がなんだか少し塩辛い。
ムカつく。
良い子にするからもっと優しくしろよ。
胃がびっくりしないように普段の十倍もぐもぐ噛んで食べてるラウル。セドリックは隣に座ってニコニコと見守っていた。「いっぱい食べてね」なんて言ってさ。
俺、本当は鎖なんかなくても囚われてる。
良い夢も悪い夢も見なかった。
朝鳴き鳥の声を聞きながら、ひどい倦怠感に溜息ををひとつ。こんな朝にも天国を展開してくれるお布団に感謝。
あったかふわふわ。こんなに俺に優しい存在は他にあるまい。いつになく温い寝床に、このまま布団の一部になってしまいたいとさえ思う。
それも良いだろうと、俺は夢の世界へもう一度(或いは永遠に)旅立とうとする。
「おはようラウル」
二度寝に突入しようとしていた体がビクッと大袈裟に跳ねた。
左様。いつもより狭い布団がやたらと温いと感じたのなら油断は禁物。布団という聖域に自分以外の熱源の存在を覚悟せねばならない。
狂騒曲を奏でる心臓。重い瞼をギギギと開く。
眼前には、新妻でも愛でるような眼差しでじっとこちらを見つめるヒーローさま。上機嫌でニッコリと微笑んでいる。
ど。どど、どどとととどど、どういう状況?
話の前後が繋がらん!もしや俺は前話を読み飛ばしてしまったのかい……?
「ふふ、かわいい。そんなに青くなって……」
慈しみ深い青の瞳を細めて、セドリックは言った。
カワイイは正義……!てのは、俺の価値観にそぐわんと言うに。そも、血の気が引いて青くなってる様子を「かわいい」て……。狂気だよね。
フっと極上の笑顔をかましてから、もぞりと起き出してサイドテーブルへ手を伸ばすセドリック。
お前さんには、俺を拉致監禁した上で食事を与えないという虐待行為に及んだ自覚はないのかい?自覚していてその態度かい?
俺はもう、自分が無茶苦茶に憎まれている可能性をどう否定していいか分からん。
「ねぇラウル?僕のかわいい芋虫ちゃーん。朝ごはんにしようよ。はいあーん」
ねえ、どういう神経……!?
開いた口が塞がらないラウルは心の内で叫んだ。ラウルの塞がらない口に、ムギュっとサンドイッチが押し込まれる。
……ムグッうまい。
二晩ぶりの食糧である。味わわない手はない。ラウルは目を閉じてじっくりと咀嚼する。まんまと餌付けされてる。でも美味しいものに罪はない。もぐもぐ。
セドリックはラウルの隣でヘッドボードに上半身をもたれ、腰から下を布団にもぐり込ませている。ぴったりと寄り添って横たわるラウルを見下ろし、その髪を指に絡める優しい手つきにホワホワしてくる。
朝日がセドリックを照らして金髪が一際輝く。あれ、なんかやつれた……?ぬう?いやしかし、神々しいな……!!ふぐっ……いかん。イケメン直視しすぎて目が潰れそう。美の暴力……。
「ラウル?お水も欲しい?」
ください。
二日間のネグレクトは百年の恋も覚める暴挙だったと思うのだが。セドリックの甘い声に鼓膜が溶けそうなの何で?
この冬休みに俺たちの関係はすっかり変わってしまい、俺たちが本当に仲の良い幼馴染だったのかさえ疑わしく思う。俺の目に見えていたセドリックは、願望が見せる幻だったか、それともそれらしく作り上げられた虚構なのか。
いずれにせよ厄介なことである。
よく噛み砕いたサンドイッチでも、今はうまく飲み込めそうにない。お水プリーズ。
最高のタイミングで水の入ったコップが差し出され、ラウルは受け取った。セドリックの目が見られなくて、コップを煽って誤魔化す。
ゴクゴクと喉が鳴る。水と糖質が五蔵六腑に染み渡る。
思わず「プハー」と盛大に息を吐いたあとで、少し活力を取り戻し、モゴモゴと小声で感謝を述べる。なけなしの反骨精神と勇気とをかき集めてセドリックの顔をチラ見する。セドリックは、よく知った幼馴染の顔で微笑んでいて、「どういたしまして」と鷹揚に応えた。
美しい。聖人君子の見本のよう。
誰だ、セドリックが「無慈悲、無神経、無共感」で邪神まっしぐらだなんて考えたのは。
俺か。
いつも通り過ぎるのよ。……俺の方がおかしいのかい?
ラウルは混乱する。だってラウルの左足には今も硬い鎖が絡みついてジャラジャラしているのだ。
ねえ。俺、怒ってもいいよね?
割と精神を病む程度の絶望を味わう仕打ちだと思うのよ。俺だから許されるようなもんよ?ふつう事案ですよ。事案。
……いや待て、俺でも許されんわい!
俺の生殺与奪の権を握る男が、愛すべき人間であって欲しいという願望が俺の目を曇らせるのか。抗いようもないセドリックの魅力が、俺の正気を失わせるのか。
セドリックは何でこんな事をするんだ?監禁と拷問(快楽責めからの飢餓)ぞ?
こんな面倒な真似をして、俺から何を引き出したい?いったい俺にセドリックのどんな望みが叶えられると言うんだ?無い物ねだりというやつじゃないか?
無理難題を吹っかけて痛めつけるなんて、いじめっ子かよ。酷い奴。
バカ!ドS!変態!悪魔!サイコパス!ヤリチンクソイケメン!(ヤリチンはゲーム内匂わせだけど)
こんな仕打ちの動機に憎しみ以外の理由があるだろうか。くそう。なんか、涙が出てきそう……。
ラウルは空になったコップをセドリックに押し返すと、サンドイッチを強奪する。そして獣のように齧り付き、一心不乱に噛み砕いて涙と一緒に飲み込んだ。
折角の好物がなんだか少し塩辛い。
ムカつく。
良い子にするからもっと優しくしろよ。
胃がびっくりしないように普段の十倍もぐもぐ噛んで食べてるラウル。セドリックは隣に座ってニコニコと見守っていた。「いっぱい食べてね」なんて言ってさ。
俺、本当は鎖なんかなくても囚われてる。
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