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番外編
ひめごとびより 5日目
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アーネストを学園へ見送ってからの俺の1日は長い。
1人取り残されながら去っていく馬車を見送ると、寂しくてたまらなくなる。
早くはっきりさせて一緒に学園にいけたらいいのに。
だけど、もし妊娠がはっきりしたら、もう学園に通わせて貰えなくなるんじゃないだろうか。
そうしたら、この生活がこの先もずっと続いて、マリクやシリルや生徒会のみんなとも会えなくなって、卒業もできなくなる。そんなのいやだ。
でも、妊娠してなきゃいいのに、と願うことは強い罪悪感を覚える。もし本当に赤ちゃんがここにいるなら、その子に『お前なんかいなきゃいいのに』と言っているのと同じだ。あんまりにも悲しすぎる。
俺はどうしたらいいのかわからなくなって、酷く不安な気持ちになった。
1人でいると、ずっとアーネストとお腹のこと、そしてこれからのことに対する漠然とした不安が湧き上がってきて、気分が落ち込んでしまう。
そうすると、ますます時間が経つのが遅くなる。ダメだとわかっているのに、俺は一日の大半をソファかベッドで過ごすようになり、本を読んでも集中できず、またモヤモヤして、そのうち眠ってしまうんだ。
放課後はアーネストは忙しくしていて、俺に会いに来られない。きっと仕事が溜まってるんだろう。
俺の手伝いがなくなって、困っていたりするのかな。いや、俺なんて大したことしてないし、変わらないかもしれない。
でも、マリクとシリルまで行かなくなったら、また生徒会室はめちゃくちゃになってしまう気がするな。
俺がいなくても時々生徒会室を覗いてくれるようにお願いしてみようか。
そう思ったけど、ふとマリクはアーネストの元カレなんだよな、と思い出す。2人は誤解だと言ってるし、マリクには婚約中のラブラブ彼氏がいるけど、万一ってことも。
そういえばシリルもほんとはアーネスト狙いだったんだっけ。仲良くなって以来、全くそんな素振りはないし、むしろ何となくアーネストを避けてるみたいだったけど、シリルは頭も良くて仕事もできるし、顔も俺みたいな中の上程度と違って、正統派美人だ。ちょっと意地悪なところもあるけど、親しくしてみると、情が厚くて面倒見のいいところもある。
俺がいない間に、アーネストがシリルの良さに気付くなんてことも……。
色々考えると、自分に自信がなくなってきて、2人に生徒会のことを頼む気持ちがなくなっていく。
みんなが困ってるかもしれないのに、俺は自分の事しか考えない薄情なやつだ。
でも、もしお腹の子が出来てた時に、アーネストが心変わりしてたら怖い。喜んで貰えなかったら、この子はどうなってしまうか。
冷遇時代のトラウマがそっと顔を覗かせる。この子には、あんな辛い目に遭って欲しくない。気付くと、目から涙がポロポロと溢れてきた。
(アーネストに会いたい……。レニたん大好きってギュッとしてくれたら、こんな不安すぐになくなるのに)
今朝もアーネストは来てくれて、おはようと行ってきますのキスをしてくれたけど、その充足はすぐに塗り潰されてしまって、長続きしない。
今なら、アーネストの望む通り、仕事しているアーネストの膝にずっと乗っかってくっついていたいと思う。そしたら、きっと怖いことなんか何にもなくて、凄く幸せに違いない。
「授業に出るのはダメでも、放課後生徒会だけ行くのはだめかな……仕事は、絶対無理しないから。父上にお願いしてみよう」
俺は名案を思いついたと思い、父上の執務室に足を向けた。今日は午後から登城なさると言ってたし、まだいるだろう。
案の定、父上はまだ執務室にいて、会議のための資料に目を通していた。
「ダメだ」
俺の名案は、父上に呆気なく却下された。なんで。
いつの間にか後ろにいたセドリック兄様まで、深く頷いている。
「何でですか?絶対無理はしません。生徒会室に少しの間いるだけなら、危険なことなんてないでしょう?」
尚も食い下がる俺に、父上は溜息をついた。
「レニオール、お前は一応体調を崩して学園を休んでいるのだぞ?そのお前が放課後生徒会室にだけ姿を現すなど、体調不良は嘘だと触れて回るようなものだ」
「あ……」
そうだった。そんな当たり前の事にも気づかないで、名案だなんて浮かれていた自分のバカさ加減が恥ずかしい。
悔しいやら、アーネストに会えると一瞬でも思ったテンションが一気に下がったのが辛いやらで、俺の目には見る見る涙が溜まり、みっともなくぼろぼろと泣いてしまう。
「俺がバカでした……ごめんなさい、父上」
俺は涙をうまく止められず、泣きながらトボトボと自分の部屋に帰った。
「レ、レニオール!」
「父上、あんな言い方をしなくても。レニオールは身重で情緒が不安定なのですよ。可哀想に」
「ぐう……ッ!しかし、しかし、生徒会室だぞ!?殿下はまだ何もご存じないのだ。今は見舞いということで面会時間も短く、レニオールの体調への配慮から何事もなくいられているが、その分色々と我慢が溜まっておられるはず。もしレニオールが生徒会に顔を見せて、体調は回復したのだと思われたらどうなる!」
「確かに……!数日餌を与えず飢えきった野獣の檻に大好物の子ウサギを放り込むようなもの。ある意味学園に通うよりもずっとリスクが高い」
「そういうことだ。はぁ……しかし、泣かせてしまうとは……可哀想なレニ」
それもこれも、全て我慢が効かずレニオールに手を出したアーネストのせいだ、と公爵はアーネストを恨んだ。
かわいい末の息子を泣かせてしまったショックを、憎い婚約者へとぶつけるより他に気持ちの持っていきようがない。
「とりあえず、母上にレニオールのフォローをお願いしましょう」
「そうしてくれ。はぁ……」
公爵は大きな溜息をつき、今後のことで痛む頭を抱えたのだった。
1人取り残されながら去っていく馬車を見送ると、寂しくてたまらなくなる。
早くはっきりさせて一緒に学園にいけたらいいのに。
だけど、もし妊娠がはっきりしたら、もう学園に通わせて貰えなくなるんじゃないだろうか。
そうしたら、この生活がこの先もずっと続いて、マリクやシリルや生徒会のみんなとも会えなくなって、卒業もできなくなる。そんなのいやだ。
でも、妊娠してなきゃいいのに、と願うことは強い罪悪感を覚える。もし本当に赤ちゃんがここにいるなら、その子に『お前なんかいなきゃいいのに』と言っているのと同じだ。あんまりにも悲しすぎる。
俺はどうしたらいいのかわからなくなって、酷く不安な気持ちになった。
1人でいると、ずっとアーネストとお腹のこと、そしてこれからのことに対する漠然とした不安が湧き上がってきて、気分が落ち込んでしまう。
そうすると、ますます時間が経つのが遅くなる。ダメだとわかっているのに、俺は一日の大半をソファかベッドで過ごすようになり、本を読んでも集中できず、またモヤモヤして、そのうち眠ってしまうんだ。
放課後はアーネストは忙しくしていて、俺に会いに来られない。きっと仕事が溜まってるんだろう。
俺の手伝いがなくなって、困っていたりするのかな。いや、俺なんて大したことしてないし、変わらないかもしれない。
でも、マリクとシリルまで行かなくなったら、また生徒会室はめちゃくちゃになってしまう気がするな。
俺がいなくても時々生徒会室を覗いてくれるようにお願いしてみようか。
そう思ったけど、ふとマリクはアーネストの元カレなんだよな、と思い出す。2人は誤解だと言ってるし、マリクには婚約中のラブラブ彼氏がいるけど、万一ってことも。
そういえばシリルもほんとはアーネスト狙いだったんだっけ。仲良くなって以来、全くそんな素振りはないし、むしろ何となくアーネストを避けてるみたいだったけど、シリルは頭も良くて仕事もできるし、顔も俺みたいな中の上程度と違って、正統派美人だ。ちょっと意地悪なところもあるけど、親しくしてみると、情が厚くて面倒見のいいところもある。
俺がいない間に、アーネストがシリルの良さに気付くなんてことも……。
色々考えると、自分に自信がなくなってきて、2人に生徒会のことを頼む気持ちがなくなっていく。
みんなが困ってるかもしれないのに、俺は自分の事しか考えない薄情なやつだ。
でも、もしお腹の子が出来てた時に、アーネストが心変わりしてたら怖い。喜んで貰えなかったら、この子はどうなってしまうか。
冷遇時代のトラウマがそっと顔を覗かせる。この子には、あんな辛い目に遭って欲しくない。気付くと、目から涙がポロポロと溢れてきた。
(アーネストに会いたい……。レニたん大好きってギュッとしてくれたら、こんな不安すぐになくなるのに)
今朝もアーネストは来てくれて、おはようと行ってきますのキスをしてくれたけど、その充足はすぐに塗り潰されてしまって、長続きしない。
今なら、アーネストの望む通り、仕事しているアーネストの膝にずっと乗っかってくっついていたいと思う。そしたら、きっと怖いことなんか何にもなくて、凄く幸せに違いない。
「授業に出るのはダメでも、放課後生徒会だけ行くのはだめかな……仕事は、絶対無理しないから。父上にお願いしてみよう」
俺は名案を思いついたと思い、父上の執務室に足を向けた。今日は午後から登城なさると言ってたし、まだいるだろう。
案の定、父上はまだ執務室にいて、会議のための資料に目を通していた。
「ダメだ」
俺の名案は、父上に呆気なく却下された。なんで。
いつの間にか後ろにいたセドリック兄様まで、深く頷いている。
「何でですか?絶対無理はしません。生徒会室に少しの間いるだけなら、危険なことなんてないでしょう?」
尚も食い下がる俺に、父上は溜息をついた。
「レニオール、お前は一応体調を崩して学園を休んでいるのだぞ?そのお前が放課後生徒会室にだけ姿を現すなど、体調不良は嘘だと触れて回るようなものだ」
「あ……」
そうだった。そんな当たり前の事にも気づかないで、名案だなんて浮かれていた自分のバカさ加減が恥ずかしい。
悔しいやら、アーネストに会えると一瞬でも思ったテンションが一気に下がったのが辛いやらで、俺の目には見る見る涙が溜まり、みっともなくぼろぼろと泣いてしまう。
「俺がバカでした……ごめんなさい、父上」
俺は涙をうまく止められず、泣きながらトボトボと自分の部屋に帰った。
「レ、レニオール!」
「父上、あんな言い方をしなくても。レニオールは身重で情緒が不安定なのですよ。可哀想に」
「ぐう……ッ!しかし、しかし、生徒会室だぞ!?殿下はまだ何もご存じないのだ。今は見舞いということで面会時間も短く、レニオールの体調への配慮から何事もなくいられているが、その分色々と我慢が溜まっておられるはず。もしレニオールが生徒会に顔を見せて、体調は回復したのだと思われたらどうなる!」
「確かに……!数日餌を与えず飢えきった野獣の檻に大好物の子ウサギを放り込むようなもの。ある意味学園に通うよりもずっとリスクが高い」
「そういうことだ。はぁ……しかし、泣かせてしまうとは……可哀想なレニ」
それもこれも、全て我慢が効かずレニオールに手を出したアーネストのせいだ、と公爵はアーネストを恨んだ。
かわいい末の息子を泣かせてしまったショックを、憎い婚約者へとぶつけるより他に気持ちの持っていきようがない。
「とりあえず、母上にレニオールのフォローをお願いしましょう」
「そうしてくれ。はぁ……」
公爵は大きな溜息をつき、今後のことで痛む頭を抱えたのだった。
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