転生者は夢の続きを見たくない(連載版)

無花果

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十八日目 天井のシミ

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 ラウルって無気力な人間でしょ?
 自分から何かしようとか、あんまり考えたことがないんだよね?やりたいと思っても、失敗を恐れて動けない腰抜けなワケよね。
 だけどそれって、育った環境のせいで付随的に獲得した生存戦略じゃない?つまり抑圧された本質があるてことだよね。
 君はどんな本性を隠し持っているの……?

「…………………」

 気のせいだ。天井のシミが語りかけてくるなんて。俺はまだそこまでイカれてないぞ。
 難しい顔で天を睨みつけていたラウルが眼球だけをチラと動かして壁際を窺う。何故だかラウルの居る部屋にやってきて、ツンとすまして本を読むセドリックが視界に入った。
 セドリックのヤツは退屈しきった様子にも関わらず、俺に話しかけるわけでもなく、それが当然と言うようにただそこに居る。俺にはなんでわざわざこの部屋で過ごすのか、ちっとも分からん。
 俺を見張っているのか?逃げないぞ?あんなチート主人公から逃げたって直ぐ取っ捕まるに決まってるし。きっと奴も俺を取り逃がす心配なんて本当は全然してないだろう。
 何なんだよ。俺にどうしようもなくイライラしちゃうくせに……。

 そっか。イライラするって言われて傷付いてたんだね。ラウル。

 ……うるせぇ、幻覚が核心を突いてくるな。

 ラウルは意地汚いと思われたくなくて大人しくしてるんだもんね。失敗しちゃったと思ってるんだね。でも彼はラウルを「意外と意地汚い」って言ったんだよ?「意外と」ってさ。
 意外に思ったんだから、普段は別の印象を抱いてるってことなんじゃないの?

 うん?

 例えば、欲しいものを欲しいと言えないところとか。自分の望みを他人に託して軽率に自己犠牲に走るところ。無謀と分かっていて堂々と罠に飛び込んで行くところとか。自分はできないと思い込むことで、別の誰かに望みを託す事に折り合いをつけようとするところ。己を顧みないことで、矛盾した行動の整合性を図ってしまうところなんかも。
 そういう愚かで哀れな性質こそを揶揄されてるんじゃないかな。お馬鹿さん。

 げふん。

 だけどさ、君の勝手な思いを託される側は良い迷惑だと思うよ。だからああして君を見張ってるんじゃないかな?
 今だって、どうせ自分なんかって言い訳して、世界の命運なんて大それた課題を全~部彼に押し付けようとしてるんだろ?自分の命と引き換えに。
 彼が何を求めているのかを分かろうともしないでさ。
 憎まれて当然だね。
 
 だって、そんなこと言ったって。俺じゃ他にどうにもできないんだよ。

 ほら、またはじまった。どうして何もできないと決めつけるんだ。君は本来、無鉄砲で向こう見ずな人間だ。
 言い訳ばかりで逃げ隠れして、何もしないよりずっといいよ。やるだけやってみたらいいじゃないか。

 でも、セドリックが俺にイライラするって言ったんだ。

 自分を守るために、彼の思いを蔑ろにしていると気がついていないから、彼を傷付けたんだよ。彼だって完璧な聖人君子じゃない。本人もそう言ってただろ?
 思い出してみろよ。君が盛大に転んだ時、手を差し伸べてくれたのは誰だった?
 君が転ばなきゃ、彼も手を差し伸べられないだろ?

 少しだけ顔を傾けてセドリックを視界に捉える。
 ラウルの存在など関知しないとでも言うように、黙々とページをめくり続けるセドリック。
 どうして彼が自分を閉じ込めたのか、分からなくて怖かった。憎まれているからだとすれば納得するしかないから。
 でももしも、他に理由があったなら……。
 例えば、セドリックが自分と同じ記憶を——ラウルがセドリックに殺められるところで終わる、ショッキングで悲劇的な記憶を俺も取り戻したと思っているなら?
 だとしたら、殺した人間が生き返ってきたようなもので、可及的速やかに俺の自由を奪い取って監禁したとしても、彼を責められないよな。
 画面の向こうで、プレイヤーとしてラウルの最期を見届けた時。俺はその死に、怒りと後悔。困惑と苛立ち、その他様々な感情を掻き立てられた。だからセドリックが人生をやり直す選択をしたのには共感できる。俺というプレイヤーも、ルート変更が可能ならデータを削除してオープニングからリスタートしただろう。そうして新たなルートで、失敗を回避つつ未来を修正しただろう。
 なのに俺が記憶を取り戻して、セドリックはすっかり予定を狂わされてしまったに違いない。

 あの日、実家でクソ両親の話をきっかけに蘇ったのが、死んだラウルの記憶だったなら。
 薄く脆いラウルのアイデンティティは容易く崩れ去り、悪役ラウルとしての自我がこれ幸いと主人格に取って代わっていたかも知れない。そして燻る妄執を糧に、嫌がるエステルを無理矢理にでも我が物にしようと考えたかもわからない。
 俺の内に巣食う喪失への絶望は、恋敵となるセドリックを憎悪させ、その排除へと、俺を駆り立てないとも限らない。
 憧憬は嫉妬に。
 嫉妬は悪意に。
 悪意は暴虐すら正当化するかも知れない。
 無気力は、自暴自棄へと陥ちる前段階。
 記憶を取り戻してヤケになったラウルおれは、過去の過ちを繰り返したかも知れない。再びセドリックの脅威にもなり得ただろう。
 つまりセドリックが俺を拉致監禁したのも、憎しみ故とは言い切れないよな。
 セドリックがそうしたいと望んだ訳じゃないんだ。
 ただきっと、俺がちょっとばかり欲しいものを欲しいと言えず、軽率に自己犠牲に走りがちで、無謀と分かっていながら堂々と罠に飛び込んで行く、自分には無理だからと誰かに望みを丸投げしながらも、己を顧みないことで矛盾した行動の整合性を図る、愚かで哀れなお馬鹿さんなのが、悪影響したのかもしれない。

 げふんげふん。


 

 再び天井のシミを見上げたが、もう何も言わなかった。





 

 
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