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一夜が明けて
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「ん……」
マナトはうっすらと目を覚まし、窓の外を見た。
何だかやけに陽の光が白い。もしかして、随分寝過ごしてしまったのだろうか。
最近の不調が嘘のように、体はすっきりとしている。妙にべたついてはいるが、たくさん汗を掻いたのかもしれない。
熱がある時は、たくさん汗を掻くと治るというから、それだろうか。
(そろそろ起きなきゃ……)
予定通りいけば、セイは今日エルム村に到着する。
いい報告が出来ることを、マナトは楽しみにしていた。
もしかしたら、マナトが寝ている内に到着しているかもしれないと、マナトは急いで体を起こす。
……正確には、起こそうとした。けれど、何かが自分の体に絡みついていて、身動きができなかったのだ。
ふと見ると、ライオネルの整った寝顔が、マナトのすぐ近くにあった。硬直して、全身が固まる。
(ラ、ライオネル様!?これって、一体……)
ライオネルは一糸纏わぬ生まれたままの姿で、均整の取れた肉体を余すところなく晒していた。
腕枕をされている形のマナトもまた、下着一つ身につけてはいない。
どう見ても事後のそれだが、一体何がどうなってそんなことになってしまったのか。
「ええと……昨日はお祭りで、お酒を飲んで……それから……」
そこからの記憶が、マナトには全く無かった。酒がいいものだということと、酒が恐ろしいものだという実感を、まさか同時に味わうことになろうとは。
(いや、待って。エッチしてるとは限らない。もしかしたら介抱してくれて、そのまま寝ちゃっただけかも)
そんなマナトの期待を打ち砕くかのように、シーツはべっとりと大量の体液で汚れていた。
拭いきれぬ体の気だるさも、後ろの感覚も、行為に及んだ翌日のそれに酷似している。
「ん……」
昼の光を受けたライオネルの長い睫毛が、ピクリと震える。
ゆっくりと開いた目からは、鮮やかなコバルトブルーが覗き、マナトの姿を認めると愛おしげに細められた。
「おはよう、マナト」
「お、おはよう、ございます」
マナトが焦って固まっているのをどう解釈しているのか、ライオネルは優しく微笑んで、戸惑うマナトのこめかみに唇を寄せる。
情熱的なその仕草は、まるで恋人に対するそれのようだ。
「昨夜の君は最高だった……」
「ゆ、ゆうべのきみ」
「大胆で、奔放で……君も覚えているだろう?」
全く覚えてません、なんて言えるはずがない。
マナトは冷や汗を流しながら、どう答えるべきかパニックになっている。
そういえば、マナトも出来損ないと言えどオメガの端くれなのだ。普通のオメガのように三ヶ月に一度ではないとはいえ、一年に一回ぐらいは発情の片鱗を見せることがあったと思い出す。
通常オメガの発情期は5日程度と言われているのに対して、マナトのそれはたった一晩と短く、おまけに程度も軽くて薬がなくても問題ないほどだった。
リンが3ヶ月に一度必ず発情期を婚約者と過ごしており、マナトの婚約者は、リンの発情期に合わせてやってきては、マナトと体を重ねていた。
今思えば、リンが抱かれている声を聞きながらマナトを抱き、リンとセックスしているような気分になりたかったのかもしれない。
それを、発情期のない自分を慰めるためだと勘違いしていたなんて、我ながら愚かだ。
「……マナト?どうかした?体が痛むか?」
「い、いえ!大丈夫です、ライオネル様」
いつの間にか思考の海に浸っていた自分に、マナトはハッとする。
婚約者とのことは黒歴史もいいところだが、今はそれどころではない。
「リオンだよ。昨夜は、そう呼んでくれただろう?」
わすれんぼさんめ、とでも言うようにツンと頬をつついてくるライオネルに、マナトは失神しそうになる。
そんな記憶、これっぽっちもありません!と絶叫しそうになるのを、必死で押し留めた。
これでは婚約者のことを言えない。王族と寝ておいて、何一つ記憶がないのだ。酒は恐ろしい。
(だって、だっていつもはちょっとひとりエッチしたくなるぐらいだったし、誰かと寝ちゃったりなんかしなかったもん)
『どうしよう』という言葉だけがぐるぐると頭の中を駆け巡る。
いずれ友達と結婚する男性と関係を持ってしまった。こんなこと、許されるはずがない。
ライオネルには嫌われるかもしれないが、正直に打ち明けよう。むしろ嫌われたほうが、今後のためにはきっといい。
「あ、あの………!僕、そういうつもりじゃなくって」
「そういうつもり、とは?」
「えっとその…………昨日のことは、なかったことにしてほしいんです!僕、お酒飲んで、全然覚えてなくって……だから」
ライオネルは眉を寄せて、マナトをじっと見た。
固唾を呑んでその視線を見返しながら、ああこれで嫌われてしまったな、と思う。
もう2人でルーグスで遊ぶこともなくなるだろう。あのゲームの決着は、永遠につかないままだ。
「つまり私は、酔って正常な判断力のない君と関係を持ってしまったと?」
「……そ、そうです」
「――――――わかった」
ライオネルがベッドから抜け出し、湯上がり用のローブを身につける。
離れて行った体温をほんの少し寂しく思いながらも、わかってもらえたことに安堵した。これで、今夜のことは一夜の過ちとしてなかったことにできる。
ライオネルはマナトの手を取ってベッドの横に跪くと、マナトの指に口付けを落とした。
「ならば、責任を取ろう」
「………………は?」
「酔った神子の体を散々貪っておいて、何もなかったことにするなど万死に値する。責任を持って君を妻として一生面倒を見る」
(え、ちょっとこの人、何言ってるのかわかんない)
責任をとる?マナトを、王子様の妻に?
「――――あ、側室っていうやつですか!?」
なるほど、とマナトは手を打ち鳴らす。妻などと言うから慌てたが、ライオネルは王族なのだ。
セイが王妃様になって、マナトは側室になる。
側室にはお飾りというやつがあると聞くし、存在を公にできないマナトを置くには確かに絶好のポジションと言えなくもない。
一人で勝手に納得したマナトを、ライオネルはもの凄く不機嫌な顔で睨んでいる。
「君は……」
(え?なんで?なんで怒ってるの???)
「一体何がどうして君を側室にするなどという発想になるんだ!責任を取ると言っただろう!」
「そ、側室だって充分責任を取ったことになりますよ!僕なんかには、それだって恐れ多いぐらいなんだし、それにえっと、やっちゃったからわかってると思いますけど、別に初めてでも何でもないですし!一回寝たぐらい別に大したことじゃないっていうか、そもそも責任とか必要ないと思うんです!誰かと結婚したいとか全然思ってないし」
マナトは無意識に地雷を悉く踏み抜いた。
自分を好いている男に向かって、『あんたが初めてじゃないし、ちょっと寝たぐらいで結婚とかやめてくれる?』と言い放つなど、相当な度胸である。
本人はそんなつもりは全くないところがまた、なんとも言えないところだ。
「――――――今の話、どういうことか聞かせてくれる?」
ハッとして声の主の方を見ると、目が全く笑っていないセイが、唇だけの微笑みを浮かべてドアの前に佇んでいた。
ベッドの上で一糸纏わぬ姿のマナトと、ローブを羽織っただけのライオネル。
乱れたぐちゃぐちゃのシーツと、形容し難い付着物。
ライオネルは固まっているマナトに上掛けを掛けて肌を隠すと、逃げも隠れもせずにセイの前に立った。
昨夜マナトを抱いたときから、こうなる覚悟はとっくに決めている。
「酔い潰れて正体をなくしていたマナトを抱いた。責任は取るつもりだが……拒否されている」
(し、正直すぎ―――――――っ!!!)
しかも若干どころじゃなくライオネルが一方的に悪い言い方になっている。
どちらかといえば、食べるだけ食べてすっきりしたから捨てたのはマナトのほうなのだが。
「ち、違うのセイ!セイはわかると思うんだけど、昨日僕発情期になっちゃって、それで無意識の内に」
「もういい。わかった」
セイはライオネルの前に立ち、小さく息を吸って何事か確かめると、『フッ』と鼻で笑った。
そしてマナトの側に歩み寄り、汚れたシーツの上に躊躇いもなく腰を下ろしてその体を抱き締めると、眼前の項に軽く歯を立てる。
「ひっ―――――――」
オメガにとって、項を噛まれることは特別な意味を持つ。
思わず竦み上がったマナトに、セイは美しく微笑みかけた。
「匂いが強くなってる……マナト、今ならわかるんじゃない?」
「わ……わかるってなに」
何が、と言おうとした瞬間、マナトはセイの強いフェロモンを感じた。
生まれて初めての感覚。けれど、オメガは本能でそれを嗅ぎ分ける。言葉で確かめる必要などない。本当にそうなのだ。
(アルファの、フェロモン………!)
「ごめんねマナト。僕が傍にいなかったから、我慢できなかったよね。大丈夫、怒ってないよ」
初めて感じるアルファのフェロモンに翻弄され、全身を紅潮させてぐったりしているマナトに、セイは口付けた。
オメガの本能は、夢中になってその口付けに応える。
「発情期じゃないから、項を噛んでもダメだけど……次に発情期が来たら、ちゃんと僕を呼ぶんだよ?」
項を噛んで、番にしてあげる。
アルファの命令に、オメガは逆らえなかった。アルファのフェロモンを初めて感じるマナトに、アルファの中でも強い力を持つセイのフェロモンは強すぎる。
本人の意思など関係なくコクコクと頷いているマナトに、セイは『いい子』と満足げにキスをする。
目の前で繰り広げられる異様な光景に、ライオネルは立ち尽くしていた。
アルファとオメガのことは何一つわからなくても、自分が立ち入れない何かが二人の間に存在していることは感じ取ることができる。
そして昨夜と同じように、今のマナトには自分の意志など存在しないということも。
「ライオネル様、昨夜は僕の代わりにマナトを慰めてくれてありがとう。これからは、僕がマナトの番になるから、責任とかは考えなくていいからね」
ライオネルとセイの間に見えない花火が散る。
静かに燃え上がる炎をみた気がして、マナトは1人震え上がるのだった。
マナトはうっすらと目を覚まし、窓の外を見た。
何だかやけに陽の光が白い。もしかして、随分寝過ごしてしまったのだろうか。
最近の不調が嘘のように、体はすっきりとしている。妙にべたついてはいるが、たくさん汗を掻いたのかもしれない。
熱がある時は、たくさん汗を掻くと治るというから、それだろうか。
(そろそろ起きなきゃ……)
予定通りいけば、セイは今日エルム村に到着する。
いい報告が出来ることを、マナトは楽しみにしていた。
もしかしたら、マナトが寝ている内に到着しているかもしれないと、マナトは急いで体を起こす。
……正確には、起こそうとした。けれど、何かが自分の体に絡みついていて、身動きができなかったのだ。
ふと見ると、ライオネルの整った寝顔が、マナトのすぐ近くにあった。硬直して、全身が固まる。
(ラ、ライオネル様!?これって、一体……)
ライオネルは一糸纏わぬ生まれたままの姿で、均整の取れた肉体を余すところなく晒していた。
腕枕をされている形のマナトもまた、下着一つ身につけてはいない。
どう見ても事後のそれだが、一体何がどうなってそんなことになってしまったのか。
「ええと……昨日はお祭りで、お酒を飲んで……それから……」
そこからの記憶が、マナトには全く無かった。酒がいいものだということと、酒が恐ろしいものだという実感を、まさか同時に味わうことになろうとは。
(いや、待って。エッチしてるとは限らない。もしかしたら介抱してくれて、そのまま寝ちゃっただけかも)
そんなマナトの期待を打ち砕くかのように、シーツはべっとりと大量の体液で汚れていた。
拭いきれぬ体の気だるさも、後ろの感覚も、行為に及んだ翌日のそれに酷似している。
「ん……」
昼の光を受けたライオネルの長い睫毛が、ピクリと震える。
ゆっくりと開いた目からは、鮮やかなコバルトブルーが覗き、マナトの姿を認めると愛おしげに細められた。
「おはよう、マナト」
「お、おはよう、ございます」
マナトが焦って固まっているのをどう解釈しているのか、ライオネルは優しく微笑んで、戸惑うマナトのこめかみに唇を寄せる。
情熱的なその仕草は、まるで恋人に対するそれのようだ。
「昨夜の君は最高だった……」
「ゆ、ゆうべのきみ」
「大胆で、奔放で……君も覚えているだろう?」
全く覚えてません、なんて言えるはずがない。
マナトは冷や汗を流しながら、どう答えるべきかパニックになっている。
そういえば、マナトも出来損ないと言えどオメガの端くれなのだ。普通のオメガのように三ヶ月に一度ではないとはいえ、一年に一回ぐらいは発情の片鱗を見せることがあったと思い出す。
通常オメガの発情期は5日程度と言われているのに対して、マナトのそれはたった一晩と短く、おまけに程度も軽くて薬がなくても問題ないほどだった。
リンが3ヶ月に一度必ず発情期を婚約者と過ごしており、マナトの婚約者は、リンの発情期に合わせてやってきては、マナトと体を重ねていた。
今思えば、リンが抱かれている声を聞きながらマナトを抱き、リンとセックスしているような気分になりたかったのかもしれない。
それを、発情期のない自分を慰めるためだと勘違いしていたなんて、我ながら愚かだ。
「……マナト?どうかした?体が痛むか?」
「い、いえ!大丈夫です、ライオネル様」
いつの間にか思考の海に浸っていた自分に、マナトはハッとする。
婚約者とのことは黒歴史もいいところだが、今はそれどころではない。
「リオンだよ。昨夜は、そう呼んでくれただろう?」
わすれんぼさんめ、とでも言うようにツンと頬をつついてくるライオネルに、マナトは失神しそうになる。
そんな記憶、これっぽっちもありません!と絶叫しそうになるのを、必死で押し留めた。
これでは婚約者のことを言えない。王族と寝ておいて、何一つ記憶がないのだ。酒は恐ろしい。
(だって、だっていつもはちょっとひとりエッチしたくなるぐらいだったし、誰かと寝ちゃったりなんかしなかったもん)
『どうしよう』という言葉だけがぐるぐると頭の中を駆け巡る。
いずれ友達と結婚する男性と関係を持ってしまった。こんなこと、許されるはずがない。
ライオネルには嫌われるかもしれないが、正直に打ち明けよう。むしろ嫌われたほうが、今後のためにはきっといい。
「あ、あの………!僕、そういうつもりじゃなくって」
「そういうつもり、とは?」
「えっとその…………昨日のことは、なかったことにしてほしいんです!僕、お酒飲んで、全然覚えてなくって……だから」
ライオネルは眉を寄せて、マナトをじっと見た。
固唾を呑んでその視線を見返しながら、ああこれで嫌われてしまったな、と思う。
もう2人でルーグスで遊ぶこともなくなるだろう。あのゲームの決着は、永遠につかないままだ。
「つまり私は、酔って正常な判断力のない君と関係を持ってしまったと?」
「……そ、そうです」
「――――――わかった」
ライオネルがベッドから抜け出し、湯上がり用のローブを身につける。
離れて行った体温をほんの少し寂しく思いながらも、わかってもらえたことに安堵した。これで、今夜のことは一夜の過ちとしてなかったことにできる。
ライオネルはマナトの手を取ってベッドの横に跪くと、マナトの指に口付けを落とした。
「ならば、責任を取ろう」
「………………は?」
「酔った神子の体を散々貪っておいて、何もなかったことにするなど万死に値する。責任を持って君を妻として一生面倒を見る」
(え、ちょっとこの人、何言ってるのかわかんない)
責任をとる?マナトを、王子様の妻に?
「――――あ、側室っていうやつですか!?」
なるほど、とマナトは手を打ち鳴らす。妻などと言うから慌てたが、ライオネルは王族なのだ。
セイが王妃様になって、マナトは側室になる。
側室にはお飾りというやつがあると聞くし、存在を公にできないマナトを置くには確かに絶好のポジションと言えなくもない。
一人で勝手に納得したマナトを、ライオネルはもの凄く不機嫌な顔で睨んでいる。
「君は……」
(え?なんで?なんで怒ってるの???)
「一体何がどうして君を側室にするなどという発想になるんだ!責任を取ると言っただろう!」
「そ、側室だって充分責任を取ったことになりますよ!僕なんかには、それだって恐れ多いぐらいなんだし、それにえっと、やっちゃったからわかってると思いますけど、別に初めてでも何でもないですし!一回寝たぐらい別に大したことじゃないっていうか、そもそも責任とか必要ないと思うんです!誰かと結婚したいとか全然思ってないし」
マナトは無意識に地雷を悉く踏み抜いた。
自分を好いている男に向かって、『あんたが初めてじゃないし、ちょっと寝たぐらいで結婚とかやめてくれる?』と言い放つなど、相当な度胸である。
本人はそんなつもりは全くないところがまた、なんとも言えないところだ。
「――――――今の話、どういうことか聞かせてくれる?」
ハッとして声の主の方を見ると、目が全く笑っていないセイが、唇だけの微笑みを浮かべてドアの前に佇んでいた。
ベッドの上で一糸纏わぬ姿のマナトと、ローブを羽織っただけのライオネル。
乱れたぐちゃぐちゃのシーツと、形容し難い付着物。
ライオネルは固まっているマナトに上掛けを掛けて肌を隠すと、逃げも隠れもせずにセイの前に立った。
昨夜マナトを抱いたときから、こうなる覚悟はとっくに決めている。
「酔い潰れて正体をなくしていたマナトを抱いた。責任は取るつもりだが……拒否されている」
(し、正直すぎ―――――――っ!!!)
しかも若干どころじゃなくライオネルが一方的に悪い言い方になっている。
どちらかといえば、食べるだけ食べてすっきりしたから捨てたのはマナトのほうなのだが。
「ち、違うのセイ!セイはわかると思うんだけど、昨日僕発情期になっちゃって、それで無意識の内に」
「もういい。わかった」
セイはライオネルの前に立ち、小さく息を吸って何事か確かめると、『フッ』と鼻で笑った。
そしてマナトの側に歩み寄り、汚れたシーツの上に躊躇いもなく腰を下ろしてその体を抱き締めると、眼前の項に軽く歯を立てる。
「ひっ―――――――」
オメガにとって、項を噛まれることは特別な意味を持つ。
思わず竦み上がったマナトに、セイは美しく微笑みかけた。
「匂いが強くなってる……マナト、今ならわかるんじゃない?」
「わ……わかるってなに」
何が、と言おうとした瞬間、マナトはセイの強いフェロモンを感じた。
生まれて初めての感覚。けれど、オメガは本能でそれを嗅ぎ分ける。言葉で確かめる必要などない。本当にそうなのだ。
(アルファの、フェロモン………!)
「ごめんねマナト。僕が傍にいなかったから、我慢できなかったよね。大丈夫、怒ってないよ」
初めて感じるアルファのフェロモンに翻弄され、全身を紅潮させてぐったりしているマナトに、セイは口付けた。
オメガの本能は、夢中になってその口付けに応える。
「発情期じゃないから、項を噛んでもダメだけど……次に発情期が来たら、ちゃんと僕を呼ぶんだよ?」
項を噛んで、番にしてあげる。
アルファの命令に、オメガは逆らえなかった。アルファのフェロモンを初めて感じるマナトに、アルファの中でも強い力を持つセイのフェロモンは強すぎる。
本人の意思など関係なくコクコクと頷いているマナトに、セイは『いい子』と満足げにキスをする。
目の前で繰り広げられる異様な光景に、ライオネルは立ち尽くしていた。
アルファとオメガのことは何一つわからなくても、自分が立ち入れない何かが二人の間に存在していることは感じ取ることができる。
そして昨夜と同じように、今のマナトには自分の意志など存在しないということも。
「ライオネル様、昨夜は僕の代わりにマナトを慰めてくれてありがとう。これからは、僕がマナトの番になるから、責任とかは考えなくていいからね」
ライオネルとセイの間に見えない花火が散る。
静かに燃え上がる炎をみた気がして、マナトは1人震え上がるのだった。
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