【完結】俺を散々冷遇してた婚約者の王太子が断罪寸前で溺愛してきた話、聞く?

ゴルゴンゾーラ安井

文字の大きさ
76 / 76
番外編

王子殿下の悩み 後編

しおりを挟む
 次期王太子教育にも少しずつ慣れてくると、だんだんと教わる内容も難しくなってくる。
 ちゃんと予習してないとついていくのが大変だけど、そこは優秀なシリル先生がきちんと指導してくれるし、父上も母上もものすごく褒めてくれるから、あんまり辛いとは感じてなかった。

 だけど、やっぱりサボりたい日っていうものはある。毎日毎日お勉強ばっかりなんて、つまんないもん。
 外に遊びに行きたいし、友達とお菓子を食べながらお喋りしたい。
 ボクはいやになってしまって、頭がいたいと嘘をついてベッドに潜りこみ、メイドが心配して母上に知らせに行ったのを見計らって、部屋を抜け出した。



 やったー!ボク、自由!
 ボクは上機嫌でこっそり王宮内を冒険した。誰にも見つかっちゃダメだから、コソコソっと、みんなが見てない隙を狙って色んなところを移動して、時々ボクを探してる声を聴いては、ふふふとほくそ笑んだ。
 ボクってば、すごい。誰にもみつからない。

 だけど、リネンにくるまって隠れている間にボクはうとうとしてしまって、そのまま寝ちゃったんだ。

 起きたら、こわーい顔した母上がいて、ボクはみっちりお説教された。授業をサボったことも、かくれんぼで皆に迷惑を掛けたことも、しっかり反省しなさいって、おやつとごはん抜きを言い渡されてしまう。
 ボクは泣きそうになったけど、ズルしたり皆を困らせたのはいけないことだと思ったから、黙って頷いた。
 
 

 その夜、ボクはなかなか眠れなかった。
 お腹は空いてるし、お昼間にリネンにくるまって寝ちゃったから、いつもみたいに眠くならない。
 
(母上、すっごく怒ってたなぁ)

 クッションを抱えながら、ベッドで丸まる。母上にあんなに怒られたのは初めてだ。
 それがちょっとショックで、思い返すと不安な気持ちになる。母上に嫌われちゃったかな。そうだったらどうしよう。

 怖くなってグスグス泣いていると、小さくドアをノックする音が聞こえた。
 
「だれ……?」

 顔を上げると、ドアがちょっとだけ開いて、誰かが入ってきた。
 手にはお盆を持っていて、足でドアを開けるお行儀の悪さ。そんなのは、この王宮で一人しかいない。


「お、起きてたね。イタズラっ子」

「父上……」

 父上は、持っていたお盆をテーブルに置いて、ボクを手招きする。
 ボクは泣いてたことに気付かれないようにそっと涙を拭って、テーブルに近付いた。
 抱っこされて椅子に座らされると、お盆にはサンドイッチとスープが載っている。途端に、ボクのお腹は声を上げた。

「お腹空いただろ?食べなさい」

 父上はボクの頭を優しく撫でて、そう言った。
 でも、母上はごはん抜きって言ったのに、食べてもいいのかな。

「大丈夫だよ、レニたんの許可は取ってるから。レニたんも怒りすぎたって落ち込んでたよ」

「でも、ボクが悪いんだもん……」

「子供が習い事をサボりたがるなんて、当たり前のことだと思うけどねえ」

 父上がサンドイッチを摘まんでボクの口に押し当てる。ボクはパクンとサンドイッチに食いついた。
 一個食べると、すごくお腹が空いてたボクは止まらなくなって、夢中でサンドイッチとスープを頬張ってしまう。
 父上は、そんな僕を見てニコニコ笑っていた。

「父上は、ボクのこと怒ってないの?」

「んー?そうだね、勝手に姿をくらませて、レニたんを心配させたことは怒ってるけどね。初回だから許してあげる。でも、次同じ事したらほんとに怒るから、もうやっちゃダメだよ」

 父上はブレない。次やったら、多分大変なことになる予感がひしひしとする。ボクはコクコクと何度も頷いた。
 他のことはどうあれ、母上に関することだけは父上は容赦がない。

「わかればよろしい。一杯食べて、大きくなるんだよ」

 ボクがサンドイッチを平らげるのを、父上は楽しそうに見ていた。
 今日叱られた時、父上は一度も王太子教育をサボったことがないって言ってたけど、ほんとかな。

「父上は、お勉強やお仕事が嫌になったりしないんですか?」

 尋ねると、父上はちょっとだけ目を瞠って、また笑った。

「そうだねえ、昔ならともかく、今はヤダね。できるならレニたんやマナリスと遊んでたいし」

「昔は嫌じゃなかったのに、今はイヤなの?」

 普通は逆じゃないのかな。子供の時の方が真面目だったっていうのは、ホントってこと?

「そうだね、昔は何かが好きとか欲しいとか、自分がどうしたいとかなかったからね。でも、レニたんが大好きになったから、優先順位が変わっちゃったんだよ」

「優先順位……」

「お前にいつか訊こうとは思っていたんだけど、マナリスは王になりたい?」
 
 王になる。あまりに実感のない質問に、ボクは困ってしまう。
 王っていうのは、おじいさまのことだよね?とっても偉い人で、とっても忙しそうなのは知ってるけど、それ以外のことはまだよくわからない。
 だけど、殆どの人はボクにいい王太子になれるようにって言う。ボクのことを一番愛してくれてる母上ですら、そう言ってる。だから、ボクは当然そうなるものなんだろうなって思ってたんだ。
 ボクがそうなりたいかどうか訊いてくれたのは、父上が初めてだった。

「まだ、よくわかんない。でも、ボクは父上の子だもの。いい王様にならなきゃいけないって、皆言うよ」

「まあ、皆はそう言うだろうね。でも俺は、お前が王になりたくないならそれでもいいと思うよ。王政なんて、やめようと思えばやめられる。やる気のない王に支配される国なんて碌なもんじゃないし、イヤイヤお前に重荷を背負わせたいとは思わない」

 ボクはぽかんと口を開けた。
 王政をやめる?そんなこと、聞いたこともないもの。
 王様がいなくなっちゃったら、誰が国のことを決めて行けばいいのかな。貴族たちに任せたら、皆自分の得になるようにって好き勝手してしまうんじゃないの?父上が、王太子教育で教えてくれたのに。

「今の体制じゃ王がいないとうまくいかないことも多いけど、王政をやめて民主制を興そうと思えば、やってできないことはないんだ。時間は掛かるだろうけど、お前が王になることを望まないなら、俺がそうしてあげてもいい」

 多分、父上はものすごいことを言ってるんだと思う。
 そんなこと、ボクが決めていいのかな。ボクがやりたくなくっても、もしかしたらこれから出来るかもしれない弟が王様になりたがるかもしれない。
 それに、もしそうなった時、父上や母上はどうなるのかな。


「―――――ボク、まだ決められません」


 ボクがそう言うと、父上は焦らなくていいよと言った。
 ボクは、初めて父上がほんとに凄い人なんじゃないかなって思う。これが、威厳っていうやつなのかな?


 

 それから、僕の悩みは変わった。
 王様になりたいかどうか、それがなかなか決められないのが一番の悩み。
 母上に話したら、母上はまた父上にカミナリを落としていたけど、これに関しては父上は諦めてはいないみたい。


 ボクは、相変わらず王太子教育をサボらずにがんばってるよ。
 いつか自分がどうなりたいか、それはこれからゆっくり考えて決めて行かなくちゃね。

  



しおりを挟む
感想 46

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(46件)

四葩(よひら)

番外編、楽しく読みました。
もう、お互いに、犬と飼い主の自覚出てますね(恋人ではないところが(笑))お茶会も、ポッキーやポテチ出てきてて、やっとレニたんとマリクの友達活動❓️が見られて嬉しいです。ひめごとも、まさかご飯持ってマリクとウィルが来てくれるとは。マリク編の、闇落ちの記述見て、だから本編で、やたら魔王とか出てきてたのね、と納得。レニたんが飼い主になることで、マリクも助かったし、世界も守られたんですね。驚きました💦
しかしアーネスト…お子にも特殊性癖バレてるって、どうなの❓️隠してないのよね、勿論f(^_^;
それなのに、お子にも好かれてるって、きっとレニたんの教育がキチンとしてたのね。飼い主は責任もって最後まで犬を面倒見ること、と(王家の将来が少しだけ心配に)つくづく、王妃がレニたんで良かったと実感しました。

2022.07.31 ゴルゴンゾーラ安井

番外編まで読んで頂き、ありがとうございます!
書きたりないことや、色んな裏設定をてんこ盛りにしたので、楽しんで頂けたら嬉しいです!

魔王設定も、地味に最初から決まっていたんですが、そこを明かすより先に犬になってしまいました(笑)
まさかマリクの方で書けるとは……。

アーネストはレニたん溺愛なので、子供には性癖はバレてないですが、パパが一番好きなのはママというのは知られています。だからか、子供たちもパパは好きだけどママの方が好きです(^_^;
総愛されなレニたんです。

解除
Aiiro
2022.06.26 Aiiro

レニたんがしっかりママしてる💕
アーネストをしかるクイーン最高です💕
マナリスがマリクにご執心なの可愛かったです♪ウィルフレッドはライバル視しても気づいてくれなさそうですねw

(これは…ルーリクが幸せになるところが読めるフラグ…(°▽°)⁉︎涼しくなって気が向いたら…)

2022.07.31 ゴルゴンゾーラ安井

コ、コメントが反映されていない……だと……???
すみません、今何も書かれていないことに気付きました~゚(゚´Д`゚)゚。
せっかく感想を頂いたのに、長らく申し訳ありません!

マリクはマナリスの初恋の人なので、マナリスは懐きまくってます。
ウィルフレッドはそのうち指南役とかになって、微妙な火花の押収を、親子二代に渡って経験することになる……かも!?

早く涼しくなってくれることを、毎日心から叫んでます(∩´﹏`∩)

解除
ひまり
2022.06.26 ひまり

マナリス?マリナス?ルーリク??

2022.06.26 ゴルゴンゾーラ安井

マナリスです(;´Д`)やばいぐらい間違っててすみません……。
取り急ぎ修正しました。ほんとにありがとうございました;;;;

解除

あなたにおすすめの小説

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結、恋愛ルート、トマといっしょに里帰り編、完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  ゆるゆ
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが、びっくりして憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! ノィユとヴィルの動画を作ってみました!(笑)  インスタ @yuruyu0   Youtube @BL小説動画 です!  プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったらお話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです! ヴィル×ノィユのお話です。 本編完結しました! 『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました! 時々おまけのお話を更新するかもです。 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる

七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。 だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。 そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。 唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。 優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。 穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。 ――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。