竜王妃は家出中につき

ゴルゴンゾーラ安井

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2.ギルドにて

 
 城から空にダイブして逃亡を図った俺は、風の魔法で衝撃を緩和し、数十年ぶりに地上に降り立った。
 踏みしめた大地の感触は、懐かしいの一言に尽きる。心なしか空気を濃く感じて、少しばかりクラリとしたが、違和感はすぐに治まった。
 
 さて、どこに行こうか。
 俺は只今絶賛家出決行中なのである。今頃はアダムの悲鳴を聞いて誰かしらが追ってきているだろうし、いつまでものんびりしていられない。まずはこの場から少しでも離れることが先決だ。
 匂いによる追跡を防止するため、持参してきた匂い消しを一粒口に放り込んで、俺は歩き始めた。
 目的地は、エルフィン王国の外れに位置する街、ネモである。最近ダンジョンが見つかったという今が熱い街で、攻略せんという野心に満ちた冒険者たちが溢れかえっているだろう。
 久々に大暴れしたい気分だった俺は、150年ぶりのダンジョンに向かう気満々だった。

 途中山賊に襲われていた商人を助けて用心棒代わりに馬車に乗っけてもらったり、その礼にと馬を譲り受けた俺は、至極順調にネモまで辿り着いた。
 久々ではあるものの、元は庶民の冒険者だ。少しばかり変化した流儀に手間どりはしたものの、問題なく宿も取れたし冒険者ギルドも見つけることができた。
 ダンジョンに入るには、冒険者か騎士団の身分証明書の提示が必要なため、ギルドに行く必要があるのだ。
 
 未攻略のダンジョンがあるというだけあって、ネモの街の冒険者ギルドはそれなりに大きかった。
 建物は大きさだけで急ごしらえ感が否めないが、ダンジョンが見つかって急に大量の冒険者を受け容れなければならなくなった背景を思えば、致し方ないだろう。
 カウンターは冒険者登録用のものが2つと、依頼受理のカウンターが5つ、報酬受け渡しのカウンターが3つ用意されているのだから上等といえる。
 それでもカウンターの前には順番待ちの列がある。俺は冒険者登録の列に並び、順番を待った。
 
(なんだか新鮮だなあ………列に並んで順番まちするなんて、いつぶりだろう)
 
 なんでもないことなのに、久しぶりのシチュエーションに妙にワクワクしてしまう。
 竜王妃として猫を被って過ごしてきた150年間ぶん、ストレスは蓄積していた。誰に強制されたわけでもなく、自分の意地とプライドのためにやってきたことではあるが、それでも相応の苦労はあった。
 飛び出したきっかけはジークハルトの浮気疑惑にあるが、いい加減我慢せず自由に飛び出したいという気持ちが、自分にもあったのだろう。
 王太子である息子のラインハルトは『母上のようにお淑やかでしっかり者の子がいい』と自分で選んだ婚約者のナディアと絆を育んでいるし、ナディアもラインハルトを支えたいと竜王妃教育に励んでくれ、その成長ぶりも申し分ない。俺がいなくなったとしても、充分に国は回るに違いない。

 正直、ジークハルトが本気で俺と別れるつもりがあるとは、俺自身思っていない。
 ちょっとぐらい若い子に目が行ったかもしれないが、長年連れ添った夫婦だし、そもそも竜人は番と離れると生きていけない種族なのだ。
 ただ、今回は不誠実な対応に死ぬほど腹が立ったため、俺の本気の怒りをわからせるべく家出を決行したというだけで。
 今頃俺の匂いを見失ってジークハルトは大慌てしていることだろう。血眼になって必死で俺を探し当てて、戻ってきてくださいと地べたに頭をこすりつけるまで、許してやるつもりはない。

 そんなことを考えている間に、俺の順番が回ってきた。
 呼ばれてカウンターの前に立った俺を職員は上から下までさっと見ると、戸惑ったような顔をする。

「あの、カウンターをお間違えではないですか?こちらは依頼募集ではなく、冒険者として活動したい方のための登録カウンターでして……」

「はい、大丈夫ですよ。冒険者の登録をお願いしたいので」

「えっ……そうですか……大丈夫かな……いやでも別に資格とかいらないしな……いやいやでも……」

 職員は俺の肯定を聞いても、何やらブツブツと戸惑いの声を上げている。
 何がいけないのかと首を傾げていると、ふと窓に映った自分の姿が見えた。身なりこそ平民に合わせてはいるが、長年城で磨き上げられた肌は白く、顔は女顔、サラサラの長い銀髪はいかにも身分のある人間ですと言わんばかりだった。うおお、白百合マジック。
 城を飛び出てからというもの、まともに鏡なんか見ていなかった俺は、自分がどう見えているかなど一切気にしていなかった。むしろ、人目を気にせず過ごせるなんて最高とか思ってたぐらいで。

 カウンターの兄ちゃんを困らせている原因に気付き、俺はちょっと申し訳なくなった。
 ゴメンな兄ちゃん、こんなんが来たら俺だって困るわ。



 
 

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